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第1話 頼む知奈、何もいわずこれに乗ってくれ!
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それから数日後のお話。
「えっ…… えええええええ!?」
サブカルカフェ【エンジェルハイロゥ】の店内に大きな声が響き渡った。
「頼む知奈、何もいわずこれに乗ってくれ!」
「太一さんここで本名出さないでくれる!?」
彼女の名前は水月知奈。ここでは「ねいね」として働いている。
小柄で細身、黒髪のショートボブと中学生と間違われる事もあるが、れっきとした20歳の大学生だ。
「いつか2人で沖縄行こうと約束した仲じゃないか!」
「どれだけ昔の話してるんですか! 思い出したように幼馴染ネタを出さないで下さい!」
そこに、2人のやり取りを聞いた、同じキャストのみぅが話に割り込んできた。
「ねぇー。どうしたの~?」
「みぅ、聞いてよー。いきなりこんなの見せられて、これのパイロットになってくれと……」
仕様書に書かれたイメージ図を見て、みぅは目を輝かせた。
「うわっ! 凄い、これパワードスーツだ!」
「おっ? あんたロボットいけるクチ?」
「ハイっ! 大好きです!」
会長とみぅがロボ談義で盛り上がってしまった。
「と、いう訳で」
「ねいねちゃんこれに乗ろっ!」
(しまった。みぅはこの手の奴好きだったんだ)
知奈はすこし後悔していた。
「勝手に盛り上がらないで! てかこれって…」
ロボの仕様書を改めてじっくり読む知奈は、気になる部分を見つける。
---- パイロット条件 ----
・身長150cm以下の細身女性
・体操をしており体幹や柔軟性がある事
・パルクールしてると更に良し
------------------------
「これ、私が乗る事を前提として設計されてますよね!」
「ねいねちゃん、運動神経抜群だもんね!」
「そりゃ、身近に理想的な奴がいたら当然だろ」
(どうやら私が乗るのは決定事項になってるらしい。忘れてた。この人は一度決めたら引き下がらない厄介なタイプなんた)
「困ったな……」
どう対処しようか悩む知奈の前に救世主が現れた。
「どうした。なに盛り上がってるんだー?」
「店長! 聞いてくださいよ~」
「どうですか店長、これ!」
「ねいねちゃんが乗るんですって!」
「ほぅっ」
店長は渡辺会長から企画書を受けとり、軽く目を通してこう言った。
「面白いねコレ。もしウチの制服を着けて乗ってくれるならスポンサーになるよ。勿論ねいねへの特別手当も出すわ」
「ちょ、ちょっと店長!?」
「それいいですね! まさにロマンだ!」
「ねいねちゃんよかったね!」
(……この流れはいけない。変な外堀が見えてきたわ)
「当然、我が同好会からもファイトマネーは出すぞ!」
(うっ)
「ねいねは歌って踊れるアイドルに憧れてたよな?」
(ううっ)
「意外と目立ちだかりだもんねー。ねいねちゃんは」
(うううっ)
見る見るうちに、外堀が凄い勢いで埋まっていく。
「ま、待ってよみんなー!」
最後の抵抗を試みる知奈だが、みぅの一言がそれを打ち砕く。
「ほら。推しに赤スパチャ投げられるじゃない!」
(うううう~っ! ここでそれ出すのは反則だよ!)
