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58、望海
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「暗えとこで時々光って見えんのは、」
ダンスに誘う時のような、意外な優雅さで手を取られ、けれど、何の優雅なこともなく、傍の幹に向いて手をつかされ、少し目を伏せる。
森に隠されたとはいえ、屋外で、裸の背を晒すに任せる心許なさ。
観察の続きのように、間を置いてザッとアギレオが横にずれる足音。その向こうに、焚き火の音と仄かな熱。
「色が白えからかと思ってたが、元々星の光だからなのか?」
腰の裏に手を置かれ、少し背が伸び。溢れそうになった吐息を隠し、そっと逃がして。
「古い話を知っているんだな。わ、…私は、それよりずっと後の、……、エルフ、から、生まれたエルフで…」
光から生まれたもの、というには遠い。地上の生き物だ、と説明する言葉も、意味も、溶けていくようで。
背中から腰の裏を不規則に往復する掌の感触に、息が乱れる。腰の裏からその脇へと、包んで腰骨を丸めるような繊細な動きに背が浮くのをこらえ、額を下げる。
わざと薄く、肌から離れるかの淡さで尻を通る掌から、温度ばかりが伝わる。そこに手があることで意識される、触れられているその奥に意識が向いて。
ひどくゆっくりと肌の上を巡っているアギレオの掌よりも、次第に自分の身体の方が内からも外からも大きく動き、うねるようで。木の幹に額を擦りつけ、息を大きく吸って吐いて、足掻き。
トントン、と、指先で腿の内側をノックされ、促されて脚を開く。
合わさっていたものが開き、触れていたものが離れ、外部へと晒され外気に触れる性器と尻の穴が、疼く。
「ハル、チンポは勃ってっし尻はヒクヒクしてるが、どうして欲しいんだ?」
「……!」
曖昧な熱と疼きの渦が、アギレオの言葉に形を成して、勃起したペニスの高揚と、疼いてうごめく尻の穴と、その奥の切なさとして意識され、身体につながる。
性的快感を求める肉体が具現化されて、重く体感にぶら下がる。
「い、入れてくれ…」
クッと喉の奥に転がすような笑い声が聞こえて、それから、尻の肉の間の窄まったところに、濡れた指が触れるのに小さく声を上げる。
入り口を濡らされ、浅い場所を丁寧に揉み解されるのが悦く、けれど、まるで物足りない。
「っ、アギレオ…、はや、く…」
肩から身をひねるようにして振り返り、ン?と構わず片笑いしているアギレオの胸から辿って、樹から離した片手で股間の膨らみを握ってやる。
己は既に全裸だというのに、まだそのまま服を着ているのが忌々しい。
「ッ、」
「はやく……アギレオ、…なあ、…はやく、い、れてくれ……」
「待ッ、てめ…ッ」
わざとだな、と牙を剥くのに、笑ってやれているかは定かでないが。
己のために丁寧に尻の穴を開いてくれていると知っていながら、アギレオの腰帯を解き、前を寛げさせて手を突っ込み、熱く勃起しているペニスを掌と指でよくよく可愛いがってやる。
「クソッ、手前ェ、この、」
もういいという判断なのか、まんまと音を上げさせてやれたものか、指を引き抜かれ、その乱暴さに思わず喉がひきつって。
襲いかかるよう伸びてくる手の隙を掻い潜り、幹から手を離してアギレオの方に向きを変える。
上げかけた脚を引ったくるように抱えられ、背を掴まれて。
「あッ、グ…!」
よくよく固く太らせたペニスを尻の穴に突き刺され、ヒリとした小さな痛みと、突き上げられる衝撃に思わず呻く。
「あっ! あっあっ、あ、」
けれど、沼に沈むようずぶずぶと、擦れて奥へ刺さっていく熱の杭はなめらかで、甘い苦しさに頭が溶け、ペニスの先が濡れて滴る。
「…ったく、悪さしやがって…」
「は、あ、ああ、……あっ、そ、い、」
そう言っただろう、と、頭の隅には浮かんでいるのだが、ごくよく知った律動が身の内に刻みつけられる快さばかりが膨らみ、言葉にならない。
「ん、う、…ふぅ、…ん」
気持ちいい。
満たされた気持ちで、どこにあるのか見失った手を手繰り、アギレオの髪に手を突っ込む。
