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心のスキルの変化と……

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 アルビダは誰もいない場所を探し、無我夢中で必死に走った。

 ——苦しい。心がっ……苦しいです。

「はっ……はぁっ……」


 ——ここなら……誰もいない。

 薔薇が咲いている小さな庭園を見つけると、そこに置いてある椅子に腰掛けると、心を落ちつかせるために大きく深呼吸をした。

『アビィ! 急に走り出してどうしたの? あのマウントとかいう令嬢が嫌だった?』

 抱っこされていたロビンが動き出すと、アルビダの頬を両手で挟み俯いている顔を上にあげた。
 アルビダの顔を大きな目で心配げに覗き込む。

「……そっ、それが……マウンティー様の心の声が聞こえてきたんですが……」

 アルビダはそこまで言うと、言葉に詰まる。
 そんなアルビダの様子を見て何かを察したのか、ロビンは口に手を当てる。

『ふう~ん……なるほどね』
「………」

 アルビダは口をキュと継ぐんだまま何も話さない。
 目は潤んでおり、何かの拍子で大きな雫がぽたりと今にも落ちてきそう。

『ねぇ。アビィ? 悪意を聞いたんだね』

 ロビンがそう言うと、黙って首を縦に振るアルビダ。

『心のスキルが進化すると、色んな人の感情が分かってしまうんだ。それは良い事でもあり、悪い事でもある。今まではアビィに好意のある人の声しか、解らなかったからね』

 ロビンの話を黙って聞いていたアルビダの、噤んでいた口が開いた。

「そ……そんなっ! それならば、進化などしたくなかったですわ」
『まぁまぁ、アビィ落ち着いて? いい事だってあるんだよ。だから進化なんじゃないか』
 
 ロビンが良いことと言っても首を横に振り『そんなことないですわ』とぷくっと口を膨らませるアルビダ。
 よほどマウンティー令嬢の悪意の声が嫌だったのだろう。

『だとえばだよ? 皆が集まる場所で誰かが殺されたとしよう。誰が殺したのか解らない。だけど、そのスキルを上手に使えばその場所にいるすべての人の考えていることを聞くことができる。犯人を見つけることだってできるんだ』

「悪い人を捕まえることができる……」

『なんなら、悪事を働く前に気づいて阻止することだってね?』

「阻止……」

 ロビンの話を聞き、アルビダの曇っていた瞳に光が灯る。

「自分に対しての悪意を聞くのはとても耐えられませんが……でもそれが人助けになるのなら! わたくしこのスキルと上手にお付き合いしますわ。悪意だって乗り越えて見せますわ」

『さっすがアビィ、そうこなくっちゃ。やっといつもの顔に戻ってくれたね』

 ロビンが嬉しそうにアルビダに抱きついた。

 ふわふわのロビンに抱きつかれ、正気を取り戻したアルビダは、ふと思うのだった。なぜマウンティー令嬢は、初対面の自分にあんなにも悪意をむき出しだったのかと。
 だが考えても答えが出ないので、アルビダは考えることをやめた。
 理解し難いが、そんな人もいるんだろうと思うことにした。

『じゃ、納得いったってことで、会場に戻ろ? きっとジェイデンやジュリアも心配してるよ? アビィさ? 急にお花摘みに行くって、走って行ったからね?』

 ロビンに指摘され何も言えないアルビダ。流石に淑女らしからぬ行動だったと思っているのだろう。

「…………反省しています。もうそんなことはしません」
『すぐに反省できるのは良いことだね。アビィは良い子』

 ロビンは背伸びをして、アルビダの頭をぽみゅりと優しく撫でる。

『じゃあ行こうか……!?』

 ロビンがそう言った次の瞬間、テディベアにの姿に戻ってしまった。

「え? ロビン!?」
 
 アルビダが驚きロビンを抱き上げると、背後から見知らぬ人が倒れ込んできた。

 ——え!? 

 振り返ったアルビダの前には、プラチナブロンドの髪色をした儚げな少年が顔を青く染め、苦しそうに横たわっていた。
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