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第1章 龍王様の番
説明……ですよね?
しおりを挟むなんで? どうして?
私の偽装した化粧は、特殊な製法で作った色粉を使っているから、汗や水に濡れても簡単に落ちたりしない。
専用の薬液を使って落とさないと落ちないのに。
だけど……今の私の姿は、湯船に浸かって念入りに化粧を落としたみたいに、綺麗に落ちている。
手も足も全てが……偽装する前の姿になっている。
一体いつから?
———あっ! そうだ。
虹彩花をとりに行った時に、泉に入ったんだった。
あの時は必死だったから……。
……だけど、そんな事で簡単にとれたりする偽装化粧じゃないんだけどな。
でもそれしか考えられない。
だから飛龍様も紫苑様も『翠蘭か?』って私の事を不思議そうに見てたんだ!
私のおバカ! なんでその時に気づかないの。
おっと、過去を悔しがっている暇はないんだった。
目の前の窮地をどう切り抜けたらいいの!?
なんて説明しよう。
……………
……………
……………だめだ! まったく何も思い浮かばない。
「翠蘭? 話してくれぬのか?」
一人考え込んでいたら、飛龍様が再び質問してきた。
ずっと返事を返さないのは失礼だ。もう思ったまま言うしかない。
「ええと……そのう、私の髪の色は目立つので、村で暮らしていた時も特殊な色粉で染めて過ごしていました。だからこれはそのう……習慣というか」
何を言っているのか、自分でもよく分からない。
「習慣のう……せっかくの美しい髪をわざわざ汚すなど、我には分からぬ」
そう言いながらも飛龍様は私の髪をひと束とり優しく触れる。
「肌まで黒く見せていたとは……翠蘭の化粧の技術は素晴らしいですね」
紫苑様が私の顔をまじまじと覗き込むように見てくる。あまり見ないでください。緊張します。
「飛龍様や皆様を騙したことになりますよね。すみません、処罰なら受けます」
「何を言っておるのだ? 皆の病気を治してくれたのだ。褒美ならわかるが罰など……ったく」
飛龍様は少し呆れたようにそう言うと、私の頭をクシャリと撫でた。
「ここでは騒がしい。一旦、部屋に戻ろうぞ」
椅子から立ち上がると、私の手を引き立たせてくれた……っと思ったら。
「ひゃっ!? あのっ!?」
なんと飛龍様は私を抱き上げた。これはお姫様抱っこというものでは……。
「疲れて足も動けんであろ? だから運んでやる」
「いやあっ、だだっ、ダイジョウブデス。歩けるますよ!」
「ククッ。何を言っておるのだ。無理して歩く必要はない」
「そのっ……でもっ」
「いいから黙って抱かれておれ。部屋に着いたら詳しく聞かせてもらうからのう」
飛龍様はそういうけれど。
みんなが注目して見てるし、何よりこんな事されたことがないので、どうしたってドキドキして落ち着かない。
早く部屋に着いてと願うしかなかった。
★★★
「やっと静かになったのう」
「……そうですね」
「ふむ? どうしたのだ? 顔が赤いのう……疲れておるのか?」
飛龍様が心配そうに私の顔を見るんだけれど。
それは貴方のせいですよ! とはもちろん言えないので「大丈夫です」と答える。
飛龍様に抱っこされたまま、つがい審査をした広い部屋に戻ってきた。
この広い部屋には、奥にある飛龍様が寝ていた寝室とは別に二つ部屋があり、その内の一つの部屋に案内された。
その部屋の中は、高そうな調度品が並べられ、絵画なども飾られている。
物に触って壊さないように、少し緊張しながら椅子に座った。
椅子に座って落ち着いていると、一つの大きな絵画が目に飛び込んできた。
「えっ……」
絵画に書かれていたのは、龍人族の男性と赤い髪色の女性……私? そんな訳ないけれど、似ている。
「気づいたか? その絵を翠蘭に見せたくてこの部屋に連れてきた」
「この人たちは……」
「先代の龍王とその番だ」
龍王様と
赤い髪の女性が番……
「少し昔話をしようかのう。聞いてくれるか?」
「はい。もちろんです」
飛龍様はゆっくりと話し出した。
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