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第二章 

10.ルフト

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 ルフト先生は、皆を並べ、話し始めた。

 「俺はルフト。

 魔法学の授業だけ担当してて、それ以外の時間については研究室に籠って、魔法の研究をしてる。教師は研究のついでって感じだ。

 魔法学は主にここで行う指導と、持ち帰って練習をする課題の二つを柱とする。課題がクリア出来なかった者は、補習を行うが、俺の時間を割きたくないから、ちゃんと一回でクリアしろよな。

 あと、知ってると思うが、この授業は三学年同時に行う。魔法は基礎的な訓練を繰り返し行うことが重要だから、授業内容は基礎的な物に絞って行う。但し、課題は学年毎で違うから。」

 そう話した後にルフト先生は私たちの方を振り返る。

 「はぁ~……今年の一年は豊作だな。」

 面倒だと思っていることが丸わかりだ。ゲームの初期情報から好きなものにしか興味を示さない人だとは分かっていたが、よくこれで教師が務まるものだな、と思う。

 「三年は三人、二年は一人、一年は五人だ。この授業も九人で進めることになる。去年より四人も多い。
 ついでに二、三年で最も優秀なのはジョシュアだ。ジョシュアには一年の補佐に入ってもらうことも多いと思う。」

 三年生を押し退けて、一番優秀なんて、さすがジョシュア様だ。

 「喜んで。」

 ジョシュア様のその言葉にルフト先生は目を丸くするが、すぐにニヤッと笑った。

 「ジョシュアがやる気なのは有難いな。頼んだぞ。」

 その顔を見て、ジョシュア様は顔を顰めた。
 
 「……とは言え、任せきりはやめて下さいよ。」

 「ははっ。」

 ルフト先生は誤魔化すように笑い飛ばす。

 公爵邸に住んでいたこともあるから、ジョシュア様とも仲がいいんだなぁ…。

 「じゃあ、まずは一人二組になれ。

 そうだな…珍しく女子がいるから、レディファーストってことで、女子から好きなパートナーを選べ。二、三年から選んでもいいぞー。あ、一人になった奴は俺とな。」

 このシーンは覚えている。全員と最初の出会いを終えたヒロインは、ここで四人のうちから一人を選択をする。

 私にとっても、リィナが誰を狙っているのかを確認できる重要な場面だ。私はドキドキしながら、リィナの発言を待つ。

 「あ……じゃあ、私はー」

 そうリィナが言いかけたところで、ライル様が口を開いた。

 「先生、僕とアンナは婚約者です。
 アンナは僕と組みます。」

 「お、そうか?」

 そのまま決まるのかと思いきや、ジョシュア様がそれを否定する。

 「先生。そこは別に考慮しなくて宜しいかと思います。ライル様も入学式のスピーチで、身分は関係なく皆と同じように学びたいとおっしゃってましたし、アンナが王子妃になるとしても授業で関わるくらい別に大した接触ではありませんしね。
 アンナのことが心配であれば、最も実力のある自分にまかせていただければ確実かと。」

 「それもそうだな。」

 うんうんとルフト先生が頷く。

 「は?それはー」

 ライル様がまた反論をしようとしたところで、ウィルガまで口を開いた。

 「殿下。そんなに気になるようでしたら、親戚である自分がアンナ様のお相手を務めましょうか?」

 「ウィルガまでー」

 ライル様がはぁ~っとため息を吐き、頭を抱える。
 そこへユーリのやたらと大きい声が響く。

 「みんな、ただアンナと組みたいだけだろ!
 なら、俺もアンナがいい!!」

 ルフト先生もリィナも先輩方もそれをポカンと見つめる。私は一人頭を抱える。ライル様はともかくとして、みんな何をふざけているのか。

 しかし、少しすると、ルフト先生が口を開いた。

 「やっぱ、やーめた。俺がこの子と組む。」

 「「「は?」」」

 ルフト先生は私の背後にまわり、両手を肩に置いた。

 「なんか、この子、みんなに執着されてるみたいで、面白そうだし。安全という意味では俺が一番最適だろ。」

 いやいや、私はいいから、リィナに選ばせてよ!!それによってわたしの身の振り方も変わってくるんだから!

