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第9話 路地裏の戦い(1)
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暗闇から溶け出すように無音でゆっくりと歩み寄って来た人影はふと立ち止まり、状況を観察するように僕と赤いドレスの女性を見比べていた。黒い手袋をした手には細く長い剣が握られていた。
その姿は文字通り黒ずくめで、フード付きの長い黒革コートのボタンは体を隠すように全てぴったりととめられていた。
目深にフードを下ろしている上に、顔の下半分も黒い覆面のせいで表情どころか性別や人か猫族かなのかもよくわからなかった。
(間違いない、あれはこの世界の黒猫だ…。)
ライトを持つ僕の手は恐怖で小刻みに震えていた。あの廃工場での襲撃のトラウマか、僕は猫ににらまれた鼠のように動けなかった。
また僕の頭の中でオンラインゲームのBGMが静かに鳴り出した。僕はライトを消してヘルメットの暗視ゴーグルを使えば逃げられるのではないかと考えたが、ドレスの女性が僕の手を握ってきた。
「逃げられないわ! 奴は暗闇でも正確に追ってくるわよ!」
(ということはこの世界の黒猫は猫族なのか?)
でも人影には尻尾が見当たらなかった。赤いドレスの女性はパニック状態で僕にしがみついてきた。あんまりにも暴れるのでドレスの胸元がはだけそうで、僕は思わず目を逸らしてしまった。彼女は重たい革の袋を俺に押し付けてきた。
「これをあげるから! あいつをやっつけて!」
そのずっしりとした重さから、革袋にはかなりのお金が入っているようだった。
(なぜこの人は黒猫に追われているのだろう?)
僕が戸惑っていると、女性はいきなりとんでもない行動にでた。僕をぐいと抱き寄せて、深い口づけをしてきたのだ。
限りなく柔らかい唇と舌の感触は生温かくて生き物のようで、僕はどうして良いか分からずにされるがままになってしまった。
一瞬のような永遠のような時が終わると、
ドレスの女性はゆっくりと顔を離して妖艶な流し目で僕に甘く囁いてきた。
「この続きは、奴を倒してくれたらしてあげるわ。」
僕は体中から力が抜けそうになり、その場にへたり込みそうになったがなんとかふみとどまった。次の瞬間、赤いドレスの人は全速力で駆け出した。僕をおいて、自分だけで逃げ出したのだった。
それに反応したのか、黒い人影は瞬く間に僕に接近してきて剣を振りかぶった。足音をたてずに、舞うように僕に肉薄してくるそれは人知を超えた身のこなしだった。
(斬られる…!)
僕は咄嗟にライトを捨ててコンバットナイフを抜き、ギリギリで何とか長剣の一撃を受け止めた。闇の中に火花が散り、お互いの姿が一瞬だけ見えてすぐに消えた。
ギシギシとすさまじい怪力でそのまま押されて、たまらずに僕は後方へ跳ね飛ばされて地面に尻餅をついてしまった。
相手は今度はゆっくりと僕に近づいてきた。僕は今までに使った事がなくてヘルメットの飾りになっていた暗視ゴーグルを下ろして装着し、その姿勢のまま腰の拳銃を抜いて黒い人影に向けて乱射した。
だが、僕は自分の目を疑った。相手はとても人間とは思えない動きで全てのゴム弾をかわしてしまった。
僕は続けて撃ったが、今度は弾を全てを剣ではじき飛ばされてしまった。引き金を引いてもカチリと音がして、残弾ゼロになったことがわかった。とても勝ち目がないので、僕は相手に話しかけた。
「待って! 君は黒猫なの?」
だが黒い人影はそれには答えず、剣を構え直した。
「貴様、あの女の手の者か。」
尊大で人を見下したような言い方だった。覆面のせいでくぐもっているが、声は明らかに若い女性のものだった。
(やはり、黒猫なのか。)
「違う! 違います、たまたまそこで会っただけです。」
「では、そこに落ちている物は何だ。」
相手が剣で地面を指した先にはあの女性が僕に押し付けた革袋が落ちていて、その中からは金色の硬貨が何枚か飛び出していた。僕は座ったまま、相手を制止するように手を出した。
「誤解です! あの人に無理矢理押しつけられたのです。」
「黙れ! せっかく追い詰めたのに、貴様のせいで奴に逃げられてしまったではないか。」
「だから、何度も誤解だって言ってるじゃないですか。」
「あの女がそんな大金を初対面の者にわたすものか。しかも、私の目の前ではしたない事をしおって。この私でさえ、そんなことはしたことが…。」
相手はくるりと背を向けると何かブツブツ言いはじめた。
(なんなんだこの反応は?)
