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第三章
32.判決
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私とライル様のやり取りを見たお父様が騎士に指示を出し、リィナを私たちから離す。抵抗しないよう剣を向けられるが、リィナは大した反応も見せず、信じられないように未だ呆然としていた。
「なんで……どういう、こと?全て上手く行ってたのに…ライルもジョシュアも私を好きだって言ったわ…。みんなが私を愛してて、確かにエンディングを迎えたはずなのに。断罪が終わった後は、幸せな日々が待ってるはずでしょ?こんなシーンなんてなかった……。なんで、なんで…私がこっち側なのよ…?」
放心状態の彼女はボソボソと呟き、爪を噛み始める。
「リィナ・ターバル。お前が裁かれるのは、全てお前が犯した罪だからだ。そんな子供でも分かることが分からないのか?」
ライル様が責め立てるように言い放つ。
しかし、リィナはフルフルと首を振る。
「違う……私は、私はヒロインだもの…。
処刑されるのは、悪役令嬢なのよ……、私じゃない!!」
ギリッとリィナが睨みつけてくる。
私は毅然と彼女を見つめた。
「私が貴女の罪を負わなきゃいけない理由なんてない。
しっかりと罪を償って。」
「……それはあんたに与えられた役割でしょう?!
あんたがいるから、こんなことになったんじゃない!
私をこうさせたのはあんたよ!あんたが全ての悪いのよ!!」
そう叫ぶ顔は醜く…とてもヒロインだとは思えない。
「人のせいにするのも大概にしろ。
お前はアンナに会う前から犯罪者だったろうが。」
ジョシュア様が口を開いた。
「……え?」
予想外の事実に私は唖然とした。
ライル様が私に説明してくれる。
「調べたところによると、リィナは自分が男爵家の令嬢となるためにターバル男爵家の執事長と結託し、当時妊娠していたターバル男爵夫人を自殺に見せかけ、毒殺している。そして、若い頃に手付きをしたメイドの子である自分を男爵令嬢として引き取るように進言させている。
とは言え、これに関しては証拠が不十分でな。殺人罪としては問えなそうなんだが。」
「……嘘。」
そんなことまでしてたなんて…。
リィナの身勝手さに空いた口が塞がらない。
「歪んだ物語を……私は整えただけ……。私が正しい!」
ライル様は厳しくリィナを見つめる。
「全く反省の色が見えんな。」
「当たり前じゃない。私は悪くない!!
この世界は私の物なのよ!最後には私の思い通りになるのよ!」
リィナはフラフラと立ち上がった。
「覚えてなさいよ……!」
リィナの身体から魔力が漏れ出し、それは龍を形造る。
いつか見た…水のドラゴンだ……!
もしかして逃げるつもりなのかもしれない…!焦ると同時にここまでリィナが水の魔力を使いこなせていたことに驚く。
しかし、そんな私の心配もすぐに杞憂に終わった。
リィナの頭上のドラゴンが形を維持できなくなり、ザバーっと滝のように豪快にリィナの全身を水浸しにした。カーラが唯一付けてくれた髪飾りも床にコツンと寂しい音を立てて、落ちる。
リィナは唖然としている。
訳が分からないと言った様子のリィナに答えを与えたのはルフト先生だった。
「知らなかったようだけど、通常魔法とは違って、魔宝の使用は魔力を奪うんだ。繰り返し使えば使うほど、体内の魔力は減っていき、やがては枯渇する。リィナ、君は稀に見る膨大な魔力を秘めていた。しかし、それはすり減り…今や君に魔法はもう使えない。」
「そ、そんなはず…っ!!」
リィナは繰り返し掌の上で魔力を練り上げるが、すぐにそれは霧散してしまう。
そうか…だから、最近魔法が使えなくなっていたんだ…。
「残念だよ。
折角の才能をこのように無駄にしてしまうなんて。
……いや、君のような者には魔力など無い方がこの国のためか。」
「同感だ。」
ルフト先生の意見にジョシュア様が同調し、二人は視線を合わせ、拳をぶつける。そんな些細なやりとりだけど、ルフト先生は喜んでいるように見えた。
私たちの目の前には濡れ鼠のようなリィナが一人。なんと惨めなんだろう。さらさらでふわっとした髪もベタっと肌に張り付いている。
リィナは一層激しくカリカリと爪を噛む。その指先には血が滲んでいた。床の一点を見つめるその姿には、狂気さえ感じる。
すると、リィナは何かに気付いたように顔を上げた。
「…そうだ……。ウィルガ……。
あんた達、ウィルガをどこにやったの?!」
ライル様は答えない。
「ウィルガ!ウィルガ助けて!!」
すると、リィナの叫び声に応えるように、会場の死角からウィルガが現れた。
ウィルガを見て、リィナは高笑いをし出す。
「あは、あははっ!ほらね、この世界は私の物なの。
危険が迫っても救世主が現れるのよ!」
リィナはフラフラと立ち上がり、ウィルガの方に駆けていく。
騎士はお父様が制したことからリィナを追いかけない。
「ウィルガ!!」
リィナが腕を開き、彼に向かっていくと、ウィルガは腰の剣を抜いた。
ハラリとリィナの髪が二、三本、斬られて…落ちる。
「え?」
リィナの耳に当たらないぎりぎりのところで剣は止まる。リィナは、顔を青くして、腰が抜けたようにその場に座り込んだ。
ウィルガは見たこともないような冷ややかな視線を送る。
リィナは意味が分からないようだ。
「その汚い口で、二度と私を呼ばないで頂きたい。」
ひどく低く…冷たい声だった。
私と一緒にいる時のウィルガは、いつも優しくて…一度だってあんな声を聞いたことはない。まるで人が変わったようにウィルガはリィナを蔑んだ目で見つめていた。
リィナは微かに震えながら、ウィルガに懇願の目を向ける。
「ウィルガ…?わ、私よ…リィナよ?
