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28、再出発
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「…すまなかった…なんという、酷い主だ、私は……」
苦楽を共にしたといっても過言ではない、自分の馬を殺しかねなかった。
何人ならエルフが死んでもいいのか、と、王に問われた言葉を思い出し、腹の底から自分が情けなくなる。
「…すまない。すまなかった、スリオン。…もう少し、ここにいてくれ」
お前が生きていてよかった、と、囁きながら額同士を短く擦り合わせ、馬房に背を向ける。
「ありがとう、アェウェノール殿。スリオンはこのまま預かってもらえるか。用意してくれた馬を借りていきたい」
はい、もちろん。と、答えたアェウェノールが、だが、すぐに足を向けずにこちらを向いたままなのに、改めて彼の顔を見る。
「ハルカレンディア殿。お急ぎのようですが、それなら、境の森までの道中、また馬を替えましょう」
「…どういうことだ?」
「西の方向でしたら、顔の利く馬屋があります」
言いながらアェウェノールが振り返り、西の方を指さすのを、目で追う。
「…間で二度馬を替えましょう。それなら、駆けさせても馬を潰しはしませんし、それが一番早く着けるはずです」
私がお供しましょう、と、当然だとでも言わんばかりの軽い口調でアェウェノールが言うのに、目を丸くしてしまう。
今度は、意味は、解る。
馬に負担をかけぬよう、休ませながらいく通常の道のりなら、王都から境の森までは3晩かかる。早く着くためには速く駆けさせ、しかも休ませなければ馬の駆ける速度のままで辿り着くことができる。
だがもちろん、それほど長く走り続けられる馬は稀で、そんな無茶をすれば馬が潰れることすらある。
それを、途中で別の馬に乗り換え、駆けられる間にまた次の馬へと乗り継げば、走り続けたように早く目的地へと至る。
理屈も方法も、驚くようなことではないが。
「申し出はありがたい。だが、アェウェノール殿も、ここでの務めがあるだろう」
「厩番は私だけではありませんから」
ではこの馬とこの馬、と、馬を選び鞍を掛けているアェウェノールの背を、少し呆気にとられるように見つめ。
「それは、そうだろうが…」
何故そこまで、と、思いがけない親切に、ありがたくもやはり驚きの方が勝ったまま、馬房から出される馬に跨がり。
「私はあなたに、助けられたことがあるのです」
馬を並べて進めながら、えっ?と、思わず間の抜けた声が出るのに、アェウェノールが、覚えていらっしゃらないでしょうね、と笑う。
アェウェノールの語るところによれば、100年も前の戦の時だそうだ。
激しい戦で多くの死傷者を出し、彼もまた、戦闘中に深く背中を斬りつけられ、このまま命を終えるかもしれぬと、覚悟を決めていたところだったという。
間もなく、戦闘が終わったらしい様子が遠くから伝わり、アェウェノールは胸を撫で下ろした。
だが、負傷者を救ってまわる治癒師は魔術師の中でもさらに貴重な存在であり、数も少ない。背では自らの手で傷を押さえることもままならない。間に合わねばそれも天命だろうと、ただぼんやり、時が経つ中にあるばかりだったそうだ。
「そこへ現れたあなたは、私の傷の処置をしてくださっただけでなく、肩を貸して、半ば担ぐように治癒師の元まで運んでくださいました」
「それは、…」
柔らかく、けれど噛み締めるようにそう締めくくられる話に、言葉を失ってしまう。
「戦場で、可能な限り仲間に手を貸すのは当然のことだ。恩に着てもらうほどでは…」
いいえ、と、笑う声を、騎馬のまま目だけで少し、振り返り。
「止血の処置だけしていただいたら、いずれ治癒師が現れたでしょう。そのまま捨て置かれても、あなたに命を救われたことには違いない。けれどハルカレンディア殿、」
