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第4章 未来への道
第22話 忘れられた孤児院
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彼女は静まった馬車の中の友たちを安心させるために、落ち着かさせる様に順序だてて話をしだした。
「位の下りた2代前の王妃様は、公平に孤児院へ援助金の分配されてましたわ。
出身は、ザィールの元公爵令嬢。
彼女とは、器量が違いましてよ」
「あの、しつこいようですがー。
引き継ぎをキチンとされてたのでしょうか?!」
リザはどうしても気になると、再度プリムローズに意見し質問する。
「その点は、私も思慮しました。
キチンとされて、何度か指摘したと思います。
目の前にあるものしか、残念ですが視界に入らなかったのでしょう。
家族と取り巻きしかいないのよね。
このような事が積み重なり、烙印を押された。
高位貴族にね。ホホホ」
ジェイクは彼女の皮肉を込めた笑い方を見て、本心を隠さずここに居る者たちに述べた事に驚く。
「それでは、王妃在任中の期間だけですのね。
それでも少なく見積もっても、10年位あります。
その期間、孤児院はどう暮らしてましたのかしら?!」
フローラは気の毒な孤児の子供たちを思いやり、顔を曇らせる。
それは馬車の中にいる者たちも、全員が同じ気持ちになり暗く沈む。
「では、今から訪問先の孤児院の話を致しましょう。
彼らの気持ちに近づけたらと思います。そう、あれは…」
3歳で家族と離れ、祖父母と領地で暮らして5年。
もうじき9歳になる頃に、家族のいる王都に呼び戻されたプリムローズ。
「クラレンスの領民の為にと、セパヌィールという名の店を王都に出店しました。
戻ってすぐに、私はその店を訪問した時の話です」
それを思い出すかのように、窓の外を眺めて少し前の過去を語りだす。
「メリー、セパヌィールはいつもこんなに混み合っているの?
繁盛していて嬉しいわね」
お付きのメイドメリーと楽しげに明るく話し、店の品物を見ている。
そんな彼女を余所にして、平民でありながらも裕福そうな二人の女性たちが話しをしていた。
「あんなに痩せていて、ろくに食べ物を与えてないんではない?
いくら親なしの孤児でも、あれは可哀想で見てられなかったわ」
「私もですよ。
財布にあった銀貨を、つい一枚入れてしまったわ。
見世物みたいに歌を歌って恵んで貰う姿に、見ていて気の毒で涙が出そうになりました」
二人は眉間に深くしわ寄せてそう言うと、話していた口を無言で閉じていた。
耳に入った会話に驚き、隣のメリーを見ると目が潤んでいるように見える。
彼女は過去の自分を思い出して、孤児たちと重ねているのであろうか。
プリムローズは黙って店から出ると、店の外でメリーに話しかけて意見を求めた。
「今のご夫人たちの話を聞きましたか?
孤児って言っていたわ。
ここは王都でしょう?
面倒をみているのは、王妃様のはずでしょう?
どうして、痩せているの?
何故、歌を歌ってお金を貰わないと生きていけないの?!」
疑問を素直に大人である、メイドのメリーに感情のまま浴びせた。
「お嬢様、メリーにも分かりません。
ですが、聞いていて悲しくなりました。
助けてあげたいが、私にはそれが出来ません」
大粒の涙が瞳から溢れているメリーの手を、隣で彼女は優しく握りしめた。
「クラレンス領にいる、お祖父様とお祖母様に相談します。
大丈夫、お二人は必ずや孤児たちを助けて下さるわ」
「しかし、勝手には手を出せないのではないでしょうか?
王妃様のお許しなくては…」
「とにかく帰って、手紙を急いで書くわ。
その前に、どこにある孤児院か調べなくては…。
王都には幾つあるのかしらね?」
「私が調べます。お嬢様!」
プリムローズは大きく頷くと、屋敷に戻る馬車に乗り込んだ。
「メリーは直ちに調べました。市場に買い物をする振りをして、あの孤児院の話を聞き出してくれたわ。
そして、今行く場所を知ったわけです」
彼女は独り言を言うかのように、友人たちを無視して語る。
祖父母の便りを待つ間、彼女たちはその孤児院に慰問することにした。
「クッキーやケーキ、ジャムに紅茶!
甘いものなら、子供たちがきっと大喜びするわ!」
用意するお菓子類を紙に書き出しては浮かれている彼女を、仕えているメリーは諫言した。
「お嬢様、いけませんわ!