ずっと守ってくれたじゃない?私のこと、愛してるのよね?
だから、ライルやジョシュアを敵に回しても守ってくれたのよね?」
「貴女を愛したことなど一度もありません。
毎回触れられる度に吐き気がしていたほど、嫌いです。」
「……嘘…よ。」
リィナの声が震えている。
「嘘ではありません。」
「だって、一ヶ月半も、私を守ってー」
「私がお守りしたのはアンナ様です。貴女ではありません。」
その言葉にリィナは息を呑んだ。
「まさか……気付いていたっていうの?」
リィナの目が見開かれる。
「えぇ。私だけではなく、皆さん貴女が偽物だと早々に気付いていたそうですよ。」
「そんな…っ!!」
リィナが私たちの方を向く。
「当たり前だろ。全くおめでたい奴だな。
アンナはお前みたいに人を蔑んだ目で見たりしねぇよ。」
ユーリが口を開くと、ソフィアがそれに続く。
「そうですわ。アンナほど優しく可愛らしい女性はおりません。それにアンナは努力家で聡明ですの。お馬鹿な貴女とは違ってね。」
「そうだ。それにアンナの魔力は清らかで美しい。君のはドロドロとして、まるで心の醜悪さが表れているね。」
ルフト様まで…。
ジョシュア様は優しく私を見つめる。
「……アンナは、誰よりも優しくて、素直で、頑張り屋さんで、勇気があって、それでいて恥ずかしがり屋で慎ましくて…本当に魅力的な女性だ。」
そう言った後、ジョシュア様は憎らしくリィナを見つめた。
「リィナ…お前にはそのカケラもない。利己的で、暴力的で、下品極まりない。私もお前に触れられる度に、身の毛がよだつようだった。」
辛辣なジョシュア様の言葉に、リィナは怒りで顔を赤くした。
ライル様がそれに追い討ちを掛けるかのように口を開く。
「見た目がアンナになっても、その心の醜さは隠せなかったようだな。しかし、この二ヶ月間は夢を見れただろう?お前の言うゲームの通り、攻略対象から言い寄られたんだから。」
「……全部知ってて、私を馬鹿にしてたのね?」
「ははっ。そうだね。お前のような者がアンナになれるはずがないのに、演技している姿は実に滑稽だった。誰一人としてお前を好いている者はいないのに。
ただお前を野放しにして、アンナの悪評が広まっても困るからな。他の生徒には接触させないよう囲っていたという訳だ。アンナが元に戻った時のために、な。」
リィナがグッと歯噛みするのが分かった。
「さて、ではこの辺りで改めて判決を言い渡そう。
先ほど述べた罪状に加え、呪術を使い、アンナ・クウェス公爵令嬢を陥れ亡き者にしようとした罪…
それらを鑑みてー」
リィナは、目をギュッと閉じた。
「リィナ・ターバル、お前を国外追放とする。」
「国外、追放…?」
リィナの声が広い会場に響いた。
目は驚きで大きく見開かれている。
「宰相…騎士団長…、それで良いな?」
「「はっ。」」
ライル様がそう問えば、ルデンス公爵とお父様は胸に手を置き、片膝をついて、それに従う意を表した。
この二人が了承しているならば、反対意見を述べられる者などこの場にはいなかった。
唖然とするリィナをそのままに、追放日は明後日と決まった。
「なんで……どういう、こと?全て上手く行ってたのに…ライルもジョシュアも私を好きだって言ったわ…。みんなが私を愛してて、確かにエンディングを迎えたはずなのに。断罪が終わった後は、幸せな日々が待ってるはずでしょ?こんなシーンなんてなかった……。なんで、なんで…私がこっち側なのよ…?」
放心状態の彼女はボソボソと呟き、爪を噛み始める。
「リィナ・ターバル。お前が裁かれるのは、全てお前が犯した罪だからだ。そんな子供でも分かることが分からないのか?」
ライル様が責め立てるように言い放つ。
しかし、リィナはフルフルと首を振る。
「違う……私は、私はヒロインだもの…。
処刑されるのは、悪役令嬢なのよ……、私じゃない!!」
ギリッとリィナが睨みつけてくる。
私は毅然と彼女を見つめた。
「私が貴女の罪を負わなきゃいけない理由なんてない。
しっかりと罪を償って。」
「……それはあんたに与えられた役割でしょう?!
