超絶転身少女 インフィニティアニキ 特撮ヒーローから魔法少女系νtuberに転職します

心絵マシテ

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四話 アニキ、保護される

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山から一斉に鳥たちが飛び立った。
いきなりの音に、心臓が飛び出るのかと思ったが……それよりも先に尿が飛び出ていた。

今度はザワザワザワザワと山の木々が騒ぎ始めた。
一体、何事だと空を見上げると巨大な飛行物体が出現し、山を飛び越えていった。
凄まじいほど強力な風圧に負けたボクは、地べたに這いつくばっていた。
尺取虫のようにお尻から持ち上げて身を起こす。
つい、今し方の機影……あれは確か亀甲空機タートルネックン。
ムッチンプルンのプライベートジェットで過去、何度か爆撃を受けた苦い思い出がある。

わざわざ、航空兵器を出してまでセコイヤはボクをつけ狙っているということなのか?
ワキガだったレッドにすら、カレー臭いと言われ続けてきた、この僕が……。
だとしたら、とんだお笑い草だ。
悪党に好かれるヒーローだなんて、限りなく悪党じゃないか!
タートルネックンが飛んでいった方の逆へと向かってボクは山を下りた。

市街地に入ることには辺りが明るくなり始めていた。
ここに来て、ボクはさらなる問題に直面していた。
髪の毛がメチャクチャ伸びている……。
元はサラサラのアップバングだったヘアスタイルが今では、癖のあるロングヘアだ。
かなりの長さがあって、自分で抱いて寝れそうだ。
変異したのは髪質だけはない。
明らかに身長が縮んでいる……体感十センチは短くなった感じだ。

十センチって大して変わらないような気もするかもしれないけれど、当人であるボクから言わせてもらうと世界が違う。
終始、違和感だらけでしっくりとこない。
身長に合わせて腕や足の長さも変わるのだから、歩幅がちがったり、手が遠くに届かない。
さきほどもコンビニに立ち寄って色々と試してみたから分かる、とにかく分かる……ワカラらされたんだ。

男性用のトイレに入ろうとしたら、店員のお姉さんに呼び止められた。
彼女は満面の笑みで「女子はこっちよ」って言ってきたんだ。
じょし、ジョシ、女子? そんなのは洗面台の鏡に映っている女の子のことだ。
断じてボクではないけど……鏡越しの女の子はボクと同じ動きをしている。
おかげでトイレには行けなくなった。

何もかも、この変身ガーターベルトのせいだ。
コイツを取り外せれば、元の姿に戻れるはず……。

とはいえ、実はこれらよりも、もっと深刻な真の問題がある。
RPGで言う裏ボス的な存在だ。
この場所が一体どこなのか分からない。判明しているのは見覚えのないマイナーな地名であるということぐらいだ。
人に聞くにも、この姿でどうやって話せばいいんだよぉ……元がコミュ障なのに上手く立ち回れるわけがない。
スマホもないし財布もない。
こうやって、公園の水場で飲み水を確保することしかできない。

積んだ……確実にツミだ。
このまま、この街でホームレスとして生きてゆかなければならないのだろうか?

「そこの君、ちょっといいかな?」

自転車のブレーキ音とともに男の声がした。
こんな、早朝から女の子に声をかけるぐらいの奴だ。相当なロリコンに決まっている。

「もしかして、家出かな? おじさんと一緒に署まできてもらえるかな?」

―――はぁ、いきなりパパ活を要求されるとは……うん、逃げよう。

「とちょ……待ちなさい!!」

公園の反対側の出口に向かって走ると青い服を着たオッサンがチャリで迫ってきていた。
おまわりさんのような恰好をしているがボクの目は騙せないぞ。
間違いない警官のコスプレした偽物だ。
本物なら、まず警察手帳を提示するはずだから。

「ハァ……ハァハァ……」
ちょっと走っただけで息があがる。この辺りはまえと変わりがない。
適当に狭い路地に入って何とか、警官モドキをまいたけど再び遭遇したら逃げ出せる気がしない。
対策を考えないといけない……けど、空腹で眩暈がしてきた。
そういえば、昨日の夜から何も口にしていない。

空の腹を両手で押さえながら、ボクは路地裏を手当たり次第に進んだ。
ブラブラとすること五分、足が鉛のように重い。
そう感じた矢先、どこからともなく美味しそうな匂いが漂ってきた。
花にたかるミツバチがごとく、ボクはそのお店に引き寄せられていた。
扉の前にかかるラーメン麵次郎と書かれた暖簾のれん。店わきにはの札が置かれている。
それを見てションボリとなるけれど、そもそもが素寒貧すかんぴん。一杯のラーメンすら買うことができない。

「なんでぇ、嬢ちゃん。ウチのラーメン食べにきたんか?」

背後から声をかけられて背筋がピンと伸びた。
恐る恐る振り向くと、手に買い物袋をぶら下げたお爺さんがいた。
細身で長身のその人は、丸眼鏡の奥に見える鋭いなまこでボクの顔をジッと見ていた。

「あああのぉぉぉ、そのぉ~……なんでもないです!!」
壊れた楽器のような甲高い声が自分の声だと認識できるまで、時間がかかった。
余計に恥ずかしくなり、すぐにその場を去ろうした。
すると、お爺さんがボクの肩をポンと軽く叩き「入んな。お前さん腹空かしているんだろう?」と店の扉を開けてくれた。
断わろうとしたけれど腹は正直だ……ギュルルルと鳴き叫んでいる。
ボクはペコリと頭を下げ入店した。
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