32 / 142
第2章 新天地にて
第13話 治に居て乱を忘れず
しおりを挟む
目を合わせると、どう表現したらいいか分からない顔つきをしていた。
先にプリムローズが、少しだけ震える声でスクード公爵に話す。
「公爵様、2人の会話で片方の名前を呼ぶ声が耳に入りました。
今から教えますが、心して聞いて下さませんか?!」
公爵が名を聞いて倒れたら、どうしようかと悩んだ。
なにせ、相手は祖父グレゴリー並の巨体。
もしも倒れて支えた瞬間に、一緒に倒れ込むのは困る。
「うむっ、承知した!
儂は、東の将軍じゃあ~!
安心致せ、さぁ~!
……、話すが良いぞ!」
本当に平気なのかと、不安になりつつも腹を括る。
「一人の男が、こう言いましたわ。
世継ぎがいなければ、我らの選んだ者が王になる。
それまでの辛抱だ…。
のう、ヴェント!って…」
プリムローズの話とその人名に、オレフは驚き怒りの目の色に変化した。
ちょっと~、怖いってもんじゃないわよ。
私が言ったのではない。
そう睨まないで欲しい。
「ヴェント…、ヴェントだと申すのか。
4大将軍のくせに、王家を裏切っただとー。
あの者ー、許せんわぁ~」
「ひゃあ~、落ち着いて下さい。
そんな大声では、驚いて誰かが部屋に飛び込んで来たらどうするのです」
静かにはなるスクード公爵だが、怒りが収まらない態度であった。
「ハァ~、もうイヤだ。
もう一人の方は、分かりませんでした。
あの方々より先に、探している行方不明の子供を確保しなくてはなりませんわ。
この屋敷にも、もしかして…。
その者たちの手下がいるかもしれません」
部外者からか、冷静に一歩引いて判断できる。
「この我が屋敷にか?!
身元が確かな者しか、儂は雇っておらぬぞ」
プリムローズは、公爵は一度信じると疑うことをしないお方だと思った。
その点では、祖父は他人には厳しい方だ。
『お父様たちは違っていたわ。
お祖父様は、好き嫌いが激しそうだからな。
差別しているのかしら?』
「もう1度、徹底的に調べて下さい。
雇った時は潔白でも、もし途中で心変わりしたらどうしますか?!」
「それでは、誰を信じれば良いのじゃあ?!
西の方は気が合わなくとも、同じ将軍として仲間と思っておったのに…」
『あ~~、こりゃあ駄目だ!
ショックでかすぎて、頭と心が乱れまくっている』
こんな時は独りにさせて、冷静になる時間を与えなくてはならない。
他国から来た私だって、話の内容が衝撃で動揺しましたもの。
自国の公爵様なら、尚更だ。
「……、スクード公爵様。
信じるか信じないかは、とうぞ御自分でお決めて下さいませ。私は聞いたことを、包み隠さず伝えました」
公爵様にお辞儀して部屋を出た。
何故、家にいる者を調べろと公爵にお願いしたのか。
私は、ある人物が気になるのだ。
あくまでも勘だが。
私の勘は自分で思うが、あまり外れたことがない。
それにしても、精神的に疲れた1日だった。
その後、夕食は夫人と令息と3人ですることになった。
「母上、父上はどうされましたか?!」
「旦那様は、何やら慌てて王宮に用事があると出かけました。
私はお父様のお仕事には、あまり関心ないから詳しくないのよ」
私は黙って母子の話を聞いていたが、今頃は裏で大事になっているだろう。
翌日、公爵から私は剣の手合わせで呼び出された。
おそらくは、昨日の王宮で起こったことを知らせてくれるのかしら。
「プリムローズ嬢……。
あれから調べた。
微量の薬が盛られていた。
医師から解毒剤を渡され、飲んで毒を出すことに専念している。
王妃様も側室の方々も、驚き精神的に打撃を受けてしまった」
しょんぼり肩を落としては、彼女に詳細を伝えてくれた。
そうでしょうね。
うまく毒が、消えてくれれば良いのだけど…。
「【治に居て乱を忘れず】を思い出した。
平穏な生活を送っている時にも万一の場合に備えよと、戒めになったわい。
どうやら、敵は外より内にあったようだ」
昨日より平静になっているが、これからが大変になる。
「西の将軍様を捕らえますか?!