あんたがいるから、こんなことになったんじゃない!
私をこうさせたのはあんたよ!あんたが全ての悪いのよ!!」
そう叫ぶ顔は醜く…とてもヒロインだとは思えない。
「人のせいにするのも大概にしろ。
お前はアンナに会う前から犯罪者だったろうが。」
ジョシュア様が口を開いた。
「……え?」
予想外の事実に私は唖然とした。
ライル様が私に説明してくれる。
「調べたところによると、リィナは自分が男爵家の令嬢となるためにターバル男爵家の執事長と結託し、当時妊娠していたターバル男爵夫人を自殺に見せかけ、毒殺している。そして、若い頃に手付きをしたメイドの子である自分を男爵令嬢として引き取るように進言させている。
とは言え、これに関しては証拠が不十分でな。殺人罪としては問えなそうなんだが。」
「……嘘。」
そんなことまでしてたなんて…。
リィナの身勝手さに空いた口が塞がらない。
「歪んだ物語を……私は整えただけ……。私が正しい!」
ライル様は厳しくリィナを見つめる。
「全く反省の色が見えんな。」
「当たり前じゃない。私は悪くない!!
この世界は私の物なのよ!最後には私の思い通りになるのよ!」
リィナはフラフラと立ち上がった。
「覚えてなさいよ……!」
リィナの身体から魔力が漏れ出し、それは龍を形造る。
いつか見た…水のドラゴンだ……!
もしかして逃げるつもりなのかもしれない…!焦ると同時にここまでリィナが水の魔力を使いこなせていたことに驚く。
しかし、そんな私の心配もすぐに杞憂に終わった。
リィナの頭上のドラゴンが形を維持できなくなり、ザバーっと滝のように豪快にリィナの全身を水浸しにした。カーラが唯一付けてくれた髪飾りも床にコツンと寂しい音を立てて、落ちる。
リィナは唖然としている。
訳が分からないと言った様子のリィナに答えを与えたのはルフト先生だった。
「知らなかったようだけど、通常魔法とは違って、魔宝の使用は魔力を奪うんだ。繰り返し使えば使うほど、体内の魔力は減っていき、やがては枯渇する。リィナ、君は稀に見る膨大な魔力を秘めていた。しかし、それはすり減り…今や君に魔法はもう使えない。」
「そ、そんなはず…っ!!」
リィナは繰り返し掌の上で魔力を練り上げるが、すぐにそれは霧散してしまう。
そうか…だから、最近魔法が使えなくなっていたんだ…。
「残念だよ。
折角の才能をこのように無駄にしてしまうなんて。
……いや、君のような者には魔力など無い方がこの国のためか。」
「同感だ。」
ルフト先生の意見にジョシュア様が同調し、二人は視線を合わせ、拳をぶつける。そんな些細なやりとりだけど、ルフト先生は喜んでいるように見えた。
私たちの目の前には濡れ鼠のようなリィナが一人。なんと惨めなんだろう。さらさらでふわっとした髪もベタっと肌に張り付いている。
リィナは一層激しくカリカリと爪を噛む。その指先には血が滲んでいた。床の一点を見つめるその姿には、狂気さえ感じる。
すると、リィナは何かに気付いたように顔を上げた。
「…そうだ……。ウィルガ……。
あんた達、ウィルガをどこにやったの?!」
ライル様は答えない。
「ウィルガ!ウィルガ助けて!!」
すると、リィナの叫び声に応えるように、会場の死角からウィルガが現れた。
ウィルガを見て、リィナは高笑いをし出す。
「あは、あははっ!ほらね、この世界は私の物なの。
危険が迫っても救世主が現れるのよ!」
リィナはフラフラと立ち上がり、ウィルガの方に駆けていく。
騎士はお父様が制したことからリィナを追いかけない。
「ウィルガ!!」
リィナが腕を開き、彼に向かっていくと、ウィルガは腰の剣を抜いた。
ハラリとリィナの髪が二、三本、斬られて…落ちる。
「え?」
リィナの耳に当たらないぎりぎりのところで剣は止まる。リィナは、顔を青くして、腰が抜けたようにその場に座り込んだ。
ウィルガは見たこともないような冷ややかな視線を送る。
リィナは意味が分からないようだ。
「その汚い口で、二度と私を呼ばないで頂きたい。」
ひどく低く…冷たい声だった。
私と一緒にいる時のウィルガは、いつも優しくて…一度だってあんな声を聞いたことはない。まるで人が変わったようにウィルガはリィナを蔑んだ目で見つめていた。
リィナは微かに震えながら、ウィルガに懇願の目を向ける。
「ウィルガ…?わ、私よ…リィナよ?
