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第二章 

5.魔力検査

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 今日は魔力検査の日だ。

 新入生一人一人が水晶に触れ、魔力の有無を確認していく。魔力の有無は国の発展にも大きく関わることから、国の重鎮も参加するほど、検査というより厳かな儀式とも言える。

 ゲームの記憶によると、今年の魔力持ちはライル様、ウィルガ、そしてヒロインのリィナの三人だ。

 魔法の属性は四つ、火・水・風・土なのだが、確かライル様が火、ジョシュア様が風、ウィルガが土、リィナが水、魔法の天才とも言われるルフト先生は驚くべきことに二つの属性を有しているらしい、何の属性かは知らないが。

 名前を呼ばれ、一人一人が水晶に触れていく。

 まずはウィルガ。

 ゲームは別として、大きくなった姿を見たのはこれが初めてだ。ウィルガは私のような中途半端な赤茶色ではなく、綺麗な赤髪だ。瞳は焦茶色の深い色をしている。
 まさに見た目はゲームのまま。

 ウィルガが水晶に手を翳すと、水晶の中には緑の大地が映し出される。

 「土属性の魔力を確認しました。」

 国家魔法使いのお爺さんが厳かに告げる。
 会場がおぉ…っとざわめく。

 ウィルガは大して表情を変えることなく降壇する。

 また十何人か水晶に手を翳し、次はリィナだ。今日もとても可愛い。

 緊張した表情で水晶に手を翳す。
 水晶の中には、美しい川が映し出された。

 リィナはそれを見て、嬉しそうに頬を緩めた。

 「水属性の魔力を確認しました。」

 またしても会場がざわめく。属性持ちにざわめいたのか…彼女の可愛すぎる笑顔にざわめいたのか…。
 中には「なんであの子が…」と恨めしそうな声が混ざっていたが。

 次はソフィアだ。

 緊張したように水晶に手を翳すが、水晶は他の生徒と同じように反応しない。ソフィアは毅然としながらも、どこか悲しそうだった。

 ……そんなに魔力が欲しかったのかな?

 私はソフィアがそんなに残念がるのが不思議だった。どこかに嫁ぐだけなら、魔力なんてなくても大して問題は無いと思うのだけど…。

 「ーアンナ・クウェス!」

 ソフィアのことを考えているうちに名前を呼ばれていたらしく、少しきつい口調で名前を呼ばれる。

 「は、はいっ!!」

 慌てて壇上に向かうのを、ユーリがクスクスと笑うのが、横目に見えた。そして、それを面白くなさそうな顔で睨みつけるライル様も。

 私は水晶の前に立ち、手を翳す。何かが映るはずもないと分かってはいるが、緊張する一瞬だ。

 …と、信じられないことに、水晶の中にはメラメラと燃える炎が映った。

 「いや…っ!」

 反射的に炎が怖くて、声を上げて手を引いてしまった。
 不思議な顔をして、皆が注目しているのが分かる。

 国家魔法使いが告げる。

 「…火属性の魔力を確認しました。」

 会場からの反応はない。私は、急いで壇上から降り、席についた。

 ……まさか自分に魔力があるなんて思わなかった。
 それによりによって火属性なんてー。

 頭に先日、炎に囲まれた時の光景が浮かんで、私はそれをかき消したくて、ぎゅっと目を瞑った。身体が震えているのが分かる。

 すると、目の前から声がして、ぎゅっと手を握られた。

 「アンナ。大丈夫?」

 ライル様だった。

 「アンナ、ちょっと休んだ方がいい。ひどい顔色だ。
 すぐに連れて行くからちょっと待ってて。」

 ライル様はそう言うと、待っている人にお願いをして、先に検査をやらせてもらうことにしたらしく、素早く壇上に上がった。

 ライル様は水晶に手を翳すとすぐに引っ込めた。
 水晶の中には一瞬だが炎の海が映った。

 「あ…火属性の魔力を確認しました…!」

 ライル様は私に炎を見せないよう配慮して、すぐに手を引いてくれたのかもしれない。

 ライル様は大して喜びもせず、壇上を降りて、私の元へ戻ってきた。そうすると、お姫様抱っこで抱き上げた。

 「ラ、ライル様…!!」

 「そんな顔色じゃ歩かせるのも心配だ。行くよ。」

 そう言って、私を抱いて、会場を後にする。
 会場中から突き刺さるような視線を感じて、私は顔を隠すようにライル様の肩に顔を埋めた。

 保健室に向かいながら、ライル様が私に尋ねる。

 「……火が怖かった?」

 私はコクンと頷いた。

 「……この前、炎に囲まれた時からなんだか怖くて。
 あと、最近よく夢でも火事に遭うんです。」

 火事に遭うのは決まって知らない場所だ。しかし、恐らくあれは杏奈の家なような気がする。それにこの前、侑李の声が頭の中で響いたのは、杏奈の記憶だったんじゃ無いかと思っている。……杏奈は火災で亡くなったのかも。

 とはいえ、そんなことをライル様に話せないので、夢の話だけすることにした。

 「そうか……。
 嫌な夢を封印する魔法があったらいいのにね。」

 ライル様が冗談を言って、私を落ち着かせてくれる。
 その優しさが嬉しい。

 「……いつも、ありがとうございます。
 でも、こんな風に抱っこまでしてくれて……ライル様はちょっと私に対して過保護ですよね。」

 「アンナに対してはね。大事だから、仕方ない。」

 平然と言いのけるライル様に私は顔に熱が上る。
 ……何度言われても慣れない。それにー

 「私、ライル様に好かれるようなこと、何もしてないのに……。」

 「ふふっ。僕はアンナが何かをしてくれるから、好きなわけじゃないよ。アンナはアンナのままでいいんだ。」

 「私は私のまま……。」

 ライル様の言葉を繰り返してみるものの、ありのままの私のどこがいいのか分からない。

 険しい表情の私を見て、ライル様はクスクスと笑う。

 「いつか話せる時が来たら、ゆっくり聞かせてあげるよ。」

 ライル様はそう言って、チュッとリップ音を立てて、私のこめかみにキスをした。

 「…っもう。」

 ……ライル様は、いつだって優しくて、揺るがずに私を好きだって言ってくれて、大切にしてくれる。この気持ちに私も好きだって返せたら、どんなに幸せだろう…と思う。

 だけど、ライル様を大切だと思う私のこの気持ちさえ悪役令嬢として作られたものかもしれないと思うと…怖い。

 そんなはずないと思っても、私の頭にはいつも愛おしくリィナを見つめて、寄り添うライル様のゲームのラストシーンの表情が浮かぶ。

 そして、同時に落ちた馬車の光景もー。

 好き…だなんて思っちゃいけない。
 私のライル様でいて欲しいなんて思っちゃいけない。

 今はどんなに優しくても、きっとライル様が愛するのはヒロインであり、悪役令嬢ではないのだから。

 私は溢れ出しそうになる自分の気持ちにぐっと蓋をしながらも、ライル様により強くしがみついた。
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