RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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天上へ続く箱庭

いつか一緒に

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「なっ……なんですってぇええええ!!」

カシュウの口から飛び出した、驚愕発言に開いた口が塞がらなくなっていた。
なぁにが、さあ! だ。そんな話は一切聞いていないし、承諾した覚えもない。
ディングリングにかけられた呪いの事を村人に隠す為とはいえ、さすがにこれは度が過ぎる。
何より私の心臓がもたない。
何の決心もついていないのに統帥とか言う大役を任されてもどうすればいいのさ!?

「モチ子、やったな!」

その、無神経なサムズアップやめてくんないかな……。
というか、いつの間にか会場に人々が一斉に私の方を向いているんですけど――――くっ、コロされそうだよ。
「はあ――」私は深く息を吐き出した。
ここまで注目を集めてしまったら、観念するしかない。
むしろ、脱走できる方法があるのなら教えて欲しいぐらいだ。
拳を握り、ステージへと進む。
時折、見かける期待の眼差しが私には痛い。
本当にこれでいいのか? 不安しか出てこない。

「それでは、新たに就任した統帥とうすいから一言!」

うっ……嘘やろ。原稿なんて用意してないよ、即興そっきょうでやるの?
カシュウを恨めし気に睨むも、彼はさも当然のように視線を背けている。
確信犯だ、コイツ……自分が何をしているのか、理解した上でソレが正解だと妄信しきっている。
こんな真似ができるのは、モリスンしかいない。モリスンが悪魔の囁きでカシュウをたぶらかしたんだ。
でなければ、普通――こんな事態には陥らない。
おののおれぇええ――モリスン! 後で、覚えておきなさいよ!!

「皆さん、初めまして。只今、ご紹介にあずかりました魔導士の月舘萌知です。見ての通り私は、魔法が使える以外はただの小娘です。ぶっちゃけ、自分が統帥に相応しいのかも判りません……ですが、これだけは断言できます。私はこの村を理不尽な支配から解き放つつもりです! 村の人々が安心して暮らせるように、脅威となる戦の火種は、すべて刈り取ります。当然、口先だけの理想論だとおっしゃる方もいるでしょう。しかしながら、サクリファイスの魔女たちを相手に、現状の武装形態では万に一つも勝機はありません。ならば、策を練り活路を開くのが私の役目です。無謀かもしれません、けれど私は本気です、私自身が実力を皆さんに示して初めて信用を得られると確信しています。私は自分で選び決意しました、皆さんの運命まで背おう必要があるなら、迷わずそうすると! だから、皆さんも自身で決断して下さい! 私を信じ共に歩むかどうかを――以上です」

言った、勢い任せに言い切ってやった。
分かっている、所詮は小娘の戯言だ……聞き入れてくれる人なんて――――

パチ、パチパチパチッ!

ステージを降りようとすると微かな拍手が鳴った。
こんな事をする物好きがいるんだなと、辺りを見回すとナックとリシリちゃんの姿があった。
私に拍手を送ったのは彼らだった。
その、ささやかな音色はたちまち周囲に伝播でんぱし、すぐさま大歓声へと変わった。

「すげぇーぞ! 姉ちゃん」「あのサクリファイスの連中に真向から挑もうとする奴はぁ~初めて見たぜ」
「おお、嫌いじゃないぜアンタの考え」「期待しているぞ、統帥!!」

知っていたけど、ジップ村の住人はわりとガチで好戦的だった。
私的にはずいぶんと無謀な発言をしたと意識していた。
けど、逆効果だったらしい。そのハチャメチャな思想が彼らにウケてしまった。
これではもう、着任撤回なんてできないじゃないか……。

「よう……リシリがどうしてお前に会いたいって言うから連れてきたぞ」

落ち込む私に、ナックの方から声をかけてきた。
少し気まずそうな面持ちをしているけれど、それはお互い様だ。
あんな激闘を繰り広げた後だ、私だって、どう距離を縮めて接すればいいのか分からない。
それでも、思っていた以上に元気な彼の姿を見れて内心、ホッとしていた。

