RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ

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冒険者が統べる村

ジップ村

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森を出てから半刻、ようやく目的の村に着いた。
途中で三回ほど、ドライムという青い狸の魔獣に遭遇したが、無情にも馬車は敵を蹴散らし進んでいったので何事も問題は起こらなかった。
その間、退屈しのぎに更新されたアーカイブスのチェックを一通り済ませておいた。
今回、更新が入ったのは隠世においての魔法と魔術の基礎理論、各系統ごとの簡易的な仕分けについてである。
おそらく、フランクさんとの会話で得たものが大きく影響している。
娘さんが魔法学園に通っているのもあってか、彼はこの手の話題に結構詳しかった。
私の世界、現世には存在しえなかった魔導という未知の可能性を秘めし力。
それを含めて、この世界において魔法とは主に二極化されている。
媒体を用いて、人体の内に宿る魔力を抽出し術式を構築する魔術と、自然界や霊界などから、もたらされるマナを体内に取り込み術式に変換する魔導。
これらは理論方式が大きく異なるというのに、魔法というジャンルでよく一緒くたにされる。
おかげで魔法の知識に乏しい人々にとっては、違いがあることすら気づけていないそうだ。
隠世の魔法学には五術五導という思想がある。
その言葉が指し示す通り、魔術と魔導、二極の形態はそれぞれ五つの術式系統の枠組みとして位置づけされている。
上手くは表現できないが、魔法と魔術、双方の違いを簡潔に述べると必然的か神秘的か、だと思う。
その辺りを含め、各々の術を系統別に分類すると

・魔術ーー近代魔法 占星術 錬金術 奇術 気功術 

・魔導ーー古代魔法 召喚魔法 呪法 聖法 精霊魔法 

といった具合になる。
この中で注目すべき点は、やはり近代、古代魔法。
二つの魔法は、同一視しても問題にならないぐらい、ほぼ一緒――――というより、古代魔法をベースに新たに創造されたのが魔術の近代魔法だから当然といえば当然になる。
違いとして、先ほど魔法を生成する過程を述べたけど、あくまで私個人の知識範囲ではだ。
実際、他にどういった差異があるのか? 魔術を使ってみないことには実証できない。
とりあえず、今の時点で知りたかったことはハッキリとした。
術式の種類がここまで豊富だと驚きの反面、気分がワクワクしてくる。
私が扱う魔法以外のモノは一体、どんな感じなのか気にはなるが辛抱、いずれお目にかかる機会もあることだろう。

フランクさんの話によれば、ここジップ村は一風変わった農村らしい。
というよりも村に入る前から、すでに私は異常を感じている。
堀なのか?
村の周りを囲うようにしてかなり深い溝ができている。
堀しては狭すぎるし、塹壕トレンチとしてはまったく頼りない気がする。
唯一、村と外をつないでいるのは正面口にかけてある橋、一ヶ所のみ。
いくら外敵の侵入を防ぐためとはいっても、これでは攻め込まれた時に逃げ出せないのではないか?
まるで、内側から誰も出させないように意図して作られた感じがしてならない。

村の中へ入るとフランクさんが先頭に立って道案内してくれた。
辺りに民家が密集しているからだろう、頻繁に村の人たちとすれ違う。
その都度、私に視線を向けてくるが、目が合うと彼らは頬を緩ませ挨拶してくれる。
外側よりも中の方がいたって普通な気がする。
余所者だからといって邪険に扱われる心配もなさそうだ。

「のどかで良い村だね」

「だろ? のどかさぐらいしか自慢できることはないんだけどな」

「フランクさん、一ついい?」

「どうした? 姉ちゃん」

「この子、さっきからずっと私について来ているんだけど、何で?」

視線を落とすと、女の子がこちらをジッと見上げていた。
この子は村に入った時から制服の袖をギュッと握り締め私から離れようとしない。

「おう、リシリ。このお姉さんの相手はしなくもいいから。お前は持ち場に戻れ」

フランクさんがそう言うと女の子は無言でうなづいた。
何かをしようとしていたのか? 余計な詮索せんさくはしないほうが良さそうだ。
女の子を見送るフランクさんの表情には、どこか陰が見えた。



