RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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天上へ続く箱庭

リシリの秘密

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一旦、塔の外へと向かう。
勾欄こうらんが設置されたバルコニーに出ると、すぐに塔の外壁の一部が変形して五階へ通じる螺旋階段が出現した。
これもダンジョンコアの能力なのか……だとしたら、人の手には余り過ぎるほど強大な力を、私は見せつけられている。

「姉貴! 着いたぞ!!」

階段を踏破した先にある扉が待ちわびていたと言わんばかりに自動で開いた。
中は、テレビドラマでよく見る豪邸そのもの。
無駄に長い通路と絨毯の床、壁の装飾には燭台だけではなく剥製の頭部や名匠が手掛けたであろう彫像、大輪の花々を一つに束ねたフラワーアレンジメントなどなど。
高貴な方々とっての物の価値は、隠世でも似たようなものらしい。
よくもまぁ、これだけの金持ちステータスを揃えたものだと、逆に感心してしまう。
ただ、剥製が魔物だという一点だけは受け入れられそうもない。

「あんま、人ん家をジロジロ見てんじゃねぇー」

ナックに指摘を受けながら、通路を抜ける。
じきにゾイと対面する、そう考えると何とも言えない焦燥感に包まれ、手に汗がにじむ。
だだっ広く開けた場所に出た、正面の壁には中年男性の肖像画が堂々と飾られている。
おそらく、肖像画の人物がオルド伯なのだろう、長剣を構える姿がとても凛々しい。
今は不在の主をまつるかのごとく、その真下には祭壇のような物も見える。
奇妙な部屋だ。応接間? にしては広すぎるし、礼拝堂として見た場合は家具や調度品が揃い過ぎている。

「ようこそ、魔導士ちゃん……まさか、再び相まみえるとは思いもよりませんでしたわ」

シルクのように光沢のあるカーテンで覆われ仕切られた祭壇。
その前には上等なテーブルと革張りのソファーがおいてあり、座り込みながらくつろぐ彼女の姿があった。
ゾイ・ビーンズ……私達をこの部屋に招待した紅焔姫の魔術師、張本人だ。
よほどの余裕があるのか? 彼女は、この非常時にも関わらず、お茶を楽しんでいたようだ。
私を見て、手にしたカップをかかげる。

「貴女も要ります?」

「要らないわ! ナック、あなたのお姉さんって、天然なの!? まったく事態の重さを理解していないみたいなんだけど? ああっ……どんな罠を仕掛けてあるのか、対処法まで練っていたのにぃぃ!! これじゃあ、とんだ無駄足だよ」

「だいたい、こんな感じだ。んな事より、姉さん! どうしてコイツらを招いたんだ」

「魔導士ちゃんは既に会っているけど、ディングリングがここに来たわ」

「あ……あの女、凝りもせずに、また俺達にチョッカイをかけんのか!」

「カシュウが応戦してくれたけど、すぐにここまで来るわ……わたくし達を罰する為に」

「心配すんな。俺が何とかする! アイツの目的が何なのか? 知らんが、姉さんはコアを守ってくれ」

ナックの健気な言葉に、一瞬だけゾイの表情が曇った。
何か後ろめたさがあるらしい、姉は弟に隠し事をしているという事か……。

「コアと言ったか!? いるのか? アイツが今ここに!」

「タンゾウさん?」

隣に立つタンゾウさんが血相を変えて、ゾイに掴みかかろうとした。
いくら、相手が無防備でも冷静さを欠いてしまっては大事になるだけだ。慌てて、私とナックで取り押さえる。
それでも、興奮した彼に説得の言葉は届かない。

「出せ! いるんだろう? その奥に……お前たちの玩具じゃないんだ、あの子は!! リシリ! 俺だ、タンゾウだ! 迎えにきたぞ、いるなら返事してくれ!!」

「えっ? どういう――――――」


衝撃的な一言に、それまでタンゾウさんの手足を拘束していた空糸を緩めてしまった。
それを機に、彼はナックの腕をすり抜けると祭壇に飛び込むような形で風魔法を放ち天幕のカーテンを切り裂いた。

