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第2章  愛と希望とそして秘密

第10話 再開後の悲劇

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 あの公開処刑並の婚約破棄の騒動が、やっとこさっとこ決着した。

これは無理矢理に終わらせた感じがするが、招待客たちは無口になり席に戻っていく。

その主役の中心にいるのが、プリムローズ達クラレンス公爵家である。

「やっとお茶会ですわ。
疲れて甘い物でも食べなきゃ、やってられませんことよ!」

彼女が礼儀を無視してケーキをぶっ刺して、周りに座る家族にうったえる。

わしも、一気に歳をとったわい。
プリムローズ、お前も災難だったな」

祖父が空いている席に、ドスーンと座った。

「貴方、勝手に座って!
この席の方はどちらに?」

祖母が祖父に聞くが、関心がないのか知らん顔する。

「知りませんが、帰ったんではないでしょうか?」

あの節操せっそうなしの侯爵令嬢の席と知りながら答える、プリムローズ。

「恥ずかしくて、座ってられないのでは?」

兄ブライアンも、あの浮気症の侯爵令嬢の席と思い勝手に座る。

「ルシアン殿下、母上の王妃様はどちらかしら?」

ブライアンの席は、実は王妃の席だったのだ。
わざとらしく彼女は、息子にあたる王子にうかがう。

白々しらじらしく誠に、意地悪いじわるい質問であった。

「えーと、少し席をはずしてて休憩しております」

突然いきなり質問され、彼女に対して狼狽うろたえてしまう。
そんな王子ルシアンは、1人奮闘ふんとうしていた。
周りはあのクラレンス家に、取り囲まれているのである。

以前のブライアンの代理出席の真逆の状況だと、ルシアンは思い返していた。

たがコチラの方が精神的、肉体的にもかなりキツかった。

「そなたの母は、ほんとうに体が弱いのう。
殿下はしっかりと、鍛錬たんれんせい!よいか!」

祖父が王子の背中に、一発気合いを入れた。

「ハ、ハイ!精進しょうじん致します。
クラレンス公爵!!」

王子ルシアンは痛さに耐えて、深くお辞儀をする。

隣のテーブルでは、その様子をうかがう目にはうれいがあった。

私よりも、公爵が父親らしく見える。
これでは、余の立場がないではないか!

「プリムローズは、今回は何もしないのかい?!」

兄ブライアンが妹に、何かを期待して聞くのである。

「お兄様、するわよ。
婚約破棄は、おばあ様がしたんだしね!」

話が終わると口元に指を近づけて、指笛を吹く。

すると何処からか、白い鷹がプリムローズのテーブルにやってきた。

周りの目線を感じるのを無視して話す、そんな孫娘を横目で見守る祖父母。
兄と他の2人の男性たちも、ただ黙って見ていた。

「ピーちゃん、この前振りね。
さっきのあの娘わかる~?」

鷹に平然と会話するのを、周辺の客たちも気になり気にする。

「ピーィ!」と、鷹は鳴いた。

「偉いね!あの娘の頭を、小突いて!
あまりやり過ぎないでね」

「ピーィ、ピーィ!」

嬉しそうに鳴くと、空高く羽ばたいていった。

 しばらくすると、女性の悲鳴が聞こえてくる。

「なによ、この凶暴きょうぼうな鳥は!
ちょっと、何するのよ!
誰かー、助けてー!
私の髪が、痛いー!やめーて!
キャーア~!!いやーん!」

その声でお茶の手がピタと止まる。
招待された人々。

「あらあら、ピーちゃんも見ていて腹が立ったのね。
その気持ち分かるわ~」

さすがに身内も、これには恐れを感じた。

  悲鳴がやんでからカリスのケーキが届くと、招待客は味比あじくらべをして今までの事を忘れる努力始めた。

「メーター伯爵令息。
ご令嬢に話がついたら、招待状を出しますからね」

プリムローズが話しかけると、ビクッとして背筋を伸ばすサミュエル。

「良いのですか?私で…!」と、戸惑い聞き返す。

「良いのですよ。
貴方は、見ていて見所がありますわ。
彼女とは合いそうですしね。
あの浮気女の後では、彼女は聖女に見えましてよ」

プリムローズが伯爵令息に言うと、祖父が続けて話し出す。

「よかったのう。
孫娘が、側室と王を結びつけたのじゃ。
期待するがよいぞ!」

祖父が、今度は伯爵令息の肩をバーンと叩く。

「お祖父様、メータ伯爵のご子息が倒れましたよ。
手をお貸しします、平気ですか?!」

兄ブライアンが、素早く助け起こした。

「最近の子は弱いのう。
もっと沢山食べて、運動しなさい」

祖母が、慰めにもならない助言をする。

王子はお茶会が終わることを祈りつつ、プリムローズに話しかける。

「私も今回近くで見てましたので、伯爵令息がどのようなお方とお会いなるのか気になります。
私もその場に、一緒に同行しても宜しいか?」

ルシアン殿下が、お見合いに立ち会いたいと頼んでくる。

彼女はケーキをモグモグしながら、王子である彼をウザったく見つめて返事を返した。


「殿下も被害者ですので、特別に許可します。
招待状を送りますわね!」

自国の次期王になる方に、話す言葉遣いではなかった。
それを注意せずに、聞き流すクラレンス家一同を他の貴族たちも静観せいかんしていたのだった。
 
  一方の王妃キャロラインと側室スザナは、どうしているか。

「キャロ様、大丈夫ですか?!
もうじき終わりますので、しっかりなさって下さいませ!」

側室スザナは、王妃の背中をさすりながら励ましていた。

「ええ、なんとか最後まで出来て良かったわ。
それで今回は、ヨシとしましょう。
スザナ、お茶席に戻りますよ!」

かなりハードルは低いが、前回の中断を思えば格段の進歩だった。

戻ってみたら、兄ブライアンに席は乗っ取られていた。
仕方しかたなしに、夫の座る席にスザナと一緒に行くことになる王妃キャロラインである。

王宮に勤める従事じゅうじする者たちに、このお茶会もまた新たな伝説にランクインされていた。
どちらが一番かは甲乙こうおつ付けられなかったと、裏で給仕する人たちにささやかれていたのである。
  
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