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17、蜂の村の夜
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「ありゃ確かに娼館で、馴染みだったことがあるのは本当だ」
理解も得心もできず、首を傾げて何を訪ねるべきかを考え。
「では、そこで何を?」
手短な問いに、ふむ、とばかり腕組みして己の顔を見つめるアギレオに、顎を捻る。それが、間を置いて告げられた言葉に、カッと血が上ると同時に青ざめ。
「お前がベッド濡らすの気にすっから、何かいい方法がねえか訊いてみた。あいつらプロだからな」
「待て……」
「男のエルフと恋人になって、一緒に暮らしてるって話までしたぜ。疑われるいわれもねえよ」
「待て……お前……ちょっと待て……」
理解が及び、頭を抱える。
「お前…っ、寝台を濡らす男のエルフがいると…ッ!」
あの華やかな女性達に、そう思われたというのか。羞恥で全身が火照り、顔を上げられない。
「いやだから。あいつらプロだからな。あるある~くれえの反応だったぜ」
「そういうことではないだろう…!」
ようやく顔を上げ、わなと震えるように見るアギレオの視線を追い、蜂蜜酒のカップを見る。
「もう空か? んなこと疑ってたってんなら、お前も連れてってやるよ。エルフ見てえって言われたしな」
「なんだと!?」
ひょいと立ち上がるアギレオに、空になったカップを取り上げられ、手を取られて引き上げられるように立ち上がる。
「シーツ以外にも色々聞いたんだ、お前にも話してやるよ」
「おッ、お前! この馬鹿者、そんな話を聞いてそんな場所へ行けるわけがあるか!」
両手で覆った顔を、上げられない。
「あらあ? こんな下賤な場所はお嫌かしら、エルフ様?」
「ほんとにエルフじゃないの…! エルフ様? ねえ、お顔は見せてくださらないの?」
強引に連れ込まれた娼館に、足を踏み入れた途端に上がった黄色い声と、着飾った華やかな女性たちに瞬く間に取り囲まれた。
なるほどその口振りから、入る前からアギレオの連れはエルフだと周知されていたというのは、確かなようで。だが、それが確かであるなら、その先もまたアギレオの言葉通りなのかと思えば。とても。
「おう、風呂のある部屋は空いてっかよ。アレをキレイにしてからじゃねえと嫌がるんだよ、こいつ」
「おまッ、お前…ッ!」
「空いてるわよお、みんなで行きましょ」
「ちょ、っと待ってくれ…!」
顔を覆う手を離してアギレオにひとこと言ってやろうと、腕を下げれば肘の辺りを取られる。背の方では低い位置に細い手を添えられ、華奢な女性達を乱暴に振り払うわけにはいかず、なし崩しに建物の奥へと押し込まれていく。
「おまッ、お前アギレオ…! 馬鹿者、身を清めさせてここで何をしようというのだ…!」
「何ってお前」
「アレってどっちよ? そっちのソレ、こちらのアレ?」
泡食うのに誰ひとり構う様子もなく、笑うアギレオに女性が尋ね、こちらのアレの方だな、などと片唇に笑っている内容など、理解するのも恐ろしい。
「分かるわあ~。そっちのアレの時はちゃんと準備もさせて欲しいわよねえ~」
「待て! 待ってくれ、私は本当にこんなところでそんな訳には…!」
なるほどアギレオの注文通りの、しかもなかなかしっかりとした造りの浴槽を備えた、豪華な内装ではあるが。ずいぶん広い部屋へと引きずり込まれ、浴槽のそばに立たされるところで幾人もの女性達の手が伸び、衣服を解かれるに至って、慌ててその手を掴んで止める。
「ああ~ん、いたあい。お力が強くていらっしゃるのね~」
「すっ、すまない、それほど強く掴む気は、」
「こんなところって、どういう意味かしら、エルフ様?」
「いっ、いや、決してそういう意図ではないのだ、」
「ヤベエなお前、相性抜群じゃねえか」
笑っていないで助けろ!と、アギレオの方を見れば、とっくに衣服を脱いで女性達へと手渡している。
