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第3章  暗躍と毒女たちとの戦い

第27話 弱きを助け強気を挫く

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 後ろの方向からライラ様のお声が聞こえた気がして、そちらの方向へ顔を動かしたら何かが胸やお腹にぶつかってきた。

温かいヌルヌルした感触といきなりだったので、自分の持っていたトレーの昼食を落としてしまった。

「ガシャーン!」

プリムローズは、ビックリしたのか悲鳴をあげる。

「キャ~、熱い!」

ひとまず大きな声で叫んでみて、前にかがむ素振りをしてみた。
熱くなく生ぬるい熱さだったが、ワザとらしく演技したのである。

「貴女、大袈裟おおげさね。
そんなには、熱くはないはずよ!」

テレーシアは平然と言うと、誰かが彼女の頬をパーンと叩いた。
へっ?誰がなぐったのと、プリムローズはその人物を見た。

「【弱きを助け強気をくじく】!
よくもまぁ、私の友にこのような事をしましたね。
天道てんとうさまが許しても、このライラ・ヘーディンが許しませんことよー!!」

何処どこその芝居小屋のセリフを吐いて、テレーシアに啖呵たんかを切る侯爵令嬢。

肩までの赤い髪が、まるで炎の様にたなびく。
ドレスを着ているが、か弱き姫を助け出す王子の様な風情。
静観していた令嬢たちは、一瞬で胸をドッキリとさせていた。

「パーレン伯爵令嬢!
ほんと、貴女は最低よ。
ご自分のは熱くないだろうけど、プリムローズ様のは分からないでしょう。
もし、火傷したら大変じゃない」

ライラ様がプリムローズとテレーシアの間に立つと、またまた怒鳴りつけていた。

「あな、貴女!!
わ、私を叩いたわね~~!
痛いじゃないのよ」

「そんな分厚い頬肉してたら、さほどは痛くないでしょう。
それより、プリムローズ様の方が問題だわ。
これをどうしてくれんよ!!
水仙の猛毒女ー!!」

ライラ様が私のためにとプリムローズは感動しているが、体がベトベトで気持ちが悪い。

「ライラ様いいのよ、有難う。
ヘイズのご令嬢の中に、このような非常識な方がいるなんて!
この方は、伯爵令嬢なんでしょう?!
貴族の方とは、思えない態度してますわ」

叩かれた頬を手に当てて、プリムローズに言い返す毒女テレーシアは根性があった。

「平民のくせに、伯爵令嬢の私に文句を言うの!
礼儀知らずだがら、しつけをしただけよ!
この私に心から感謝する事ね」

プリムローズは、久しぶりにキレかかった。
知っている人なら何時もだろうがと思うが、ヘイズなのでサンドラ以来になるだろう。

「貴様、私は平民ではない!
エテルネルから留学しに来た。
クラレンス公爵の孫娘よ!
お前、私にこんな事して無事に済むとは思わないでよ!
この猛毒女めー!!」

今度はライラが、プリムローズの態度に驚く。
ライラだけでなく、聞いている全ての者が彼女の迫力に息を止めるほどであった。

「この騒ぎは、何ですか?!
まぁー、貴女!!
なんで?こんなに制服が汚れてるのです?!」

誰かが先生を呼びに行ってくれたみたいで、2人の女性が驚きの顔でプリムローズを見ていた。

「パーレン伯爵令嬢が、クラレンス公爵令嬢に食事の料理をトレーごとぶつけたのですわ。
驚いて令嬢も、自分の分を落とされたのです!」

ライラ様が先生方に説明すると、呆れた顔をパーレン伯爵令嬢に向けた。

「また、貴女なのですか?!
パーレン伯爵令嬢、何回問題を起こせば気が済むのです。
もう、これは許されません。
今回は、ご両親を学園に呼び出します」

「私は悪くありませんわ!
この方が勝手に、ぶっかり落とされたのです」

「黙らっしゃい!
別室で話を聞きます。
さぁ、此方に来なさい!」

先生は限界らしく、毒女に最終警告を言い渡した様子。

「クラレンス公爵令嬢、直ぐに教職員用のお風呂を準備しますわ。
制服の着替えはお持ちですか?!
学園で予備をお貸し出来ますよ」

「先生、有難うございます。
予備は持っておりますわ。
ヘイズの淑女しゅくじょを目指す方の中には、随分ずいぶんまとはずれな方がおいでですね!
エテルネルでは、こんなお方はまず居なくてよ」

連れて行かれるパーレン伯爵令嬢に、プリムローズは嫌味を叩きつける。

「大丈夫?!では、ありませんよね。
あぁー、こんなに制服が汚れて……」

フレデリカ様もいつの間にか側にいて、プリムローズに声をかけてくる。

「これからお風呂に入れますし、嫌な気分を一緒に洗い流しますわ。
制服代もパーレン伯爵に請求して、抗議文も送るつもりです。私は、絶対に泣き寝入りはしませんからね!」

近くで伺っていた先生方も、その内容に納得してか渋い顔をする。
学園は穏便に済ませたいようけど、これで御両親のパーレン伯爵と対面する機会を持てたわ。

敵はどんな人物か、直接見てみたかったのよ。
水仙の毒女には、本当は感謝しないといけないわよね。
彼女は今している表情とは反対に、ニャニャ胸中でほくそ笑んでいる。

    
 やっと、お風呂の準備が整いそうだ。
メイドではないせいか、手際てぎわが良くない。
そして、下らない事で揉めてます。

「なんで、私のバラの香油を使うの。
貴女がお持ちのラベンダーにしなさい。
私のは有名店で、ものすごく高い品なのよ!」

「まぁー、ケチねぇ~。
使う生徒は、他国の公爵令嬢なのよ。
待遇たいぐうよくしないと、このセント・ジョン学園の評判にキズがつくじゃない!
後で頼んで学園の経費を使い、同じのを買ってあげますからそれで良いでしょう」

なんとも、セコい会話しているのか…。
別に香油はいらないから、早く風呂に入れて!
お湯が冷めたら、どうするの!
プリムローズは、またまた機嫌が悪くなりそうになっていた。

「お待たせ致しました。
さぁ、どうぞ!
ゆっくりとお入り下さい」

聞こえてないと思ったのか、2人は笑顔で話すと部屋から出ていった。

プリムローズはバラの香油入りの湯にかると、ホッとして目を閉じた。

「うんうん、まぁまぁね。
私がエテルネルから持ってきた。
セパヌイールの品には及ばないわね。オッーホホホ!」

誰も居ないのをいいことに高笑いする高飛車たかびしゃ令嬢は、鼻歌はなうたを歌いながら汚れを落とした。

「ハーッ、ハックション~!
風邪引く前に、早くお風呂出ないとー」

後日、ライラは烈火れっかごとく水仙の毒女に立ち向かった事から皆からこうあだ名をたまった。

ほのうのバラ」と、言われるようになる。

単純にバラ組なのと赤毛でそうなった。
ちなみにプリムローズはか弱き姫の印象で、炎のバラに寄りそう「銀の妖精姫」と呼ばれる事になるとは本人たちは知らずにいた。
女性生徒たちしか居ない女の園は、妄想がお好きなようで暫くは続いたそうだ。

    
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