光りを反射させながら神々しい姿を露にする巨大な水晶……違う、あれは氷塊だ、床下に冷気が溜まっている。
人間の背丈ほどはある氷塊。その海のような蒼色に包まれた少女は間違いなくリシリちゃんだった……。



「なな、なんで……あの子はゲイル君に預けたはず?」

「ゲイルなら逃げたぜ。俺が、アイツからこのコアを奪い返してやったんだ」

「コアって、あの子は物じゃないんだよ!! どうして? 何故? こんな、惨い真似ができるんだよ!?」

「ムカつくぜ、部外者のくせに俺達の何を知っているんだぁ――!!」

「やめなさい! ナック。こうなる事は、貴方も覚悟していた事でしょ。タンゾウさん、貴方の思惑通りにいかせはしない、私達の邪魔だてをするのなら消えてもらうわ」

いがみ合う私とナックを尻目に、ゾイはタンゾウさんを敵視していた。
思い返せば、ビーンズ姉弟の彼に対する執着心や確執は異常だった。
話を聞いた限りでは、姉弟にとっては父親の従者であり、昔馴染だという……なのに、執拗に攻め立て排除しようとする理由は一体、なんだろう。


「アッハハ、やってるねぇ~。愉しそうだから、ボクも混ぜてもらおうかなぁー」

嫌なタイミングで、魔女の下卑た笑いが室内に響き渡った。
その声を聞いただけで、私達全員は身動きが取れなくなっていた。
鴉のマスクを装着した魔導士が空間転移の魔法を使用し私達の前に再臨する。
謀反を企む者を処断する為に――

「いやぁ、参った参った。いくら、自白させようとしても彼、全然答えようとはしないんだよね。だから、ここまでやって来たわけ」

「カシュウ――!!」
「兄貴ッ!?」

ディングリングはゴミでも捨てるかのように変わり果てた剣士を床に放った。
まだ、息はある。
だが、相当な体罰を受けたようだ、全身アザだらけだ……。

「おや? そうはさせないよ。クロノスタイマー!」

指を打ち鳴らす音を合図に、時計の文字盤を模した闇の魔法陣がゾイの足下に浮き上がっていた。
その場にいた何人かは事態を解せず、呆然するだけ。
私もうち一人だ。
しかし、ゾイの変化を見て彼女の身に何が起こったのか? 想像するのは容易だった。
今度はゾイの全身が凍り始めている。

「……コキュートス、私が発動した魔法だ。ディングリング、あなたは時間を遡行させたの?」

「まぁね。ダンジョンコアの力で、この場の全員を転移させようとしていたからね~。賢い選択だったけどボクには通じないかな」

「くっ……うう……、ディングリング……許さない」吐き出される、魔女への憤怒。

ゾイ、なんて凄い人だ。その身が凍結しても、心はまだ折れていないというのか……。

「はいはい、それじゃゾイちゃんには退場願いましょうか? それなら、ちゃんと答えられるよね~カシュウ君? アッハハアハ!! それとも、ゾイちゃんが答える? それもありだよ~…………オマエたちが聖王国の奴らと結託してダンジョンコアを解析していたのは知っているんだ。オマエたちの事はともかく、聖王国の狙いは何? わざわざ、研究員を誘致する為、この下に研究施設まで作ったんだ。それなりの目的があるんだよねぇー!?」

「だ、誰が答えるか」

「そっかぁ……そうか。だったら、消えてなくなればいい!! ダークロア!」

ディングリングが放つ闇魔法。
それまで人のカタチだった魔女の影が、放射状バラけてゆく。次の瞬間には地面から無数のくさびが顔を出し一斉にゾイを襲う。

「うおらっららぁああ―――――!!」

拳による怒涛のラッシュが楔を打ち落としていく。
姉の窮地に、身をていして飛び出してきたのはナックだった。
そんな彼の姿にディングリングは意外だと言わんばかりに、はしゃいでいる。

「奪わせねぇ。姉さんも兄貴も誰も、てめぇにはやらせねぇ!!」

「へぇー、できんの? 脆弱なオマエに」

「できるさ! 忘れたのかよ、てめぇが俺に呪いをかけたことを……。リシリぃぃぃ――!! 俺に力を――俺の力を解放しろっ!」

「愚かだね……それが諸刃の剣だと一番理解しているのはオマエだというのに……」
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