「お気持ち分かりますわ、エルフ様。向こうが嫌がるかもしれないし、構わないと言われても、見られるのも嫌なものよね」
頷く女性の方を、何の話だ、と振り返り、彼女達もまたとうに裸体だと気づいた時には、サラリと最後の一枚まで奪われていた。
「準備するの大変よねえ。あちらは固くして抜いたり差したりすれば済むけどさあ」
いやだあ、と、途端に声が上がり笑い声が立つ。
その辺りでようやく、彼女達が何の話をしているのかを理解し、少し、息をついた。
ここにいる者達は玄人であり、助言を求めに行ったのだというアギレオの言葉を思い出し。
「…女性でも、その…そちらの、その…」
思わず隣の女性の身体をまじまじと見つめそうになり、目を背ける。腕を取って浴槽へと導かれ、湯面を埋めるように花弁の浮かべられた湯に足を入れて、その気の利いた装飾に呆れるような感心するような心地で、身を沈め。
「エイナスね。お客様のご所望があれば使いますわ」
「嫌な客でなけりゃね!」
聞き慣れぬ単語に首をひねりかけ、読み方を変えて隠語にしているのだと気づく。また何か冗句を言っては笑っている、朗らかな彼女らの様子に息を抜き。
腰掛けて長湯を楽しむようになっているのか、円形の縁の内側が浅く段になっているところに腰を下ろす。
「…その、…玄人のあなた方に尋ねるのも失礼かもしれないが、……どのようにするのが安心だろうか…」
あらあら、と、楽しげに笑みを向けられ、何がどういう切っ掛けなのか、そばに座っていた女性達が滑るように身を寄せてくる。思わず目を剥いては、視線を下げぬよう力を籠めて目を上げ。
「いくつか方法があると思いますけれど。どうなさってますの?」
「いい方法があれば教えて欲しいくらいね」
どうだとかこうだとか、自分はこうしているとか、こういう話を聞いたとか、あれは失敗だったとか、小鳥の囀るようにひっきりなしに声が交わされるのに、思わず真剣に耳を傾け、話の輪に加わる。
「そうか…」
基本的なことはおよそ誤っておらぬようで、けれどいくつかのコツや考え方を得て、みな大体同じようだと場も結論づく。
ありがとう、と、商売の技術であろうに、惜しまず知恵を明かしてくれた彼女達に額を下げ。
「ねえエルフ様。わたし、ご案内できるものがありそうですわ」
うん?と、栗色の髪を華やかに結い上げた女性の声に、目を向ける。なになに、と、座談に加わる続きのように、周囲の女性達も耳をそばだて。
栗毛の女性が部屋の外へと声を掛けているのに、ふいに、思い出してアギレオを探す。
正面の向きで円状の反対側に腰掛け、両脇の女性達と話しながらこちらを見ているアギレオに、一瞬胸の痛みが蘇りかけ。けれど、それより多くの女性にすっかり周りを固められている己の現状に、額を押さえる。
「お前は向こう行かなくていいのかよ。エルフの客は珍しいんだろ」
「いいの。あたし、ホントは自分がするより人のを見てんのが好きなの」
「……いや…そこは、あなたの方が素敵くれえ言ってくんねえかなあ…」
「あなたの方が素敵」
「チックショ…」
アギレオが隣の女性と交わしている会話に、思わずやれやれと溜息をついてしまう。
「さあさ、参りましたわ。お支度なさって、エルフ様」
給仕らしき男が盆に乗せて持ってきたものを受け取る栗毛の女性に、また目を戻し。見慣れぬ、というべきか、見慣れた、というべきか。指を揃えて両手の先を合わせたような形の二枚の板を、間で革張りに繋いだものと、少し大きな壷とを見比べる。
「なんだろうか?」
再び目を戻して顎をひねってみせれば、ニコリと笑みを返され、瞬く。
「それほど驚くような仕組みではありませんけど、実際にお見せしますわ。今みなで話した通りになさって」
今、みなで、話した通り。と、しばらく考え、腹の中を洗う話だと気づいて、思わず赤面してしまう。
「いやっ、それはっ、ここでは、その…!」
「ま。恥ずかしいの? なら、目をつむってて。すぐに終わるわ」
「グ!? まっ、待ってくれ! それは!」