過ぎたる贅沢は、彼らの心を迷わせます。
ビスケットとか、日持ちする物になさいませ。
何時でもその位、用意できる環境になりましたらにして下さいませ」
「ごめんなさい。
そうね、今は最低限に致しましょう。
まだ、私は彼らに何もしてあげられないのですから」
反省する彼女につい強く言ってしまったことを、メリーは後悔する。
「プリムローズ様、謝罪はいりません。
そのお気持ちが、皆様に届くといいですね」
主の優しい心根に、胸が温かくなり自然に微笑みそう話した。
思い出話しを聞き、馬車の外の景色は王都の華やかさから離れて行く。
木々が多くなる中を、彼女たちを乗せた馬車は走り続ける。
「位の下りた2代前の王妃様は、公平に孤児院へ援助金の分配されてましたわ。
出身は、ザィールの元公爵令嬢。
彼女とは、器量が違いましてよ」
「あの、しつこいようですがー。
引き継ぎをキチンとされてたのでしょうか?!」
リザはどうしても気になると、再度プリムローズに意見し質問する。
「その点は、私も思慮しました。
キチンとされて、何度か指摘したと思います。
目の前にあるものしか、残念ですが視界に入らなかったのでしょう。
家族と取り巻きしかいないのよね。
このような事が積み重なり、烙印を押された。
高位貴族にね。ホホホ」
ジェイクは彼女の皮肉を込めた笑い方を見て、本心を隠さずここに居る者たちに述べた事に驚く。
「それでは、王妃在任中の期間だけですのね。
それでも少なく見積もっても、10年位あります。
その期間、孤児院はどう暮らしてましたのかしら?!」
フローラは気の毒な孤児の子供たちを思いやり、顔を曇らせる。
それは馬車の中にいる者たちも、全員が同じ気持ちになり暗く沈む。
「では、今から訪問先の孤児院の話を致しましょう。
彼らの気持ちに近づけたらと思います。そう、あれは…」
3歳で家族と離れ、祖父母と領地で暮らして5年。
もうじき9歳になる頃に、家族のいる王都に呼び戻されたプリムローズ。
「クラレンスの領民の為にと、セパヌィールという名の店を王都に出店しました。
戻ってすぐに、私はその店を訪問した時の話です」
それを思い出すかのように、窓の外を眺めて少し前の過去を語りだす。
「メリー、セパヌィールはいつもこんなに混み合っているの?
繁盛していて嬉しいわね」
お付きのメイドメリーと楽しげに明るく話し、店の品物を見ている。
そんな彼女を余所にして、平民でありながらも裕福そうな二人の女性たちが話しをしていた。
「あんなに痩せていて、ろくに食べ物を与えてないんではない?
いくら親なしの孤児でも、あれは可哀想で見てられなかったわ」
「私もですよ。
財布にあった銀貨を、つい一枚入れてしまったわ。
見世物みたいに歌を歌って恵んで貰う姿に、見ていて気の毒で涙が出そうになりました」
二人は眉間に深くしわ寄せてそう言うと、話していた口を無言で閉じていた。
耳に入った会話に驚き、隣のメリーを見ると目が潤んでいるように見える。
彼女は過去の自分を思い出して、孤児たちと重ねているのであろうか。
プリムローズは黙って店から出ると、店の外でメリーに話しかけて意見を求めた。
「今のご夫人たちの話を聞きましたか?
孤児って言っていたわ。
ここは王都でしょう?
面倒をみているのは、王妃様のはずでしょう?
どうして、痩せているの?
何故、歌を歌ってお金を貰わないと生きていけないの?!」
疑問を素直に大人である、メイドのメリーに感情のまま浴びせた。
「お嬢様、メリーにも分かりません。
ですが、聞いていて悲しくなりました。
助けてあげたいが、私にはそれが出来ません」
大粒の涙が瞳から溢れているメリーの手を、隣で彼女は優しく握りしめた。
「クラレンス領にいる、お祖父様とお祖母様に相談します。
大丈夫、お二人は必ずや孤児たちを助けて下さるわ」
「しかし、勝手には手を出せないのではないでしょうか?
王妃様のお許しなくては…」
「とにかく帰って、手紙を急いで書くわ。
その前に、どこにある孤児院か調べなくては…。
王都には幾つあるのかしらね?」
「私が調べます。お嬢様!」
プリムローズは大きく頷くと、屋敷に戻る馬車に乗り込んだ。
「メリーは直ちに調べました。市場に買い物をする振りをして、あの孤児院の話を聞き出してくれたわ。
そして、今行く場所を知ったわけです」
彼女は独り言を言うかのように、友人たちを無視して語る。
祖父母の便りを待つ間、彼女たちはその孤児院に慰問することにした。
「クッキーやケーキ、ジャムに紅茶!
甘いものなら、子供たちがきっと大喜びするわ!」
用意するお菓子類を紙に書き出しては浮かれている彼女を、仕えているメリーは諫言した。
「お嬢様、いけませんわ!
過ぎたる贅沢は、彼らの心を迷わせます。
ビスケットとか、日持ちする物になさいませ。
何時でもその位、用意できる環境になりましたらにして下さいませ」
「ごめんなさい。
そうね、今は最低限に致しましょう。
まだ、私は彼らに何もしてあげられないのですから」
反省する彼女につい強く言ってしまったことを、メリーは後悔する。
「プリムローズ様、謝罪はいりません。
そのお気持ちが、皆様に届くといいですね」
主の優しい心根に、胸が温かくなり自然に微笑みそう話した。
思い出話しを聞き、馬車の外の景色は王都の華やかさから離れて行く。
木々が多くなる中を、彼女たちを乗せた馬車は走り続ける。
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