世界の終焉

ぴんくじん

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変な奴

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俺のクラスメートにヤナギっていう変な奴がいた。

クラスに一人や二人変な奴はいるものだが、ヤナギは物凄く変な奴だった。

「戦後の闇市で買った豚肉の味が豚肉の味じゃなかったんだ」

ヤナギの口癖だった。朝、学校に登校する。クラスメートに挨拶をする。

「おはよう」

すると定型文通りに

「おはよう」

って返ってくる。普通のクラスメートならば。でも、ヤナギの"おはよう"はまだイントロで、アウトロが存在する。

「おはよう」

「おはよう。でもさ戦後の闇市で買った豚肉の味が豚肉の味じゃなかったんだ」

なにがでもさなんだろうか。分からない。ヤナギに言葉の意味を問いただしても、首を傾げるばかりだ。

ヤナギは隙があれば、この謎な言葉を埋めてくるので、最初はクラスメートに嫌われていた。

しかし最近はギャグ扱いだ。
当初は気味悪がっていたクラスメートも、ヤナギがあまりにも真面目に繰り返す内にツッコミをいれるようになっていた。

いやお前何歳だよ!とかヴァンパイアかお前!とかタイムトラベラーかお前!とかとか。

今やクラスメートもヤナギの言葉待ちみたいなところがあるぐらいである。


ただ女子にはまだキモがられているけども、それはアイツらのノミみたいに小さい感性を思えば致し方ない。



ある日の社会の授業中

「この少年は、敵兵から命からがら逃げてきたんだ。逃げてきたのはいいけど、日本は敗戦。戦後の日本は廃墟の遊園地みたいだった。元々は楽しかったモノが今は全て錆びている。そんな目に見える絶望の中、少年は一人歩みを進めていった...」

先生がジェスチャーを加えながら、熱弁を振るっている。

有名人ではなく、一人の普通の人間の話をする。これが最近の授業の傾向かもしれない。誰でも知っているが、雲の上な存在で現実感がない有名人の話をするよりも、一人の何気ない人間の話をするほうが現実感があり、感情移入しやすいからだろう。

ヒートアップしてきたのか、先生のジェスチャーが大きくなってきたところで

「がバマギブメニザボボヤンゥビァワガァンンンン」

ヤナギが急に訳の分からない叫び声をあげた。

「ザバミタナカヤハラヌンァー」

クラスの皆が口を開けながら丸い目でヤナギを見ている。先程までジェスチャーを披露していた先生も動かなくなっている。

「ガダノビジガラァァー...ハァ...ハァ...こ、こいつは...俺だった」

"パァーン"ヤナギが爆発した。血で満たされた水風船みたいに。
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