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第1章  奇跡の巡り合わせ

第12話 良い花は後から

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    部屋の一人で笑いこける主人を、とうとう頭がおかしくなったかと怪しげに見る。
笑い声を無視してエリアスに、ハチミツ入りのミルクをコップ入れて彼の前に置くとー。

「アハハハ、苦しかった!
いちなり笑って、ごめんなさいね。
エリアスと同じで、タルモ殿もピーちゃんに様をつけて呼んでいたのを思い出しちゃった。
それでこうして、笑ってしまったのよ」

プリムローズの話を聞き、メリーもキチンと納得した。

「何で様をつけて呼ぶのでしょうか?
お嬢様が、飼っているからですかね?!」

首をかしげて、プリムローズにもミルクを渡してきた。

「これはー、美味しい!
甘くて、初めて飲みました!!」

口の周りについたミルクをめると、目を輝かしてコップの中身をのぞいて見ていた。

「今までどんなのを飲んでいたの?!」

彼のこれまでの生活環境を、気になり質問をする。

「いつもは水です。
たまに、残ったお茶をえる時もありました。
こんなにも温かい甘い飲み物が、この世にはあるんですね!」

プリムローズとメリーは、過酷かこくな生活環境に目が熱くなる思いをした。

「エリアス、これからは沢山たくさんの初めてを知ることになるわ。
貴方に、それを与えたいと思う。
今日から、貴方は自由よ。
私も子供だけど、貴方も子供なの。
今は独りでは、まだ生きていかれないと思うの。
私につかえてくれるかしら?!」

これからどうしたいか、自分で決めさせたい。
奴隷のように縛られないように。

「自由、命令がない?
船長の借金は、無くなったのですか?
貴女様が、私を助けてくれたのですね」

この子は勘が鋭く、とても賢いと感じた。

「ええ…、この紙は貴方の借金の証文よ。
それと、船長はエリアスに関わらない書類よ。
私が…、船長から貴方を自由にしたの」

エリアスはコップを静かに置くと、目から涙を流しながらお礼を言ってくる。

「有り難うございます。
ご恩は一生涯忘れません!
どうか側に置いて、働かせて下さいませんか?
ご主人様!」

髪は金髪、瞳は翡翠色ひすいいろ
やはり、平民には見えないわ。
何か…、この子には秘密がある。
プリムローズは、自分の勘を不思議と外したことがなかった。

「エリアス、ご主人様はやめなさい。
お嬢様かプリムローズ様と、好きな方で呼びなさいね。
私に仕えてるなら賢く強くなること、ギルが貴方をきたえてくれるわ。
その前に、健康になること。
沢山食べ、休むのがエリアスのお仕事よ。いいわね!」

「はい!しかし、何もしないのは困ります。
何か、出来ることは無いですか?お…、お嬢様!」

エリアスはお嬢様と呼ぶと決めたみたいで、赤い頬をしてどもりながら呼んでくれた。

「クスクス、嬉しいわ。
初めてのお嬢様呼びね。
そうね、エリアスは目が覚めて直ぐに寝れるの?!」

「無理そうです。
ベッドを、使わせて頂きありがとうございました。
次からは、ソファーで寝ます」

「いいのよ。私はメリーと寝るから独りで使いなさい。
エリアスは、ヘイズの言葉の読み書きは出来るの?!」

「少しだけ、亡くなる前に両親から…」

エリアスは、悲しい顔をして答える。

「そう、悪いこと聞いたわ。
待っててね!」

プリムローズは返事すると、隣の部屋に行ってしまった。

「どうしよう…。
もしかして、お嬢様を怒らせたのかなぁ?!」

エリアスは不安になるが、メリーは微笑むと違うわ大丈夫よと彼をなぐさめる。

プリムローズは、一冊の本を腕に抱えて戻ってきた。

「これはね、私が小さい頃のお気に入りのヘイズの絵本なの。
文字が読めなくても、想像は出来るわ。
こちらはペンと紙よ。
分からない字を書いて、明日からギルに教わりなさいね」

初めて見る絵本の絵に釘つけになり、エリアスは何度も喜びの声を出す。

「これはピーちゃんの鳥籠の鍵で、エリアスが世話してくれる?
ピーちゃんを外へ出してもいいわ。
寝るときに、ちゃんと鳥籠に入れて鍵を閉めてね!」

本や鍵などを、ひとつひとつテーブルに置きながら説明した。

「あの時計が11時を指したら寝なさい。
夜更よふかしは、体に良くありませんからね。
もっと、早くても構いませんよ」

メリーは時計を指差し、エリアスに細かく教える。

「はい、ピーちゃんは鳴きませんか?!」

鳥籠に近づくと、ピーちゃんに命令した。

「ピーちゃん、エリアスと遊んでも鳴かないこと!わかる?!」

「ピィー!」と、羽を広げて一声だけ鳴いた。

二人の女性たちは、もう1つの寝室に入っていった。


     翌朝プリムローズとメリーが起きると、エリアスはすでに起きていた。
彼女の騎士服を着ていて、ソファーに座り本を真剣に読んでいた。

「エリアス、おはよう。
貴方は、早起きなのね」

プリムローズが話しかけると、集中していたのかビクッとしていた。

「おはようございます!
お嬢様にメリーさん。
毎日、この時間ぐらいで起きてます」

エリアスの話に驚く2人は、普段の寝る時間を聞くと仕事が終わりになったらと言ってきた。
労働時間は何時間だったのかは、ハッキリしないようだ。

    
    食事は皆でとるので、ギルたちの部屋に行くことにした。
特別扱いのプリムローズには、船室に豪華な食事が用意される。

「おはよう、ギルにタルモ殿。
タルモ殿は、エリアスには初めて会うのよね?!」

「これはこれは、翡翠の瞳。
お美しい瞳の色ですな!」

お互いに挨拶して食事を始めたが、エリアスは手を出すことがなかった。

「エリアス、皆の真似すればいいわ。
それに食べ方は、気にしないで美味しく食べなさい。
知らないのは恥ではないのよ。
貴方は、【良い花は後から】という言葉がピッタリね!」

目の前に居るエリアスに、ゆっくりした動作して見せながら話しかけた。

「確かにそうだな。
良い花にするのには、時間がかかる!」

ギルが付け足すと、タルモも頷きながら話す。

「早く咲く花より後に咲く花の方が美しいか。
なるほどですなぁ」

「結果が出なくても、焦る必要は無いですわよ」

メリーも横でエリアスに見えるように、フォークとナイフを分かりやすく使う。

「良い花は後から、私は良い花になれるかなぁ?!」

つぶやいて、真似して食べ始めた。
食べ物が目の前にあり、そして優しい人たちに見守られている。
それだけで、彼の胸は一杯になっていた。
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