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難攻不落のサクリファイス
商売魂
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「ゴメン! 私、観光にきたわけじゃなんだ。サクリファイス城塞跡にはちょっとした用事があって……」
用事――何かと言い訳するのには役立つ、馴染み単語だ。この言い回しを思いついた人間は超絶天才だと思う。
散々、思考をこねくり回しても、これ以上の返答は私には無理だ。
馬鹿正直に、サクリファイスに入り込みますなんてバーナードにだって言っていない。
というか、ぜってぇー言えない。
敵陣だと考えていたサクリファイスが観光名所になっているなんて普通は想像しないよ!
しかも川岸に沿って鉄柵が設けられているし、これ絶対立ち入り禁止、入場不可の奴だ。
この子に悪いけど、今回は縁がなかったという事で――
「そんなに気になさらないで下さい。私の方も強引に誘ってしまってスミマセン!」
あたふたしながら、両手を振る彼女の仕草が妙に愛らしく感じた。
もし、私に妹がいたらあんな感じの子がいいなぁーとついつい頬を緩ませてしまう。
「ちなみにですが、お姉さん。ボディガード要りませんか? 実はですね、パーティー券というチケットを当方で用意してまして――」
背負っていたバッグを下ろし女の子は中身を漁りだした。
なにやら、為政者みたいな発言を聞いたような気もするが、彼女の言うチケットは当然、別物。
痴漢に襲われ困窮していた、か弱き乙女に救いの手を差し伸べようといった魂胆なんだろう。
気持ちは有り難いけど、女の子の細い腕を見る限り腕っぷしに自信があるようには思えないし、この辺りの情報を尋ねようとしても今は、あの猫がいる。
「え――っと……」
「はい? あっ! そうでしたね、まだ名乗ってませんでした。私、ラターン商会のトルテ・タタンっていいます。以後、お見知りおきを~」
「月舘……姓だとややこしいか。魔導士の萌知です、宜しくね」
「おっ。お姉さん! 魔導士なんですか!? 魔術師じゃなくて!?」
「ん? そうだけど……?」
トルテと名乗った女の子が唐突に騒ぎ出したので、私の方も泡を食う羽目になった。
あああ、この感覚――アレだ! レアモンスターに遭遇した時の、はしゃぎっぷりだね。
折々、気にはなっていたけどジップ村でも魔術師の話題は尽きないのに、魔導士関連はそんなに話されていない印象だった。
もしかしなくても、激レアな職業なのでは――
「お姉さんはこの国の出身じゃありませんよね? 悪い事は言いません。ここでは人前で魔導士を名乗らない方がいいです。魔術師は国家資格として認めてられていますが、魔導士は……つまり、その」
「忌み嫌われているのかな? 非合法とか裏稼業とかって感じで……」
「いやっ、それは人それぞれなんですけど……この国で魔導士とは恐れの象徴。地方ならともかく、帝都では特に取り締まりが厳しいんです、名乗ると罰せられるぐらいに」
「どうして、そこまでするの?」
「あくまで噂なんですが、魔導士の魔法は進化すると言われています。その過程で魔導士から魔男や魔女を輩出したという記録が古代の文献に記述されているそうです」
気づけば手に嫌な汗が滲んでいた。
あわよくば、モリスンの情報が得られるかもしれないなんて目論むも、それどころではなくなってしまった。
トルテ、彼女が悪いわけではない……むしろ、親切心で話してくれたおかげで助かったぐらいだ。
それでも、魔女と聞くと嫌でも暴虐無人のアイツを思い出してしまう。
せっかく考えないようにしようと決めたのに……。
勿論、善意を持つ魔女だっているかもしれない。
けれど、それはこの隠世の世界では共有できる認識なのか? 怪しい。
少なくとも、トルテの言い方だと魔女は危険な存在だと言っているようなものだ。
それに進化する魔法とは何なのだろうか? 知らない。
師匠からも一度たりとして聞かされていない。
魔法を超越した先にある魔法――その話が真実なら魔法使いとして断然、知りたい。
識ることが本能だと言ってもいい! 未知なる力と聞いたら、惹かれるに決まっているじゃないか!!
「……どうかしました?」
「あっ! ツレと待ち合わせしていたんだ。忠告ありがとーね、トルテちゃん。またねー」
絶妙なタイミングを見計らい離脱する私。逃げるなら論点がズレた時が狙いだ!
彼女の話は興味深くまだまだ聞き続けていたい。
そう、それこそが罠。
よくよく思い浮かべれば、彼女はあくまで噂だと発言していた。
つまり、この話自体の信憑性を裏付ける証拠はないってこと。
それを鵜のみにするのは危険だ。
あのままだと、あの娘のペースにのせられ外堀から固められて抜け出せなくなる。
本当、年齢に似合わず商売上手だ。
川沿いにある茶屋。
待ち合わせしていた場所に向かうと、すぐ傍の柵の前にバーナードが突っ立っていた。
彼は川を眺めながら、何やら物思いに耽っている。
出会って間もない間柄なんだけど、意外な一面もあるのだなと驚いた。
あまりにシリアスな雰囲気を醸し出しているので、ついつい私の悪戯心が触発されてしまう。
忍び寄って背後から、いきなし声をかけたら猫は、一体どんな反応をするのだろうか?