顔を撫で、頭を撫で回し、無事な角と折れた角とを、掌と指で確かめ、後ろ髪を両手で抱いて引き寄せ。
ン?と、声しながら、緩衝に掌を挟んで木の幹に寄りかからされ、身体が安定する。自分の男の優しい仕草に、胸はゆるんで血は熱く。
唇をねだってついばみながら、地に着いた片足を踏み締め直し、持ち上げられた脚をしっかりと開いて、動きやすくしてやる。
的確に率直な快楽ばかりを掘り起こし、速度もゆるめない動きは、長く続けるつもりがないからなのだろう。
遠慮無くこらえず身を熱くして、腰をゆすって貪り、手短のように勝手に極まって。
出すぜ、と低く抑えたような声に高揚感をおぼえながら、絡めた脚を引き寄せ、太い首を抱いてしっかりと身を寄せ。
腹の中に射精される熱が、伝わっていると訴えるよう、褐色の首に噛みついた。
低く呻く声を聞きながら、尻の奥へ放出される熱さに身悶え、やたらに身体を擦りつけて。
天地が揺れて、星が動く。
木の葉と枝の屋根の間から見える星が瞬き、失せて、ふいに重くなった身を手足を着いて支え。四つ這いにさせられた姿勢で振り返り、尻の後ろで膝立ちになっているアギレオに、胸の内が跳ねた。
「さあて、」
まだ痺れたままの尻をパチンと弾かれ、肩が跳ねる。
「悪さするエルフにゃ、ちっと躾がいるようだな?」
笑う顔は見えぬだろうが、いらない、と頭を振って答え。
「あ! ああ…!」
けれど無論、容赦なく再び突き刺されて、声を上げた。
小鳥の声が心地良く耳をくすぐり、瞼の横辺りから差し込む明るさに、目を開く。
昨夜“はじめのエルフ”の話を聞いたからなのか、最初の頃は家など持たなかったという、ほんとうに星の光から生まれた、昔々のエルフ達の姿が頭にチラつく。
木陰で雨をしのぎ、根と幹に抱かれて眠り、木漏れ日で目を覚ましたという彼ら。
そういえば樹の幹に似ていないだろうか、と、褐色の逞しい首に鼻先をすりつけ、ハッと、そこで急激に目が覚める。
ガバ、と身を起こして辺りを見回し、木々の葉の間から零れる陽の光が、高い位置から注いでいるのに声を失う。
んン…?などと、むずかるような声を落として、伸びをしているアギレオの動きも、伸びきったところで止まり。
「……うん……こりゃ、駄目なやつだな…」
アギレオの声に、額を押さえて項垂れる。
「こんなことをしていては、いつまで経っても辿り着かないな……」
夜更けまではしゃいで二人でじゃれ合い、陽はずいぶん高くなっていて、二人とも全裸だ。
愚かに過ぎる…と、己の浅はかさに呆れ返って。
「…少し、控えよう…」
冷たい水で二人で身体を流し、支度をして、しんみりとしながら馬に揺られる。
ククッと喉笑いしているアギレオは図太いが、それでも充分に苦笑いの類だ。
「おー。何するにしても、せめて馬ァ休める時間で留めてえとこだな」
まったくだ、と、ため息まじりに改めて頷き。
「みなに留守を任せてこれでは、あまりに申し訳ない…」
真面目かよ、と、笑われるのに、そういう問題ではないだろうと頭を振って。
「ま。港に着きゃ、これがまたどうなるかってのがあるからな。それまでちっと、おしとやかに行くとするか」
楽しかったけどな、と笑い飛ばすような声に、やれやれとアギレオを横目で振り返り。それでも、まあ楽しかった、と、腹の内に隠して同意した。
星を見上げ、森の中で裸になってはしたなく振る舞って。陽が高くなってから、そのまま裸で目を覚ます心地良さ。
きっと、王都にいた頃の自分であれば、思いつかなかったことばかりだ。
アギレオの言ったような“おしとやか”な行程とはいかないまでも、その先は馬の脚に負担をかけぬ程度に、けれど行軍めいて効率良く先へ進むことに専念し。
辿り着いた港町の賑わいが見えてくるだに、目を瞠り、胸は躍る。
ビーネンドルフも賑やかなところで、何よりも、自分の生まれ育った王都は、おそらく大陸で最も大きな都市といえる。
けれど、人と物が忙しなく行き交い、男も女も荒っぽく、どこか明け透けで、その明るさは充分に比類ないように思えた。
