上 下
66 / 124
第3章  カルロスの婚約者

第22話 令嬢の告白

しおりを挟む
 少しだけまだ調子悪くしていたグレースに、この邸の女主人がお見舞いに部屋を独りで訪れてきた。
私にアデラと呼んでと、いきなり彼女にお願いをしてきた。
どんな心情で言ってきたかは理解できないが、グレースにとってはとんでもない願いにアデラ様呼びに落ち着く。

どうやら、カトリーナ嬢ときちんとお話が出来たようだ。
お茶を飲んで私に、報告する内容は悲しい事ばかりであった。

「嘘でございましょう……。
アデラ様?!
本当に彼女は、そんなあやまちを犯したのですか?!
いくらなんでも、貴族で伯爵のご令嬢がー」

彼女はカルロス様に、好かれてないのを存じていた。
カルロス様に彼女自身、好意があったのかは分からないそうだと言っていたという。

ただ、無視をされたのには傷ついていたそうだ。

それを忘れたかったのか、夜会に誘われて男性たちに囲まれるのが楽しかった。

それだけで終われば良かったのに、カード賭博とばくを始めてしまう。
勝つと周りがほめたたえ、どんどんと深みにはまってしまったそうだ。

「聞きたくない話でした。
ですが、彼女は私たちに懺悔ざんげをしたかったのでしょう。
いいえ、あれはうらみだったかも。
それを聞くのも、きっと私たちの罰なのね」

侯爵夫人アデラは、ハンカチで目頭めがしらを押さえて気丈きじょに話を続ける。

カトリーナ嬢は敗けが重なり、多額の借金を持ってしまった。
最初は自分の持つ宝石を密かに売り、借金を返していた。

「ここでやめれば良かったのよ!!
あらためれば、道から外れなかった。
貴方と結婚して、普通の幸せを歩めたのにー!!
ア~ハッハハァー!!」

カトリーナ嬢は、話した後に狂ったように笑いだした。

侯爵夫人とカルロスは、カトリーナの姿に目が離せなかった。
たった数日でやつれ果てた彼女は、醜い顔をしてにらみながら二人に話を続けていったそうだ。

「彼女は、また賭博をしたそうよ。
もう支払う宝石がなくなり、そしてー」

彼女は貴族の結婚前の令嬢が、絶対にしてはいけない行いをしてしまう。

「借金を体で支払ったのよ。
だからあのお茶会のドレスは、夜会に着ていたドレス姿のままで現れたの。
グレース~!彼女は貴女にした事に、罪の意識はないわ!
こわれてしまったの。
心がー。心…、がね…。ウ~ぅ……」

泣きながらアデラ様は、振り絞る声で私に真実を伝えた。

「どうしてなの!
そんな行為こういが出来たのです!
家族は気づかなかったの?!
誰か1人でも、彼女の異変に気づいていれば…」

泣き震える声で、私は侯爵夫人に質問をする。

グレースは信じられなかった。
そこまで人はちるのものか?!

「彼女、カトリーナ嬢は言ったの。
自分の母は娼婦しょうふだったとー。
母親は伯爵と婚姻こんいん前は、高級娼婦として働いていたのよ。
兄である嫡男ちゃくなんは正妻の子で、彼女は側室の子だったの」

トレド伯爵の正妻は、由緒ゆいしょ正しき伯爵令嬢の出身。

伯爵は浮気をして、娼婦に子が出来た。
それがカトリーナ嬢である。

伯爵は側室とする為に金を払い、娼婦から男爵の養女にして男爵令嬢にした。

そして、側室として婚姻したのだ。

正妻は夫の不貞ふていに怒り、領地の別の屋敷に1人で暮らしている。

息子はそんな父を許せずに、現在は王宮勤めをしていた。
彼は、伯爵を継がないかもしれないとの噂がある。

「それでは、トレド伯爵の領民はどうなるの?!
働いても働いても、生活は苦しいって…。
食堂でなげいていたわ」

グレースはやるせない気持ちが、とめどなくき上がっていた。
そして、故郷の領地を思い出す。
水害に田畑を全滅になり、それでも一からやり直すたみたちを!

