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初デート(2)

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 桃華と別れた俺はフラフラと近くのカフェに入った。

 カフェの一人席に座りながら、外を眺める。やけにカップルが楽しそうに通り過ぎる姿ばかり目に入って、苛つく。…俺もついさっきまでは桃華とああしてたのに。

 街中のカップルから目線を外す。
 俺は頭を抱えた。

 …完全に失敗した。もしかしたら、本気で嫌われたかもしれない。彼女の体調も察することが出来ないで、何が彼氏だ。俺はご主人様としても、彼氏としても失格だ。

 桃華といると楽しくて、嬉しくて、俺の中の色んなものが満たされた。そうすると、どんどん欲張りになっていく。最初は身体から落とせばいいなんて思ってたのに…まだ付き合って間もないのに、身体だけじゃ足りなくなって、桃華の全部が欲しくなる。
 …その結果、暴走した。本当に大馬鹿だ、俺は。


   ◆ ◇ ◆


 私は家に着いて、着替えもせずにベッドに倒れ込む。

 …完全に失敗した。もしかしたら本気で嫌われたかもしれない。自分からご主人様になってとお願いしたくせに、思わぬ形で悪戯されて戸惑った挙句、泣いて賢人さんを困らせるなんて。私は下僕としても、彼女としても失格だ。

 顔を埋めた枕が濡れていく。

 …この前ここで賢人さんに抱いてもらった時はあんなに幸せだったのに。あの時に私も好きですって、彼女にして下さいって言えてたら、こんなことにならなかったのかな。賢人さんは最初から私に熱いくらいの愛情をぶつけてくれていたのに…。また涙が溢れてくる。

 大体賢人さんは私に合わせてくれているだけで、本当はあんな風に弄ったり、激しく抱いたりするのは好きじゃないのかもしれない。でも、私がそうお願いしたから、そういう風に振る舞うしかないんだ。
 映画だって普通に観ようとしてたし、映画までは普通に楽しくデートしてたもの。もしかしたら性的なこと自体あんまり好きじゃない可能性もある。この前はかなり久しぶりって言ってたから、そのせいであんなに相手をしてくれたんだろう…。

 考えれば考えるほど、マイナス思考になってくる。こんなエロい彼女、嫌われて当たり前だ。

 「…賢人さん……会いたい。」

 私は濡れた枕をぎゅうっと抱きしめた。
 自分から帰ったくせに会いたいなんて、本当に大馬鹿者だ、私は。

 …泣き疲れた私は、そのまま眠ってしまった。


   ◆ ◇ ◆


 カフェで意気消沈していた俺は顔を上げて、両手で自分の頬を思いきり叩いた。一つ離れた椅子に座る隣の奴が何事かとこちらを見る。

 俺は決めた。もう過ぎたことを悔やんでも仕方ない。俺が今すべきことは、誠意のある謝罪と、桃華の看病だ。桃華は親から離れて暮らしているし、仲の良い友達も休みが合わず全然会えていないと言っていた。体調が悪い時に一人というのは心細いだろう。
 もし俺の顔が見たくないなら、薬や飲み物を渡すだけでもいい。桃華のために何かしてやりたい。

 スマホを手に取り、桃華にメッセージを送る。

 「今日はありがとう。無事に家には着いたか?

 さっきはすまなかった。体調が悪いのにも気付かず、あんなことをして。

 もし許してもらえるなら看病に行きたい。顔が見たくないなら、せめて差し入れをさせてほしい。ドアに掛けておくから。

 返信待ってる。」

 …送った。暫くスマホを見つめるが、既読もつかない。
 もしかしたら寝ているのかもしれない。しかし、時間が経つ毎に心配になってくる。具合が悪くて途中で倒れたんじゃないかとか、フラフラして事故に遭ったんじゃないかとか…今日は一段と可愛かったんだから誰かに襲われたのかもしれない…!!
 そこまで想像したら、居ても立っても居られなかった。俺は荷物をまとめてカフェを出る。急いで電車に乗って、桃華の家へ向かう。電車のスピードがいつもより遅く感じる。その間もスマホを見つめて、桃華からの返信を待つ。