「すごいな…! クリッペンヴァルトのもっと近く、東にも港はあるのだが、規模がまるで違う」
ああー、と頷き、降りて歩くぜとアギレオに促されて馬から降りる。
「馬の荷から目ェ離すなよ。物盗りの手と足の速さとくりゃ、俺やリーよりよっぽどだぜ」
それもすごいな、と、思わず興奮のまま頷いて、荷が常に目に入るようにと馬に先立たず横に並ぶように歩く。
「クリッペンヴァルトの東の海ったら、行先は島だろ? あそこは島との往来と漁師の港だ、大陸に行く船がある西とじゃ規模が違う」
なるほど、と、頷きを繰り返して重ね、興味深く、往来するヒトや物や、飛び交う声に目を配る。全てが多種多様で、まさしく、胸が躍るような活気だ。
なんでも金次第だというアギレオに任せて、予想よりも堅牢そうな宿に馬と荷を預け、武器だけを身に着けて再び街中へと歩き出す。
「さて。必要なモンは、西に行く船と、馬の買い手だな」
食料や水はどうだろうと首を傾げれば、船の着く先も港だと言われて、なるほどと内心膝を打つ。顎をしゃくられ、瞬き。
「お前みてえなのが何か欲しいと言や、どいつもこいつも、持ってる持ってる自分のとこで買えっつうが、5人に4人は金だけ持ってトンズラのつもりだ。まず実物を見せろつって、見ても決めずに明日また来るとでも言っとけよ」
分かった、と、喚起される注意と、アギレオが思い描いているだろう筋書きを頭に入れ。うん?と、また首を傾いでしまう。
「別々に行動するのか?」
「何年もここに来てねえから、ずいぶん様子が変わっちまってる。誰がどうしてんのかザッとでも把握しねえと、港ってのは意外と厄介にできてんだ」
「厄介?」
「誰がシメてるとか、どの船が幅効かせてるとかな。海渡るったら、何日も船の上だ、下手掴むとげんなりするぜ」
なるほど、と、言いたいところだが、今ひとつ、どういう様子なのかピンとこず。首をひねっているのを笑われ、肩を竦めた。
「様子が知りてえって話さ。俺についてきても構わねえし、遊んできて面白えもんでも見たら教えてくれってこった」
今度こそ、なるほど、と頷いて返す。様子が知りたい、という、その様子を知らねば、その先を決めかねるということだろう。
ダンスに誘う時のような、意外な優雅さで手を取られ、けれど、何の優雅なこともなく、傍の幹に向いて手をつかされ、少し目を伏せる。
森に隠されたとはいえ、屋外で、裸の背を晒すに任せる心許なさ。
観察の続きのように、間を置いてザッとアギレオが横にずれる足音。その向こうに、焚き火の音と仄かな熱。
「色が白えからかと思ってたが、元々星の光だからなのか?」
腰の裏に手を置かれ、少し背が伸び。溢れそうになった吐息を隠し、そっと逃がして。
「古い話を知っているんだな。わ、…私は、それよりずっと後の、……、エルフ、から、生まれたエルフで…」
光から生まれたもの、というには遠い。地上の生き物だ、と説明する言葉も、意味も、溶けていくようで。
背中から腰の裏を不規則に往復する掌の感触に、息が乱れる。腰の裏からその脇へと、包んで腰骨を丸めるような繊細な動きに背が浮くのをこらえ、額を下げる。
わざと薄く、肌から離れるかの淡さで尻を通る掌から、温度ばかりが伝わる。そこに手があることで意識される、触れられているその奥に意識が向いて。
ひどくゆっくりと肌の上を巡っているアギレオの掌よりも、次第に自分の身体の方が内からも外からも大きく動き、うねるようで。木の幹に額を擦りつけ、息を大きく吸って吐いて、足掻き。
トントン、と、指先で腿の内側をノックされ、促されて脚を開く。
合わさっていたものが開き、触れていたものが離れ、外部へと晒され外気に触れる性器と尻の穴が、疼く。
「ハル、チンポは勃ってっし尻はヒクヒクしてるが、どうして欲しいんだ?」
「……!」
曖昧な熱と疼きの渦が、アギレオの言葉に形を成して、勃起したペニスの高揚と、疼いてうごめく尻の穴と、その奥の切なさとして意識され、身体につながる。
性的快感を求める肉体が具現化されて、重く体感にぶら下がる。
「い、入れてくれ…」
クッと喉の奥に転がすような笑い声が聞こえて、それから、尻の肉の間の窄まったところに、濡れた指が触れるのに小さく声を上げる。
