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恋するコペルニクス

35話 ヘルシィリセット

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 タッタタタッタ、地を駆ける足音はもうすぐそこまで来てる。

 いつまた銃弾が流れ飛んで来るか分からない。
 リンには悪いが万が一を想定して、もうしばくここでジッとしていて貰おう。

「タラッタタタッタ! アイム――――「ダークネスブリンガァアア―――!!」

 ほとばしる黒き閃光。
 ササブリの右手から発射された、えげつない魔法がハンターと思しき人物を溶解した。
 本当に人がいたのか疑いたくなるほどの瞬殺ぶりは、とにかくヤバイとしか言いようがない。
 拳大パンチが可愛く見えてしまうほどだ。
 こんな超生命体を相手に人類はどう戦えというのだ? そう思うと、冒険者たちが空白百年間、魔王を放置していたのも納得できる。

 もっとも、その魔王を使役している俺は人類の底辺に立たされているのだが……。
 まぁね。その分、ササブリが活躍してくれればいいさ。
 じきに草取りもしなくて済む生活が送れるかもしれない。

 タッタタタッタ……デジャヴなのか、さっき同様に階段の方から人が上ってくる気配がした。

「ササブリ、これは……一体?」

「気をつけよ! この音、間違えなく先程の奴と同様の足音じゃ」

「タラッタタタ「ダークネスブリンガー!」

 投げやりの一撃が、ハンターと思しき何かを消滅させた。
 今度は、人影すら見る余裕がなかった。

 ただ、次に同じ現象が生じた場合は、スキルブックを使用していると見た方がいい。

「アイム、ヘルシィ―――!!」

「後ろからだと!?」

 三回目は、階段を駆け上がる音どころか、いつ広間に入ってきたのかも分からず困惑した。
 ササブリの背後には、オールバックの中年男が立っていた。
 彼女が振り向く前に銃口を頭に突きつけ、男は素早くデリンジャーの引き金をひいた。

 軽快な拳銃の音が広間に反響した。
 茫然自失となる俺の視線の先に銃で撃たれ倒れる魔王の姿があった。

「嘘だろっ……魔王様よ! 滅茶苦茶に強いくせに拳銃一発で始末されるなんてありえないだろっ!?」

「ん? お前か、こんなヤバイ魔性を飼いならしているのは……おかげで二度も死んだじゃねぇか? 俺っちじゃなければ、乗り越えられなかったね、コレ」

 背筋を伸ばしながら男はコチラ向いた。
 普通に身体の向きを変えればいいだけなのに、そうしない。
 生粋の馬鹿か、正真正銘の変態か、もしくは何も考えていないパッパラパーか……?
 いずれにしても、オールバックに乱れはない。

「まさか……そのオールバックがアンタのスキルブックの秘密を解く鍵とか……なんてありきたりか!」
 呪いによってふと、閃いたことを口走ってしまった。
 当然、そんなはずがあるわけがない。奴がササブリの攻撃をしのいだ理由はもっと難解な物に決まっている。

「はあっはぁっ……俺っちはヘルシィ、オメガ三兄弟の、ちょ、長兄よ。知っているぞ、オマエ……死体漁りのジョニーやろ?」

「うわっ……あからさま、すぎやしません? 目の焦点がズレまくっているんですけど……」

 オメガのお兄ちゃんは、嘘が苦手なようだ。
 苦し紛れの自己紹介だけではなく、走ってきたくせに着衣がまったく乱れていない。コイツはビンゴだと!
 だとしたら、コイツの能力は時間遡行やリセット、ロールバックだ。

「その様子、どうやら分かっちゃったみたい……やね。 そっか、死ね」

「決断はぇぇえ――よ!」

 懲りずにデリンジャーを向けてくる。
 ヘルシィは自分の射撃能力に、絶大なる信用を持っている。
 実際、今のところ一度も外していないし、ステータスの低い俺では回避することも望めそうにない。
 ならば、頼りにするしかない。
 今一度、自分のスキルブックに光を灯す。

「スキルブック、フォトグラファー! 目覚めよ、魔王デスブレイド!」

「無駄な、足掻きぃぃ……」

 ヘルシィの表情が凍りついたように動かなくなった。
 それもそうだ。背後から、凄まじい闘気を浴びせられれば誰だって言葉を失う。
 ましてや、倒したと思っていたはずの相手が、まったくの無傷だと知った時の動揺は半端ない。

「誰がデスブレイドじゃ……たわけ。我は魔王、デスブリンガーじゃぁあああああ!!」

 想い丈、それは漆黒の闘気だった。
 ササブリの感情が昂るほど、勢いが増してゆく。

「クソっ!! 動くな! 動けば、コイツを撃つ」

 追い詰められたヘルシィが、俺に銃口を向けた。
 だが、すでにネタはわれた。デリンジャーの有効射程範囲は短い。
 にもかかわらず、コイツは確実に当ててくる。
 射撃能力でどうにかなるもんじゃない。
 ササブリに三発目を当てたのは失敗だ。もし、それがなかったらこのカラクリには気づけなかった。
 つまり、デリンジャーは従来通り、射程が短く遠距離用の武器として不向きだ。
 そこから導き出される答えは一つ。
 ヘルシィはスキルブックの能力と併用して相手の至近距離から銃撃をしていた。

「スキルブック! ザ・ビジョン」

 だから、ここで止める!「マイトカッター」
 スキルブックが顕現するのと同時に、俺の投げたバックラーシールドが奴の腕に命中した。

「イッ……たくはないぞ。フフッ、貧弱な攻撃だな!」

「ならば、激烈な攻撃はどうじゃ? 一生、忘れられぬ思い出になると思うぞ」

 一瞬、ヘルシィの意識がスキルブックからそれた。
 その僅か一秒にも満たない時間が勝敗を決める。
 魔王の鉄拳が奴の顔面にめり込んだ。
 ミシッと音を鳴らした途端、凄まじい勢いでヘルシィは回転し上空へと飛ばされてゆく。
 そして、ダーツのように頭から天井に突き刺さった。
 ここに、金田一耕助も真っ青な逆犬神家が完成してしまった。
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