 「いや……先にリィナさんにー」

 しかし、私の言葉はルフト先生に遮られる。

 「じゃあ、リィナは俺以外の奴から選べ。」

 「わ、分かりました……。

 で、では、ラ……」

 不機嫌MAXのライル様の辛辣な視線がリィナに飛ぶ。……あんな視線向けられたら、寿命が縮まりそう。

 「……ジョシュア様で。
 私も最初は不安なので経験のある人がいいです。」

 さすがにリィナもライル様にあの視線を向けられて、ペアになりたいとは言い出せなかったのだろう。

 ……賢明な判断だと思う。

 「オッケー。じゃ、他の奴は好きに組めよー。」

 結局ライル様はユーリと、ウィルガは三年の先輩と組んでいた。


   ◆ ◇ ◆


 「じゃ、今日はまず自分の魔力を意識するところから始める。魔力は全身を常に駆け巡っている。その流れを把握することが第一段階だ。

 それを手っ取り早く知る方法が自分と異なる魔力を体内に流すことだ。」

 異なる魔力を流す……?いったいどうやってそんなことをするんだろう。

 「掌を合わせるだけで、微量な魔力は相手の魔力に引かれて流れ出してくる。
 じゃあ、両手を相手の掌と合わせろ。」

 私のペアは先生なので、みんなの前で先生と向かい合い、両手を合わせる。

 「そうしたら目を瞑って…大きく深呼吸を三回。」

 言われた通り、深呼吸をする。

 「…心と身体を落ち着かせて、相手の掌に感覚を集中させるんだ。すると、じんわりと掌が熱くなってくるはずだ。右手から…身体を巡って…左手へ、その熱が循環していくのをイメージする。」

 ……イメージ。

 「すると、そのうち相手の魔力がどこを巡っているのか分かるようになる。そこまで行けば、もう手を離しても大丈夫だ。自分の魔力の通り道が分かる。」

 そう言って、先生は掌を離した。

 ……まずい。全然分からない。

 「そこまで出来た奴は、自分の魔力を体内で循環させろ。魔力はより多く流した方が通り道が広くなり、スムーズに使いこなせるようになるからな。」

 それぞれが始める。先輩なんかはすぐに手を離しているが、やはり一年には難しい。かくいう私もルフト先生の魔力というものが全く感じ取れなかった。

 「アンナ、焦らなくていい。平常心だ。最初はできなくて構わない。意識することから始めろ。最初からやるぞ?」

 「…はい。」

 私は再びルフト先生と掌を合わせる。

 目を瞑って、深呼吸して……平常心……。

 掌に意識を集中させて……。

 じんわりと掌が熱くなってくる……。

 右手からその熱が入って、身体を循環して、左手から出ていくのをイメージする。

 イメージする……と、どんどん相手の魔力が分かる…。

 ーーーなんてことは無かった。

 「うぅ……分かんない。」

 気付けば、もう授業が終わる時間になっていた。

 「折角先生がお付き合い下さったのに、出来なくて申し訳ありません……。」

 肩を落とし、私が謝罪すると、ルフト先生は、ははっと笑う。

 「これが出来ないなんて、なかなかな問題児だなぁ、お前!」

 ……ショック…!それほどまでに基礎的なことなのか。

 ますます私は肩を落とす。

 ルフト先生は笑いながら、私の頭の上に手を置いた。

 「いいよ。お前なら。」

 私は首を傾げたが、ルフト先生はニッと笑っただけで何も言ってはくれなかった。そして、他のメンバーを見遣ると、大きくため息を吐く。

 「それに、どうやら今年は問題児が多いらしい。」

 その視線の先には目を潤ませるリィナと、苦笑するユーリの姿があった。
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