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第25話 続・ミサキ団長VSフロインドラ魔女商会長
しおりを挟む「なにを寝ぼけたことを。新帝国にあのような未知の高度な技術はありませんわ。」
「違うんだ。マリーン、報告してくれ。君が公園で戦った、どろーんを操っていた敵に特徴はなかったか?」
急に話をふられて大観衆の前であたふたとしてしまったマリーンだったが、深呼吸すると思い出しながら発言した。
「確か、彼らには異国なまりがありました。一般市民のアズキさんも証言してくれるはずです。」
フロインドラは鼻で笑った。
「そんな曖昧な話、証拠になどなりませんわ! こちらには先ほどの本というはっきりとした物証があるのです! もうよろしいですわ。」
フロインドラが合図をすると、控えていた魔女が進みでてミサキとマリーン、ジーンを床に押さえつけた。
「聞け! フロインドラ!」
ミサキ団長の言葉を聞く耳を全く持たずに、フロインドラは大げさな身ぶりで聴衆に訴えかけた。
「商会代表の皆さま! 我が魔女商会は外敵には容赦いたしません。愛するトマリカノートの街を防衛する為に、大反撃作戦を開始いたしますわ!」
もう何度目か、議場が沸き立ち拍手が巻き起こった。議長に促されると、眼鏡をかけた魔女が進み出た。
「異世界への反撃作戦については私、上級魔女総長セイモンドからご説明いたします。」
セイモンドが手をふると、空中に四角いスクリーンのようなものが現れ、地図のような者が映し出された。
「こちらは異世界研究の権威カザベラ博士にご提供頂いた異世界の地図です。捕虜をここへ!」
魔女に押さえつけられたマリーンとジーンが目を見開いた。入口から両脇を魔女に抱えられたヨウがおずおずと入ってきたからだった。
「ヨウさん!」
「マリーンさん! ジーンさん! 団長さん!」
ヨウは半狂乱で叫び、よく見ると顔のあちらこちらに火傷のあとやアザがあって痛々しい様子だった。
「勝手に発言をするな。」
セイモンドは眼鏡に手を添えて冷たく言い放った。
「捕虜アワシマ・ヨウ。答えなさい。これはお前の世界の地図に相違ないですね?」
ヨウは震えながらスクリーンを見つめた。
「ただの世界地図だけど、それがなんなのさ!」
セイモンドは薄笑いを浮かべると地図を指差した。
「我が魔女商会は今日より数日後、全魔女を総動員して異世界への一斉攻撃をおこないます。」
「なんだって!? どういうこと!?」
ヨウが叫んだが、すぐに魔女に電撃を加えられて悲鳴をあげた。
「ヨウさん!」
議長が挙手して、どのような攻撃をするのか質問をした。セイモンドは淡々と説明をした。
「白兵戦では人的被害が甚大との机上模擬戦結果が出ております。従いまして、遠隔攻撃の作戦とします。まず、異世界への通路を開く儀式を行い、異世界地図上の人口密集地域約862ヶ所に対して、魔法による火炎攻撃、氷雪攻撃、電撃攻撃を加えます。」
「それにより想定される戦果は?」
「約17万5千人の死者、53万9千人の重軽傷者がでると試算いたしました。」
議長の質問にセイモンドが答えると、議場から歓声と拍手が起こった。押さえつけられたまま、マリーンは声を振り絞った。
「やめて! そんなことをしたらダメ! 信じて、ヨウさんは無関係なの!」
「そうだよ! なぜこんなことになってるの? みんな、おかしいよ。」
ヨウは力が抜けたのか、床に座りこんでしまった。ミサキ団長が再び叫んだ。
「フロインドラ! やめろ!」
「黙りなさいと言っているでしょう。これは決定事項ですわ。ここまで反撃すれば異世界の方々も懲りて諦めるでしょう。」
口々にマリーンたちは抗議をしたが結局、会議は全会一致で異世界への攻撃を承認して閉会となった。
議長や商会代表が退出した後、議場にはフロインドラ、セイモンド、ミサキ団長、マリーン、ジーン、ヨウが残されていた。
「さあて、あなた方には地下牢に戻って頂いて、捕虜はわたくしの部屋にいらっしゃいな。」
「絶対にやだ!」
フロインドラがヨウの腕をつかんで立たせた時、ヨウはポケットから黒い球を出して床に叩きつけた。
(ボン!!)
