3 / 28
第2話 私、推しVに認知される為にロボに乗って戦います!
しおりを挟む
「ただいまー。間に合ったー」
家に帰った知奈が最初にする事は、PCの立ち上げ。そして待機所ページへの移動だ。
画面の向こうには液体の入った大きなカプセル。その中で眠っている男性がいる。
彼の名は【ほづみ・パトラクシェ】18歳の生体系人造人間である。
15歳までは普通の生活を送っていたが、大人になる為に“育成ポッド“の中で3年間過ごしている。
それは皮膚の定着や各種調整の為であり、必要な事だった。
そして、近い将来このポッド生活とお別れして“外界の人”と直接会えるのを心待ちにしている。
その日の為に外界の流行や状況を知っておきたくて、彼はVTuberになったのだ。
調整中.
調整中..
調整中...
液体の中で髪を揺らしながら、眠り続けるほづみ・パトラクシェ。そして目をキラキラさせながら画面を見つめる知奈。
彼が目覚めるまでのこの数分間さえも、知奈にとってはかけがえの無い時間なのだ。
そして、画面がフェードインで切り替わり、ほづみは目覚めていつものように静かに話し始める。
「……この声聞こえてるのかな。おーい。サンプルさん聞こえる? ボリュームは問題無い?」
…
……
………
それから10分後、知奈はほづみの癒し系ボイスに包まれてうっとりしていた。
今日1日の疲れが一気に吹き飛んでいく至福の時に「幸せ……」と一人つぶやく。
ほづみ・パトラクシェは半年前にデビューした個人勢の人気VTuberだ。
配信頻度は週に2~3回。主に深夜配信だが、他の時間帯に突発配信をはじめる事もある。
知奈はその時は泣く泣くアーカイブを見る事になるが、可能な限り生配信で見ると決めていた。
「……ほづみ君、ロボバトって知ってる?」
いつもはあまりコメントをしない知奈だが、色々あった疲れもあって思わず独り言を書きこんでしまう。
早いスピードで流れていくコメント欄の中、話の流れを無視した書き込みなんて一気に流されて終了だろうと思っていた。
「ん? ちょっと待って。気になるコメントが…… あった! ロボバト!」
「えっ!?」
知奈は思わず声が出てしまう。
(まさかほづみ君がわざわざコメ欄を遡ってまで、私のコメントに反応してくれるなんて……!)
嬉しさと驚きでパニックを起こしている知奈を横に、ほづみは早口でロボバトについて語り始めていた。
全ての始まりである日米ロボット対決。夢にまで見たぎこちない動きながらも巨大ロボット同士の肉弾戦。
毎年行われているロボバトの過去の名勝負。毎年上位に食い込む強豪チーム達……
「そうなんだぁ。ロボバトってすごいのね」
知奈はほづみの話やコメント欄を聞いて少しずつ興味を持っていく。
そして、次回のロボバトの予想や期待について語り出した時、まさかの言葉が飛び出してきた。
「そういえば、次の21世紀枠が凄いらしいね。噂では工学系でも無い只のアニメ同好会だとか」
(!?)
「最近のロボバト界隈は勝敗にこだわった結果、重機化が進んでいて少し残念に思っているんだよね」
(……)
「そこにあえて飛び込んでくるアニメ同好会。これは間違いなく"ロマン参戦"だから、どんなロボを見せてくれるかとっても楽しみだよ!」
(一体何が起こっているの!?)
画面の向こうの光景に只々唖然とする知奈。
正式決定もしていない同好会の情報が、出回っている。何で情報が洩れているかなんてどうでもいい。
知奈にとって大事なのは、ほづみ君がその事を知ってて凄く楽しみにしているという事実だ。
「僕は全力でオタクチームを応援していくよ!」
(もし私が出場したらほづみ君は私を認知してくれる。勝ち進んでいけば私のファンになってくれるかもしれない。そして、優勝なんてしちゃったら、もしかしたら何かがあるかもしれない……!?)
知奈の脳内で妄想が一気に膨らんでいく。
いてもたってもいられない知奈は、配信終了後すぐに渡辺会長に連絡した。
「会長、ロボに乗せて下さい! 私、推しに認知してもらう為にロボに乗って戦います!」
家に帰った知奈が最初にする事は、PCの立ち上げ。そして待機所ページへの移動だ。
画面の向こうには液体の入った大きなカプセル。その中で眠っている男性がいる。
彼の名は【ほづみ・パトラクシェ】18歳の生体系人造人間である。
15歳までは普通の生活を送っていたが、大人になる為に“育成ポッド“の中で3年間過ごしている。
それは皮膚の定着や各種調整の為であり、必要な事だった。
そして、近い将来このポッド生活とお別れして“外界の人”と直接会えるのを心待ちにしている。
その日の為に外界の流行や状況を知っておきたくて、彼はVTuberになったのだ。
調整中.
調整中..
調整中...
