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本編 燦聖教編

閑話 獣人アレク

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「アレク兄ちゃん!」

「ーーリョカ生きて……!」

「うん!タヌキのお兄ちゃん達がね貴族から助けてくれた」

「……そうか。そうか」

リョカを抱き上げる。可愛い弟のリョカ……生き別れた時と比べガリガリだ。背も十歳とは思えない程に小さい。
栄養が足りないからだな。

「僕ねっ頑張ったんだよ!痛かったけど。負けなかった」

「そうか……お前が生きていてくれて兄ちゃん嬉しいよ」

俺はリョカをギュウっと抱きしめた。

「おーい!アレク。肉食べないのか?美味いぞ?」

「ありがとうティーゴ!お腹ペコペコだよ!」

ああ……こんなに平穏で幸せな時が戻ってくるなんて……。
あの日の俺に教えてやりたいぜ。



⭐︎★⭐︎★⭐︎


そう二年前のあの日……。
燦聖教が魔獣を引き連れローデンブルグの街にやって来た。

アイツらは変な道具を使って俺達を捕まえて行く。
首輪を付けられた仲間は抵抗虚しくどんどん檻に入れられた。
俺達獣人を何だと!

この日から地獄の日々が始まった……。
俺達の街は燦聖教が支配してしまった。




「シファ!これは皆の分のご飯だ!分けて食べてくれ!」

「いつもありがとうアレク!」

燦聖教がローデンブルグに現れてから一か月……。
俺達獣人は何ヵ所かに別れ拠点を作り、燦聖教から見つからぬ様に隠れ住んで居た。

俺とシファ二人なら、どうにか他国に逃げる事も出来るかも知れない。
でもシファの家族、俺の家族、さらにはこの拠点に居る獣人達も一緒となると……獣人の数は八十人は超えている。
そんな大人数で逃げるなど、捕まえてくれと言ってるようなもんだ!

「アレクが一緒で良かった。こんなに辛い状況も頑張れる」
「シファ……!俺もだ!絶対に皆で助かろうな!」

俺はシファをギュッと抱きしめた……。


そんなある日いつも通り食料を集めて仲間達と拠点へ戻ると……!

「なっ?」

そこには黒いローブを羽織った集団が、沢山の魔獣達を引き連れ拠点の入り口に押し寄せていた。

「シファー!」

俺は慌てて入り口に走る

「退きやがれ!」

俺は目の前に居る魔獣を千切りどんどん蹴散らして行く。
やっと皆の所に近付くと……。

燦聖教の奴等は、美しく一際目立つシファを捕まえようと必死だった。
そうはさせるか!

俺はシファの前に立ち。

「ここは俺が惹きつける!シファ皆と逃げろ!」
「でも……アレクが……!」
「良いから逃げろ!俺は必ずシファの所に戻る」
「分かった!絶対よ!」

シファは俺に口付けし走って行った。これが初めての口付けだった……。
思わずドキドキして顔が火照るのが分かるが……今はそんな場合じゃない!

シファ達の後を魔獣が追いかけるがそんな事させるか!
前に出て魔獣を掴み真っ二つに引き千切って行く。
俺は豪腕ってスキルがあるんだ!
武器などなくても戦える。
簡単に行かせないからな?

魔獣達を順調に倒しこれならいけるっと思ったその時……!
体に電気が走る。
燦聖教の奴等が魔法を使う奴等を連れて来た……!
俺にどんどん魔法を放つ。
だが魔法はまだどうにかなる……俺には魔法耐性もあるんだ!効かない。
アイツら魔法使いも全員引き千切ってやる!

その時だ。
異形化したオーガキングがやって来たのは。

「なっ……何だコイツは⁉︎俺が知っているオーガキングより桁違いに強い!体が……勝手に震える」

その後俺は意識を失った……。

「目が覚めましたか?」

目の前にいる燦聖教の男が、口の端を上げ嫌な顔で笑う。

檻に入れられている……?
そうか……俺はオーガキングにやられて捕まったんだな。
シファ達が無事逃げのびてますように……!神様お願いします。

「貴方はとても強い獣人なので、隣国ランプシとの戦争兵士として戦って貰います」

「はぁ?断る」

「ほほっ隷属の首輪をしていますからね?貴方は私共に逆らえませんよ?」

首輪っ?これか……だから皆捕まっても抵抗しなかったんだな。
でも俺は大丈夫な気がする……
試しに檻の鉄格子を掴み広げてみた。

「はっなっ⁉︎なんで」

やはり……魔力耐性があるからだな。

「俺にはこんな首輪効かねーんだよ!」

そのまま檻から出て目の前に居る燦聖教の奴をぶん殴った!

