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第1章 龍王様の番

薬と勘違い

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「お主は……翠蘭か?」
「ふふふ。はい翠蘭ですよ。今更なにを言ってるんですか?」

 飛龍フェイロン様が目をまん丸にして驚いている。きっと急に病気が治癒し頭が混乱しているのだろう。
 その気持ちは私も分かる。
 イチかバチかの賭けだった。それが……効果があったのだ。

 私だっていまだに手が震えている。

 だって……目が覚めると、頬から桃色の綺麗な皮膚が再生された飛龍様が、私を見つめていたのだから。
 あの息をするのも苦しそうな姿でもなく。
 樹の木さんの所で会う、余裕があるいつも通りの飛龍様だったのだから。

 そうだ、感動している場合じゃない!
 薬の効果があったのだ。
 ちゃんと飲んで頂いたら手や体の壊死も治るはず。

 私は慌てて完成した薬を取りに行きくと、茶器に適量流し入れ飛龍様の所に持って来た。

「飛龍様、この薬を飲んで下さい」

 飛龍様の横に座り茶器を渡す。

「ほう……黄金色に輝いておる」

 飛龍様はそう言って、茶器の角度を変えながら、金色に輝く薬を不思議そうに見ている。

「これは樹の木さんから頂いた、どんな怪我や万病も治せる黄金の葉を混ぜて調合した薬なのです」
「樹の……だから黄金色をしておるのだな」
「はい! さぁ飲んで下さい」

 私は早く飲んで欲しくて、飛龍様を急かす。

「そう慌てるでない。ちゃんと飲むから」

 飛龍様はそんな私を見てクシャリと顔を破顔させ、まるで子供をあやす様に私の頭をポンポンと撫でた。

「あわっ……」

 なんだか急に恥ずかしくなり……私は俯いてしまった。
 その間にゴクリと一気に薬を飲み干す飛龍様。

「なっ……これは」

 飛龍様が薬の即効性に驚いている。

 それもそのはず。
 樹の木さんの葉っぱの効果なのか、この薬の即効性が異常に凄かった。
 薬を飲んですぐ、手や足などに残っていた壊死した箇所が、みるみる乾燥しポロポロと崩れ落ちていく。
 これには作った私も驚いた。
 数分もすると、飛龍様の壊死した箇所が全て回復した。
 これは龍人族ゆえの回復力の高さも相まってな気がする。

 飛龍様は自分の体に不思議そうに触れ。

「ちょっと待っておれ」

 飛龍様は粉まみれの体を洗いたくなったのか、奥にある浴室がある部屋へと向かった。
 確かに綺麗に洗いたいですよね。

「はぁぁ……ほんと良かった」

 もし薬が効かなければ、飛龍様とこうやって話すことも、触れてもらうことも無かったのかも知れないと思うとゾッとする。

 三十分程すると、湯船から出てきた飛龍様が濡れた髪の毛をタオルで拭きながら私の所に歩いてきた。
 なんですか、その色っぽい姿は! 
 ほんのり桜色に色づいた体。濡れてさらに輝きを増した髪の毛。
 なんだか分からないけれど、美しすぎて緊張します。

「翠蘭……待たせたな」
「ええっ……大丈夫です」

 そういって私の横に再び腰掛けたのだけど、この色っぽい人を凝視できない。

「ほんに翠蘭の薬は素晴らしい。少し前までこの体が腐りかけていたとは思えぬ」
「本当に治って良かったです」

 私は前を向けず下を向いたまま返事を返す。

「ん? どうしたのだ? 気分がすぐれぬか?」

 そう言って私の顔を覗き込んできた。

「ひぁっ!? ダイジョウブデス!」
「はははっ。なんだその面白い喋り方は」

 緊張しすぎて思わずカタコトで話してしまった。

 そんな私を楽しそうに見て笑う飛龍様。良かった。
 んだけれど……何か忘れているような……。

「あっ! そうよ! 他の感染者」
「急にどうしたんじゃ!?」
 
 急に叫んで立ち上がる私に慄く飛龍様。驚かしてすみません。

「この腐死病は流行病だと言いましたよね?」
「そうじゃ」
「では飛龍様の他にも、今なお苦しんでいる龍人族の人たちがいるってことですよね?」
「うむ」
「この薬! 急いで届けてあげないと!」
「え?」

 私は出来上がった薬を籠に入れると、慌ててドアに向かって走っていく。

「ちょっ!? 翠蘭?」
「この薬を他の龍人族の人たちにも届けてきます! 飛龍様はゆっくり休んでいて下さいね」
「ちょっ、まっ!? 翠蘭っ、我は他にも聞きたいことがっ、その髪のいっ……」
「薬を渡したらすぐに戻ってきますから」

 飛龍様が何か言いかけていたようにも思うが、私は完成した薬をいち早く苦しんでいる龍人族の人たちに届けたくて、全く耳に入って来なかった。

 ドアを開けると、すぐ側の壁に紫苑さんが立っていた。
 私を見てなぜか目をまん丸にして驚いている。
 急に飛び出してきたからかな?

 紫苑さん? 驚いている暇はないですよ。

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