あの辛い領地生活を、頭に浮かべると思わずすすり泣く。

あーぁ、私だって!
編集長に、もし出会えなかったら?
彼女と同じ事をしていたのかもしれない!

私は母の病気を治すためだけど、「真実の愛を求めて」を書かなかったら母は助からなかったかも。

私は、今をなげいてはいけない。
彼女と私は、似てるようで似てない。
同じく婚約破棄をした女。

彼女は、恵まれていたはずよ。

素敵な婚約者、贅沢ぜいたくな生活。
領民に気遣い親切にして、その贅沢をやめて婚約者を大事にしていたらー。
きっと、運命は変わったに違いない!

どうしたら、満たされてた心が…。
それは本人にしかわからない。

真実は、他人にはけしてー。
本人にすら分からないから、あんな事をしてしまったの?

侯爵夫人アデラの話に、目からぽろぽろ涙を流して質問をする。

「アデラ様、彼女はカトリーナ嬢は今後はどうなるのですか。
一部の方しか、この話は知れてないのですよね?!」

彼女に立ち直り、幸せをいつかつかんで欲しいと願う。

自分はあきめたのに、他人に希望をたくすなんてズルいとは思う。

「我が家の婚約者だったから、遠慮して黙っていた可能性がある。
今回は憲兵けんぺいに突きだしたのが、たぶん貴族たちに知られたわ。
破棄した事を知ったら噂が流れる」

「貴族だけでなく、世間では噂話が好きですものね。
抑えがなくなれば、歯止めが効きません」

私の婚約破棄や本の件で、嫌ってほど経験したわ。 

「トレド伯爵は親として、修道院しゅうどういんに入れる。
私はそう考えているわ」

修道院は、グレースの最後に行く場所だ。
カトリーナは、それがすでに決定してしまった。
自分も修道院は、ハッキリとはどんな場所か知らない。

「彼女はまだお若いのですよね?!
もう、どなたとも婚姻出来ないのですか?!
そんなのは、お可哀想だわ」

アデラはそのまま、そっくり彼女に返したい気持ちになっていた。

彼女は肩に火傷やけどをつけたカトリーナをうらんでないの?
私がお茶を頼んだせいで、こんなになってしまったのに!

友人の手紙を思い出す。
優しく聡明そうめいな、グレースを頼むと手紙にはそう書かれていた。

私は友人であるエテルネル王妃に、いまの現状を知らせなくてはいけない。

彼女を傷つけた私を…。
たくした親友は、果たして許してくれるのかしら?!
そして原因をつくったのは、私を含めたエーレンタール侯爵家だわ。

あの娘に少しでも優しくして、彼女の心の闇に気づき話を聞いていたら…。

こんな事件は起こらなかった!

侯爵夫人はグレースに返す言葉が無いまま、首を振り涙をこぼし続ける。

部屋には、二人のすすり泣く嗚咽おえつしかしてなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。

夜桜
恋愛
【正式タイトル】  屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。  ~婚約破棄ですか? 構いません!  田舎令嬢は後に憧れの公爵様に拾われ、幸せに生きるようです~

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

もう彼女でいいじゃないですか

キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。 常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。 幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。 だからわたしは行動する。 わたしから婚約者を自由にするために。 わたしが自由を手にするために。 残酷な表現はありませんが、 性的なワードが幾つが出てきます。 苦手な方は回れ右をお願いします。 小説家になろうさんの方では ifストーリーを投稿しております。

妹に人生を狂わされた代わりに、ハイスペックな夫が出来ました

コトミ
恋愛
子爵令嬢のソフィアは成人する直前に婚約者に浮気をされ婚約破棄を告げられた。そしてその婚約者を奪ったのはソフィアの妹であるミアだった。ミアや周りの人間に散々に罵倒され、元婚約者にビンタまでされ、何も考えられなくなったソフィアは屋敷から逃げ出した。すぐに追いつかれて屋敷に連れ戻されると覚悟していたソフィアは一人の青年に助けられ、屋敷で一晩を過ごす。その後にその青年と…

処理中です...