それとも、しばらくは泳がせて様子を見ますか?」
プリムローズは、公爵の顔をあえて見ないで質した。
「泳がせるわい!
もう一人の首謀者を、あぶり出さなければならぬ!」
その声は、怒りに満ちて震えているように感じる。
「はぁ…、左様ですか。
公爵は周辺に気をつけて下さい。
奥様、ご令息や嫁がれた伯爵夫人もです」
オレフは、プリムローズの隙のない考えに驚かされた。
このご令嬢は、普通の少女ではない。
儂よりも、先を読んで助言してくれている。
そして、ヘイズの闇の秘密を知ってしまった。
この先とんでもない事に、首を突っ込ませてしまうのではないかと彼は考えた。
一方の彼女の思うことは、不思議な泉を探さなくてはならないことだ。
使命を果たせず、お国の騒動にも巻き込まれるのはごめんだ。
『ああん、もうトホホ…だわ』
眉を自然に潜めていたプリムローズに、スクードは気の毒そうに言ってくる。
「すまんな、これから何が起こるか儂でも読めんのだ。
どうじゃあ、いっそエテルネルに帰国せんか?!」
「心配してくれて感謝します。
ですが、私が帰国したり変な動きをすれば怪しまれますわ。
このままで、いきましょう」
スクード公爵は目をつぶり、すまないと言って私に頭を下げてくれた。
危険と隣り合わせな留学生活になりそうと、プリムローズはため息をついたのである。
そして、本来の目的。
ヘイズでの学園の留学生活が始まろうとしていた。
先にプリムローズが、少しだけ震える声でスクード公爵に話す。
「公爵様、2人の会話で片方の名前を呼ぶ声が耳に入りました。
今から教えますが、心して聞いて下さませんか?!」
公爵が名を聞いて倒れたら、どうしようかと悩んだ。
なにせ、相手は祖父グレゴリー並の巨体。
もしも倒れて支えた瞬間に、一緒に倒れ込むのは困る。
「うむっ、承知した!
儂は、東の将軍じゃあ~!
安心致せ、さぁ~!
……、話すが良いぞ!」
本当に平気なのかと、不安になりつつも腹を括る。
「一人の男が、こう言いましたわ。
世継ぎがいなければ、我らの選んだ者が王になる。
それまでの辛抱だ…。
のう、ヴェント!って…」
プリムローズの話とその人名に、オレフは驚き怒りの目の色に変化した。
ちょっと~、怖いってもんじゃないわよ。
私が言ったのではない。
そう睨まないで欲しい。
「ヴェント…、ヴェントだと申すのか。
4大将軍のくせに、王家を裏切っただとー。
あの者ー、許せんわぁ~」
「ひゃあ~、落ち着いて下さい。
そんな大声では、驚いて誰かが部屋に飛び込んで来たらどうするのです」
静かにはなるスクード公爵だが、怒りが収まらない態度であった。
「ハァ~、もうイヤだ。
もう一人の方は、分かりませんでした。
あの方々より先に、探している行方不明の子供を確保しなくてはなりませんわ。
この屋敷にも、もしかして…。
その者たちの手下がいるかもしれません」
部外者からか、冷静に一歩引いて判断できる。
「この我が屋敷にか?!
身元が確かな者しか、儂は雇っておらぬぞ」
プリムローズは、公爵は一度信じると疑うことをしないお方だと思った。
その点では、祖父は他人には厳しい方だ。
『お父様たちは違っていたわ。
お祖父様は、好き嫌いが激しそうだからな。
差別しているのかしら?』
「もう1度、徹底的に調べて下さい。
雇った時は潔白でも、もし途中で心変わりしたらどうしますか?!」
「それでは、誰を信じれば良いのじゃあ?!
西の方は気が合わなくとも、同じ将軍として仲間と思っておったのに…」
『あ~~、こりゃあ駄目だ!
