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第2章  新天地にて

第7話 遠くの親戚より近くの他人

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    もう一方の馬車は、お通夜つやのような静けさ。
会話なしの空間である。
葬儀の途中のような沈黙、ため息すら出しにくい。

プリムローズの横に座るメイド長イーダは、歳のせいかグッスリと寝ていた。
この図太ずぶとさがうらやましい。

前に座るスクード公爵は目をつむっていたし、奥方様は窓の外の風景を眺めていた。
プリムローズは、誰とも会話しないので退屈している。

後ろにいるメリーたちの馬車に、移りたくってたまらなかった。
こんなんなら、レース編みの道具でも用意するのだったわ。

「プリムローズ嬢、すまんな。気のいた会話も出来ずに、つまらんだろう」

スクード公爵が突然声をかけてくるので、プリムローズは独り言をまた言ったのかと不安になる。
考えていたことを、ドンピシャに言われあせる。

「いいえ、イーダさんも寝ていますし。
私も、少し寝ようかしら?」

何もすることないし、こういう時は寝るしかない。

「そうじゃ、わしらの家族の話でもしよう。
妻との間に、息子と娘おるんだ」

人の話をまったく聞いてない。
私は寝るって、数秒前に話したわよね?!

暇だし聞いていても良いけど、隣りで寝ているイーダさんが起きないのか気になる。
自然にスヤスヤ寝ている姿を、横目で見てしまった。

「1度寝ると、彼女は起きないわ。
ふふふ、大丈夫よ」

公爵夫人ニーナ様が、やはり会話をしたかったのか話に加わってきた。

「それで安心しましたわ。
嫡男ちゃくなんとご令嬢はお幾つにお成りになりますの?」

プリムローズは、初めて伺う家族の話に興味がいた。

「息子は、軍学校に入っていておる。
現在は寮生活していて、16歳になります」

『軍学校??!』

プリムローズの祖国エテルネルは、学園を卒業してから騎士見習いとして正式に剣を学ぶ。
各家で武官を雇って、剣を習う習わしだ。

「エテルネルには、軍学校はございませんのよ。
女性の方でも入れますの?」

プリムローズは剣を祖父から習ってたので、そのような制度が羨ましいと感じた。

「うむ、少ないが何人かはおる。
その者たちは、王妃様の身を守るたてと剣になったりする」

『うわぁ~、なんかカッコいい響きがする』

エテルネルは男性ばかりで、何人かは女性もいるが少ない。
貴族でも下級の身分で、死ぬ覚悟で王宮に仕えて入るけど…。
良い年ごろになると、みんな辞めてしまう。

「娘は19歳ですわ。
恋愛結婚で、伯爵家に嫁ぎましたのよ」

公爵夫人がにこやかに話すと、スクード公爵はちょっと不機嫌な顔をされたわ。

あらっ?もしかして、伯爵家に嫁いだのが不服ふふくみたいなのかしら?
公爵令嬢の身分から伯爵とは、ご令嬢は余程お相手がお好きなのね。

「可愛がっていた娘を取られて、まだ機嫌が悪いのね。
孫でも出来たら、大変なことになりそう」

「私も学園のりょうに入るのでしょうか?」

ご令息は、寮に入られておりますのよね。
新しい土地では情報が、とぼしくて気掛かり。

「プリムローズ嬢は、ヘイズをまだ訪れたばかりではないか?
それに軍学園と遠くからで通えない学生が寮に入るのだ。
我が家から通うがよい」

スクード公爵が説明してくれると、夫人もうなづいて仰ってくれた。

「オレフの言うとおりよ。
【遠くの親戚しんせきより近くの他人】って、言葉があります」

プリムローズは、公爵夫人の嬉しい言葉に感謝して話しだした。

「いざというときは頼りになるのは遠い親戚より、近くにいる赤の他人と言います。
スクード公爵様、奥方さま。
改めて、これから宜しくお願い致します」

プリムローズが頭を下げてお願いすると、隣に座るイーダが起きて嫌みを言った。

「おやおや、このイーダは抜けものですかい」

これには3人はビックリして、イーダのタヌキ寝入りに笑い出す。

「イーダさんも、お仲間です。頼りにさせて頂きます!
どうか、助けて下さいませね」

プリムローズが可愛くお願いすると、気をよくしたのか笑って任せなさいと一言。

「こりゃあ、イーダにはかなわんな。
ワッハハハー」

公爵の笑い声にられて、皆が笑うのであった。

「しかし、驚きました。
とても、19歳のお嬢様をお持ちとは見えませんわ」

プリムローズが、公爵夫人ニーナの若さを賞賛しょうさんした。

その話を聞くと、3人は暗い表情をしたように見えた。

何か言えない訳があるようだとかんづいた。
まずい話をしてしまったと、動揺するプリムローズ。

「気にしないでくれ。
娘は…、じつは……。
その養女なんだ。
儂らの知り合いの娘だ。
親御さんを小さい頃に亡くして、儂らが引き取った」

「まぁ、そうでしたの。
知らないとは言え、失礼を致しましたわ」

プリムローズは恐縮し、顔を下に向けた。

「知らなかったんですもの。
気にしないでね。
歳は離れますが、娘と仲良くして下さいね。
妹を欲しがってましたから、きっと喜びますわ」

明るく話す公爵夫人のニーナに、救われたプリムローズだった。





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