上 下
23 / 75
第2章  愛と希望とそして秘密

第5話 家庭教師は

しおりを挟む
 学園から帰宅したら、執事長トーマスから呼び止められる。
何かしらと、プリムローズは不思議に思うことが真っ先に思い浮かんだ。

「お帰りなさいませ、お嬢様。
客間で大旦那様と家庭教師の方が話しております。
着替えたら、すぐにお迎え下さいませ」

やはり、文官試験の家庭教師だった。

「ただいま、トーマス。
教えてくれて有り難うね!」

短く返事すると、自室に入るとメリーが部屋に控えている。
彼女に、急ぎ着替えを手伝ってもらって客間へ。

「お嬢様はどんなお方でしょうか?
良いかたですと宜しいですね」

私もメリーに頷き、同じことを考えた。

どんな感じの方かしら、ドキドキするわ。

  客間に入ると中には、お祖父様とダークグレーの髪の初老の男性がいた。

「プリムローズ、おかえり。
この方が、お前の家庭教師になる方じゃあ。
なんと、現役の財務会計で働いている方じゃぞ!ワーハハハ」

笑いながら話す内容に、私は目を丸くして驚いた。
流石さすがに、現役はまずいのではないかしら?

「はじめまして、プリムローズと申します。
お会いできて光栄です。
これから、教授きょうじゅを宜しくお願い致します!」

カーテシーして、淑女しゅくじょらしく挨拶する。

彼は立ち上がると普通よりはちょっと背の高い、優しいグレーの目を持つ方だった。

「初めてまして、公爵令嬢。
エドガー・バーナードと申します。
現役ですが、もうじき辞めますので問題ありませんよ」

顔に出ていたのか、意図した答えと挨拶が返ってきた。

お茶を飲みながら、お互いに話し交流をもった。

「彼は平民から、ここまでになったのじゃあ。
大変な苦労だろうに、立派なもんだ!」

祖父が、彼の努力をたたえた。

「いいえ、身内の理解や助けがあったからです。
実家の家業の手伝いをするので、早めに退職することになりました」

「まぁ、それではお忙しいのでは?!」

プリムローズは、祖父と先生の話に不安になる。

「ハハハ、帳簿整理とかです。
前に担当した者が、信用できなく身内の私になりました。
私もゆっくりしたくてね。
今の部は、かなり忙しい部署でしたから」

グレーの目が細くなり笑う。
その微笑みは、プリムローズに何故か安心感を与えた。

「良かったのう。
誠実なお人柄にみえる。
先生、遠慮せずに鍛えて下され。プリムローズ、しっかりとやるのじゃぞ!」

「はい!バーナード先生、改めて宜しくお願いします」

頭を下げると、バーナード先生が言ってくる。

「では、勉強しましょうか!
時間が足りないぐらいです。
文官は特殊ですからね。
国の為になるのを導く、そんな解答を求める問題も出る。 
国を知らないといけないのですよ」

そう話すとバーナード先生は、プリムローズを見て難しそうな顔をした。
2人は試験合格を目指し、時には激しい討論とうろんをする。

「先生、一気に工事した方が効率良くありませんこと?
軍を使えば宜しいのでは?!」

「ご令嬢、もし他国から攻められたらどうするのですか。
それに年間の予算は決まっています。
ひとつの場所に集中すると、やっかみもでますぞ」

長雨が降ると川の氾濫はんらんに悩む、領地の救済についての討論。

「はぁ~。では税を少なくする位ですわね。
これでは領主が可哀想になります。
父の行った領地も、地質的に畑にするのに倍も掘らなくてはいけないそうですわ!」

プリムローズは2度目の畑を耕している時に、元第1王子アルフレッドが言っていたのを思い出す。

「領地格差ですよ。
ちなみにクラレンスの領地は、国一番の良い土地です。
税収も一番高い。
よく領民たちから、苦情が来ないと感心してました」

財務会計の時代、クラレンス領をバーナードは不思議に思っていたのだ。

「それはですね。
副業を冬の閑散期かんさんきにさせていたのですわ。
結構、皆さん稼いでおりましたのよ。
お年寄りや病人がいる家には、手伝いに行かせてました。
子供たちに教育の一貫いっかんとしてね!」

バーナードは、素晴らしい試みに感心していた。

「また、来週。
範囲はここからここまでです。
今日も合格出来る内容でしたよ。頑張って下さいね」

「はい、ありがとうございます。また、宜しくお願いします」

 玄関で見送るプリムローズに、執事長トーマスが声をかける。

「お嬢様、お勉強お疲れ様でした。
居間いまで、皆様がお待ちしておりますよ」

今度は何なのかしら、忙しくて息が抜けないプリムローズ。

10歳でも過労で倒れるかもと、自分の身体を心配し家族の元へ歩き出す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王様とお妃様は今日も蜜月中~一目惚れから始まる溺愛生活~

花乃 なたね
恋愛
貴族令嬢のエリーズは幼いうちに両親を亡くし、新たな家族からは使用人扱いを受け孤独に過ごしていた。 しかし彼女はとあるきっかけで、優れた政の手腕、更には人間離れした美貌を持つ若き国王ヴィオルの誕生日を祝う夜会に出席することになる。 エリーズは初めて見るヴィオルの姿に魅せられるが、叶わぬ恋として想いを胸に秘めたままにしておこうとした。 …が、エリーズのもとに舞い降りたのはヴィオルからのダンスの誘い、そしてまさかの求婚。なんとヴィオルも彼女に一目惚れをしたのだという。 とんとん拍子に話は進み、ヴィオルの元へ嫁ぎ晴れて王妃となったエリーズ。彼女を待っていたのは砂糖菓子よりも甘い溺愛生活だった。 可愛い妻をとにかくベタベタに可愛がりたい王様と、夫につり合う女性になりたいと頑張る健気な王妃様の、好感度最大から始まる物語。 ※1色々と都合の良いファンタジー世界が舞台です。 ※2直接的な性描写はありませんが、情事を匂わせる表現が多々出てきますためご注意ください。

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

この婚約破棄は、神に誓いますの

編端みどり
恋愛
隣国のスーパーウーマン、エミリー様がいきなり婚約破棄された! やばいやばい!! エミリー様の扇子がっ!! 怒らせたらこの国終わるって! なんとかお怒りを鎮めたいモブ令嬢視点でお送りします。

もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

処理中です...