名を呼ばれ、同じく向けられるアェウェノールの目が、頷く。
「連隊長であり、指揮官を務めるあなたが、なぜ一兵卒である私にそこまでしてくれるのかと、尋ねたのです」
続けられた問いの方がむしろ意外で、答えは簡単だ。
そうしてそれが、次のアェウェノールの声と重なる。
「あなたは私の方を向くことすらなく、簡単な問答のようにあっさりと教えてくれました。――戦闘は終わった、役職は関係ない。負傷者を治癒師の元まで運べば、治癒師達が歩き回るのを省く時間で、より多くの治療ができる。自分にできるだけのことをしているのだと」
「そうだな…」
それ以上でもそれ以下でもない。
虚を突かれたように、返す言葉も思いつかず。
「自分に与えられた役割を、みな果たそうと励みます。私ももちろん、精一杯戦いました。けれど私達の多くが、自分の役割を果たせばそれでいいと、安住してしまいがちだ」
ああ…と。もちろん自分にも身に覚えのあるその感覚を言い当てられ、吐息のように声がこぼれるばかりで。
「深く背を割られ、もう以前のように剣は振るえません。血ばかり失われていくのを感じながら、剣も弓も持てぬ騎士など、生き延びても仕方あるまいと思っていました」
「…よく分かる」
役に立たぬものになることは、そうでなかった頃には想像も及ばぬほど辛い。
だが、しんみりと頷くところに、ふふっと軽やかな笑息が聞こえて、思わずまた振り返り。
「けれど、騎士という役割だけが私ではありません。あなたに教わった通り、できるだけのことはないものかとあれこれ手を出してみて、これほど馬の世話に向いていたなどと初めて気付きました。500年も生きてきたのに」
「ああ…」
ああそうか、と、アェウェノールの心情がふいに、胸に伝わったように思われ。ありがとう、と、噛み締めるように礼を告げる。
どういたしまして、と、軽やかな返礼が寄越された。
「さあ、急ぎましょう。あまり喋っていては舌を噛んでしまいますしね」
まったくだ、と思わず笑ってしまう。
「確かにアェウェノール殿は馬の扱いに長けているようだ。駆けさせながらそれほど長く話せる者は、騎士隊にも多くないことだろう」
返事を聞きたくない話を一方的にするのに向いてるんですよ。と、戯ける声に、声を立てて笑ってしまった。
「エルノールは何処だ」
伏していた深碧の目を上げ、クリッペンヴァルト王、ラウレオルンは側近の名を呼んだ。
悩ましいように下げられていた額が持ち上がれば、陽光を紡いだかのようと謳われる黄金の髪が、さらと肩を滑っていく。
その見事な金の髪ばかりでなく、霊力を目に見ぬ者にまで輝いてみえると讃えられる、溢れんばかりの光が、憂うるような貌からこぼれ。
「ここに。陛下」
しばらくもせぬ内に玉座の脇へと歩み出た側近は、胸に掌を当て、額を下げる。
「馬を引け。それから、マゴルヒアをここへ」
ただちに。と、短く応じて踵を返すエルノールの姿を見送ることもなく、ラウレオルンは少し、つい先ほど重々しく閉じた扉を見つめた。
少し先の馬屋から乗り付けた馬で、隠れ道をくぐって見えてくる砦は、ここ数日の己の無様に呆れるほど、まるでいつものように見えた。
振り返り、声を掛けてくれる昼の面々と短い声を交わしながら、騎馬のままで馬小屋に馬を入れ、早足に砦の中へと戻る。
そこへ、探す顔がまさに建物の陰から現れて、思わず互いに足を止め、それから歩み寄る。
「リー…!」
「ハル! どこ行ってたんだ、話がしたかったってのに」
すまない、と、正直に頭を下げ、顎をしゃくられ食堂へと並んで足を向ける。
「以前の伝手を借りられないかと思って、王都へ行っていた。…空振りだったが」
そうか。と、わざわざ顔を向けて眉を上げるリーに、頷く。
「手を探しに行ってくれたんだな、ありがとう。残念だが、ダメなものは仕方ない。こっちもようやく少し動いてきたとこだ」
誰を次の頭領に立て、砦を運営していくか、決まっただろうか。
