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第1章  奇跡の巡り合わせ

第10話 商人の嘘は神もお許し

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 カウニス号の船内の中をタルモは、知り合いに会う可能性を考え変装へんそうして船長室を探す。
何せ彼は商人であちらこちらの国へ行き来し、船に乗る機会が多かった。
手すりにつかまり、階段を確実に踏み外さないように上り始める。
乗務員用の階段は客用とは作りが違うので、幅も狭くて急だった。

「船長室は上の方だよな。
船員を見つけて、船長の所へ案内してもらうのが確実だがー」

誰もいない廊下で、独り言を言って歩く。
そこに制服を着た若い船員が、前から歩いて来るではないか。

「そこの君、船員だね?!
船長はどこだ!
君に言っても悪いが、あれはいかん。
なんとかしないと、憲兵に調べられたらこの船の問題になるぞ!」

仕立ての良い服にメガネをかけた紳士に、突然声をかけられて聞かされた内容に驚く若い船員。

「それは…、どんな問題ですか?」

船員は狼狽うろたえながら、紳士に聞き返すのだった。

「静かに!
誰が、何処で聞いているかわからない。
失礼だが、この手の話は1番責任ある者でないといけません。
君も、そう思うだろう?」

タルモは自分より若い船員の顔色を見つつ、優位に立つように仕向ける。

「はい、私に権限はありません。
それでは、ご案内致します!」

タルモにまれて、素直に船長の居場所に向かうことになった。

  
   船員はノックして中に入るが、タルモはドアの外で待つように指示された。
船長が若い船員から話を聞いたのか、怖い顔するとドアを開けた。

「船員をおどしたそうじゃないか。
船の客人でも、事の次第では許せません。
何をいきなり、言い掛かりをつけてるんだ!」

船長は挨拶もなしに、いきなりタルモを怒鳴りつけてきた。

「まぁまぁ、落ち着いて下さい。
船長!私は貴方を思って忠告をしに、わざわざ会いに来たのですよ。
怒る前に、感謝して欲しいくらいです」

堂々とした態度に、船長は思わず動揺する。
それを隠く様に、スッと目を細めた。

タルモの話を聞くために、自室へ入ることにー。
ぶ然な表情で椅子に勧める船長に、彼は軽くお辞儀し座った。

「どんな話だ。
まずは、名を聞こうか!」

船長の横柄おうへいな言い方に、一切表情を変えることはなかった。
彼は商人の仕事の顔に、完全に切り替わっていたからだ。

「初めまして、私はタルモ・コルホネンと申します。
実はヘイズに帰国するはずが、盗賊に襲われました。
その時に運良く、クラレンス公爵令嬢に助けられましてなぁ」

船長は関係のない話に、苛立いらだち眉をひそめた。

「何を言いたいのだ!
話の意図いとがまったくが分からん!」

「おやおや、これからが肝心なのに。
ご令嬢に空いている部屋を使えと、無料でこの船に乗せてくれました。
ご存じでしたか?
ご令嬢は、お持ちの白馬をこの船に乗せてます。
愛馬を見に行った時に、馬の世話している虐待されているかもしれない少年がいるとー。
泣きじゃくりながら、私に教えてくれたのです」

話している内容で何か考えている様子、だんだん顔色が変わってきた。

不味まずいですよ。
船長、あの令嬢はアルゴラの元第1王女殿下の孫娘。
もしその少年の事で訴えられたら、貴方は職を失うだけでなく刑罰を受ける可能性もある」

青い顔色になっていき、目を大きくしタルモを凝視する。

「私は彼の顔色を見たが、気の毒に死相が出ていた。
彼に…、食事をきちんとさせてますか?!」

「さ、させているとも!
私はー、悪くないぞ!
アイツが食べないだけだ!」

タルモは意地悪く笑うと、船長に提案した。

「船長、厄介払やっかいばらいをした方がいい。
実はここだけの話だ。
あのように弱った少年が、好きな変わり者がいましてな。
私が…、彼を貰い受けてもよい」

生唾なまつばをゴックンと一度飲み込むと、タルモにニャついた顔をして話しだした。

「アイツには、親の借金がある。
金貨8枚だ!」

エリアスの話した金額より、3枚も多く上乗せし提示してくる。
怪しいと、商人の勘が疼く。

「それでは、その証文しょうもんを見てみよう!
もし、嘘ではないなら出せるでしょう?!」

わずかな動揺を、タルモは見逃さない。
相手は、無駄な言い訳をしてきた。

「昔の話で、書類は手元に無い!
だが、金貨8枚は覚えていて間違いない」

「正気ですか?
証文なしで働かせたら、完全に違法だ!
彼は、まだ未成年だろう。
これでは、貴方は何年牢屋に入るかなぁ。
ご家族が、この事を知ったらー」

「証文はあるんだ!
ちょっと待て、見せてやる!」

船長は金庫を開けて、一枚の紙を探してくる。

「船長は、目が悪いんですな。
8ではなく、これは3です。
騙そうとしましたね。
仕事柄こう見えても、裏とは繋がりがあるんですよ。クククッ」

裏社会かと震えながら、タルモに慌てふためきに謝罪する。

「すまない…、どうやら私の勘違いだった。
金貨3枚で、アレを売ろうではないか!?
それで、手を打とうぜ」

「船長、いけませんな。
彼がこれまで働いて返した分と私をあざむいた分で、金貨1枚が妥当だな」

タルモは金貨を胸から出して、船長にエリアスから一切の手を引くように一筆書かせた。

「チッ、汚い野郎だぜ!
まぁ、あんな死に損ないはお払い箱だ!」

船長は捨て台詞せりふを言い、証文と紙を前に投げ捨てた。

「では、この話は…。
ココだけの内密に、我々のためにね。
令嬢には私が雇い主になったから、訴えないように言いくるめますよ。
いいですか、お互い上手くやりましょう」

タルモは船員に微笑むと、机に金貨1枚だけ置き、紙を持ち立ち上がり部屋の外へ出た。
4枚の金貨を、見事に残す形になる。

【商人の嘘は神もお許しか】

天井を仰ぎ、誰に聞せるわけもなく独り言を呟く。
エリアスが気になり、部屋に急ぎ帰るのであった。

  
   ノックしたタルモに、メリーが笑顔でドアを開けてくれた。

「ただいま、帰りました。
メリーさん、プリムローズ様は?!」

「隣の部屋で寝ているエリアスを見てますわ。
彼はお風呂に入り食事してベッドに入ると、瞬く間に寝てしまいました」

メリーの話に、タルモは深く頷いた。
あの船長の口ぶりでは、酷い扱いを受けていたのが目に浮かぶ。
疲れ果てたのだろう。
そして安心しきって、寝たに違いない。

「そう言えばギル殿も、隣の部屋ですか?!」
 
姿が無いので、彼は不思議になり彼女に尋ねてみた。

「ギル師匠は、エリアスの代わりに働いてますわよ」

「えっ?!では、ギル殿を迎えに行かなくては行けませんぞ。
ほら、この通り証文もあります。
エリアス君は、もう自由ですからー」

タルモがギルの身を案じると、メリーは冷たく言い放つ。

「あの男は、少しこき使われた方が宜しいのです。
体力のほうは、馬鹿みたいにありますからね」

彼女の言い分と扱いが気の毒になり、急ぎ探しに行く。
彼を見付けるのにタルモは30分もかかり、やっと勤務時間は終了となる。

出港からの長い1日が、やっと終わりに近づいていた。
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