液体の中で髪を揺らしながら、眠り続けるほづみ・パトラクシェ。そして目をキラキラさせながら画面を見つめる知奈。
彼が目覚めるまでのこの数分間さえも、知奈にとってはかけがえの無い時間なのだ。
そして、画面がフェードインで切り替わり、ほづみは目覚めていつものように静かに話し始める。
「……この声聞こえてるのかな。おーい。サンプルさん聞こえる? ボリュームは問題無い?」
…
……
………
それから10分後、知奈はほづみの癒し系ボイスに包まれてうっとりしていた。
今日1日の疲れが一気に吹き飛んでいく至福の時に「幸せ……」と一人つぶやく。
ほづみ・パトラクシェは半年前にデビューした個人勢の人気VTuberだ。
配信頻度は週に2~3回。主に深夜配信だが、他の時間帯に突発配信をはじめる事もある。
知奈はその時は泣く泣くアーカイブを見る事になるが、可能な限り生配信で見ると決めていた。
「……ほづみ君、ロボバトって知ってる?」
いつもはあまりコメントをしない知奈だが、色々あった疲れもあって思わず独り言を書きこんでしまう。
早いスピードで流れていくコメント欄の中、話の流れを無視した書き込みなんて一気に流されて終了だろうと思っていた。
「ん? ちょっと待って。気になるコメントが…… あった! ロボバト!」
「えっ!?」
知奈は思わず声が出てしまう。
(まさかほづみ君がわざわざコメ欄を遡ってまで、私のコメントに反応してくれるなんて……!)
嬉しさと驚きでパニックを起こしている知奈を横に、ほづみは早口でロボバトについて語り始めていた。
全ての始まりである日米ロボット対決。夢にまで見たぎこちない動きながらも巨大ロボット同士の肉弾戦。
毎年行われているロボバトの過去の名勝負。毎年上位に食い込む強豪チーム達……
「そうなんだぁ。ロボバトってすごいのね」
知奈はほづみの話やコメント欄を聞いて少しずつ興味を持っていく。
そして、次回のロボバトの予想や期待について語り出した時、まさかの言葉が飛び出してきた。
「そういえば、次の21世紀枠が凄いらしいね。噂では工学系でも無い只のアニメ同好会だとか」
(!?)
「最近のロボバト界隈は勝敗にこだわった結果、重機化が進んでいて少し残念に思っているんだよね」
(……)
「そこにあえて飛び込んでくるアニメ同好会。これは間違いなく"ロマン参戦"だから、どんなロボを見せてくれるかとっても楽しみだよ!」
(一体何が起こっているの!?)
画面の向こうの光景に只々唖然とする知奈。
正式決定もしていない同好会の情報が、出回っている。何で情報が洩れているかなんてどうでもいい。
知奈にとって大事なのは、ほづみ君がその事を知ってて凄く楽しみにしているという事実だ。
「僕は全力でオタクチームを応援していくよ!」
(もし私が出場したらほづみ君は私を認知してくれる。勝ち進んでいけば私のファンになってくれるかもしれない。そして、優勝なんてしちゃったら、もしかしたら何かがあるかもしれない……!?)
知奈の脳内で妄想が一気に膨らんでいく。
いてもたってもいられない知奈は、配信終了後すぐに渡辺会長に連絡した。
「会長、ロボに乗せて下さい! 私、推しに認知してもらう為にロボに乗って戦います!」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
もっさいおっさんと眼鏡女子
なななん
ライト文芸
もっさいおっさん(実は売れっ子芸人)と眼鏡女子(実は鳴かず飛ばすのアイドル)の恋愛話。
おっさんの理不尽アタックに眼鏡女子は……もっさいおっさんは、常にずるいのです。
*今作は「小説家になろう」にも掲載されています。
月曜日の方違さんは、たどりつけない
猫村まぬる
ライト文芸
「わたし、月曜日にはぜったいにまっすぐにたどりつけないの」
寝坊、迷子、自然災害、ありえない街、多元世界、時空移動、シロクマ……。
クラスメイトの方違くるりさんはちょっと内気で小柄な、ごく普通の女子高校生。だけどなぜか、月曜日には目的地にたどりつけない。そしてそんな方違さんと出会ってしまった、クラスメイトの「僕」、苗村まもる。二人は月曜日のトラブルをいっしょに乗り越えるうちに、だんだん互いに特別な存在になってゆく。日本のどこかの山間の田舎町を舞台にした、一年十二か月の物語。
第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます、
黒狐さまと創作狂の高校生
フゥル
青春
これは、執筆に行き詰まったコミュ症高校生が、妖狐との異文化交流を通して自分の殻を破り、人間的にも作家的にもちょっぴり大人になる物語。
――
脳を創作で支配された高校生『ツキ』。
小説執筆で頭をおかしくしたツキは、神社へ参拝。
「面白い小説を書けますように」
「その願い、叶えよう」
願いを聞き届けたのは、千年妖狐の『黒狐さま』。黒髪ロングの美女である黒狐さまに対し、ツキは言った。
「いやです。だって、願い事叶う系の短編小説のオチって、大抵ろくな事ないじゃないですか」
「では、投稿サイトと、アカウント名を教えておくれ。ただの助言であれば、文句はあるまい」
翌朝、ツキのクラスに、黒狐さまが転入してきた。
こうして始まった、創作狂ツキと黒狐さまの奇妙な妖狐ミュニケーション。種族も年齢も価値観も違う交流。すれ違わないはずもなく……。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
切り抜き師の俺、同じクラスに推しのVtuberがいる
星宮 嶺
青春
冴木陽斗はVtuberの星野ソラを推している。
陽斗は星野ソラを広めるために切り抜き師になり応援をしていくがその本人は同じクラスにいた。
まさか同じクラスにいるとは思いもせず星野ソラへの思いを語る陽斗。
陽斗が話をしているのを聞いてしまい、クラスメイトが切り抜きをしてくれていると知り、嬉しさと恥ずかしさの狭間でバレないように活動する大森美優紀(星野ソラ)の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる