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第23話 鉱山の秘密
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頼りないハンドライトの電池がいつ切れるかと僕はヒヤヒヤしていた。僕ですら、ここはなんだか嫌な感じがする場所だってわかったし、なにより、ガンザさんやミルテさんにもしもなにかあったらなんて思うと僕はたえられなかった。
もとはと言えば、僕のせいでふたりがここに来たようなものだったからだ。
そこはひらけた空間になっていて、壁や床も表面が整っていてあきらかに今まで通ってきた坑道とは様子が違っていた。僕はなんだか無性にこの場所から出たくなった。
「ねえ、やっぱりもう帰ろうよ。ここはなんだか変だよ。」
「カズミ、今さら帰れるか。ここには絶対なにかあるぞ。」
ガンザさんはばかでかい斧を構えて、帰るどころか探索する気満々だった。進むにつれて、あたりには大小さまざまな大きさの空のケージが置かれているのがみえた。
ミルテさんの耳がピクピクと動いた。
「あっちから、なにか聞こえるニャ!」
ミルテさんは奥のほうに走っていき、ガンザさんはその後を追いかけていってしまった。僕も慌ててついていくと、幅広い通路に出て、両側にはずらっとケージが並んでいた。こっちはどのケージも空ではなくて、中には何かがいた。
「あニャ!? しっかりするニャ! この檻、開かないニャン!」」
「待て。今、開けてやる。」
ケージの中では誰かが眠るように横になっていて、ガンザさんとミルテさんが格子を調べている間に僕は見張りに立ったんだけど、近くから足音らしいのが聞こえてきた。
僕たちは大きな箱やわけのわからない道具が積まれている一角にササッと身を隠した。
「いま、なにか話し声がしなかったか?」
「まさか。マヤクがよく効いているだろ。」
低い声の会話が聞こえてきて、僕たちはそのまま息を潜めた。僕はもうこわくてこわくてたまらなくて、できるだけガンザさんの背中にくっついた。
「心配するな。カズミは私が必ず守る。」
「ガンザさん…。」
「シーッ! 静かにするニャ!」
足音はどんどん大きくなってきて、僕たちは完全に沈黙した。話し声もすぐ近くから聞こえてきた。
「ありゃ。こっちのオークとゴブリンはもうだめだなこりゃ。そっちはどうだ?」
「エルフと猫族は息があるがかなり弱ってるな。鉱山長に報告だな。」
「ちぇっ。くたばると、片づけるのがめんどくせえんだよなあ。」
ブツブツと文句を言う声がしばらくしたけど、やがてそれは小さくなっていく足音と共に聞こえなくなった。僕たちは部屋の隅から這い出した。
「なんなんだ奴らは? マヤクと言っていたが?」
「それよりガンザさん、はやく助けてあげようよ。」
僕はゲージをひとつひとつペンライトで照らしてみると、どれも中には誰かが横たわっていた。そして、僕でさえわかったことがあった。
「あニャ! ここ、人間族以外はみんないるニャよ!」
僕の代わりにミルテさんが言ってくれて、彼女は同じ猫族の男性が入っているゲージをなんとか開けようとしていた。
「開かないニャ。鍵がかかっているニャ。」
「ガンザさん、なんとか壊せないかな?」
ゲージを調べていたガンザさんは険しい顔で首を振った。
「ダメだ。強い魔法がかかっている。どこかで鍵を探さなくては。」
僕たちはうなずきあうと、部屋の奥へと続く通路へと進んだ。そこからは壁も床も天井もツルツルしていて全然鉱山ぽくなくて、松明とか灯りがないのになぜか明るかった。どうやら天井自体が発行しているみたいだった。
「気に食わんな。ここは魔法使いどもかなにかの根城か?」
「どうしてみんな閉じ込められているのかな?」
「わからニャいけど、助けないといけないことだけは確かニャ!」
僕たちは小声で話しながらかたまってソロソロと歩いていき、曲がり角から向こうの様子をそっとうかがった。少し先のほうに濃い灰色の帽子と裾の長い変な服を着た人がいて、ドアをノックしていた。
「定時報告です。あと、檻の鍵を貸してください。」
「はいってちょうだい。」
灰皿の人はどうやらさっきのゲージの部屋に来た人らしかった。その人が部屋に入るのを確認してから、僕たちはそろりそろりと部屋に近づいた。
「ガンザさん、鍵はこの部屋だよ。」
「わかってる。」
「ニャはッ。盗むのは得意中の得意ニャ!」
慎重に部屋のドアに近づくと、中からは話し声がもれてきた。その内のひとりの声は、僕がよく知っている人のものだった。
「…また失敗か。いったいいつになったら完成するのだ、マヤクとやらは?…」
「…失敗ではありませんよ、成功への前進よ…」
横柄な声は商会長さん、おばあさんの声は鉱山長だった。
「…標本が不足しておりまして、もっと実験回数を増やせればよいのですが…」
マヤク? 実験? 標本?
いったいなんの話なんだろう?