腰から脚から、撫でて滑るように尻へと伸びてくる細い手を、慌てて掴まえ。先ほどもこの手を食らった気がする、手の数が合わず追い切れない。
「待て! 待て、自分で! 自分でできる! ちょっと待ってくれ…!」
抜け目なくも強引には運ばず、あら残念、と、またいくつもの手が今度は引いていくのに、息を抜く。彼女達の手を離し、それでも、逃がさぬとでも言うよう、肩に腿にしなだれかかって身を寄せられ、グゥと浅く唸ってしまう。
「わたしがここで一番長く勤めているのですけど、エルフのお客様は本当にはじめてですのよ。アギレオから聞きましたから、どの娘か選べなんて申しませんけど。ぜひ“これ”はご覧いただいて、来てよかったと思っていただきたいですわ」
「……」
片手で頭を抱えて額を擦り、なんとか上手い言い逃れはないものかと頭をひねり、それから、観念して頷く。
男性の相手を商売にする彼女達をまったく袖にして、ただ時間ばかり奪って帰るというのも、これほど熱心に取り組んでいる彼女達には失礼な話なのかもしれない。
「…あまり、見ないでくれ…」
息をつき、慣れたようにやろうと、腰掛けている段からひとつ下がって、浴槽の底面に膝を着く。
「花しか見えませんわ」
「恥ずかしいなら皆でしましょ」
「ふふ、こんなキレイな身体なら、いくらでもしてさしあげるのに」
細い手に尻を撫でられ、ビク、と強張り。頼む…と項垂れながら手を離させ、尻の肉を開きながら、自然に目を落として。
湯を覆い隠すほど散りばめられた花弁の、美しさ以外の役割を知って、少し目を伏せ。
花に秘められた湯の中、指で開いて湯を招いて、腹の中を洗う。
皆でしようと言った彼女だけでなく、めいめいに湯の中に両手を隠して、零している息ばかりが漂い。
不意に、浴槽の外の方を向いているせいで、背の向こうになったものを思い出す。恐らく腰掛けたままのアギレオ、その隣に座って、見ている方が好むと言った若そうな女性。
閉じられたあたたかい部屋の中、幾人もの男女が奇妙に吐息をひそめる情景を改めて思って、小さく身震いした。
理解も得心もできず、首を傾げて何を訪ねるべきかを考え。
「では、そこで何を?」
手短な問いに、ふむ、とばかり腕組みして己の顔を見つめるアギレオに、顎を捻る。それが、間を置いて告げられた言葉に、カッと血が上ると同時に青ざめ。
「お前がベッド濡らすの気にすっから、何かいい方法がねえか訊いてみた。あいつらプロだからな」
「待て……」
「男のエルフと恋人になって、一緒に暮らしてるって話までしたぜ。疑われるいわれもねえよ」
「待て……お前……ちょっと待て……」
理解が及び、頭を抱える。
「お前…っ、寝台を濡らす男のエルフがいると…ッ!」
あの華やかな女性達に、そう思われたというのか。羞恥で全身が火照り、顔を上げられない。
「いやだから。あいつらプロだからな。あるある~くれえの反応だったぜ」
「そういうことではないだろう…!」
ようやく顔を上げ、わなと震えるように見るアギレオの視線を追い、蜂蜜酒のカップを見る。
「もう空か? んなこと疑ってたってんなら、お前も連れてってやるよ。エルフ見てえって言われたしな」
「なんだと!?」
ひょいと立ち上がるアギレオに、空になったカップを取り上げられ、手を取られて引き上げられるように立ち上がる。
「シーツ以外にも色々聞いたんだ、お前にも話してやるよ」
「おッ、お前! この馬鹿者、そんな話を聞いてそんな場所へ行けるわけがあるか!」
両手で覆った顔を、上げられない。
「あらあ? こんな下賤な場所はお嫌かしら、エルフ様?」
「ほんとにエルフじゃないの…! エルフ様? ねえ、お顔は見せてくださらないの?」
強引に連れ込まれた娼館に、足を踏み入れた途端に上がった黄色い声と、着飾った華やかな女性たちに瞬く間に取り囲まれた。
なるほどその口振りから、入る前からアギレオの連れはエルフだと周知されていたというのは、確かなようで。だが、それが確かであるなら、その先もまたアギレオの言葉通りなのかと思えば。とても。