ずっと守ってくれたじゃない?私のこと、愛してるのよね?
だから、ライルやジョシュアを敵に回しても守ってくれたのよね?」
「貴女を愛したことなど一度もありません。
毎回触れられる度に吐き気がしていたほど、嫌いです。」
「……嘘…よ。」
リィナの声が震えている。
「嘘ではありません。」
「だって、一ヶ月半も、私を守ってー」
「私がお守りしたのはアンナ様です。貴女ではありません。」
その言葉にリィナは息を呑んだ。
「まさか……気付いていたっていうの?」
リィナの目が見開かれる。
「えぇ。私だけではなく、皆さん貴女が偽物だと早々に気付いていたそうですよ。」
「そんな…っ!!」
リィナが私たちの方を向く。
「当たり前だろ。全くおめでたい奴だな。
アンナはお前みたいに人を蔑んだ目で見たりしねぇよ。」
ユーリが口を開くと、ソフィアがそれに続く。
「そうですわ。アンナほど優しく可愛らしい女性はおりません。それにアンナは努力家で聡明ですの。お馬鹿な貴女とは違ってね。」
「そうだ。それにアンナの魔力は清らかで美しい。君のはドロドロとして、まるで心の醜悪さが表れているね。」
ルフト様まで…。
ジョシュア様は優しく私を見つめる。
「……アンナは、誰よりも優しくて、素直で、頑張り屋さんで、勇気があって、それでいて恥ずかしがり屋で慎ましくて…本当に魅力的な女性だ。」
そう言った後、ジョシュア様は憎らしくリィナを見つめた。
「リィナ…お前にはそのカケラもない。利己的で、暴力的で、下品極まりない。私もお前に触れられる度に、身の毛がよだつようだった。」
辛辣なジョシュア様の言葉に、リィナは怒りで顔を赤くした。
ライル様がそれに追い討ちを掛けるかのように口を開く。
「見た目がアンナになっても、その心の醜さは隠せなかったようだな。しかし、この二ヶ月間は夢を見れただろう?お前の言うゲームの通り、攻略対象から言い寄られたんだから。」
「……全部知ってて、私を馬鹿にしてたのね?」
「ははっ。そうだね。お前のような者がアンナになれるはずがないのに、演技している姿は実に滑稽だった。誰一人としてお前を好いている者はいないのに。
ただお前を野放しにして、アンナの悪評が広まっても困るからな。他の生徒には接触させないよう囲っていたという訳だ。アンナが元に戻った時のために、な。」
リィナがグッと歯噛みするのが分かった。
「さて、ではこの辺りで改めて判決を言い渡そう。
先ほど述べた罪状に加え、呪術を使い、アンナ・クウェス公爵令嬢を陥れ亡き者にしようとした罪…
それらを鑑みてー」
リィナは、目をギュッと閉じた。
「リィナ・ターバル、お前を国外追放とする。」
「国外、追放…?」
リィナの声が広い会場に響いた。
目は驚きで大きく見開かれている。
「宰相…騎士団長…、それで良いな?」
「「はっ。」」
ライル様がそう問えば、ルデンス公爵とお父様は胸に手を置き、片膝をついて、それに従う意を表した。
この二人が了承しているならば、反対意見を述べられる者などこの場にはいなかった。
唖然とするリィナをそのままに、追放日は明後日と決まった。
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