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本編 燦聖教編
大賢者カスパールと弟子のグリモワール ⑤
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カリンside
カスパールとリィモが隣国へと旅立ち、はや一週間の時が経った。
二人の帰りを今か今かと待っているカリンは、庭に作った自慢の畑を手入れしていた。
「ふふっあと少しでトゥマトが収穫出来そうね。カスパール様が帰ってきたら美味しいトゥマト料理を作ろう」
カリンは大きく実ったトゥマトを眺めながら、カスパールが帰って来た時に作る料理の事を考えていた。
「ようし! する事ないし畑を広げようかな。この前貰った種も植えてみたいし。そうと決めたらやるぞっ! おっと……一人だとつい独り言が多くなってしまう……ふふ」
カリンが何も無い、草が鬱蒼と生い茂った広場に向かって手を翳すと、土がどんどん耕されふかふかの土へと変わって行く。
カリンが一番得意な魔法は土魔法なのだ。
畑を作るためや食器類を作るために、自ら望んでカスパールに教えを請い習得した。
「よし!上手く出来た。種を取りに行こう」
カリンが種を取りに行こうと家に戻ると、遠くに数人の人影が見える。
どうやら家に向かって歩いて来ているようだ。
(何のようかな? 今はカスパール様もいないし、魔獣討伐の依頼とかだったら困るなぁ)
人影が近付くと、それはカリンの知った顔だった。
「ああ! ドミンゴさん。こんにちは」
「こんにちはカリンちゃん。カスパール様はいるかい?」
カスパールが森の端に建てた家から一番近い村【グテ】の村長ドミンゴが訪ねて来た。
ドミンゴは背が低く、短い白髭を生やした初老の男性だ。
以前カリンが村の井戸を直したことがあり、それから偶に食材を持ち顔を出す様になった。
「今日はね三日後にグテ村でお祭りがあるんだよ。それに遊びに来ないかと思ってね誘いに来たんだ」
「わぁお祭り!楽しそう。でも……カスパール様は三日後に帰ってるかどうかは分からないから」
カリンは少し寂しそうに俯いた。
「なら!カリンちゃんだけでもお祭りに遊びにおいで。一人で家にいるより気晴らしにもなるだろう?」
「わぁ!良いんですか?絶対行きます」
「じゃあ待ってるよー!」
そう言ってドミンゴ達は去って行った。
「ふふっ……お祭りかぁ♪ お兄ちゃんやカスパール様が一緒じゃないのは残念だけど、楽しみだな」
★ ★ ★
「うわぁ!綺麗」
カリンがグテ村を訪れると、村中が太陽の様に輝く花で飾られていた。
この花の名前は【グーテ】グテ村の名前の由来となった花だ。
グテ村にはグーテの花が至る所で咲き乱れていた。
今日のお祭りは花祭りとも言われ、グーテの花を村中に飾り来年の豊作を願うのだ。
グーテの花が沢山咲く年は豊作になると言われている。
「カリンちゃんどうぞ」
「わっ!ありがとうございます」
村の女性が、カリンの頭にグーテの花冠を飾ってくれる。
「これどうぞ!」
小さな子供がグーテのブーケを渡してくれる。
「わぁありがとう」
グーテなんて綺麗なの!カスパール様やお兄ちゃんにも見せたかったな。帰ってきたらもう一度村に一緒に来ようかな
そんな風に思いながらカリンが祭りを楽しんでいると、突然泣き叫ぶような悲鳴が聞こえる。
「え?!」
何?! 悲鳴? 何があったの?