「おう、風呂のある部屋は空いてっかよ。アレをキレイにしてからじゃねえと嫌がるんだよ、こいつ」
「おまッ、お前…ッ!」
「空いてるわよお、みんなで行きましょ」
「ちょ、っと待ってくれ…!」
顔を覆う手を離してアギレオにひとこと言ってやろうと、腕を下げれば肘の辺りを取られる。背の方では低い位置に細い手を添えられ、華奢な女性達を乱暴に振り払うわけにはいかず、なし崩しに建物の奥へと押し込まれていく。
「おまッ、お前アギレオ…! 馬鹿者、身を清めさせてここで何をしようというのだ…!」
「何ってお前」
「アレってどっちよ? そっちのソレ、こちらのアレ?」
泡食うのに誰ひとり構う様子もなく、笑うアギレオに女性が尋ね、こちらのアレの方だな、などと片唇に笑っている内容など、理解するのも恐ろしい。
「分かるわあ~。そっちのアレの時はちゃんと準備もさせて欲しいわよねえ~」
「待て! 待ってくれ、私は本当にこんなところでそんな訳には…!」
なるほどアギレオの注文通りの、しかもなかなかしっかりとした造りの浴槽を備えた、豪華な内装ではあるが。ずいぶん広い部屋へと引きずり込まれ、浴槽のそばに立たされるところで幾人もの女性達の手が伸び、衣服を解かれるに至って、慌ててその手を掴んで止める。
「ああ~ん、いたあい。お力が強くていらっしゃるのね~」
「すっ、すまない、それほど強く掴む気は、」
「こんなところって、どういう意味かしら、エルフ様?」
「いっ、いや、決してそういう意図ではないのだ、」
「ヤベエなお前、相性抜群じゃねえか」
笑っていないで助けろ!と、アギレオの方を見れば、とっくに衣服を脱いで女性達へと手渡している。
「お気持ち分かりますわ、エルフ様。向こうが嫌がるかもしれないし、構わないと言われても、見られるのも嫌なものよね」
頷く女性の方を、何の話だ、と振り返り、彼女達もまたとうに裸体だと気づいた時には、サラリと最後の一枚まで奪われていた。
「準備するの大変よねえ。あちらは固くして抜いたり差したりすれば済むけどさあ」
いやだあ、と、途端に声が上がり笑い声が立つ。
その辺りでようやく、彼女達が何の話をしているのかを理解し、少し、息をついた。
ここにいる者達は玄人であり、助言を求めに行ったのだというアギレオの言葉を思い出し。
「…女性でも、その…そちらの、その…」
思わず隣の女性の身体をまじまじと見つめそうになり、目を背ける。腕を取って浴槽へと導かれ、湯面を埋めるように花弁の浮かべられた湯に足を入れて、その気の利いた装飾に呆れるような感心するような心地で、身を沈め。
「エイナスね。お客様のご所望があれば使いますわ」
「嫌な客でなけりゃね!」
聞き慣れぬ単語に首をひねりかけ、読み方を変えて隠語にしているのだと気づく。また何か冗句を言っては笑っている、朗らかな彼女らの様子に息を抜き。
腰掛けて長湯を楽しむようになっているのか、円形の縁の内側が浅く段になっているところに腰を下ろす。
「…その、…玄人のあなた方に尋ねるのも失礼かもしれないが、……どのようにするのが安心だろうか…」
あらあら、と、楽しげに笑みを向けられ、何がどういう切っ掛けなのか、そばに座っていた女性達が滑るように身を寄せてくる。思わず目を剥いては、視線を下げぬよう力を籠めて目を上げ。
「いくつか方法があると思いますけれど。どうなさってますの?」
「いい方法があれば教えて欲しいくらいね」
どうだとかこうだとか、自分はこうしているとか、こういう話を聞いたとか、あれは失敗だったとか、小鳥の囀るようにひっきりなしに声が交わされるのに、思わず真剣に耳を傾け、話の輪に加わる。
「そうか…」
基本的なことはおよそ誤っておらぬようで、けれどいくつかのコツや考え方を得て、みな大体同じようだと場も結論づく。
ありがとう、と、商売の技術であろうに、惜しまず知恵を明かしてくれた彼女達に額を下げ。