僕はもっとよく聞きたくて、つい扉にちかづきすぎて触れてしまった。
「あらあら。あなたたち、こんな所でなにをしているの?」
部屋の中にいたはずの鉱山長が、なぜか僕たちの背後に立ってニコニコしていた。ガンザさんが大斧をふりかぶってから、鉱山長のおばあさんに向かって稲妻のように刃をふりおろした。
もとはと言えば、僕のせいでふたりがここに来たようなものだったからだ。
そこはひらけた空間になっていて、壁や床も表面が整っていてあきらかに今まで通ってきた坑道とは様子が違っていた。僕はなんだか無性にこの場所から出たくなった。
「ねえ、やっぱりもう帰ろうよ。ここはなんだか変だよ。」
「カズミ、今さら帰れるか。ここには絶対なにかあるぞ。」
ガンザさんはばかでかい斧を構えて、帰るどころか探索する気満々だった。進むにつれて、あたりには大小さまざまな大きさの空のケージが置かれているのがみえた。
ミルテさんの耳がピクピクと動いた。
「あっちから、なにか聞こえるニャ!」
ミルテさんは奥のほうに走っていき、ガンザさんはその後を追いかけていってしまった。僕も慌ててついていくと、幅広い通路に出て、両側にはずらっとケージが並んでいた。こっちはどのケージも空ではなくて、中には何かがいた。
「あニャ!? しっかりするニャ! この檻、開かないニャン!」」
「待て。今、開けてやる。」
ケージの中では誰かが眠るように横になっていて、ガンザさんとミルテさんが格子を調べている間に僕は見張りに立ったんだけど、近くから足音らしいのが聞こえてきた。
僕たちは大きな箱やわけのわからない道具が積まれている一角にササッと身を隠した。
「いま、なにか話し声がしなかったか?」
「まさか。マヤクがよく効いているだろ。」
低い声の会話が聞こえてきて、僕たちはそのまま息を潜めた。僕はもうこわくてこわくてたまらなくて、できるだけガンザさんの背中にくっついた。
「心配するな。カズミは私が必ず守る。」
「ガンザさん…。」
「シーッ! 静かにするニャ!」
足音はどんどん大きくなってきて、僕たちは完全に沈黙した。話し声もすぐ近くから聞こえてきた。
「ありゃ。こっちのオークとゴブリンはもうだめだなこりゃ。そっちはどうだ?」
「エルフと猫族は息があるがかなり弱ってるな。鉱山長に報告だな。」
「ちぇっ。くたばると、片づけるのがめんどくせえんだよなあ。」
ブツブツと文句を言う声がしばらくしたけど、やがてそれは小さくなっていく足音と共に聞こえなくなった。僕たちは部屋の隅から這い出した。
「なんなんだ奴らは? マヤクと言っていたが?」
「それよりガンザさん、はやく助けてあげようよ。」
僕はゲージをひとつひとつペンライトで照らしてみると、どれも中には誰かが横たわっていた。そして、僕でさえわかったことがあった。
「あニャ! ここ、人間族以外はみんないるニャよ!」
僕の代わりにミルテさんが言ってくれて、彼女は同じ猫族の男性が入っているゲージをなんとか開けようとしていた。
「開かないニャ。鍵がかかっているニャ。」
「ガンザさん、なんとか壊せないかな?」
ゲージを調べていたガンザさんは険しい顔で首を振った。
「ダメだ。強い魔法がかかっている。どこかで鍵を探さなくては。」
僕たちはうなずきあうと、部屋の奥へと続く通路へと進んだ。そこからは壁も床も天井もツルツルしていて全然鉱山ぽくなくて、松明とか灯りがないのになぜか明るかった。どうやら天井自体が発行しているみたいだった。
「気に食わんな。ここは魔法使いどもかなにかの根城か?」
「どうしてみんな閉じ込められているのかな?」
「わからニャいけど、助けないといけないことだけは確かニャ!」
僕たちは小声で話しながらかたまってソロソロと歩いていき、曲がり角から向こうの様子をそっとうかがった。少し先のほうに濃い灰色の帽子と裾の長い変な服を着た人がいて、ドアをノックしていた。
「定時報告です。あと、檻の鍵を貸してください。」
「はいってちょうだい。」
灰皿の人はどうやらさっきのゲージの部屋に来た人らしかった。その人が部屋に入るのを確認してから、僕たちはそろりそろりと部屋に近づいた。
「ガンザさん、鍵はこの部屋だよ。」
「わかってる。」
「ニャはッ。盗むのは得意中の得意ニャ!」
慎重に部屋のドアに近づくと、中からは話し声がもれてきた。その内のひとりの声は、僕がよく知っている人のものだった。
「…また失敗か。いったいいつになったら完成するのだ、マヤクとやらは?…」
「…失敗ではありませんよ、成功への前進よ…」
横柄な声は商会長さん、おばあさんの声は鉱山長だった。
「…標本が不足しておりまして、もっと実験回数を増やせればよいのですが…」
マヤク? 実験? 標本?
いったいなんの話なんだろう?
僕はもっとよく聞きたくて、つい扉にちかづきすぎて触れてしまった。
「あらあら。あなたたち、こんな所でなにをしているの?」
部屋の中にいたはずの鉱山長が、なぜか僕たちの背後に立ってニコニコしていた。ガンザさんが大斧をふりかぶってから、鉱山長のおばあさんに向かって稲妻のように刃をふりおろした。
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