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第4章  未来への道

第9話 花の名を捨てて

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 婚約者の子爵令息は、男爵令嬢と宿に泊まり二人きりの甘い生活をって過ごしていた。

子爵家はアマリリスの実家には、息子が家出してちをしたことをひた隠している。
知られる前に捜索そうさくして、穏便おんびんますつもりでいたのだ。
そのまま伯爵令嬢と婚姻こんいんして、持参金じさんきんと援助をいたかったのが本音である。

「しかし、人の噂は何処どこから流れるのか。
アマリリス様の実家の伯爵家は、その事実を知ってしまったのです。
伯爵は相手に問いただそうと、子爵家へ急ぎ参りました」

「その間に子爵令息は、見つかりませんでしたの?
アマリリス様は、婚約者とはその間お会い出来ずにいたのですよね?
ご心配ではなかっのかしら?」

「プリム、彼女たちは親が決めた相手。
結婚式に初めて会うという方々もいるのです」 

元王女殿下の祖母は、このような女性たちを見てきているのか平然と言ってのける。

「結局は、資金が底つき駆け落ちは見事に失敗しました。
子爵令息と男爵令嬢は、実家にそれぞれ戻るのですわ」

そんなに世の中は甘くないのだ。
夫人の話に、プリムローズは納得しうなづく。
裏切った令息が結ばれたいなら、アマリリス様との婚約を破棄させるしか道はない。

「お考えの通りで、二人というか互いの家同士のきずなと信頼にヒビが入りました」

このまま婚姻し伯爵家との関係を継続したい子爵と、これを逃したら娘は一生嫁ぎ先はないのではと悩む伯爵家。

「アマリリス様はそんなご両親に、婚約破棄を願ったのです。
裏切った婚約者は謝罪にも来ず、自分をバカにしているのを彼女は許せなかったのですわ」

私が彼女だとしても、同じ行動をしたわよ。
こんな婚姻しないで、自立して働いて暮らしたほうが幸せに感じるに決まっている。

「この出来事で彼女は、ガラリと人格が変わったのよ!」

ヴィクトリアは、孫にそれは愉快そうに語ってくる。

「おばあ様!
ここで、歩く噂好き伯爵夫人が誕生したのですね!!」

「まだよ、プリム。きっかけの兆候ちゅうこうにすぎない。
そう、ある人との運命の出会いが大事なのよ」

彼女はちょっと疑問に思った。
どうして祖母やポレット夫人は、話をされているアマリリス様についてこんなに詳しいのかしら?!

プリムローズは眉間みけんにシワ寄せ黙りこくっていると、ポレット夫人がそれを見てお笑いになった。

「アマリリス様が、ご自分で話してくれましたのよ。
彼女は友人でもあり、私の顧客ですからね」

「なんだ、ポレット夫人のお客様だったのですか!
では、嘘でなく真実のアマリリス様の思いを伺っておりますのね!」

その彼女の言葉に、祖母はつかさず水を差してくる。

「私たちは彼女の話をしているが、人それぞれ感じ方は違うであろう。
わらわが思うに変わる前の彼女はいつわりまでとは言わんが、自分を押し殺して演じていた様に感じたわ」

「ヴィクトリア様のお考えに、私も同じ意見です。
私も、話を伺ってそう思いましたわ。
人の心は見えぬもの。
完璧に相手を理解するのは、不可能に近いのでしょう。
それでも、人は共感できる生き物ですわ」

  彼女は家を出て、自活じかつする道を選んだ。
それには、生活するに先立つ物が必要になる。
父伯爵に婚約の約束を破った子息と、浮気相手の令嬢の家に慰謝料を求めるように説得を試みるのだった。

「アマリリス、公になれば噂されてお前の未来に傷がつく。
このまま、解消かいしょうにしたらどうだ。
まだ、若いのではないか。
考えを改めてくれ!」

「いいえ、父上!
私はアマリリスの名を誇りに、大人しく内気と言われて生きてきました。
今日からは、自分に正直に生きます。
手続きは、私が致しますわ。
もう成人してますし、宜しいですね」

伯爵は娘の初めての反抗に驚き、ただ黙ってその顔を見ていた。

「彼女は慰謝料いしゃりょうを請求出来るかを、婚姻届けを受理する役所に伺いに出向きました。
そこで、まだ伯爵になる前のご主人に出会ったのです」

当時はあの小説の影響で、婚姻より破棄で役所も大忙し。
文官になってまだ若手であった彼は、その窓口に応援に出向いていたのだった。
そして、未来の妻に偶然にも出会う。
偶然か必然だったのかは、神のみぞ知る。

「素敵ですわとは、言えない状況ですわね。
出会った場所と内容だと、そこからどうしたら結ばれていくのかは謎ですわ。
ちっとも、ロマンチックではありませんもの」

まだ幼く恋愛観も物語でしか知らない彼女は、現実の恋愛はさっぱり予想もつかないのだ。

「それは仕方ありません。
プリムローズ様は、これから経験されるのですもの。
ですが、話を聞くのは悪くありません。
いささか、お早くは御座ございますけどね」

ポレット夫人は、成長途中のまだ幼い彼女に優しく笑って仰るのである。 
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