入り口を濡らされ、浅い場所を丁寧に揉み解されるのが悦く、けれど、まるで物足りない。
「っ、アギレオ…、はや、く…」
肩から身をひねるようにして振り返り、ン?と構わず片笑いしているアギレオの胸から辿って、樹から離した片手で股間の膨らみを握ってやる。
己は既に全裸だというのに、まだそのまま服を着ているのが忌々しい。
「ッ、」
「はやく……アギレオ、…なあ、…はやく、い、れてくれ……」
「待ッ、てめ…ッ」
わざとだな、と牙を剥くのに、笑ってやれているかは定かでないが。
己のために丁寧に尻の穴を開いてくれていると知っていながら、アギレオの腰帯を解き、前を寛げさせて手を突っ込み、熱く勃起しているペニスを掌と指でよくよく可愛いがってやる。
「クソッ、手前ェ、この、」
もういいという判断なのか、まんまと音を上げさせてやれたものか、指を引き抜かれ、その乱暴さに思わず喉がひきつって。
襲いかかるよう伸びてくる手の隙を掻い潜り、幹から手を離してアギレオの方に向きを変える。
上げかけた脚を引ったくるように抱えられ、背を掴まれて。
「あッ、グ…!」
よくよく固く太らせたペニスを尻の穴に突き刺され、ヒリとした小さな痛みと、突き上げられる衝撃に思わず呻く。
「あっ! あっあっ、あ、」
けれど、沼に沈むようずぶずぶと、擦れて奥へ刺さっていく熱の杭はなめらかで、甘い苦しさに頭が溶け、ペニスの先が濡れて滴る。
「…ったく、悪さしやがって…」
「は、あ、ああ、……あっ、そ、い、」
そう言っただろう、と、頭の隅には浮かんでいるのだが、ごくよく知った律動が身の内に刻みつけられる快さばかりが膨らみ、言葉にならない。
「ん、う、…ふぅ、…ん」
気持ちいい。
満たされた気持ちで、どこにあるのか見失った手を手繰り、アギレオの髪に手を突っ込む。
顔を撫で、頭を撫で回し、無事な角と折れた角とを、掌と指で確かめ、後ろ髪を両手で抱いて引き寄せ。
ン?と、声しながら、緩衝に掌を挟んで木の幹に寄りかからされ、身体が安定する。自分の男の優しい仕草に、胸はゆるんで血は熱く。
唇をねだってついばみながら、地に着いた片足を踏み締め直し、持ち上げられた脚をしっかりと開いて、動きやすくしてやる。
的確に率直な快楽ばかりを掘り起こし、速度もゆるめない動きは、長く続けるつもりがないからなのだろう。
遠慮無くこらえず身を熱くして、腰をゆすって貪り、手短のように勝手に極まって。
出すぜ、と低く抑えたような声に高揚感をおぼえながら、絡めた脚を引き寄せ、太い首を抱いてしっかりと身を寄せ。
腹の中に射精される熱が、伝わっていると訴えるよう、褐色の首に噛みついた。
低く呻く声を聞きながら、尻の奥へ放出される熱さに身悶え、やたらに身体を擦りつけて。
天地が揺れて、星が動く。
木の葉と枝の屋根の間から見える星が瞬き、失せて、ふいに重くなった身を手足を着いて支え。四つ這いにさせられた姿勢で振り返り、尻の後ろで膝立ちになっているアギレオに、胸の内が跳ねた。
「さあて、」
まだ痺れたままの尻をパチンと弾かれ、肩が跳ねる。
「悪さするエルフにゃ、ちっと躾がいるようだな?」
笑う顔は見えぬだろうが、いらない、と頭を振って答え。
「あ! ああ…!」
けれど無論、容赦なく再び突き刺されて、声を上げた。
小鳥の声が心地良く耳をくすぐり、瞼の横辺りから差し込む明るさに、目を開く。
昨夜“はじめのエルフ”の話を聞いたからなのか、最初の頃は家など持たなかったという、ほんとうに星の光から生まれた、昔々のエルフ達の姿が頭にチラつく。
木陰で雨をしのぎ、根と幹に抱かれて眠り、木漏れ日で目を覚ましたという彼ら。
そういえば樹の幹に似ていないだろうか、と、褐色の逞しい首に鼻先をすりつけ、ハッと、そこで急激に目が覚める。
ガバ、と身を起こして辺りを見回し、木々の葉の間から零れる陽の光が、高い位置から注いでいるのに声を失う。
んン…?などと、むずかるような声を落として、伸びをしているアギレオの動きも、伸びきったところで止まり。
「……うん……こりゃ、駄目なやつだな…」