「ナック、一緒に料理を食べない!? 話したい事もあるし」

「何だよ? 俺は謝らねぇーぞ、けど……殴っちまった事だけは悪いと思っている」

リシリちゃんと手をつなぎ適当な長椅子に座る。
その様子にナックは「仕方ねぇな」と頭をかきつつも、テーブル向かいに腰を下ろし串焼き肉を手に取る。

「気にしなくていいよ、謝罪はもう貰ったし。それよりも、身体は大丈夫? 当面の間は獣人化はできないと思うけど」

「はっ、甘ちゃんめ。敵だった奴の心配なんかすんなよ。お前の方こそ、平気なのか? 軍の統帥なんか引き受けて?」

「う~ん、否応なしかな……ハハッ。まずは、サクリファイスに行く。私自身、決着をつけないといけないことがあるから、軍をどうするか考えるのはその後だね」

「別に止めやしねぇーよ。ただ、兵を統べるのは生半可な覚悟でどうこうできる話じゃないからな……それを聞きたかった」

「うん、心配してくれてありがとう。にしても……まさかリシリちゃんがナックに懐いているなんて意外だったよ」

「はん? コイツと俺達は元からこんな感じだぞ? ただ、タンゾウにはもっと懐いていたがな……」

「よしっ! 何としても、奴らからリシリちゃんの中にあるコアを摘出する方法を吐き出させてみせるわ! リシリちゃん、待っててね! お姉ちゃん頑張るから」

意気込む私のとなりで飲み物が入ったコップを手に、リシリちゃんはウトウトとしていた。
すでに夜も更けている、お眠の時間になったようだ。その小さな身体を優しく抱きとめてあげる。

「モチヨ。どうして、こんな辺境の村に冒険者ギルドが建てられたのか、知っているか? いや……その話は、また今度でいいわ。帰るぞリシリ、俺の背中に乗れ!」

「ねぇー、ナック」

「何だ? まだ用があんのか?」

「もし呪いが解けたら、いつか皆で冒険しよっ!」

何気なく口に出した私の言葉にナックは背を向けたまま立ち止っていた。どういう表情をしているのか読み取れない以上、また怒らせてしまったのかもしれないと内心、焦っていると彼は呟いた。

「ちっ、さっきの串焼き……ピーマンみたいな後味がしやがる。おかげで苦ぇーたらありゃしねぇーわ」

その声は若干、鼻声になっているように聞こえた――――



明くる朝、荷を取りまとめ鞄に詰め込むと私は道具屋を後にした。
短い間だったけど気づかない内に我が家のように感じていた、この場所を離れるのは少々、名残惜しくもある。
私を見送ろうと村の入り口には親しき人たちが集まっていた。
放っておくと村全体で見送りにきそうだったので、事前に少数に留めて欲しいと頼んでおいた。

「…………」リシリちゃんが飛びつくように私に抱きつく。

「モチ子、いいかい。病気やケガには充分に気を付けるんだよ」グレイデさんが不吉な事を言う。

「グレイデ! アンタって娘は……私の台詞をとんじゃないよ、まったく! モチ、無茶だけはするんじゃないよ」アリシアお婆ちゃんはいつもの調子だ。

「気をつけて、いってらっしゃい」微笑みながら手を振るゾイと「武運を祈る」力強く胸に拳を当てるカシュウ。

ナックは――「おい! 約束、忘れんなよ!!」少し離れた高台から大声で叫んでいた。

私はジップ村に人々に向かって目一杯、手を振った。
今までの事、これからの事、すべてに感謝を込めながら……。
彼らに出会えた事が、今の私の在り方に繋がり、一つ一つの出来事が私の宝物となる。
次はどんな出会いが待っているのだろう? 期待に胸を焦がしながら私は歩き出す。

『なんだかんだ有りましたが、良い村でしたな』

「そうだね。モリスン……ちょっと後で話があるんだけど」

『そ、そんな。ご褒美だなんて勿体ない』

西から暖かい風が吹き抜けてゆく。
その気流に沿って金色の蝶々が二匹、仲睦まじく空に飛び立っていった。 
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