上 下
53 / 75
第4章  未来への道

第8話 夫人の過去

しおりを挟む
 二人の笑いがやっと静かになった時、プリムローズはのんびりケーキを味わっていた。

「こんなに涙が出るほどに、笑ったのはいつ以来か忘れていたわ」

ハンカチを出して目元を拭いて、ポレット夫人は楽しげに言い出す。

「ほんにのう~。
年齢を重ねるにつれて、作り笑いをすることが増える。
心底からの笑いは、少なくなるものじゃな。
プリムが、近くにおると全然退屈しないわね」

名を出されて話している中身を聞いてれば、ほめめられているのかけなされているのか微妙に感じ取った。

「それはお褒めの言葉と受け取って宜しいの?
おばあ様もポレット夫人も酷いですわ。
笑っていてばかりで、歩く噂好き伯爵夫人の話をしてくれないんですもの!」

早くその先を知りたい彼女は、頬を膨らませてから口を尖らせるカワイイ表情をみせた。
 
「あらあら、ご興味ございますのね。
あくまでも、私の私感しかんがはいったお話ですよ。
彼女はプリムローズ様のご想像とは、おそらく全然違うと思いますわ」

ポレット夫人は、噂好き夫人の若い頃の話をやっと始めてきた。

「アマリリス様は名の通りに、内気で大人しい性格でした。
上には兄と姉、彼女は末っ子でした。
そうそう、プリムローズ様にも末っ子でしたわね」

「私は、姉と兄の順ですが末っ子は同じです。
それで、その先はどうなるのですか!?」

孫娘の興味津々きょうみしんしんな態度を、目を細めて笑って見ている祖母ヴィクトリア。

「姉君はアマリリス様とは真逆な性格で、明朗活発めいろうかっぱつで言いたいことを言う。
それゆえに、相手に不快ふかいな思いをさせてました。
彼女はそんな相手に、姉に内緒で謝罪していたのです」

ポレット夫人の話では、そんな姉が嫁ぎ兄に婚約者が出来た頃にそろそろ自分もと考えていたら出遅れてしまったそうだ。

「内気のせいか社交的でない彼女は、殿方とどう会話して良いか分からなくなっておりました。
周りには婚約者がいる方ばかりで、手頃な良い年回りの方がおりません」

そんな状況を知り父の伯爵は、年下の子爵家嫡男ちゃくなん婚姻話こんいんばなしを知り合いから紹介された。

「それがね。
伯爵家からの持参金じさんきん援助えんじょを条件に、アマリリス様を嫁がせる。
親同士で決めた婚姻だったのよ」

祖母ヴィクトリアは、仲間外れがさびしくなったのか。
私たちの会話に、割って話をしてくる。

「このような話は珍しくはありませんが、無理に嫁がせるのは如何いかがでしょうか。
その方は子爵でしょう?
今は、伯爵夫人ですよね!?」

彼女はポレット夫人に、身分の違いの疑問を投げかける。

「ヴィクトリア様に似て、頭が切れて鋭いですわ。
流石さすがに最年少で、文官試験をトップ合格しただけございますわね」

お相手の子爵令息は、まだ学園に通っていた学生。
3つ年上の彼女は、20歳になっていた。
令息が卒業と同時に婚姻して子爵家に嫁ぐ予定が決まっていた。

「ですが、卒業を間近にしね事件が起きました。
それは、王都全体に広がったのです」 

ポレット夫人の次の言葉は、彼女も覚えがあるタイトル。

「シャロンという名の女性作家が書いた小説。
「真実の愛を求めて」が、子爵令息の心の迷いに火をつけてしまわれたのです」

「その小説は存じてますわ。
私も幼いときに、偶然に読みましたもの。
素晴らしい愛の物語でした。
当時は、そんなにこの本は話題になりましたのね!」

彼女は小説の話しを聞き、紫水晶のような瞳を輝かしてポレット夫人の話に飛びついていた。

「子爵令息は、ある男爵令嬢から告白を受けました。
彼女にも同じ男爵令息の婚約者がおられましたが、子爵令息をお好きだったのです。
もう、お分かりになりますわね?!」

夫人は彼女にそう仰ると、1つだけ息をいた。

「はい、なんとなく。
令息はその告白した令嬢に興味をもって、好きになってしまうのでしょうか?!」

プリムローズはたくさんの小説を読んでいて、男女の間が揺れ動く気持ちが理解できた。

「えぇ、二人は手と手を取り合って両家から持ち出せる金品と一緒にちをしてしまったのですわ!」

突如とつじょバッキーンと派手な音がすると、祖母が持っていたおうぎが破壊していた。

「婚約している者同士が、別々の相手と駆け落ちとはあり得ぬ!
なんと、破廉恥はれんちな!
わらわは許せない!!」

祖母ヴィクトリアはこの話を知っているのに、つい興奮してしまったようだ。
清廉せいれんな夫一筋のお方。
これはおばあ様には、とても刺激が強い話みたい。

普通は子供であるはずの、プリムローズの方が刺激的な話だと考えると思う。
この場面を知らぬ人が見聞きしていたら、大部分はそうみるであろう。

どうやら、その先に歩く噂好き夫人のルーツがありそうね。
彼女はどきどきわくわくを胸に感じて、ポレット夫人の話の続きを楽しみに待っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

この婚約破棄は、神に誓いますの

編端みどり
恋愛
隣国のスーパーウーマン、エミリー様がいきなり婚約破棄された! やばいやばい!! エミリー様の扇子がっ!! 怒らせたらこの国終わるって! なんとかお怒りを鎮めたいモブ令嬢視点でお送りします。

もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

【完結】偽物令嬢と呼ばれても私が本物ですからね!

kana
恋愛
母親を亡くし、大好きな父親は仕事で海外、優しい兄は留学。 そこへ父親の新しい妻だと名乗る女性が現れ、お父様の娘だと義妹を紹介された。 納得できないまま就寝したユティフローラが次に目を覚ました時には暗闇に閉じ込められていた。 助けて!誰か私を見つけて!

処理中です...