悲鳴が聞こえる声の方に走って行くと、そこには一匹のサーベルタイガーが二本の大きな牙を光らせ、村を縦横無尽に走り回っていた。
「サーベルタイガー!?Aランク魔獣じゃない! なんでこんな場所に?」
サーベルタイガーは一人の子供を咥えるとそのまま走り去って行く。
「いやあああああっ私の坊やがっ!」
「私見てきます!」
カリンがサーベルタイガーを追って村の端まで走って行くと、そこで目にしたのは十匹からなるサーベルタイガーの大群が村に向かって押し寄せる姿だった。
「そんな……こんな数のサーベルタイガー。私には倒せない……」
呆然と立ち尽くすカリンの所に、村の若い男達がやって来た。
「なんだあれは!あんな数のサーベルタイガー……どうしたら良いんだ!」
「村はもう終わりだ……」
「ああ神様助けてください……」
集まってきた村の男達がサーベルタイガーの大群を見て愕然とし座り込んでしまう。
すると村人の一人がカリンを見て言った。
「なぁ!アンタはカスパール様の弟子なんだろ?このサーベルタイガーどうにかしてくれよ!頼むよ」
「え……私が?」
それを聞いた村人がカリンの所どんどん集まってくる
「そうだよ!すごい魔法を使えるんだろ!俺たちの村を助けて!」
「お願いだ!」「お願いだ」「助けてよ」
村人達が必死にカリンに縋る。
「でも……私は攻撃魔法を使ったことがなくて…」
「そんなこと言わないでくれ!カスパール様の弟子なんだろ?どうにか出来るだろ?」
助けてあげたいけど私が出来るのは土魔法と結界魔法……!あっ!?結界。
カリンはキュッと下唇を一文字に噛み締める。
「わかりました!私が結界を村に張って見ます」
「本当か!?」
「その代わりお願いがあります」
「願い?」
「はい。このままだと私が結界を張るよりも先に村にサーベルタイガーの群れが押し寄せてしまうので、誰かサーベルタイガーの群れを違う所に引き寄せる役目をお願いできませんか?その間に私が村にサーベルタイガーが入って来れない結界を張ります。出来ますか?」
その話を聞いた村の若い男がゴクリッと生唾を飲み込む。
「………わかった。俺たちが引き寄せよう。どれくらいの時間引き寄せればいいんだ?」
「そうですね。十五分ほどですかね」
「分かった。村を頼んだぞ!」
「はい!任せてください」
男達は馬に乗り、村の外に走り出て行った。
それに気付いた数匹のサーベルタイガーが後を追う。
よし!今ね。
カリンは結界魔法を唱え出した。すると村に透明の壁が広がって行く。
十分もすると村の殆どが結界で覆われた。
「もう無理だっ!」
囮になった男達が村に戻ってきた。
後少し!後少しで結界が完成するの。お願いします!神様どうにか!間に合って!
ーーそんな時だった。
サーベルタイガーが、まだ張られていない結界の隙間から村に再び入って来ようとしているのをカリンが見つける。
その口にはまだ子供を加えたままだ。
「あっ!あいつは」
だが村人達は誰も動こうとしない。
見かねたカリンは自ら囮になり村の外に走り出た。
その後をサーベルタイガーが追いかける。
カリンは結界の詠唱を続けながら土魔法で自分の周りに壁を作った。
結界の方に殆どの魔力を使っているので、土魔法は簡易な壁しか作ることが出来なかった。
サーベルタイガーが作った壁に体当たりして来る。
「後ちょっとなの! お願い壁よもって!」
壁が崩れると同時に村の結界が完成した。
「良かった……」
安心する間も無く、壁を壊したサーベルタイガーがカリンの体に体当たりして来た。
無惨にもカリンの体は高く弾け飛び地面に叩きつけられる。
「あぐっ!」
その姿を見ても、村人達は誰も助けに来ようとはしなかった。
カリンに助けて貰ったのに、皆自分が可愛いのだ。
なす術も無くカリンはサーベルタイガーに踏み潰される。
「グフッ!」
サーベルタイガーがカリンを加えようと大きく口を開けた瞬間、口に加えていた子供がカリンの体の上に落ちてきた。加えていた子供が落ちてサーベルタイガーは少し慌てる。
それをカリンは見逃さなかった。
……………結界。
カリンは隙をついて自分の周りを覆うだけの小さな結界を張った。
良かった……これで魔獣は入って来れない。
サーベルタイガーは悔しそうに体当たりするも結界はびくともしない。
この結界がいつまで持つかわからないけど……どうやら私の命が先につきそうだ。
カリンは魔力を使いすぎた。もう自分を治癒する魔力さえ残っていなかった。
せめてこの子供だけも助かります様に。
カリンは自分に覆いかぶさる子供を見る。
お兄ちゃん、カスパール様。
最後にもう一度会いたかったな。
何も言えないままでごめんね。
いつも頼ってばっかりだったね。
帰ってきて私がいなかったら悲しんでくれるかな?
お兄ちゃんはきっと泣いちゃうよね。
ごめんね。
……でも私、頑張ったよ。
カスパール様は頑張ったって褒めてくれるかな?