「ねえエルフ様。わたし、ご案内できるものがありそうですわ」
うん?と、栗色の髪を華やかに結い上げた女性の声に、目を向ける。なになに、と、座談に加わる続きのように、周囲の女性達も耳をそばだて。
栗毛の女性が部屋の外へと声を掛けているのに、ふいに、思い出してアギレオを探す。
正面の向きで円状の反対側に腰掛け、両脇の女性達と話しながらこちらを見ているアギレオに、一瞬胸の痛みが蘇りかけ。けれど、それより多くの女性にすっかり周りを固められている己の現状に、額を押さえる。
「お前は向こう行かなくていいのかよ。エルフの客は珍しいんだろ」
「いいの。あたし、ホントは自分がするより人のを見てんのが好きなの」
「……いや…そこは、あなたの方が素敵くれえ言ってくんねえかなあ…」
「あなたの方が素敵」
「チックショ…」
アギレオが隣の女性と交わしている会話に、思わずやれやれと溜息をついてしまう。
「さあさ、参りましたわ。お支度なさって、エルフ様」
給仕らしき男が盆に乗せて持ってきたものを受け取る栗毛の女性に、また目を戻し。見慣れぬ、というべきか、見慣れた、というべきか。指を揃えて両手の先を合わせたような形の二枚の板を、間で革張りに繋いだものと、少し大きな壷とを見比べる。
「なんだろうか?」
再び目を戻して顎をひねってみせれば、ニコリと笑みを返され、瞬く。
「それほど驚くような仕組みではありませんけど、実際にお見せしますわ。今みなで話した通りになさって」
今、みなで、話した通り。と、しばらく考え、腹の中を洗う話だと気づいて、思わず赤面してしまう。
「いやっ、それはっ、ここでは、その…!」
「ま。恥ずかしいの? なら、目をつむってて。すぐに終わるわ」
「グ!? まっ、待ってくれ! それは!」
腰から脚から、撫でて滑るように尻へと伸びてくる細い手を、慌てて掴まえ。先ほどもこの手を食らった気がする、手の数が合わず追い切れない。
「待て! 待て、自分で! 自分でできる! ちょっと待ってくれ…!」
抜け目なくも強引には運ばず、あら残念、と、またいくつもの手が今度は引いていくのに、息を抜く。彼女達の手を離し、それでも、逃がさぬとでも言うよう、肩に腿にしなだれかかって身を寄せられ、グゥと浅く唸ってしまう。
「わたしがここで一番長く勤めているのですけど、エルフのお客様は本当にはじめてですのよ。アギレオから聞きましたから、どの娘か選べなんて申しませんけど。ぜひ“これ”はご覧いただいて、来てよかったと思っていただきたいですわ」
「……」
片手で頭を抱えて額を擦り、なんとか上手い言い逃れはないものかと頭をひねり、それから、観念して頷く。
男性の相手を商売にする彼女達をまったく袖にして、ただ時間ばかり奪って帰るというのも、これほど熱心に取り組んでいる彼女達には失礼な話なのかもしれない。
「…あまり、見ないでくれ…」
息をつき、慣れたようにやろうと、腰掛けている段からひとつ下がって、浴槽の底面に膝を着く。
「花しか見えませんわ」
「恥ずかしいなら皆でしましょ」
「ふふ、こんなキレイな身体なら、いくらでもしてさしあげるのに」
細い手に尻を撫でられ、ビク、と強張り。頼む…と項垂れながら手を離させ、尻の肉を開きながら、自然に目を落として。
湯を覆い隠すほど散りばめられた花弁の、美しさ以外の役割を知って、少し目を伏せ。
花に秘められた湯の中、指で開いて湯を招いて、腹の中を洗う。
皆でしようと言った彼女だけでなく、めいめいに湯の中に両手を隠して、零している息ばかりが漂い。
不意に、浴槽の外の方を向いているせいで、背の向こうになったものを思い出す。恐らく腰掛けたままのアギレオ、その隣に座って、見ている方が好むと言った若そうな女性。
閉じられたあたたかい部屋の中、幾人もの男女が奇妙に吐息をひそめる情景を改めて思って、小さく身震いした。
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