村にある丘陵きゅうりょう、そこに古めかしい一軒家があった。
戸口に吊り下げられたボロボロの看板は、かすれて見えにくいが薬瓶をモチーフにした図柄が描かれいる。
辛うじて建屋が道具屋であると気がつくレベル。
これで営業しているのだといっても常連でもなければ、間違いなく足を運ぶことはないと思う。

「俺だ! おふくろ」

扉をノックしつつ、フランクさんが叫んだ。
ほどなくしてガタガタと外れそうな勢いで扉が開くと合間から目つきの悪い老婆が顔をのぞかせてきた。
魔女だ! 魔女がいるっ!
驚く私を吟味ぎんみするように直視してきたのち、老婆は「入んな」と呟いた。
屋内に入って即座に目についたのは、ピカピカに磨かれたカウンターと棚にきっちりと置かれた数々の薬瓶。
外とは打って変わって店内は隅々まで清掃が行き届いている。

「じゃあ、あとは頼んだわ。その娘は俺の恩人だから、ちゃんともてなしてくれよ」

「ああ、わかったよ。たくっ、ババア使いが荒い奴だね」

老婆に私を預けたフランクさんは指二本を額にあてピッと敬礼してきた。
本人は格好良い感じで去りたいようだけど、こっちとらそれどころじゃない。
フランクさんは隣街に自分の店を構えている。
もう、何日も店を空けているので急いで戻らねばならないというのは,前もって聞いていた。
にもかかわらず、我が心中はいまだ震えが静まらない。
どうして、目の前にいる老婆から異様なプレッシャーが発せられているのか?
答えがはっきりしない以上、どう会話を切り出せばよいのか分からない。
今、月舘萌知のコミュりょくが試されようとしている。


「アリシアだ。アンタ、名前は?」

「萌知って言います。お、お世話になりますぅ!」

奇襲! もとい――女将の問いにテンパってしまう自分がいた。
意地悪そうな人相そうのせいか、彼女に睨まれるとどうも上手く立ち回れない。気まずい、非常に気まずい。

「モチ? ずいぶん変わった名だね。それはそうとアンタ酷く汚いね、湯貸してやるからさっさと身綺麗にしな」

女将、アリシアの潔癖は相当だった。
店の奥にある扉から母屋側に移動するなり個室へと押し込められ、湯がはられた桶とタオルが即座に運ばれてきた。

「その服も洗うから脱いだら渡しな。着替えはあとでもってくるから」

返事もままならぬまま、あれよという間に事が進んでいく。
もう、言われるがままに湯浴みするしかないようだ。

「げっ、破れている。これじゃ、使えないな」

脱衣している最中、履いていたタイツが駄目になっていたことを知り、少しばかりショックを受ける。
無くても問題ないと感じるかもしれないが、冷え性な私にはアレが無いとツライ。

「はぁー、どうせ天秤や宝玉を見つけないとだし、情報収集がてらバザーで購入するか……この世界でも売っているのかな? 探すとなると……アレを起動させる必要が……」

アーカイブスにはガイドモードという検索システムが備わっている。
ガイドというのは村や町中で指定したの施設や人物、品などを指定しさえすれば、どんなものでも位置を特定してその場所を案内してくれるという優れたナビ機能だ。
勿論、取得できる情報には条件があり、私の知識やアーカイブスに記載されていないことは基本、不明なままである。
効果範囲も私の所在地から周囲五キロメートル程度。
あまり広域のは得意ではないが、村で聞き込み調査すれば私が探し求めているアイテムの手がかり、上手くいけば所在まで突き止められるかもしれない。
完全無欠、超絶便利な自動更新、そう機能的には何ら支障はない。
問題は、起動に至るプロセスだ。
私だけでは、上手くガイドを扱うのはむずかしい……なので専門家にして異端児のアイツの強力が必要不可欠となる。

「はぁ~、苦手なんだよな、彼。それでも、背に腹は代えられないわ」
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