上 下
2 / 142
第1章  奇跡の巡り合わせ

第2話 旅は道連れ世は情け

しおりを挟む
 心地よい波音がする海を背景とは正反対に、激しい言葉の応酬おうしゅうをこの3人は繰り広げていた。
辺りに人がいないのをいいことに、プリムローズはえらそうに持論じろんを持ち出す。

「メリー、貴女は何を言っているの。
こんな面白い事を、無視するとは!
勿体もったいない!
コホン、え~っとこう言うでしょう。
「【旅は道連れ世はなさけ】、旅をしている私たちにピッタリだと思わない?
あの声は…、具合が悪くなった人なのかもしれないわ」

もっともらしい話をするが、長年つかえる彼女はだまされはしない。

それよりも厄介やっかいな人物が、お嬢様の味方についてしまったのが大問題である。

「お嬢のお考えは、じつにご立派だ!
そですり合うのも多少たしょうえん】というのもあるぞ」

対抗して同じ様な言葉を並べる、大人げない大人。

「学があってかしこいと自慢して、こんなんで私は言いくるめませんからね。
ヴィクトリア様から二人を頼まれているんですから、いえダメ許しません!」

「俺が注意して、先に様子を見て行くから平気だ。
命を争う病人だったら、お前どうするんだ!
お嬢、早く行ってみましょうや~」

「でも、本当に病人なら…」

戸惑うメリーを一人置くと、声がする方へさっさと歩き出し加速する。

「あっ、お嬢様!
お待ち下さいませー!
誰かー、他の人たちを呼びましょうよ。
お嬢様、ギル師匠ししょうー!
ああもう、私は何があっても知りませんからねっ!」

ブチ切れ気味に必死に止める彼女の大声は、無情にも静かな波止場町に響く。
青空の白いカモメだけが、返事を返してくれているのがむなしい。

子供たちに手を焼く母の気持ちの彼女は、途方とほうに暮れてそこへ立ち止まる。
元気いっぱい走り出している後ろ姿を、ただ呆然と見守っていた。

 
    現場に到着してみると、家と家の間にある細い路地ろじから声がかすかに聞こえくる。
声する方は薄暗く、奥が暗く見えにくい。

「ギル、貴方いま。
剣は手元に持っている?
ほら、私はこの通りよ。
短剣を持っているわ」

どこから出したのか。
物騒ぶっそう代物しろものを出しては、首をちょこっとかしげ笑顔で前にチラつかせた。

「ヘーイ!
もちろん、持っています。
お嬢、すきは見せないようにお願いしますぜ」

腰あたりに隠くし持っていた短剣を手にして、クルクル器用に回している。
かなりの訓練したのか、空中にまで放り投げては様になっていた。

「あのね、誰に向かって言っているのよ。
ずは、状況の把握はあくをしましょう。
メリー、私たちから少し離れていなさい!」

ゆっくり歩きながら2人に追いつくと、主人に命じられて大人しく言われるまま2人から離れた。

『なんで、こうなるのかしら?!
ヘイズにまだ到着していないのにー。
もし、お嬢様が襲われでもしたら……』

ますます緊張と疲労の度が増し、二人の様子を心配そうに見続ける。

 
    男のギルが先に歩き、プリムローズは短剣を握り後ろから慎重しんちょう間隔かんかくを開けて歩く。
そこには、横たわる感じで土ホコリが付いた小汚ない男。
それでも目を凝らして見れば、見かけ上等な服を着ていた。
紳士ぽい感じの人が、うずくまる形で倒れている。

「だぁ、大丈夫かー!
オイ、返事しろ!!
お前さん、話せるか?
俺たちは、けしてあやしい者ではない。
しっかり、しろやー~」

ギルは相手を心配し、迷惑を省みず大声で男へ呼びかけている。

『見かけは十分に、絶対にお前は怪しいやつだよ』

倒れた男を抱え起こす様子を、彼女は後ろから見ていて思う。
間を取りつくために、彼女はトコトコ近寄り声をかけてみる。

「この男は、悪党あくとうそうに…。
ゴホン、見えるかも知れないけど。
この私は、間違いなく善良ぜんりょうな少女よ。
もう安心しなさいね。
この私が、親切にも助けて差し上げますよ!」

上から目線している彼女の態度に、お嬢の方が数段悪いと目でうったえた。 

「痛っ、うーぅーっ!
誰かに…、引きずり……。
込まれ、殴られ……て。
持っていた金を…、盗まれてしまいました……」

地べたに座り直すと、首を左右に振りながら説明してくれた。
紳士は身なりが良かったのが、不幸の始まり。
危機管理が出来てなかったらしい。

「え~と、立てるかい?!
まずは落ち着く為にも、近くの店に入ろう。
それから、被害を出した方がいい」

「………。そ、そうね。
私もちょうどお腹空いているから、何がご馳走ちそうしてあげる。
見ていて痛々しくて、なんだか…。
そのー、とても可哀想かわいそうなんですもの」

「……、有難うございます」

言い方に難はあるが、人情味がある少女だと彼はその時に感じた。

ギルが肩をかしながら路地裏ろじうらから引きずるように現れた。
ずっと二人を待っていたメリーが、その出てきた状況に驚き大きな声をついあげてしまう。

「お嬢様、ご無事でいらっしゃいますか?!
あらっ?これは……。
かなり痛そうですわね?
どちらが、殴り掛かりましたの?!」

2人は同時に反応すると、メリーを怒鳴りつけた。

「「殴ってな~い!!」」

声を同時にそろえキッパリと、彼女に強く否定。

事の次第を聞くために4人は妥協だきょうして、仕方なく近くの食堂に彼を連れて店に入るのだった。
この身元不明の助けた男との出逢いは、プリムローズにとっては役立つ人物になる。

それは、すぐ近い未来にー。



   
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...