 くそっ…なんで俺は一人で帰らせたりしたんだ!具合が悪いんだから、本人が遠慮してでも普通送ってくだろ!今日はいくつ失態を重ねれば気が済むんだ。

 自己嫌悪と桃華が心配でおかしくなりそうだった。

 桃華の家の最寄駅に着き、駅前のスーパーで必要そうな物をどんどんとカゴに入れ、レジへ持って行く。こんな時に限って、レジの担当は新人バイトだ。ゆっくり確実に作業をこなすそいつにイライラする。ようやくレジ打ちが終わり、会計を済ませると、買ったものを急いで袋に突っ込み、桃華の家へと急ぐ。

 桃華の家の扉前で深呼吸をする。俺は緊張で震える手でインターホンを押した。

 しかし、反応はない。
 ……どうしようか。俺は迷った。

 実は桃華の家の合鍵は持っている。ご主人様兼彼氏になることが決まった日、「いつ来てもいいですからね!」と桃華が渡してくれたのだ。
 …嫌われているかもしれない今、これを使うのはやっぱり卑怯だろうか。扉の前で唸る。

 でも、やはり桃華が心配だった。桃華の無事を確かめたら帰ればいい…そう自分に言い聞かせ、鍵穴に鍵を差し込み、回した。

 俺はゆっくり扉を開ける。
 室内は物音一つなく静まり返っている。

 「…桃華?大丈夫か?」

 玄関で靴を脱ぎ、奥に入っていくと、桃華はベッドで寝ていた。デートの時の服装のままだ。着替えられないなんて、余程体調が悪いんだろう。とりあえず無事に家に着いて、休んでいるのを確認してほっとする。

 俺はベッドの横に座り、桃華の寝顔を見つめる。
 …涙の跡があるな。やはり今日の出来事が相当ショックだったんだろう。あんな無理矢理弄ったりして…俺は桃華の何を見ていたんだ。唇をぎゅっと噛み締める。

 「…桃華…ごめん。」

 俺がそう呟くと、桃華の瞼がゆっくりと動いた。


   ◆ ◇ ◆


 夢を見ていた。私たちは二人で手を繋いで散歩をしていた。賢人さんも私も笑い合って、本当に楽しそうにしていた。けれど、そこにいかにも可愛らしい純朴そうな女性がやってきて、無邪気に賢人さんの腕に絡みつく。賢人さんはその人を蕩けるような瞳で見つめ、私の手を振り解く。「エロい奴は嫌いなんだ」と言って、その人と去っていってしまった。

 私はひどく悲しくて、その場で座り込み、泣く。
 その時、声がした。

 「…桃華…ごめん。」

 ゆっくりと顔を上げて、目を開くと、そこには賢人さんがいた。…戻ってきてくれたんだ…!

 私は嬉しくて、賢人さんを見つめて、微笑んだ。

 「戻って…来てくれたんですね…。」

 賢人さんは不思議そうな顔をした後に「あぁ」と言って、私の頭を撫でてくれた。でも、私はもっと賢人さんを感じたくて、賢人さんへ手を伸ばした。

 「…賢人さん…。ギュッてして…?」

 賢人さんは少し目を見開いた後に頷いて、ベッドに上がり、私に覆い被さった。私が賢人さんの首に腕を回すと背中に出来た隙間に手を入れて、強く抱きしめてくれた。
 その強さが嬉しくて、私はスリスリと賢人さんの肩に顔を埋めた。

 「…桃華…ごめんな。」

 また、賢人さんが謝る。…私のところに戻ってきてくれたんだから、今はそれでいいの。私はフフッと笑って、賢人さんの顔を見つめる。

 「…じゃあ、キスして。」

 賢人さんの顔が近付き、唇が重なった。最初は優しく触れるだけ。次はもう少し強く。
 はぁ…気持ちいい。賢人さんとくっついているところが全部がゾクゾクする。

 角度を変えて、私たちは何度も何度もキスをする。私も賢人さんの首に回した腕に力を込め、キスを強請る。その時、賢人さんの舌が口内に入ってきた…私も舌を絡ませる…

 って…やけに感覚がリアルだ。唾液が混ざるピチャピチャという音も聞こえる。

 ん?…もしやこれって…

 賢人さんが最後にチュッとキスを落とし、私たちの唇が離れる。私はぼーっと賢人さんを見つめる。私は呟く。

 「……夢じゃない?」

 「…夢?」

 賢人さんは首を傾げる。
 一気に夢から覚醒する。やばい、現実だった!!