ともかく話を聞かなくては、と、もう一度頷き。
「少なくとも一昨日の夜まで、アギレオは生きてた。いつどうなるかはともかく、諦めるしかないとこまではやってみようってことで、全員一致でな。またエルフと一戦交えるのは間違いないだろうから、ハルにも相談したかったんだ。国が違うとはいえ、エルフの軍を指揮してただろう?」
先んじてリーが開く食堂の扉から、昼食にかかる賑わいがあふれ。けれど、そのどの声も耳に入らない。全身にみなぎっていく熱い感情に、足が止まってしまう。
「……取り戻しに、行くのか…」
えっ、と、目を丸くして振り返るリーの、顔色がずいぶん悪く、目の下は黒く隈が出ているのに気づく。
アギレオの言う通りに諦めるのかと、と、口にするのも苦しいような声を、けれど絞るように出すのに、眉が寄ってしまう。
座ろう、と促され連れだって席につきながら、まだ胸の内は、落ち着かない。
アギレオが、生きていた。取り戻しに行ける。
「い、行かないと思われてたのか…」
口許を覆い、ううん…と唸ってしまうリーに、すまない、と、疑っていたことを詫び、今度は眉が下がってしまう。
「ああ…いや。…アギレオの言いたかったことは分かると、確かに思ったからな…。例えアギレオが十人力でも、それを取り戻すために10人、いやたとえ5人でも引き換えにするわけにはいかない」
グッと、少し奥歯を噛む。以前の自分であれば迷わなかっただろうその判断が、様々な意味で胸に染みて。
「すまない。――…私は、まず、リーに頭を下げて頼むべきだった。すまなかった…」
下げる頭の向こうに、えっとうろたえるような声が聞こえ、それから促されて、顔を上げ。
「な、なんだ急に。頼んでるのはこっちの方だぞ、」
ふ、と。続く、ため息のような区切りのような短い息に、瞬いて。
「俺は、アギレオが望んだほど、冷徹にはなれないらしい。…けど、あいつだって、咄嗟だったんだろうが、リューをかばったってことだしな」
言われる筋合いもないってことで。と、肩を竦めるのに、そうだな、と、少し頬を緩めて頷いた。
苦楽を共にしたといっても過言ではない、自分の馬を殺しかねなかった。
何人ならエルフが死んでもいいのか、と、王に問われた言葉を思い出し、腹の底から自分が情けなくなる。
「…すまない。すまなかった、スリオン。…もう少し、ここにいてくれ」
お前が生きていてよかった、と、囁きながら額同士を短く擦り合わせ、馬房に背を向ける。
「ありがとう、アェウェノール殿。スリオンはこのまま預かってもらえるか。用意してくれた馬を借りていきたい」
はい、もちろん。と、答えたアェウェノールが、だが、すぐに足を向けずにこちらを向いたままなのに、改めて彼の顔を見る。
「ハルカレンディア殿。お急ぎのようですが、それなら、境の森までの道中、また馬を替えましょう」
「…どういうことだ?」
「西の方向でしたら、顔の利く馬屋があります」
言いながらアェウェノールが振り返り、西の方を指さすのを、目で追う。
「…間で二度馬を替えましょう。それなら、駆けさせても馬を潰しはしませんし、それが一番早く着けるはずです」
私がお供しましょう、と、当然だとでも言わんばかりの軽い口調でアェウェノールが言うのに、目を丸くしてしまう。
今度は、意味は、解る。
馬に負担をかけぬよう、休ませながらいく通常の道のりなら、王都から境の森までは3晩かかる。早く着くためには速く駆けさせ、しかも休ませなければ馬の駆ける速度のままで辿り着くことができる。
だがもちろん、それほど長く走り続けられる馬は稀で、そんな無茶をすれば馬が潰れることすらある。
それを、途中で別の馬に乗り換え、駆けられる間にまた次の馬へと乗り継げば、走り続けたように早く目的地へと至る。
理屈も方法も、驚くようなことではないが。
「申し出はありがたい。だが、アェウェノール殿も、ここでの務めがあるだろう」
「厩番は私だけではありませんから」