僕はチャンスだと思って逃げようとしたけど、すぐに振り向かれてしまった。
「待て! あの女の行き先を言え!」
どうやら僕はあの女性の関係者だと完全に相手に誤解されてしまったようだった。何とか説得を続けようとした途端に、相手はまた僕に斬りかかってきた。しかも、一撃めよりも動きがはやかった。
力の差がありすぎて受けきれない事はわかっていたので、僕はギリギリまで引きつけてから何とか横に跳んで身をかわした。
そのまま全力で走り、僕は地面に置いてあった大型銃に飛びつき、振り返って構えたが相手は僕の視界にいなかった。
その時、僕の肩口に痛みが走った。ギリギリでかわしたと思ったのに僕の肩はざっくりと斬られていた。生温かい血が流れ出るのを感じて、僕の背中に冷や汗がにじみ出た。
放心状態の僕の首すじに冷たい物が当てられた。ぞくりとする感覚がして、後ろから冷たく響く声が聞こえてきた。
(いつの間に後ろに!?)
「我が剣を2度もかわすとはな。そのおかしないでたちといい、奇妙な魔道具といい、貴様は何者だ?」
僕は何と答えれば良いのか分からず、黙ってしまった。それは間違いだったようで、背中に凄まじい衝撃を受けると僕はうつ伏せに倒れてしまった。どうやら相手に背中を思いきり蹴られたらしかった。その衝撃で僕は激しく咳き込んだ。
「はやく言え。女の行き先も言え。」
圧倒的な力の差に加えてかなり冷酷そうな雰囲気から、相手は噂通りかなり凶暴な人物だと僕は思い知った。僕はどうやら人生二回目の命の危険にさらされていると気づいた。しかもこんなに短期間で。僕は必死で考えを巡らせた。
A案 自分は無関係だと説得を続ける。
B案 戦いを続ける。
C案 お金を渡して許してもらう
僕はどれを選択するかの結論を出した。
その姿は文字通り黒ずくめで、フード付きの長い黒革コートのボタンは体を隠すように全てぴったりととめられていた。
目深にフードを下ろしている上に、顔の下半分も黒い覆面のせいで表情どころか性別や人か猫族かなのかもよくわからなかった。
(間違いない、あれはこの世界の黒猫だ…。)
ライトを持つ僕の手は恐怖で小刻みに震えていた。あの廃工場での襲撃のトラウマか、僕は猫ににらまれた鼠のように動けなかった。
また僕の頭の中でオンラインゲームのBGMが静かに鳴り出した。僕はライトを消してヘルメットの暗視ゴーグルを使えば逃げられるのではないかと考えたが、ドレスの女性が僕の手を握ってきた。
「逃げられないわ! 奴は暗闇でも正確に追ってくるわよ!」
(ということはこの世界の黒猫は猫族なのか?)
でも人影には尻尾が見当たらなかった。赤いドレスの女性はパニック状態で僕にしがみついてきた。あんまりにも暴れるのでドレスの胸元がはだけそうで、僕は思わず目を逸らしてしまった。彼女は重たい革の袋を俺に押し付けてきた。
「これをあげるから! あいつをやっつけて!」
そのずっしりとした重さから、革袋にはかなりのお金が入っているようだった。
(なぜこの人は黒猫に追われているのだろう?)
僕が戸惑っていると、女性はいきなりとんでもない行動にでた。僕をぐいと抱き寄せて、深い口づけをしてきたのだ。
限りなく柔らかい唇と舌の感触は生温かくて生き物のようで、僕はどうして良いか分からずにされるがままになってしまった。
一瞬のような永遠のような時が終わると、
ドレスの女性はゆっくりと顔を離して妖艶な流し目で僕に甘く囁いてきた。
「この続きは、奴を倒してくれたらしてあげるわ。」
僕は体中から力が抜けそうになり、その場にへたり込みそうになったがなんとかふみとどまった。次の瞬間、赤いドレスの人は全速力で駆け出した。僕をおいて、自分だけで逃げ出したのだった。
それに反応したのか、黒い人影は瞬く間に僕に接近してきて剣を振りかぶった。足音をたてずに、舞うように僕に肉薄してくるそれは人知を超えた身のこなしだった。
(斬られる…!)