「さてと……シファの所に帰るとするか」

俺は首輪を無理矢理取ろうとした。
これがいけなかった!強い電流が流れ気絶した。

その後の事は思い出したくもない……。

鎖で縛り、額に何かの魔石を埋め込まれ……余りの痛さに何度も気を失った……。
魔石の所為で体もひと回り大きくなり顔半分が溶けた。
ずっと体中が痛い……。

魔石の所為でやりたくも無い戦いを何度もさせられた。
意識は有るのに体が燦聖教アイツらに操られる。

ランプシ王国との戦争で、怪我をし戦えなくなった俺に燦聖教の奴等が次にしたのは、実験の道具として扱いだった。
手を切られたり。皮を剥がされたり……。
痛みで何度も気絶した。
もう殺してくれ。


ある時気が付くと、何処かの塔に閉じ込められていた。
ここは何処なんだ?
司祭と言う男が時折り現れて俺を殴っていく……何にも痛くないがな。
ただ埋め込まれた石の所為でずっと体中が痛い……。

ある日。
見た事がない男が部屋に入って来た。
また新たに痛い事をしに来たのか?
もう嫌だ!
殺してくれ!

ーーなっ?
この男は俺の体を治してくれた……。なんで?
所々剥がれた皮膚や肉を抉り取られ醜い体……異形化した顔が……全て戻ってる。
鎖も切ってくれた。
この男は何がしたいんだ……⁈
俺は怖くなり殴りかかるが、簡単に攻撃は交わされ額の石を触られた……! 

ああ……痛みが取れて行く。
この男の手は気持ち良い……幸せだ。常時あった痛みがやっと消えた。

大丈夫か?と俺を心配し優しい笑顔を向けてくる男……
嬉しくて知らない間に泣いていた。そんな顔を俺に向けてくれるヤツなんて居なかったからな。

ーーしかしこの男は何処から現れたんだ?この場所は簡単に入り込める場所じゃないはず。

…………そうか!この男は俺達獣人を救うため、神が使した天使なんだな。

そう、この天使ティーゴと出会ってから俺はずっと幸せになるんだ。
やっと笑う事が出来た……。

ティーゴには、さらなる天使の仲間がいた。神様かもしれない。
でもティーゴが必死に違うと否定するから、皆には内緒って事なんだな。
確かにな!神様や天使様がこんな所に居たらビックリするよな。

ティーゴ達は俺の大切なシファも助けてくれた。
シファの仇も……。
何度も御礼を言った……ありがとう。すんっ

シファが俺の横で幸せそうに笑って飯を食べている。「泣いたり笑ったり忙しそうだな」とシファに言ったら俺も同じだよっと言われた。

俺は……嬉しくて幸せで涙を流していた……。
幸せで泣く、こんな時がまた来るなんて……。

この後俺は……楽園に案内されるのだ……。
楽園にはティーゴ達が助けた獣人の仲間がいっぱい居た。
俺の大切な仲間……家族。
皆幸せそうだ。

ティーゴありがとう。俺は幸せだ……。

「おい?アレク……お前また泣いて……ほら?肉食べな?」

思い出してたら……また泣いていたみたいだ。

「シファさんなんて何回もおかわりしてるぜ?」

本当だ……シファのヤツ口いっぱいに肉を入れて!可愛い顔が台無しじゃねーか!
そんなに美味いのか?
どれ?肉を口に入れる。

「うんまー⁉︎何だこの肉?」

「んん?ワイバーンとかオークキングとかだな?」

ブッッ!

「何だよ汚いなー!」

思わず吹き出してしまった。
美味い筈だよ!高級肉だ!初めて食べたよ!

「それとな?コレは新作の焼き竹ノコだ!香ばしくって美味いんだ!食べたらビックリするぜ?
他にも色々焼いてるから焼き台に行こうよ」

「おう!」

俺はティーゴの後を付いて焼き台に向かった。

ああ……この幸せがずっと続きます様に……。
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