たちまち黒煙が部屋中に広がり、あたりは何も見えなくなった。
「マリーン、行け! ジーンとヨウさんを連れて逃げろ!」
「で、でも!」
「いいから行け! 行って、黒幕の証拠を探すんだ!」
すぐ近くからミサキ団長の声がしたが、マリーンには全くまわりが見えなかった。
「こしゃくなマネを! 排煙魔法!」
セイモンドの声がしたが、すぐにバキ!という打撃音がして静かになった。
「いやあ! 誰ですの、わたくしのそんなところをさわるのは…。」
「ヨウさん! ジーン! どこ!?」
マリーンが叫ぶと、誰かがマリーンにしがみついてきた。
「マリーンさん!」
「ヨウさん! 逃げるよ!」
「マリーン! こっちが出口だ!」
ジーンの声がした方にマリーンとヨウは走り、ドアから廊下へ飛び出した。黒煙が廊下にも流れ込み、3人はつれだって走り階段をとびおりた。
「逃げたぞ、つかまえろー!」
「相手は自警団員だ! 油断するな!」
1階のロビーで職員が次々とつかみかかってきたが、ジーンが回し蹴りで片っ端からなぎ倒した。マリーンもヨウを守りながら護身術をくり出し、出口から外の通りへ身を躍らせた。
黒煙がひいた議場ではミサキ団長とフロインドラ魔女商会長が対峙していた。
「どきなさい。」
「それはできない。」
「わたくし、あなたとだけは戦いたくありませんでしたわ。」
「それはどっちの意味で?」
ミサキ団長の質問にフロインドラはグッと詰まり、顔を背けたがすぐに視線を戻した。
「こんなことがなければわたくしは…あなたを…。」
「残念だが今は受け入れられない。」
ミサキ団長は素手で戦闘姿勢をとった。フロインドラは悲しげな表情になった。
「いくらあなたでも、素手でわたくしにかなうと思って?」
「いや、全く。だが時間稼ぎにはなるだろう。」
フロインドラは空中からほうきを出すと戦闘態勢になった。目の端には小さな涙の粒が光っていた。
裏通りの廃品置き場で、3人はハアハアと荒い呼吸をしていた。表通りをバタバタとかけていく足音が遠ざかっていった。
「なんとか、まいたな。」
「ヨウさん、よくあんな魔法の煙玉を持っていたね!?」
「うん。連れていかれる直前、マチルダちゃんが牢屋に来てくれたんだ。」
ジーンは口笛を吹き、感心した様子だった。マリーンは不安げに頭をかかえた。
「ミサキ団長、大丈夫かなあ。」
「大丈夫と言いたいがなあ。あいつが相手だからなあ。」
3人はしばらく無言だったが、マリーンが急にヨウに飛びついた。
「ヨウさん、ひどいケガ! 大丈夫? フロインドラさん、許せない!」
「いや、あいつにやられたんだ。セイモンドって言う眼鏡の魔女さんに。フロインドラさんよりもこわいかも、あの人。」
ヨウは震えだし、マリーンはハンカチを出してヨウの顔を拭いた。ジーンはその様子を見ていたが、疲れ切った声を出した。
「これからどうする? 団長は捕まっちまったし、黒幕の証拠を探せって言われてもなあ…。」
「なにを言うの、ジーン! あなたらしくないよ、こんな時こそあたし達の出番じゃない!」
「そうだけどよ。手がかりがないぜ?」
ジーンは頭をかきむしり、マリーンはうつむき、ヨウも座りこんでしまった。
「ドローンを操縦してた人にも逃げられちゃったし。八方塞がりだね。」
3人が考え込んでいると、ジーンが突然ヨウにつかみかかった。
「うわあ! 急になに!? 僕は怪我人だよ!」
「うるせえ、落ち着いたら思い出したぜ。てめえが持ってたあの本はなんなんだよ! やっぱりあやしいぜ。あれのせいでこうなってんだ、説明しろ!」
「やめてジーン! でもヨウさん、あの本についてはあたしも同意見よ。説明して。」
マリーンはジーンをヨウから引き離し、返事を待った。ヨウは唇をとがらせた。
「だって、まさか盗む人がいるなんて思わないじゃんか。ただの台本なのにさ。」
『台本!?』
マリーンとジーンの驚いた声がハモり、ふたりは顔を見合わせた。
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