ショックでかすぎて、頭と心が乱れまくっている』
こんな時は独りにさせて、冷静になる時間を与えなくてはならない。
他国から来た私だって、話の内容が衝撃で動揺しましたもの。
自国の公爵様なら、尚更だ。
「……、スクード公爵様。
信じるか信じないかは、とうぞ御自分でお決めて下さいませ。私は聞いたことを、包み隠さず伝えました」
公爵様にお辞儀して部屋を出た。
何故、家にいる者を調べろと公爵にお願いしたのか。
私は、ある人物が気になるのだ。
あくまでも勘だが。
私の勘は自分で思うが、あまり外れたことがない。
それにしても、精神的に疲れた1日だった。
その後、夕食は夫人と令息と3人ですることになった。
「母上、父上はどうされましたか?!」
「旦那様は、何やら慌てて王宮に用事があると出かけました。
私はお父様のお仕事には、あまり関心ないから詳しくないのよ」
私は黙って母子の話を聞いていたが、今頃は裏で大事になっているだろう。
翌日、公爵から私は剣の手合わせで呼び出された。
おそらくは、昨日の王宮で起こったことを知らせてくれるのかしら。
「プリムローズ嬢……。
あれから調べた。
微量の薬が盛られていた。
医師から解毒剤を渡され、飲んで毒を出すことに専念している。
王妃様も側室の方々も、驚き精神的に打撃を受けてしまった」
しょんぼり肩を落としては、彼女に詳細を伝えてくれた。
そうでしょうね。
うまく毒が、消えてくれれば良いのだけど…。
「【治に居て乱を忘れず】を思い出した。
平穏な生活を送っている時にも万一の場合に備えよと、戒めになったわい。
どうやら、敵は外より内にあったようだ」
昨日より平静になっているが、これからが大変になる。
「西の将軍様を捕らえますか?!
それとも、しばらくは泳がせて様子を見ますか?」
プリムローズは、公爵の顔をあえて見ないで質した。
「泳がせるわい!
もう一人の首謀者を、あぶり出さなければならぬ!」
その声は、怒りに満ちて震えているように感じる。
「はぁ…、左様ですか。
公爵は周辺に気をつけて下さい。
奥様、ご令息や嫁がれた伯爵夫人もです」
オレフは、プリムローズの隙のない考えに驚かされた。
このご令嬢は、普通の少女ではない。
儂よりも、先を読んで助言してくれている。
そして、ヘイズの闇の秘密を知ってしまった。
この先とんでもない事に、首を突っ込ませてしまうのではないかと彼は考えた。
一方の彼女の思うことは、不思議な泉を探さなくてはならないことだ。
使命を果たせず、お国の騒動にも巻き込まれるのはごめんだ。
『ああん、もうトホホ…だわ』
眉を自然に潜めていたプリムローズに、スクードは気の毒そうに言ってくる。
「すまんな、これから何が起こるか儂でも読めんのだ。
どうじゃあ、いっそエテルネルに帰国せんか?!」
「心配してくれて感謝します。
ですが、私が帰国したり変な動きをすれば怪しまれますわ。
このままで、いきましょう」
スクード公爵は目をつぶり、すまないと言って私に頭を下げてくれた。
危険と隣り合わせな留学生活になりそうと、プリムローズはため息をついたのである。
そして、本来の目的。
ヘイズでの学園の留学生活が始まろうとしていた。
20
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
【完結】地味令嬢の願いが叶う刻
白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。
幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。
家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、
いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。
ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。
庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。
レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。
だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。
喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…
異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~
日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。
女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。
婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。
あらゆる不幸が彼女を襲う。
果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか?
選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!
【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!幼女篇
愚者 (フール)
恋愛
プリムローズは、筆頭公爵の末娘。
上の姉と兄とは歳が離れていて、両親は上の子供達が手がかからなくなる。
すると父は仕事で母は社交に忙しく、末娘を放置。
そんな末娘に変化が起きる。
ある時、王宮で王妃様の第2子懐妊を祝うパーティーが行われる。
領地で隠居していた、祖父母が出席のためにやって来た。
パーティー後に悲劇が、プリムローズのたった一言で運命が変わる。
彼女は5年後に父からの催促で戻るが、家族との関係はどうなるのか?
かなり普通のご令嬢とは違う育て方をされ、ズレた感覚の持ち主に。
個性的な周りの人物と出会いつつ、笑いありシリアスありの物語。
ゆっくり進行ですが、まったり読んで下さい。
★初めての投稿小説になります。
お読み頂けたら、嬉しく思います。
全91話 完結作品
本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~
日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。
そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。
ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。
身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。
様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。
何があっても関係ありません!
私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます!
『本物の恋、見つけました』の続編です。
二章から読んでも楽しめるようになっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる