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第2章 新天地にて
第12話 咄咄怪事
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屋敷に戻るとすっかり夕暮れ時、庭に咲く夏の終わりの白バラは、夕闇に浮かび上がるように見えた。
薔薇の芳しい匂いを嗅いで深呼吸し、独り心に落ち着きを取り戻したプリムローズ。
「では、私たちは彼方に戻りますわ。お嬢様」
メリーがまた様子を見に行きますと言い残し、3人でエリアスを真ん中にして歩きだす。
その後ろ姿は、見知らぬ人なら親子と勘違いするだろう。
メリーもギルも婚姻して、子供ができてもいい歳よね。
あの二人、歳は幾つなのかしら?
プリムローズは屋敷に戻ると、この家の執事長ヤンネが出迎えに玄関ホールで待っていた。
「プリムローズ様、お帰りなさいませ。
ヘイズの王立図書館は如何でしたか?」
儀礼通りの言葉を彼女にかけてきた。
「えぇ、児童書がとくに面白かったわよ。
公爵様に無事に帰ったことをお知らせしたいわ」
プリムローズがそうお願いすると、彼は公爵のいる書斎へ案内する。
扉をノックしてヤンネは、主人である公爵にお声掛けをした。
「旦那様、プリムローズ様が帰宅の御挨拶をしたいと申しております。
いかが致しましょうか?」
「よいぞ、入るがよい!
学園の件で話もある。
ヤンネ、2人分の茶を用意致せ」
公爵の声が部屋の中から聞こえて、プリムローズはヤンネから入室するように扉を開いて招かれた。
絶好の機会と思った彼女は、スクード公爵に図書館の出来事を話すことを決断した。
ヤンネが部屋を出て、公爵と2人きりになった。
彼女は硬い顔の表情で、スクード公爵に向けて話しだした。
「【咄咄怪事】という、お言葉をご存知ですか?
今日まさしくー。
図書館で偶然にも、この言葉の意味を実感しました」
公爵はその真剣な表現を感じ取ったのか、少しだけ体をすくめた。
そして、プリムローズに椅子に座るように勧めるのであった。
「何やら想像すると、不思議な事柄が起きましたか?!」
そこまで深刻ではないと思っていたが、プリムローズはこの部屋にはネズミが出るかと聞いてきた。
この意味を最初は分からなかったが、しばし考えているうちに眉間にシワが寄る。
黙ってから、彼は一度だけ頷く。
さりげなく、図書館の地図が保管されている位置の話しを始めた。
不可解に思いながら聞くと、扉が叩かれてメイドがお茶を運んできた。
お茶を用意したメイドが出て間をおいてから、プリムローズは立って歩き扉の外の廊下を見る。
そんな奇妙な行動に、公爵は彼女の姿を目で追っていた。
急ぎ足で席に戻ってから、また本題の話の続きを始めた。
「ヘイズ王には、まだお世継ぎが誕生されていないのですね。
ご側室様はいらっしゃいますの?!」
「何故に…、それをー。
陛下が、グレゴリー殿に手紙を書いて教えていたのか?」
スクード公爵はそう言うと、少しだけ会話の内容が奇妙に思えて目を大きくする。
プリムローズは今の公爵の話で、祖父グレゴリーが助けた若者がヘイズの前王と判断した。
当時の祖父からしたら、年齢を考えれば前王もありえる。
「いいえ、違いますわ。
図書館で、ネズミが2匹話しておりました。
王弟の令息は、行方不明になり10年経っておりますね。
探しているそうですよ。
そのネズミたちもー」
プリムローズが一口紅茶を飲むと、公爵は椅子から腰を浮かして前に座る者をじっと見ていた。
いやいや、これは目つき悪い。
「それは…、一部の上位貴族しか知らんこと。
プリムローズ嬢、他に何を話されていたのか教えてくれないか」
椅子から腰を浮かして、顔の色が変わったのを見ていた。
そして、事の重大性を再認識する。
「その者たちは、王妃様やご側室様に子が出来無いことを相談してました。
悪い薬を…、飲ませてるやもしれません」
「な、な、何じゃと!
王宮に、そんなことが出来る者がおるとは思えん!」
謀反人がいたのが、かなり衝撃だったようで。
浮かした腰をドカーンと椅子に座り込み、表情を見せないようにか顔を下に向けてしまった。
どこの国も問題はあるが、どうもヘイズは閉鎖的すぎて国内が荒れているわね。
もしや、下手したらいつか内乱も勃発するか!?
「とにかく、そのよく飲む茶葉とかをお調べて下さい。
お茶を入れている女官が、誰から命じられてるのか。
私でしたら、茶葉はその都度用意するわ。
そして、お茶をいれた女官は逃しているのか。
…、口封じを致します」
10歳の少女がこのように冷静で残酷な話をするとは、オレフはあの戦の神の孫娘なのだとつくづく思った。
「考えれば、あり得そうじゃな。
直ちに王宮に出向き、王妃様やご側室様方の健康状態を検査しなくてはならんな」
「医師を何名か、普段登用している方と違う医師にしたほうがいいでしょう。
そして、毒に見識のある方を選んだ方がよろしいわ」
同じ女性としては、結果次第では悲しい思いをするのを気の毒に思う。
それと同じ位に、公爵に必ず伝えなくてはならない。
彼はあの者をよく思っていないと感じているが、ここまで溝が出来てるとは思っていないはず。
プリムローズは、今日1番言わなくてはいけない話に入る。
これこそが、咄咄怪事!
スクード公爵には、予想も出来ない事であろう。
ヘイズ国の未来の最高権力を巡る戦い。
水面下の争いの火種になる可能性もあるのだった。
薔薇の芳しい匂いを嗅いで深呼吸し、独り心に落ち着きを取り戻したプリムローズ。
「では、私たちは彼方に戻りますわ。お嬢様」
メリーがまた様子を見に行きますと言い残し、3人でエリアスを真ん中にして歩きだす。
その後ろ姿は、見知らぬ人なら親子と勘違いするだろう。
メリーもギルも婚姻して、子供ができてもいい歳よね。
あの二人、歳は幾つなのかしら?
プリムローズは屋敷に戻ると、この家の執事長ヤンネが出迎えに玄関ホールで待っていた。
「プリムローズ様、お帰りなさいませ。
ヘイズの王立図書館は如何でしたか?」
儀礼通りの言葉を彼女にかけてきた。
「えぇ、児童書がとくに面白かったわよ。
公爵様に無事に帰ったことをお知らせしたいわ」
プリムローズがそうお願いすると、彼は公爵のいる書斎へ案内する。
扉をノックしてヤンネは、主人である公爵にお声掛けをした。
「旦那様、プリムローズ様が帰宅の御挨拶をしたいと申しております。
いかが致しましょうか?」
「よいぞ、入るがよい!
学園の件で話もある。
ヤンネ、2人分の茶を用意致せ」
公爵の声が部屋の中から聞こえて、プリムローズはヤンネから入室するように扉を開いて招かれた。
絶好の機会と思った彼女は、スクード公爵に図書館の出来事を話すことを決断した。
ヤンネが部屋を出て、公爵と2人きりになった。
彼女は硬い顔の表情で、スクード公爵に向けて話しだした。
「【咄咄怪事】という、お言葉をご存知ですか?
今日まさしくー。
図書館で偶然にも、この言葉の意味を実感しました」
公爵はその真剣な表現を感じ取ったのか、少しだけ体をすくめた。
そして、プリムローズに椅子に座るように勧めるのであった。
「何やら想像すると、不思議な事柄が起きましたか?!」
そこまで深刻ではないと思っていたが、プリムローズはこの部屋にはネズミが出るかと聞いてきた。
この意味を最初は分からなかったが、しばし考えているうちに眉間にシワが寄る。
黙ってから、彼は一度だけ頷く。
さりげなく、図書館の地図が保管されている位置の話しを始めた。
不可解に思いながら聞くと、扉が叩かれてメイドがお茶を運んできた。
お茶を用意したメイドが出て間をおいてから、プリムローズは立って歩き扉の外の廊下を見る。
そんな奇妙な行動に、公爵は彼女の姿を目で追っていた。
急ぎ足で席に戻ってから、また本題の話の続きを始めた。
「ヘイズ王には、まだお世継ぎが誕生されていないのですね。
ご側室様はいらっしゃいますの?!」
「何故に…、それをー。
陛下が、グレゴリー殿に手紙を書いて教えていたのか?」
スクード公爵はそう言うと、少しだけ会話の内容が奇妙に思えて目を大きくする。
プリムローズは今の公爵の話で、祖父グレゴリーが助けた若者がヘイズの前王と判断した。
当時の祖父からしたら、年齢を考えれば前王もありえる。
「いいえ、違いますわ。
図書館で、ネズミが2匹話しておりました。
王弟の令息は、行方不明になり10年経っておりますね。
探しているそうですよ。
そのネズミたちもー」
プリムローズが一口紅茶を飲むと、公爵は椅子から腰を浮かして前に座る者をじっと見ていた。
いやいや、これは目つき悪い。
「それは…、一部の上位貴族しか知らんこと。
プリムローズ嬢、他に何を話されていたのか教えてくれないか」
椅子から腰を浮かして、顔の色が変わったのを見ていた。
そして、事の重大性を再認識する。
「その者たちは、王妃様やご側室様に子が出来無いことを相談してました。
悪い薬を…、飲ませてるやもしれません」
「な、な、何じゃと!
王宮に、そんなことが出来る者がおるとは思えん!」
謀反人がいたのが、かなり衝撃だったようで。
浮かした腰をドカーンと椅子に座り込み、表情を見せないようにか顔を下に向けてしまった。
どこの国も問題はあるが、どうもヘイズは閉鎖的すぎて国内が荒れているわね。
もしや、下手したらいつか内乱も勃発するか!?
「とにかく、そのよく飲む茶葉とかをお調べて下さい。
お茶を入れている女官が、誰から命じられてるのか。
私でしたら、茶葉はその都度用意するわ。
そして、お茶をいれた女官は逃しているのか。
…、口封じを致します」
10歳の少女がこのように冷静で残酷な話をするとは、オレフはあの戦の神の孫娘なのだとつくづく思った。
「考えれば、あり得そうじゃな。
直ちに王宮に出向き、王妃様やご側室様方の健康状態を検査しなくてはならんな」
「医師を何名か、普段登用している方と違う医師にしたほうがいいでしょう。
そして、毒に見識のある方を選んだ方がよろしいわ」
同じ女性としては、結果次第では悲しい思いをするのを気の毒に思う。
それと同じ位に、公爵に必ず伝えなくてはならない。
彼はあの者をよく思っていないと感じているが、ここまで溝が出来てるとは思っていないはず。
プリムローズは、今日1番言わなくてはいけない話に入る。
これこそが、咄咄怪事!
スクード公爵には、予想も出来ない事であろう。
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