もう一度だけ……カスパール様に頭を撫でて貰いたかったな。
そして眉尻を下げて優しい顔で笑うの。
……もっと見たかったな。
お兄ちゃん、カスパール様……大好き。
カリンは静かに目を閉じた。
カスパールとリィモが隣国へと旅立ち、はや一週間の時が経った。
二人の帰りを今か今かと待っているカリンは、庭に作った自慢の畑を手入れしていた。
「ふふっあと少しでトゥマトが収穫出来そうね。カスパール様が帰ってきたら美味しいトゥマト料理を作ろう」
カリンは大きく実ったトゥマトを眺めながら、カスパールが帰って来た時に作る料理の事を考えていた。
「ようし! する事ないし畑を広げようかな。この前貰った種も植えてみたいし。そうと決めたらやるぞっ! おっと……一人だとつい独り言が多くなってしまう……ふふ」
カリンが何も無い、草が鬱蒼と生い茂った広場に向かって手を翳すと、土がどんどん耕されふかふかの土へと変わって行く。
カリンが一番得意な魔法は土魔法なのだ。
畑を作るためや食器類を作るために、自ら望んでカスパールに教えを請い習得した。
「よし!上手く出来た。種を取りに行こう」
カリンが種を取りに行こうと家に戻ると、遠くに数人の人影が見える。
どうやら家に向かって歩いて来ているようだ。
(何のようかな? 今はカスパール様もいないし、魔獣討伐の依頼とかだったら困るなぁ)
人影が近付くと、それはカリンの知った顔だった。
「ああ! ドミンゴさん。こんにちは」
「こんにちはカリンちゃん。カスパール様はいるかい?」
カスパールが森の端に建てた家から一番近い村【グテ】の村長ドミンゴが訪ねて来た。
ドミンゴは背が低く、短い白髭を生やした初老の男性だ。
以前カリンが村の井戸を直したことがあり、それから偶に食材を持ち顔を出す様になった。
「今日はね三日後にグテ村でお祭りがあるんだよ。それに遊びに来ないかと思ってね誘いに来たんだ」
「わぁお祭り!楽しそう。でも……カスパール様は三日後に帰ってるかどうかは分からないから」
カリンは少し寂しそうに俯いた。
「なら!カリンちゃんだけでもお祭りに遊びにおいで。一人で家にいるより気晴らしにもなるだろう?」
「わぁ!良いんですか?絶対行きます」
「じゃあ待ってるよー!」
そう言ってドミンゴ達は去って行った。
「ふふっ……お祭りかぁ♪ お兄ちゃんやカスパール様が一緒じゃないのは残念だけど、楽しみだな」
★ ★ ★
「うわぁ!綺麗」
カリンがグテ村を訪れると、村中が太陽の様に輝く花で飾られていた。
この花の名前は【グーテ】グテ村の名前の由来となった花だ。
グテ村にはグーテの花が至る所で咲き乱れていた。
今日のお祭りは花祭りとも言われ、グーテの花を村中に飾り来年の豊作を願うのだ。
グーテの花が沢山咲く年は豊作になると言われている。
「カリンちゃんどうぞ」
「わっ!ありがとうございます」
村の女性が、カリンの頭にグーテの花冠を飾ってくれる。
「これどうぞ!」
小さな子供がグーテのブーケを渡してくれる。
「わぁありがとう」
グーテなんて綺麗なの!カスパール様やお兄ちゃんにも見せたかったな。帰ってきたらもう一度村に一緒に来ようかな
そんな風に思いながらカリンが祭りを楽しんでいると、突然泣き叫ぶような悲鳴が聞こえる。
「え?!」
何?! 悲鳴? 何があったの?