「遅かったな。道草を食うのもほどほどにしておけよ」
「ぬわっ!! バーナード気づいていたの!? というか、本当に草食ってた人の言葉は重みがあるね!」
「うっさいわ! 俺を驚かせたければ気配を消す練習をしろ」
「忍者みたいなことを言われてもね……ここで何をしていたの? 何やら考え込んでいたようだけど」
「対岸を見てみな」
厚手のグローブが指し示す席に、巨影が浮かび上がっていた。
違う、これは影ではなく黒塗りの外壁。
天に向かってそびえる、長い鋼鉄板が円を描くように列を作り城塞周囲を囲っている。
これが、サクリファイス城塞遺跡。
あの壁の向こう側には、かつて城塞都市と呼ばれた文明の遺産が手つかずのまま眠っているという。
「これまた、想像してよりもケタ違いのスケールだよね……土地面積でも孤島ぐらいの広さはあるよ」
「ああ、なんせ難攻不落の城塞都市と言われていた場所だからな。さすがに規模がデカいな」
「ところで、知り合いの占星術師には会えたの?」
「そう! それだ。いいか、落ち着いてきけよ。どうやら、アイツは城塞の中に忍び込んじまったらしい」
「城塞の中って……立ち入り禁止区域だよね? 一体、何の為に!?」
「それはそうなんだが……あの中にはな――。こうなれば、別の占星術師を探したほうがいいぜ」」
何とも歯切れ悪い。
どうやら、バーナードには余程隠し通したい事柄があるようだ。
代わりを探すのは私としても構わない。
ただ、そう都合良く、すぐに見つかるだろうか?
正直な話、かなり困難だと思う。
どうせ、元から城塞の中へと侵入するつもりだったのだ。
ここいらで適当な理由をつけて単独行動に戻ればいい。
「左様ですか! ならば、とっておきの遺跡侵入経路をご案内できますが」
「うおっい! 何だ、このガキは!? いつから、ここにいたんだ?」
「お姉さんとずっと一緒でしたよ~白猫さん」
「ト、トルテちゃん!?」
「あっ、私の事はトルテと呼んでもらっても構いませんよ~」
まったく、もって気づかなかった。
屈託なく笑う彼女は何を考えたのか、密かに私の後について来たようだ。
同様、バーナードも彼女を存在を察知できていなかったらしく素で距離を取り身構える始末だった。
「草団子やるから帰れ。どういう意図か知らんが、これ以上、俺たちに付きまとうな」
「ちょっと、言い方!」
用事――何かと言い訳するのには役立つ、馴染み単語だ。この言い回しを思いついた人間は超絶天才だと思う。
散々、思考をこねくり回しても、これ以上の返答は私には無理だ。
馬鹿正直に、サクリファイスに入り込みますなんてバーナードにだって言っていない。
というか、ぜってぇー言えない。
敵陣だと考えていたサクリファイスが観光名所になっているなんて普通は想像しないよ!
しかも川岸に沿って鉄柵が設けられているし、これ絶対立ち入り禁止、入場不可の奴だ。
この子に悪いけど、今回は縁がなかったという事で――
「そんなに気になさらないで下さい。私の方も強引に誘ってしまってスミマセン!」
あたふたしながら、両手を振る彼女の仕草が妙に愛らしく感じた。
もし、私に妹がいたらあんな感じの子がいいなぁーとついつい頬を緩ませてしまう。
「ちなみにですが、お姉さん。ボディガード要りませんか? 実はですね、パーティー券というチケットを当方で用意してまして――」
背負っていたバッグを下ろし女の子は中身を漁りだした。
なにやら、為政者みたいな発言を聞いたような気もするが、彼女の言うチケットは当然、別物。
痴漢に襲われ困窮していた、か弱き乙女に救いの手を差し伸べようといった魂胆なんだろう。
気持ちは有り難いけど、女の子の細い腕を見る限り腕っぷしに自信があるようには思えないし、この辺りの情報を尋ねようとしても今は、あの猫がいる。
「え――っと……」
「はい? あっ! そうでしたね、まだ名乗ってませんでした。私、ラターン商会のトルテ・タタンっていいます。以後、お見知りおきを~」
「月舘……姓だとややこしいか。魔導士の萌知です、宜しくね」
「おっ。お姉さん! 魔導士なんですか!? 魔術師じゃなくて!?」
「ん? そうだけど……?」
トルテと名乗った女の子が唐突に騒ぎ出したので、私の方も泡を食う羽目になった。
あああ、この感覚――アレだ! レアモンスターに遭遇した時の、はしゃぎっぷりだね。
折々、気にはなっていたけどジップ村でも魔術師の話題は尽きないのに、魔導士関連はそんなに話されていない印象だった。
もしかしなくても、激レアな職業なのでは――
「お姉さんはこの国の出身じゃありませんよね? 悪い事は言いません。ここでは人前で魔導士を名乗らない方がいいです。魔術師は国家資格として認めてられていますが、魔導士は……つまり、その」
「忌み嫌われているのかな? 非合法とか裏稼業とかって感じで……」
「いやっ、それは人それぞれなんですけど……この国で魔導士とは恐れの象徴。地方ならともかく、帝都では特に取り締まりが厳しいんです、名乗ると罰せられるぐらいに」
「どうして、そこまでするの?」
「あくまで噂なんですが、魔導士の魔法は進化すると言われています。その過程で魔導士から魔男や魔女を輩出したという記録が古代の文献に記述されているそうです」
気づけば手に嫌な汗が滲んでいた。
あわよくば、モリスンの情報が得られるかもしれないなんて目論むも、それどころではなくなってしまった。
トルテ、彼女が悪いわけではない……むしろ、親切心で話してくれたおかげで助かったぐらいだ。
それでも、魔女と聞くと嫌でも暴虐無人のアイツを思い出してしまう。
せっかく考えないようにしようと決めたのに……。
勿論、善意を持つ魔女だっているかもしれない。
けれど、それはこの隠世の世界では共有できる認識なのか? 怪しい。
少なくとも、トルテの言い方だと魔女は危険な存在だと言っているようなものだ。
それに進化する魔法とは何なのだろうか? 知らない。
師匠からも一度たりとして聞かされていない。
魔法を超越した先にある魔法――その話が真実なら魔法使いとして断然、知りたい。
識ることが本能だと言ってもいい! 未知なる力と聞いたら、惹かれるに決まっているじゃないか!!