 「な、なんで賢人さんがこ、ここに?!」

 私は叫んだ。


   ◆ ◇ ◆


 目を開けた桃華は、俺を確認するとそれはとても嬉しそうに微笑んだ。「戻って来てくれたんですね」となんだかとても喜んでいた。

 戻ってきてくれたって…どういうことだ?
 あぁ、桃華は寝ぼけているのか…。そうじゃなきゃこんな風に俺に笑いかけてくれる訳ないもんな。誰と間違えているのか知らないが(正直元カレとかだったら耐えられないが)…、今は桃華を安心させてやりたかった。

 俺は桃華の頭を撫でた。桃華は猫のように目を細めて、本当に嬉しそうにする。…くそ、桃華をこんな風に喜ばせる奴は誰なんだ!ちゃんと謝ろうと思ってきたのに、俺の中には黒い感情が渦巻く。

 少し頭を撫でると、桃華は俺の方にハグを求めるように手を伸ばす。……まじで誰と勘違いしてるんだよ、と溜息を吐きそうになった時に、桃華は言った。

 「…賢人さん…。ギュッてして…?」

 …え、俺?

 俺は驚きで固まる。なんで俺なんだ?
 というか、桃華は俺の夢を見てたのか?

 …やっばい。超かわいい。
 俺の夢見てるとか…ぎゅっとして欲しいとか…

 俺はベッドに上がり、桃華を抱きしめる。俺が強く抱きしめると、桃華は嬉しそうに「…ん。」と声を漏らす。しかも、俺の肩に顔を埋め、「へへー」と嬉しそうにスリスリしている。
 ほんと破壊力が半端ない。
 桃華が可愛過ぎて、胸が苦しい。

 そんな桃華に俺の下半身が反応する。
 …まったく謝りに来たっていうのに、自分の節操のなさに呆れる。

 「…桃華…ごめんな。」

 俺がそう言うと、桃華は少し笑って俺を見つめた。

 「…じゃあ、キスして。」

 桃華が言う。…あぁ俺もしたい。ずっと今日一日、その柔らかい唇にキスをしたかったんだ。
 俺は桃華に優しくキスをした。少しずつキスを深く、長くしていく。俺たちはキスに夢中になった。

 俺が口内に舌を滑り込ませると、桃華も舌を絡ませてくる。もっと…もっと…桃華を味わいたい。

 「んっ…ふぅん…。」

 桃華の声が俺の中に響く。

 でも、さっきの件をうやむやにしてこのまま桃華を抱くわけにはいかない。それに、桃華は体調を崩してるんだから、無理させるわけにはいかなかった。

 俺は最後にキスを落とし、離れた。
 桃華はぼーっと俺を見つめて言う。

 「……夢じゃない?」

 「…夢?」

 俺は首を傾げる。…まさかハグやキスまでしたのに、まだ夢だと思ってたのか?
 桃華は次の瞬間、目を丸くして、叫んだ。

 「な、なんで賢人さんがこ、ここに?!」

 …俺は「ぷっ」と吹き出してしまう。

 「ははっ!ずっと夢だと思ってたのか?」

 「……はい。」

 恥ずかしそうに桃華は俺から目を逸らした。
 俺はコツンと額を合わせ、桃華に聞いた。

 「どんな夢を見てた?」

 桃華は少し黙った後、口を開いた。

 「賢人さんが他の女の人のところに行っちゃう夢…。」

 あからさまにシュンとしている。可愛い。

 「馬鹿だな。そんなわけ無いだろ。
 …桃華のことが愛しくて胸が苦しいくらいなのに。」

 桃華は俺の瞳をじっと見つめる。

 「…本当に?
 こんなに面倒でエロい女、嫌にならない?」

 「面倒だなんて思ったことない。エロいところも含めて、全部好き。嫌になるなんてあるはずない。どんどん好きになって困るくらいなのに。

 …桃華の方こそ、体調不良にも気付かない不甲斐ない俺に幻滅したんじゃない?しかも、映画館で勘違いして暴走したし…。本当にごめんな…。」

 俺は桃華から離れて、ベッドの上に座った。
 桃華も身体を起こす。すると桃華は、バッと勢いよく頭を下げた。

 「ご…ごめんなさい!!
 体調不良って言うのは嘘なんです!!