悲鳴が聞こえる声の方に走って行くと、そこには一匹のサーベルタイガーが二本の大きな牙を光らせ、村を縦横無尽に走り回っていた。
「サーベルタイガー!?Aランク魔獣じゃない! なんでこんな場所に?」
サーベルタイガーは一人の子供を咥えるとそのまま走り去って行く。
「いやあああああっ私の坊やがっ!」
「私見てきます!」
カリンがサーベルタイガーを追って村の端まで走って行くと、そこで目にしたのは十匹からなるサーベルタイガーの大群が村に向かって押し寄せる姿だった。
「そんな……こんな数のサーベルタイガー。私には倒せない……」
呆然と立ち尽くすカリンの所に、村の若い男達がやって来た。
「なんだあれは!あんな数のサーベルタイガー……どうしたら良いんだ!」
「村はもう終わりだ……」
「ああ神様助けてください……」
集まってきた村の男達がサーベルタイガーの大群を見て愕然とし座り込んでしまう。
すると村人の一人がカリンを見て言った。
「なぁ!アンタはカスパール様の弟子なんだろ?このサーベルタイガーどうにかしてくれよ!頼むよ」
「え……私が?」
それを聞いた村人がカリンの所どんどん集まってくる
「そうだよ!すごい魔法を使えるんだろ!俺たちの村を助けて!」
「お願いだ!」「お願いだ」「助けてよ」
村人達が必死にカリンに縋る。
「でも……私は攻撃魔法を使ったことがなくて…」
「そんなこと言わないでくれ!カスパール様の弟子なんだろ?どうにか出来るだろ?」
助けてあげたいけど私が出来るのは土魔法と結界魔法……!あっ!?結界。
カリンはキュッと下唇を一文字に噛み締める。
「わかりました!私が結界を村に張って見ます」
「本当か!?」
「その代わりお願いがあります」
「願い?」
「はい。このままだと私が結界を張るよりも先に村にサーベルタイガーの群れが押し寄せてしまうので、誰かサーベルタイガーの群れを違う所に引き寄せる役目をお願いできませんか?その間に私が村にサーベルタイガーが入って来れない結界を張ります。出来ますか?」
その話を聞いた村の若い男がゴクリッと生唾を飲み込む。
「………わかった。俺たちが引き寄せよう。どれくらいの時間引き寄せればいいんだ?」
「そうですね。十五分ほどですかね」
「分かった。村を頼んだぞ!」
「はい!任せてください」
男達は馬に乗り、村の外に走り出て行った。
それに気付いた数匹のサーベルタイガーが後を追う。
よし!今ね。
カリンは結界魔法を唱え出した。すると村に透明の壁が広がって行く。
十分もすると村の殆どが結界で覆われた。
「もう無理だっ!」
囮になった男達が村に戻ってきた。
後少し!後少しで結界が完成するの。お願いします!神様どうにか!間に合って!
ーーそんな時だった。
サーベルタイガーが、まだ張られていない結界の隙間から村に再び入って来ようとしているのをカリンが見つける。
その口にはまだ子供を加えたままだ。
「あっ!あいつは」
だが村人達は誰も動こうとしない。
見かねたカリンは自ら囮になり村の外に走り出た。
その後をサーベルタイガーが追いかける。
カリンは結界の詠唱を続けながら土魔法で自分の周りに壁を作った。
結界の方に殆どの魔力を使っているので、土魔法は簡易な壁しか作ることが出来なかった。
サーベルタイガーが作った壁に体当たりして来る。
「後ちょっとなの! お願い壁よもって!」
壁が崩れると同時に村の結界が完成した。
「良かった……」
安心する間も無く、壁を壊したサーベルタイガーがカリンの体に体当たりして来た。
無惨にもカリンの体は高く弾け飛び地面に叩きつけられる。
「あぐっ!」
その姿を見ても、村人達は誰も助けに来ようとはしなかった。
カリンに助けて貰ったのに、皆自分が可愛いのだ。
なす術も無くカリンはサーベルタイガーに踏み潰される。
「グフッ!」
サーベルタイガーがカリンを加えようと大きく口を開けた瞬間、口に加えていた子供がカリンの体の上に落ちてきた。加えていた子供が落ちてサーベルタイガーは少し慌てる。
それをカリンは見逃さなかった。
……………結界。
カリンは隙をついて自分の周りを覆うだけの小さな結界を張った。
良かった……これで魔獣は入って来れない。
サーベルタイガーは悔しそうに体当たりするも結界はびくともしない。
この結界がいつまで持つかわからないけど……どうやら私の命が先につきそうだ。
カリンは魔力を使いすぎた。もう自分を治癒する魔力さえ残っていなかった。
せめてこの子供だけも助かります様に。
カリンは自分に覆いかぶさる子供を見る。
お兄ちゃん、カスパール様。
最後にもう一度会いたかったな。
何も言えないままでごめんね。
いつも頼ってばっかりだったね。
帰ってきて私がいなかったら悲しんでくれるかな?
お兄ちゃんはきっと泣いちゃうよね。
ごめんね。
……でも私、頑張ったよ。
カスパール様は頑張ったって褒めてくれるかな?
もう一度だけ……カスパール様に頭を撫でて貰いたかったな。
そして眉尻を下げて優しい顔で笑うの。
……もっと見たかったな。
お兄ちゃん、カスパール様……大好き。
カリンは静かに目を閉じた。
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※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
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