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第1章  奇跡の巡り合わせ

第8話 渇しても盗泉の水を飲まず

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 先に入っていったギルが、それ以上に奥に入らず立ち止り。
入口近くで、静かにただ見つめていた。
プリムローズはそんな彼を不思議そうに見ていたが、馬小屋代わりの部屋を一緒にのぞくとその理由を知ることになる。

「お前は、綺麗な白く輝く毛並みだね。
大事にされているんだな。
あっ、ごめん。
腹の虫が鳴ってしまった。
昨日から…。
何も食べてないんだよ」

プリムローズの愛馬ヴァンブランは、人参の葉をくわえて彼の顔の前に差し出すような仕草しぐさをした。

「えっ!その人参にんじん食えってか?!
人様でなく、馬様だね。
駄目だよ…。
これは、お前のものだからさ」

せ細ったら少年が、ヴァンブランを優しくで話しかけていた。

お腹が空いても、人参をけして口にしない。
そんな少年に自然に涙する。
あんなに痩せて…、それでもヴァンブランに優しく出来る魂に胸を熱くした。

「【かっしても盗泉とうせんの水を飲まず】。
どんなに喉が渇いていても、盗泉という名の水は飲まない」

ギルの言わんとする意味を、頭に浮かべ心で呟く。
いくら困窮こんきゅうしても、不義や不正には関わらないか。

「ギル、彼を見ていてどう思う?
彼の心は美しいと思うわ。
彼を助けたいと考えるのは、偽善者ぎぜんしゃかしら?」

プリムローズは小声で、近くにいるギルにたずねた。

「俺には救う力がないが、お嬢にはそれが出来る。
自分で、偽善者と思えば偽善者じゃね」

意地悪そうに笑って返事する彼に、プリムローズは決意して強く頼んだ。

「ギル、弟分が出来たわよ。
彼を仕込みなさい、いいわね」

「へーい!お嬢、強く賢くするぜい!」

2人はヴァンブランのいる場所に入って行くと、鳴き声でプリムローズたちの存在を知ることになる。

 少年は驚いて二人を見ると、地面に額をこすり付けるように座る。

「何故、そんな事をするの?
早く、お立ちなさい。
この馬の持ち主で、これからヘイズに留学しに行く途中なの。
貴方はヘイズの国民なのかしら?
ご両親は、お国にいるの?」

プリムローズが、少年に矢継ぎ早に話す。

「両親は…、借金を残して亡くなりました。
馬の世話や荷物運びをして、そのお金を返してます。
身寄りは……、ありません」

まだ地面に頭をこすりつけるようにしている。
そのまま、二人に向かい返事するのだった。

「私の名前は、プリムローズ・ド・クラレンスよ。
今日から貴方は、私に仕えなさい。
誰に、その借金を払えばいいのかしら?
いくらぐらいあるの?
教えて、貴方の名前もね」

彼は彼女の質問の内容にビックリすると、下に向けて見えなかった顔を挙げた。

2人は同時に、その挙げた顔を初めて見て驚く。
真っ黒に汚れているが、とても気品ある顔立ちをしていたからだ。

「私は…、エリアスと申します。
借金の返済先は、船長が知っていると思います。
覚えてる額は…、金貨5枚でした」

船長の所へ連れていくよう言うと、その前に自分の部屋に来るようにエリアスに命じた。

「いけません、駄目です!
まだ勤務時間ですので、この場から離れられないのです」

頑固がんこ律儀りちぎな、この少年にあきれていた。

「はぁ~、わかったわ。
お菓子を持ち歩く癖があるの。
足しになるかわからないけど、これを食べなさい。
すぐに自由にするから、ヴァンブランとおとなしくココにいなさいね!」

白馬の側に行き背中をでてやると、首を振りそれは嬉しそうに鳴いている。

「ヴァンブラン…。
もう心配しないで、彼は助ける。
助けだして、ヘイズではお前を世話させるつもりよ」

愛馬に語ると、ギルをともない部屋に戻るのであった。

 プリムローズは部屋に戻ると、メリーにヴァンブランの世話していた。
エリアスという少年の話をした。

「お嬢様は、彼を助けて側に置くのですね。
彼と私は、境遇きょうぐうが似ておりますわ。
私も大奥様に、こうして助けて頂きましたから……」

彼女はそっと目を閉じて、昔の自分を思い返す。
貧しく毎日お腹を空かして、下ばかり見ていた自分をー。

「まだ私は、成人もしていない子供です。
本来は…、勝手にそんな事をしてはいけない。
でもね…、彼の魂は美しいの!
そんな彼に、未来を与えてあげたいのよ!」

タルモは話を聞いていて、プリムローズにも美しい魂があると思っていた。

「話の途中で失礼ですが。
プリムローズ様のご家族は、その行いを反対される方々なのですか?!」

彼は、彼女の背中を押すつもりで聞いてくる。

「タルモ殿……、いいえ!
よくやったと、きっと褒めてくれるはずよ。
あぁ~、そうだった。
タルモ殿の仰る通りだわ。
迷わない事に決めました。
彼をー、エリアスを助けだします」

プリムローズは、ピーちゃんの鳥籠を開けて首輪から金貨を取り出す。

「金貨5枚と言うが、相手は足元を見るかも知れませんぜ。
何せ、お嬢は…。
金を持っていますからな」

ギルがそう言うと、タルモが話に割って入ってくる。

「では、私が話をつけますよ。
私は商人で、交渉が得意です。
相手から、うまく値切りましょう」

3人は、タルモの値切りの言葉に目をパチクリした。

「では、軍資金の金貨5枚を預かります。
……、行かせて下さい。
ご恩返しを、少しはさせて頂きたい」

彼は手を広げて、プリムローズに差し出す。
その手には、エリアスを助けるのに必要な金貨5枚が握られていた。

 タルモは外見を変えると言い、隣の部屋に入って行く。
どうやら、着替えるようだ。
商人のタルモに、エリアスの今後をー。
未来のすべてを、ゆだねることに決めた。
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