ではこの馬とこの馬、と、馬を選び鞍を掛けているアェウェノールの背を、少し呆気にとられるように見つめ。
「それは、そうだろうが…」
何故そこまで、と、思いがけない親切に、ありがたくもやはり驚きの方が勝ったまま、馬房から出される馬に跨がり。
「私はあなたに、助けられたことがあるのです」
馬を並べて進めながら、えっ?と、思わず間の抜けた声が出るのに、アェウェノールが、覚えていらっしゃらないでしょうね、と笑う。
アェウェノールの語るところによれば、100年も前の戦の時だそうだ。
激しい戦で多くの死傷者を出し、彼もまた、戦闘中に深く背中を斬りつけられ、このまま命を終えるかもしれぬと、覚悟を決めていたところだったという。
間もなく、戦闘が終わったらしい様子が遠くから伝わり、アェウェノールは胸を撫で下ろした。
だが、負傷者を救ってまわる治癒師は魔術師の中でもさらに貴重な存在であり、数も少ない。背では自らの手で傷を押さえることもままならない。間に合わねばそれも天命だろうと、ただぼんやり、時が経つ中にあるばかりだったそうだ。
「そこへ現れたあなたは、私の傷の処置をしてくださっただけでなく、肩を貸して、半ば担ぐように治癒師の元まで運んでくださいました」
「それは、…」
柔らかく、けれど噛み締めるようにそう締めくくられる話に、言葉を失ってしまう。
「戦場で、可能な限り仲間に手を貸すのは当然のことだ。恩に着てもらうほどでは…」
いいえ、と、笑う声を、騎馬のまま目だけで少し、振り返り。
「止血の処置だけしていただいたら、いずれ治癒師が現れたでしょう。そのまま捨て置かれても、あなたに命を救われたことには違いない。けれどハルカレンディア殿、」
名を呼ばれ、同じく向けられるアェウェノールの目が、頷く。
「連隊長であり、指揮官を務めるあなたが、なぜ一兵卒である私にそこまでしてくれるのかと、尋ねたのです」
続けられた問いの方がむしろ意外で、答えは簡単だ。
そうしてそれが、次のアェウェノールの声と重なる。
「あなたは私の方を向くことすらなく、簡単な問答のようにあっさりと教えてくれました。――戦闘は終わった、役職は関係ない。負傷者を治癒師の元まで運べば、治癒師達が歩き回るのを省く時間で、より多くの治療ができる。自分にできるだけのことをしているのだと」
「そうだな…」
それ以上でもそれ以下でもない。
虚を突かれたように、返す言葉も思いつかず。
「自分に与えられた役割を、みな果たそうと励みます。私ももちろん、精一杯戦いました。けれど私達の多くが、自分の役割を果たせばそれでいいと、安住してしまいがちだ」
ああ…と。もちろん自分にも身に覚えのあるその感覚を言い当てられ、吐息のように声がこぼれるばかりで。
「深く背を割られ、もう以前のように剣は振るえません。血ばかり失われていくのを感じながら、剣も弓も持てぬ騎士など、生き延びても仕方あるまいと思っていました」
「…よく分かる」
役に立たぬものになることは、そうでなかった頃には想像も及ばぬほど辛い。
だが、しんみりと頷くところに、ふふっと軽やかな笑息が聞こえて、思わずまた振り返り。
「けれど、騎士という役割だけが私ではありません。あなたに教わった通り、できるだけのことはないものかとあれこれ手を出してみて、これほど馬の世話に向いていたなどと初めて気付きました。500年も生きてきたのに」
「ああ…」
ああそうか、と、アェウェノールの心情がふいに、胸に伝わったように思われ。ありがとう、と、噛み締めるように礼を告げる。
どういたしまして、と、軽やかな返礼が寄越された。
「さあ、急ぎましょう。あまり喋っていては舌を噛んでしまいますしね」
まったくだ、と思わず笑ってしまう。
「確かにアェウェノール殿は馬の扱いに長けているようだ。駆けさせながらそれほど長く話せる者は、騎士隊にも多くないことだろう」