アギレオの声に、額を押さえて項垂れる。
「こんなことをしていては、いつまで経っても辿り着かないな……」
夜更けまではしゃいで二人でじゃれ合い、陽はずいぶん高くなっていて、二人とも全裸だ。
愚かに過ぎる…と、己の浅はかさに呆れ返って。
「…少し、控えよう…」
冷たい水で二人で身体を流し、支度をして、しんみりとしながら馬に揺られる。
ククッと喉笑いしているアギレオは図太いが、それでも充分に苦笑いの類だ。
「おー。何するにしても、せめて馬ァ休める時間で留めてえとこだな」
まったくだ、と、ため息まじりに改めて頷き。
「みなに留守を任せてこれでは、あまりに申し訳ない…」
真面目かよ、と、笑われるのに、そういう問題ではないだろうと頭を振って。
「ま。港に着きゃ、これがまたどうなるかってのがあるからな。それまでちっと、おしとやかに行くとするか」
楽しかったけどな、と笑い飛ばすような声に、やれやれとアギレオを横目で振り返り。それでも、まあ楽しかった、と、腹の内に隠して同意した。
星を見上げ、森の中で裸になってはしたなく振る舞って。陽が高くなってから、そのまま裸で目を覚ます心地良さ。
きっと、王都にいた頃の自分であれば、思いつかなかったことばかりだ。
アギレオの言ったような“おしとやか”な行程とはいかないまでも、その先は馬の脚に負担をかけぬ程度に、けれど行軍めいて効率良く先へ進むことに専念し。
辿り着いた港町の賑わいが見えてくるだに、目を瞠り、胸は躍る。
ビーネンドルフも賑やかなところで、何よりも、自分の生まれ育った王都は、おそらく大陸で最も大きな都市といえる。
けれど、人と物が忙しなく行き交い、男も女も荒っぽく、どこか明け透けで、その明るさは充分に比類ないように思えた。
「すごいな…! クリッペンヴァルトのもっと近く、東にも港はあるのだが、規模がまるで違う」
ああー、と頷き、降りて歩くぜとアギレオに促されて馬から降りる。
「馬の荷から目ェ離すなよ。物盗りの手と足の速さとくりゃ、俺やリーよりよっぽどだぜ」
それもすごいな、と、思わず興奮のまま頷いて、荷が常に目に入るようにと馬に先立たず横に並ぶように歩く。
「クリッペンヴァルトの東の海ったら、行先は島だろ? あそこは島との往来と漁師の港だ、大陸に行く船がある西とじゃ規模が違う」
なるほど、と、頷きを繰り返して重ね、興味深く、往来するヒトや物や、飛び交う声に目を配る。全てが多種多様で、まさしく、胸が躍るような活気だ。
なんでも金次第だというアギレオに任せて、予想よりも堅牢そうな宿に馬と荷を預け、武器だけを身に着けて再び街中へと歩き出す。
「さて。必要なモンは、西に行く船と、馬の買い手だな」
食料や水はどうだろうと首を傾げれば、船の着く先も港だと言われて、なるほどと内心膝を打つ。顎をしゃくられ、瞬き。
「お前みてえなのが何か欲しいと言や、どいつもこいつも、持ってる持ってる自分のとこで買えっつうが、5人に4人は金だけ持ってトンズラのつもりだ。まず実物を見せろつって、見ても決めずに明日また来るとでも言っとけよ」
分かった、と、喚起される注意と、アギレオが思い描いているだろう筋書きを頭に入れ。うん?と、また首を傾いでしまう。
「別々に行動するのか?」
「何年もここに来てねえから、ずいぶん様子が変わっちまってる。誰がどうしてんのかザッとでも把握しねえと、港ってのは意外と厄介にできてんだ」
「厄介?」
「誰がシメてるとか、どの船が幅効かせてるとかな。海渡るったら、何日も船の上だ、下手掴むとげんなりするぜ」
なるほど、と、言いたいところだが、今ひとつ、どういう様子なのかピンとこず。首をひねっているのを笑われ、肩を竦めた。
「様子が知りてえって話さ。俺についてきても構わねえし、遊んできて面白えもんでも見たら教えてくれってこった」
今度こそ、なるほど、と頷いて返す。様子が知りたい、という、その様子を知らねば、その先を決めかねるということだろう。
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