「……少し考えさせてください」
知奈はそう返すのが精一杯だった。
* * *
…
……
………
仕事を終えて帰宅途中の知奈はヘトヘトになっていた。
「まったく、今日は大変な1日だったわ……」
「いきなり昔の幼馴染がお店に来たかと思えば、これに乗るんだといきなり計画書を渡された。そしたら周りも勝手に盛り上がっちゃうし……」
「確かに絶対嫌って訳でもじゃないけど、いきなり言われても……」
知奈は頭をブンブンと横に振る。
「もういいっ。考えるのはもうおしまい!」
これからの楽しみを考えると顔は上がるし、少し早足にもなる。
「今からほづみ君の深夜配信が始まるんだから! もうそれ以外の事は考えない!」
そう。知奈は男性VTuberである“ほづみ・パトラクシェ”の熱狂的ファンなのだ。
「えっ…… えええええええ!?」
サブカルカフェ【エンジェルハイロゥ】の店内に大きな声が響き渡った。
「頼む知奈、何もいわずこれに乗ってくれ!」
「太一さんここで本名出さないでくれる!?」
彼女の名前は水月知奈。ここでは「ねいね」として働いている。
小柄で細身、黒髪のショートボブと中学生と間違われる事もあるが、れっきとした20歳の大学生だ。
「いつか2人で沖縄行こうと約束した仲じゃないか!」
「どれだけ昔の話してるんですか! 思い出したように幼馴染ネタを出さないで下さい!」
そこに、2人のやり取りを聞いた、同じキャストのみぅが話に割り込んできた。
「ねぇー。どうしたの~?」
「みぅ、聞いてよー。いきなりこんなの見せられて、これのパイロットになってくれと……」
仕様書に書かれたイメージ図を見て、みぅは目を輝かせた。
「うわっ! 凄い、これパワードスーツだ!」
「おっ? あんたロボットいけるクチ?」
「ハイっ! 大好きです!」
会長とみぅがロボ談義で盛り上がってしまった。
「と、いう訳で」
「ねいねちゃんこれに乗ろっ!」
(しまった。みぅはこの手の奴好きだったんだ)
知奈はすこし後悔していた。
「勝手に盛り上がらないで! てかこれって…」
ロボの仕様書を改めてじっくり読む知奈は、気になる部分を見つける。
---- パイロット条件 ----
・身長150cm以下の細身女性
・体操をしており体幹や柔軟性がある事
・パルクールしてると更に良し
------------------------
「これ、私が乗る事を前提として設計されてますよね!」
「ねいねちゃん、運動神経抜群だもんね!」
「そりゃ、身近に理想的な奴がいたら当然だろ」
(どうやら私が乗るのは決定事項になってるらしい。忘れてた。この人は一度決めたら引き下がらない厄介なタイプなんた)
「困ったな……」
どう対処しようか悩む知奈の前に救世主が現れた。
「どうした。なに盛り上がってるんだー?」
「店長! 聞いてくださいよ~」
「どうですか店長、これ!」
「ねいねちゃんが乗るんですって!」
「ほぅっ」
店長は渡辺会長から企画書を受けとり、軽く目を通してこう言った。
「面白いねコレ。もしウチの制服を着けて乗ってくれるならスポンサーになるよ。勿論ねいねへの特別手当も出すわ」
「ちょ、ちょっと店長!?」
「それいいですね! まさにロマンだ!」
「ねいねちゃんよかったね!」
(……この流れはいけない。変な外堀が見えてきたわ)
「当然、我が同好会からもファイトマネーは出すぞ!」
(うっ)
「ねいねは歌って踊れるアイドルに憧れてたよな?」
(ううっ)
「意外と目立ちだかりだもんねー。ねいねちゃんは」
(うううっ)
見る見るうちに、外堀が凄い勢いで埋まっていく。
「ま、待ってよみんなー!」
最後の抵抗を試みる知奈だが、みぅの一言がそれを打ち砕く。
「ほら。推しに赤スパチャ投げられるじゃない!」
(うううう~っ! ここでそれ出すのは反則だよ!)
「……少し考えさせてください」
知奈はそう返すのが精一杯だった。
* * *
…
……
………
仕事を終えて帰宅途中の知奈はヘトヘトになっていた。
「まったく、今日は大変な1日だったわ……」
「いきなり昔の幼馴染がお店に来たかと思えば、これに乗るんだといきなり計画書を渡された。そしたら周りも勝手に盛り上がっちゃうし……」
「確かに絶対嫌って訳でもじゃないけど、いきなり言われても……」
知奈は頭をブンブンと横に振る。
「もういいっ。考えるのはもうおしまい!」
これからの楽しみを考えると顔は上がるし、少し早足にもなる。
「今からほづみ君の深夜配信が始まるんだから! もうそれ以外の事は考えない!」
そう。知奈は男性VTuberである“ほづみ・パトラクシェ”の熱狂的ファンなのだ。
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