 …私、賢人さんに嫌われるのが怖くて…もう彼氏辞めるって言われると思って…それが聞きたくなくて、嘘ついて帰ったんです。」

 …意味が分からない。なんで、俺が桃華を嫌うとか彼氏を辞めるとかいう話になってるんだ?俺は桃華に愛情を伝えてきたつもりだし、ご主人様でなく彼氏になりたいと頼んだのも俺からなのに。
 とりあえず、かなりお互いの認識がすれ違っていそうなので、ちゃんと話さなくては。

 「えっと…なんで、彼氏辞めるって言われると思ったの?」

 桃華は、少し迷った後に口を開いた。

 「……映画館で触ってくれた時、触り方が…いつもと違ったから…。なんか投げやりな感じで、優しくなかったから…。私の趣味に合わせてくれてるのかとも思ったけど…前回は激しかったけど丁寧に触ってくれてた。

 だから…もう私のこと面倒になったんだと思って。嫌われちゃったんだと思って…。」

 話しているうちにみるみる桃華の瞳に涙が溜まっていく。
 …俺は映画館の時の自分を殴ってやりたかった。何、悲しませるような弄り方をしてるんだ、と。

 俺は桃華に近づき、涙を拭いた。

 「そうだったんだな…でも、俺は桃華のことが大好きだし、面倒になんて思わない。

 映画館のは…その、苛ついたんだ。それを桃華にぶつけてしまった。本当にごめん。」

 俺は頭を下げる。桃華の戸惑いを含んだ声が聞こえる。

 「苛ついた…?」

 「あぁ。桃華は俺のことをご主人様として好いてくれてるだろう?始まりはそれでもいいかと思ってたはずなのに、桃華と付き合ううちにもっと俺を好きになればいいのにって思った。ご主人様なんかじゃなく、ちゃんとした彼氏になりたいって。

 だけど、桃華は映画館で俺を見てくるから、悪戯して欲しいんだと思った。やっぱり俺は桃華にとってはご主人様止まりで、彼氏として好きじゃないんだと思ったら、イライラした。それで…ごめん。」

 室内に沈黙が流れる。

 先に口を開いたのは桃華だった。

 「それって、私のことが好きだから、ちゃんとした彼氏になりたいと思ってたってことですか?」

 「あぁ。」

 「ご主人様じゃなくて、彼氏に?」

 「……あぁ。でも、桃華が本当に俺のことを好きだと思えるまではー」

 「好きです!!!」

 「……え?」

 「賢人さんのことが好きなんです!!
 ご主人様とか関係なく、一人の男性として!!」

 「……え?ほんとに?」

 「ほんとです!!今日も映画館で映画そっちのけで賢人さんばかり見てたのは、賢人さんがかっこよくて…手を握ったのも少しでも触れていたかっただけなんです。」

 …驚き過ぎてすぐには信じられなかった。
 でも、桃華は頬を染め、くりくりした瞳で俺を見つめてくる。真っ直ぐなその眼に嘘はなかった。

 俺は桃華に近付き、自分の腕で桃華を囲った。

 「ありがとう…すごく、嬉しい。
 …俺も桃華が好きだ。どんどん好きになる。

 改めて、俺と付き合ってくれませんか?」

 桃華は潤んだ目で俺を見つめて、頷いた。

 「…はい。私の彼氏になってください。

 私も賢人さんが大好きです。」

 俺たちはクスクスと笑い合って、キスをした。


   ◆ ◇ ◆


 「なんでここに?!」と叫んだ私を見て、賢人さんは笑った。夢だったと思ってたことを白状すると、どんな夢を見たのかと聞かれた。

 正直に話したら、嫌な気持ちにさせちゃうかな…と思い、迷ったが、「賢人さんが他の女の人のところに行く夢」だと話した。すると、賢人さんは笑って言った。

 「馬鹿だな。そんなわけ無いだろ。
 …桃華のことが愛しくて胸が苦しいくらいなのに。」

 …私のことが愛しくて胸が苦しい?そんな風に思ってくれてたの?私はどうしても信じきれなくて、賢人さんの瞳をじっと見つめて、尋ねた。

 「…本当に?
 こんなに面倒でエロい女、嫌にならない?」

 賢人さんは私の目を真っ直ぐに見つめ返して、面倒じゃないって。全部が好きだって言ってくれた。

 賢人さんは話し続ける。

 「…桃華の方こそ、体調不良にも気付かない不甲斐ない俺に幻滅したんじゃない?しかも、映画館で勘違いして暴走したし…。本当にごめんな…。」

 …私が体調不良だって嘘ついたせいで賢人さんがそんな風に思ってたなんて。私は自分のことしか考えられてなかった。謝るのは私の方なのに、賢人さんに謝らせてしまった…!

 賢人さんは私から離れて、ベッドの上に座る。
 私も慌てて身体を起こす。そして、バッと頭を下げた。

 体調不良が嘘だと謝罪し、帰った理由を説明すると、賢人さんは唖然としている。…どうしたんだろ?

 「えっと…なんで、彼氏辞めるって言われると思ったの?」

 賢人さんは意味が分からない様子だった。
 私は、迷いながらも口を開いた。

 映画館で触ってくれた時、触り方が投げやりで優しくなかったと感じたと正直に伝えた。無理矢理が好きだと最初に言ってたくせにとんだ矛盾だ。私は言葉を続ける。

 「だから…もう私のこと面倒になったんだと思って。嫌われちゃったんだと思って…。」

 話していて、賢人さんが私を面倒だと…嫌いだと言う映像がさっきの夢と被って脳裏に浮かび、つい視界が涙で歪む。賢人さんはその涙を拭ってくれた。

 「そうだったんだな…でも、俺は桃華のことが大好きだし、面倒になんて思わない。

 映画館のは…その、苛ついたんだ。それを桃華にぶつけてしまった。本当にごめん。」

 賢人さんはそう言って頭を下げる。なににそんなに苛ついていたんだろう…映画館に入るまで、そんな素振りは見せなかった。私の疑問に賢人さんは丁寧に答えてくれた。

 ご主人様じゃなくて、ちゃんと彼氏になりたいって。
 彼氏として好かれてないと思ったらイライラしたって。

 それって、私と同じこと考えてたってことだよね…?こんなに都合の良いことがあるかな?まだ夢だったりしないよね?
 あまりの嬉しさに情報が上手く飲み込めない。
 私はちゃんと確認したくて、震える声で賢人さんに訊ねる。

 「それって、私のことが好きだから、ちゃんとした彼氏になりたいと思ってたってことですか?」

 「あぁ。」

 本当なんだ!嬉しい!!信じられなくてまた確認する。

 「ご主人様じゃなくて、彼氏に?」

 「……あぁ。でも、桃華が本当に俺のことを好きだと思えるまではー」

 私は食い気味に答えた。しかも、ちゃんと聞こえるようにはっきりと。

 「好きです!!!」

 「……え?」

 賢人さんが驚いている。またすれ違ったりしないよう、私ははっきりと言い切る。一人の男性として、賢人さんが好きだと。

 「……え?ほんとに?」

 まだ疑う賢人さんに映画館でどんなことを考えて過ごしていたか熱弁した。

 「ほんとです!!今日も映画館で映画そっちのけで賢人さんばかり見てたのは、賢人さんがかっこよくて…手を握ったのも少しでも触れていたかっただけなんです。」

 賢人さんへの想いを込めて、真っ直ぐに見つめる。すると、賢人さんは私を捕まえるように両手で囲ってくれた。

 賢人さんが口を開く。

 「ありがとう…すごく、嬉しい。
 …俺も桃華が好きだ。どんどん好きになる。

 改めて、俺と付き合ってくれませんか?」

 嬉しい。私は視界が滲むのを感じながら、答える。

 「…はい。私の彼氏になってください。

 私も賢人さんが大好きです。」

 お互いに気持ちを伝え合った私たちは、再び唇を重ねた。私は賢人さんに尋ねる。

 「エッチなのも嫌いじゃないですか?」

 「あぁ、嫌いなわけ無い。
 前回の俺はイヤイヤやってるように見えた?」

 私は首を横に振る。

「でしょ?そういうこと。

 …ずっと桃華の中に戻りたかった。」

 そう言って、賢人さんは私の髪を一房取り、鋭く私を見つめながら、その髪にキスを落とした。

 …エロい。あの目が堪らない。
 かっこいいよー!!!

 私は息をするのも忘れて、心の中でキャーキャーしていた。

 「桃華?」

 そう呼びかけられて、私はハッとした。

 「ご、ごめんなさい。
 あ、あの…嬉しいです。たくさん…シて?」

 私がそう言うと、賢人さんは私を抱き寄せ、こめかみ、頬、瞼、額…と顔中にキスを落とす。

 「あぁ…。たくさん、シような?」

 賢人さんはそう言うと唇を舐めた。
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