「……どうかしました?」
「あっ! ツレと待ち合わせしていたんだ。忠告ありがとーね、トルテちゃん。またねー」
絶妙なタイミングを見計らい離脱する私。逃げるなら論点がズレた時が狙いだ!
彼女の話は興味深くまだまだ聞き続けていたい。
そう、それこそが罠。
よくよく思い浮かべれば、彼女はあくまで噂だと発言していた。
つまり、この話自体の信憑性を裏付ける証拠はないってこと。
それを鵜のみにするのは危険だ。
あのままだと、あの娘のペースにのせられ外堀から固められて抜け出せなくなる。
本当、年齢に似合わず商売上手だ。
川沿いにある茶屋。
待ち合わせしていた場所に向かうと、すぐ傍の柵の前にバーナードが突っ立っていた。
彼は川を眺めながら、何やら物思いに耽っている。
出会って間もない間柄なんだけど、意外な一面もあるのだなと驚いた。
あまりにシリアスな雰囲気を醸し出しているので、ついつい私の悪戯心が触発されてしまう。
忍び寄って背後から、いきなし声をかけたら猫は、一体どんな反応をするのだろうか?
「遅かったな。道草を食うのもほどほどにしておけよ」
「ぬわっ!! バーナード気づいていたの!? というか、本当に草食ってた人の言葉は重みがあるね!」
「うっさいわ! 俺を驚かせたければ気配を消す練習をしろ」
「忍者みたいなことを言われてもね……ここで何をしていたの? 何やら考え込んでいたようだけど」
「対岸を見てみな」
厚手のグローブが指し示す席に、巨影が浮かび上がっていた。
違う、これは影ではなく黒塗りの外壁。
天に向かってそびえる、長い鋼鉄板が円を描くように列を作り城塞周囲を囲っている。
これが、サクリファイス城塞遺跡。
あの壁の向こう側には、かつて城塞都市と呼ばれた文明の遺産が手つかずのまま眠っているという。
「これまた、想像してよりもケタ違いのスケールだよね……土地面積でも孤島ぐらいの広さはあるよ」
「ああ、なんせ難攻不落の城塞都市と言われていた場所だからな。さすがに規模がデカいな」
「ところで、知り合いの占星術師には会えたの?」
「そう! それだ。いいか、落ち着いてきけよ。どうやら、アイツは城塞の中に忍び込んじまったらしい」
「城塞の中って……立ち入り禁止区域だよね? 一体、何の為に!?」
「それはそうなんだが……あの中にはな――。こうなれば、別の占星術師を探したほうがいいぜ」」
何とも歯切れ悪い。
どうやら、バーナードには余程隠し通したい事柄があるようだ。
代わりを探すのは私としても構わない。
ただ、そう都合良く、すぐに見つかるだろうか?
正直な話、かなり困難だと思う。
どうせ、元から城塞の中へと侵入するつもりだったのだ。
ここいらで適当な理由をつけて単独行動に戻ればいい。
「左様ですか! ならば、とっておきの遺跡侵入経路をご案内できますが」
「うおっい! 何だ、このガキは!? いつから、ここにいたんだ?」
「お姉さんとずっと一緒でしたよ~白猫さん」
「ト、トルテちゃん!?」
「あっ、私の事はトルテと呼んでもらっても構いませんよ~」
まったく、もって気づかなかった。
屈託なく笑う彼女は何を考えたのか、密かに私の後について来たようだ。
同様、バーナードも彼女を存在を察知できていなかったらしく素で距離を取り身構える始末だった。
「草団子やるから帰れ。どういう意図か知らんが、これ以上、俺たちに付きまとうな」
「ちょっと、言い方!」
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