上 下
53 / 142
第3章  暗躍と毒女たちとの戦い

第20話 3人よれば文殊の知恵

しおりを挟む
 無理やり半ば強引に食堂で食事しながら、フレデリカ様のお願いの要件ようけんうかがうことにした。

「お母上に習えば宜しいのでは?!
ピアノ、お上手なんでしょう?」

チューダー侯爵の母上、つまりフレデリカ様のおばあ様が1ヶ月後にお誕生日を迎える。

その誕生日会の集まりで、孫のピアノ演奏を聞きたいと祖母は言い出した。
フレデリカ様は、それでプリムローズにピアノを習いたいとお願いする。

「お願いします!
あの演奏を聴いて、貴女しかいないと思ったのです」

あの百合組の毒女がペコペコして頼むのを、驚きと好奇心こうきしんの目で周囲は見ていた。
他の令嬢たちは、会話の内容が分からないので様子だけで勝手な判断する。

この3人の話し合いは、午後の高等部の話題にされたのは間違いない。

「お母様には…、今さら教えてとは言えません。
私が意地を張って、拒絶していたからですの」

幼い時の生死をさまよってから、両親の過保護と監視かんし生活に不満がまっていた彼女。

「ピアノを教えると母が言った時に、絶対に弾かないと宣言してしまいました。
それ以来、授業しかピアノを習ってません」

貴族のご令嬢が弾けないとは、それも侯爵令嬢が!
驚きの事実に2人の令嬢は、顔を見つめて同じ事を考えていた。

「なら、取り巻きに頼めばいいでしょう?
私より真剣にご教授きょうじゅしてくれましてよ」

エリアスは、危険にさらされている。
例の泉も、まだ探していない。
しなくてはいけない事柄が、有りすぎて忙しいのよ。

「あの方々は、私が出来なくても何も言わないのです。
下手でも弾けてるって答える!
それじゃ、ずっと上達しないでしょう?」

言いづらいけど、そう言いますよ。
そりゃあ、取り巻きですもの。
ましてや身分が上だし、れ物にさわる扱いが目に浮かぶ。

自分の体が3つ位欲しい、そうだ。
もう一人、代わりになりそうな方が側にこうしているではないか。

プリムローズは、ぼけーっとしている隣の令嬢を見て話す。

「ライラ様、貴女様がフレデリカ様を教えて下さい。
将来の子に、教える気持ちで接すれば良いのですよ」

プリムローズに話を持ちかけられ、ライラは動揺して言い返すのが遅れた。

「そうでしたわ!
貴女もピアノを弾けましたわよね。
ヘーディン侯爵令嬢、お願い致します。
今日から、さっそく宜しくお願い出来ますか!?」
 
「待って、お待ちになって!
【三人寄れば文殊もんじゅの知恵】って言葉がございますわ。
ここは3人で、違う視点で問題を解決していきましょう」
    
『ライラ様は、変にお人がいいですね。
だが何気に、私も仲間に入れたわ』

プリムローズは、小さくため息をくと覚悟を決めた。

「有名でお祝いにピッタリな、メロディが繰り返される曲は何がありますか?
二人でお選びなさい」

そう命じると、2人の令嬢たちは明るい表情になる。
周りからすると、どちらが年上なのかと思う態度。

「チューダー侯爵令嬢、へーディン侯爵令嬢。
今日から練習するから、スクード公爵の屋敷に寄ると使いを出しなさいな。
時間が足りないくらいよ」

私も友達を、連れて帰ると連絡しないとね。
ピーちゃん、放し飼いにしてたかしら?!
指笛で呼んでみよう。
こういうときは便利よね。

 
    飼い主の彼女は忘れていたが、忠義心の厚いたかはエリアスを見張っていた。
指笛を吹くと、遠くから鳥が近づいてくるではないか。

「プ、プリムローズ様!
何かが、此方に向かってまいりますわぁー!!」

「ライラ様、落ち着いてね。
あれは、私が飼っている鷹よ」

ライラは鷹を飼う令嬢って、普通はありえないと思う。
小鳥とかを、鳥カゴに入れて飼うんではない。

「ピーちゃん、近くにいたのね。
この手紙を、メリーに渡してくれる?!
お願いしますね」

足に細長い紙を、大人しく巻かれている。
白い鷹は目つき鋭く、近くいたライラたちをにらんでいるように感じた。

「ピーちゃん、彼女は友人ですよ。
前に髪をむしった。
あの令嬢とは違うからね」

横で鷹に注意している内容を聞くと、二人は顔色を悪くしていた。

「ピー!ピッピー!」

「ピーちゃんは賢いね!
ママは、出来の良い子で助かるわ」

そうプリムローズが話すと、白い鷹は嬉しそうに鳴いて窓から飛び立つ。

無言でそのやり取りを一部始終見て、エテルネルではペットとして鷹を飼っていると勘違いする。
プリムローズの友人に認められただけあり、彼女も変わっているのかボケた考えの持ち主のようだ。

 スクード公爵の屋敷に2人を招き連れ帰る途中、楽譜がくふを買いに楽器等を売っている店に出向いた。

「どんな曲に決まりましたか?
それと鍵盤けんばんが描かれている紙も、何枚か購入しましょう」

鍵盤の紙には、2人は納得できない表情する。

「フレデリカ様は、お家でピアノを弾けないんでしょう?
紙の上で、おさらいするしかないわ。
ピアノの練習出来るのは、学園か私たちの屋敷しかないって訳よ」

2人は納得して頷くが、1ヶ月で果たして弾けるようになるか心配になるのだった。
それから3人は、毎日練習するために行動一緒にした。

気づけばフレデリカは取り巻きたちよりも、彼女たちと会う方が楽しくなっていた。
ぎゃあぎゃあ言いながらの練習に、自然に友人関係を築いていく3人。

ピアノを弾く日まで、残りが1週間になっている。
ちゃんとフレデリカが弾きこなせるか、ギリギリの進み具合で不安だった。



    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...