返事を聞きたくない話を一方的にするのに向いてるんですよ。と、戯ける声に、声を立てて笑ってしまった。
「エルノールは何処だ」
伏していた深碧の目を上げ、クリッペンヴァルト王、ラウレオルンは側近の名を呼んだ。
悩ましいように下げられていた額が持ち上がれば、陽光を紡いだかのようと謳われる黄金の髪が、さらと肩を滑っていく。
その見事な金の髪ばかりでなく、霊力を目に見ぬ者にまで輝いてみえると讃えられる、溢れんばかりの光が、憂うるような貌からこぼれ。
「ここに。陛下」
しばらくもせぬ内に玉座の脇へと歩み出た側近は、胸に掌を当て、額を下げる。
「馬を引け。それから、マゴルヒアをここへ」
ただちに。と、短く応じて踵を返すエルノールの姿を見送ることもなく、ラウレオルンは少し、つい先ほど重々しく閉じた扉を見つめた。
少し先の馬屋から乗り付けた馬で、隠れ道をくぐって見えてくる砦は、ここ数日の己の無様に呆れるほど、まるでいつものように見えた。
振り返り、声を掛けてくれる昼の面々と短い声を交わしながら、騎馬のままで馬小屋に馬を入れ、早足に砦の中へと戻る。
そこへ、探す顔がまさに建物の陰から現れて、思わず互いに足を止め、それから歩み寄る。
「リー…!」
「ハル! どこ行ってたんだ、話がしたかったってのに」
すまない、と、正直に頭を下げ、顎をしゃくられ食堂へと並んで足を向ける。
「以前の伝手を借りられないかと思って、王都へ行っていた。…空振りだったが」
そうか。と、わざわざ顔を向けて眉を上げるリーに、頷く。
「手を探しに行ってくれたんだな、ありがとう。残念だが、ダメなものは仕方ない。こっちもようやく少し動いてきたとこだ」
誰を次の頭領に立て、砦を運営していくか、決まっただろうか。
ともかく話を聞かなくては、と、もう一度頷き。
「少なくとも一昨日の夜まで、アギレオは生きてた。いつどうなるかはともかく、諦めるしかないとこまではやってみようってことで、全員一致でな。またエルフと一戦交えるのは間違いないだろうから、ハルにも相談したかったんだ。国が違うとはいえ、エルフの軍を指揮してただろう?」
先んじてリーが開く食堂の扉から、昼食にかかる賑わいがあふれ。けれど、そのどの声も耳に入らない。全身にみなぎっていく熱い感情に、足が止まってしまう。
「……取り戻しに、行くのか…」
えっ、と、目を丸くして振り返るリーの、顔色がずいぶん悪く、目の下は黒く隈が出ているのに気づく。
アギレオの言う通りに諦めるのかと、と、口にするのも苦しいような声を、けれど絞るように出すのに、眉が寄ってしまう。
座ろう、と促され連れだって席につきながら、まだ胸の内は、落ち着かない。
アギレオが、生きていた。取り戻しに行ける。
「い、行かないと思われてたのか…」
口許を覆い、ううん…と唸ってしまうリーに、すまない、と、疑っていたことを詫び、今度は眉が下がってしまう。
「ああ…いや。…アギレオの言いたかったことは分かると、確かに思ったからな…。例えアギレオが十人力でも、それを取り戻すために10人、いやたとえ5人でも引き換えにするわけにはいかない」
グッと、少し奥歯を噛む。以前の自分であれば迷わなかっただろうその判断が、様々な意味で胸に染みて。
「すまない。――…私は、まず、リーに頭を下げて頼むべきだった。すまなかった…」
下げる頭の向こうに、えっとうろたえるような声が聞こえ、それから促されて、顔を上げ。
「な、なんだ急に。頼んでるのはこっちの方だぞ、」
ふ、と。続く、ため息のような区切りのような短い息に、瞬いて。
「俺は、アギレオが望んだほど、冷徹にはなれないらしい。…けど、あいつだって、咄嗟だったんだろうが、リューをかばったってことだしな」
言われる筋合いもないってことで。と、肩を竦めるのに、そうだな、と、少し頬を緩めて頷いた。
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