上 下
13 / 33

第13話 クレープ屋台のミルテさんニャ!

しおりを挟む
 猫族の店員さんのクレープ屋台は濃い灰色の服を着たおじさんたちにとり囲まれていた。クレープを食べていた他のお客さんたちはみんな逃げてしまったようだった。

「誰に許可を得てここで商売してやがるんだ?」

「公園の管理事務所ニャン!」

「うるせえ!」

 おじさんたちは有無を言わさずに屋台を壊しはじめ、とめようとした猫族の店員さんはつきとばされて地面に倒れこんだ。僕はこわくて仕方なかったけど、ガンザさんの前なのでついカッコつけてしまった。

「僕、とめに行ってくるよ。」

「まて、カズミ。面倒なことになるぞ。あれはたぶん…。」

 意外にもガンザさんは僕の腕をとり、とめようとした。僕はその腕をふり払い、屋台に走り寄った。おじさんたちと店員さんが言い争う声がどんどん近くなった。

「なあ、こんな商売でちまちま稼いでも利息にもならねえんだろう? あの話をのめばわるいようにはしねえぜ?」

「ことわるニャン! ボクのクレプは絶品ニャ! 借金なんか、すぐに完済できるニャ!」

 灰色のおじさんは店員さんに殴りかかったけど、逆に思いきり爪で顔をひっかかれていた。僕はとにかく、大声で叫ぶことにした。

「やめてよ! 警察を呼ぶよ!」

「はあ? ケイサツ? なんだ貴様は?」

 おじさんのひとりが僕を軽く押しただけで、僕はよろめいて尻もちをついてしまった。我ながら情けないよね。


「妙な服のお嬢ちゃんはひっこんでい…」

 僕を押したおじさんが急に目の前からいなくなって、声がとぎれた。よく見ると、はるか空高くにおじさんは舞い上がっていて、数秒後に草むらにドサリと落ちてきた。

「カズミ、大丈夫か?」

 どうやらおじさんはガンザさんにぶん投げられたらしい。彼女のあまりのはやさとパワーと体の大きさに、灰色おじさん達は明らかに動揺していた。

「な、なんだ、この雌オーガは! てめえは関係ねえだろうが!」

「いや、関係あるぞ。カズミに手を出しただろう。許さん。」

 灰皿のおじさん軍団はお互いの顔を見合わせたあと、悲鳴をあげながら慌てて走り去っていった。僕はホッとして気が抜けて、腰が抜けたのかなかなか立ち上がれなかった。



「で、キミたちはつきあってるのかニャン?」
 

 綺麗な毛並みの猫族の店員さんはミルテと名乗った。ミルテさんはよほど興味があるのか、僕とガンザさんの関係を何度も聞いてきて、どう答えるか僕は困った。ガンザさんは屋台の壊れた部分を器用に直して、ミルさんは感激しっ放しだった。
 改めてよく見ると、ミルさんは宝石みたいな目をしていてスタイルもかなりよくって、元々猫派の僕としては彼女はかなりかわいいコだと思った。


「そんなに見つめちゃイヤ~ンニャ。カズミのほうこそかわいいニャン!」

 猫族はスキンシップが激しいみたいで、ミルテさんは僕に全身でスリスリしてきてかなりくすぐったかった。僕はついデレデレしてしまい、背中に焼けつくような視線を感じて我に返った。

「もうここに用はない。帰るぞ、カズミ。」

 ガンザさんはいっきに最悪に不機嫌になっていて、僕は小屋に帰ったらどうなるんだろうと密かに怯えた。

「ふたりとも、待つニャン! なにかお礼がしたいニャ~ン♪ 」

「猫族の女、いいかげんにカズミから離れろ。ベタベタするな、みっともない。」

「あニャ? 公園のベンチで昼間っからベタベタしていたのは誰と誰だったかニャ~ン?」

 ガンザさんが沸騰したみたいに赤くなったので、僕は慌てて話題をリセットしようとした。

「それにしても、あのおじさん達はいったい誰なの?」

「わからないニャ。いつもボクに絡んできて、特に今日はひどかったニャン。」

「おそらく、誰かに雇われたならず者どもだろう。」


 僕には、ガンザさんの言った意味がその時はよくわからなかった。ミルテさんの話によると、彼女の村は飢えに苦しんでいて、王都に出稼ぎにきたらしい。そしてある商会からお金と屋台を借りて、商売をして返済する契約をしたそうだったけど、最近ではあのならず者たちが現れて、やたらと身売りを勧めてくるようになったという。


「身売りって?」

「だ、か、ら、娼館とか、いやらし~い所に売られるってことニャン!」

 そんなことがあるなんて、この異世界の物騒さに僕はことばを失ってしまった。

「商会とは、ジョンズワート交易商会のことか?」

 ガンザさんの指摘にミルテさんは勢いよくうんうんとうなずいた。

「屋台とお金を借りた時はものすごく親切だったニャン。でも、あとで噂を聞いて驚いたニャ…。」

 ジョンズワート交易商会って、僕は知らなかったけどこの王都最大の商人の組織らしい。ミルテさんの言う噂とは、その商会は裏ではあくどい事をしているという噂が絶えなくて、役人も賄賂で手を出さないんだとかいう話だった。

「お金の力で悪事をもみ消すなんて!」

「あニャ。お金自体はわるいものではないニャ。まちがった使い方をする連中が悪いニャン♪」

 ミルテさんは怒る僕をなだめるように長いしっぽを絡めてきて、くすぐったいやら気持ちいいやらで、僕はガンザさんに叱られないかとビクビクしたけど、彼女は険しい顔でひとりごとを言いながらうわの空だった。

「ジョンズワート交易商会か…。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ブラフマン~疑似転生~

臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。 しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。 あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。 死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。  二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。  一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。  漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。  彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。  ――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。 意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。 「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。 ~魔王の近況~ 〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。  幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。  ——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

処理中です...