僕は咄嗟にライトを捨ててコンバットナイフを抜き、ギリギリで何とか長剣の一撃を受け止めた。闇の中に火花が散り、お互いの姿が一瞬だけ見えてすぐに消えた。
ギシギシとすさまじい怪力でそのまま押されて、たまらずに僕は後方へ跳ね飛ばされて地面に尻餅をついてしまった。
相手は今度はゆっくりと僕に近づいてきた。僕は今までに使った事がなくてヘルメットの飾りになっていた暗視ゴーグルを下ろして装着し、その姿勢のまま腰の拳銃を抜いて黒い人影に向けて乱射した。
だが、僕は自分の目を疑った。相手はとても人間とは思えない動きで全てのゴム弾をかわしてしまった。
僕は続けて撃ったが、今度は弾を全てを剣ではじき飛ばされてしまった。引き金を引いてもカチリと音がして、残弾ゼロになったことがわかった。とても勝ち目がないので、僕は相手に話しかけた。
「待って! 君は黒猫なの?」
だが黒い人影はそれには答えず、剣を構え直した。
「貴様、あの女の手の者か。」
尊大で人を見下したような言い方だった。覆面のせいでくぐもっているが、声は明らかに若い女性のものだった。
(やはり、黒猫なのか。)
「違う! 違います、たまたまそこで会っただけです。」
「では、そこに落ちている物は何だ。」
相手が剣で地面を指した先にはあの女性が僕に押し付けた革袋が落ちていて、その中からは金色の硬貨が何枚か飛び出していた。僕は座ったまま、相手を制止するように手を出した。
「誤解です! あの人に無理矢理押しつけられたのです。」
「黙れ! せっかく追い詰めたのに、貴様のせいで奴に逃げられてしまったではないか。」
「だから、何度も誤解だって言ってるじゃないですか。」
「あの女がそんな大金を初対面の者にわたすものか。しかも、私の目の前ではしたない事をしおって。この私でさえ、そんなことはしたことが…。」
相手はくるりと背を向けると何かブツブツ言いはじめた。
(なんなんだこの反応は?)
僕はチャンスだと思って逃げようとしたけど、すぐに振り向かれてしまった。
「待て! あの女の行き先を言え!」
どうやら僕はあの女性の関係者だと完全に相手に誤解されてしまったようだった。何とか説得を続けようとした途端に、相手はまた僕に斬りかかってきた。しかも、一撃めよりも動きがはやかった。
力の差がありすぎて受けきれない事はわかっていたので、僕はギリギリまで引きつけてから何とか横に跳んで身をかわした。
そのまま全力で走り、僕は地面に置いてあった大型銃に飛びつき、振り返って構えたが相手は僕の視界にいなかった。
その時、僕の肩口に痛みが走った。ギリギリでかわしたと思ったのに僕の肩はざっくりと斬られていた。生温かい血が流れ出るのを感じて、僕の背中に冷や汗がにじみ出た。
放心状態の僕の首すじに冷たい物が当てられた。ぞくりとする感覚がして、後ろから冷たく響く声が聞こえてきた。
(いつの間に後ろに!?)
「我が剣を2度もかわすとはな。そのおかしないでたちといい、奇妙な魔道具といい、貴様は何者だ?」
僕は何と答えれば良いのか分からず、黙ってしまった。それは間違いだったようで、背中に凄まじい衝撃を受けると僕はうつ伏せに倒れてしまった。どうやら相手に背中を思いきり蹴られたらしかった。その衝撃で僕は激しく咳き込んだ。
「はやく言え。女の行き先も言え。」
圧倒的な力の差に加えてかなり冷酷そうな雰囲気から、相手は噂通りかなり凶暴な人物だと僕は思い知った。僕はどうやら人生二回目の命の危険にさらされていると気づいた。しかもこんなに短期間で。僕は必死で考えを巡らせた。
A案 自分は無関係だと説得を続ける。
B案 戦いを続ける。
C案 お金を渡して許してもらう
僕はどれを選択するかの結論を出した。
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