追放神官とケモミミ探偵

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
52 / 64
二章、後編 聖地の落とし物

51話 揺れる大樹林

しおりを挟む
 私たちが今いるのは、ヴィンセント遺跡最奥に張られている結界のすぐ近く、聖域と呼ばれている場所だ。
 本来なら結界の間を通らないと、ここには辿り着けない。
 隠し通路のおかげで、ショートカットできたのは幸運だった。
 裏手側から結界へと直行できるおかげで、道中を塞いでいるオークキングとは出会わないで済む。

 結界の様子を確認し、壊れているようであれば修復する。
 それが、神官である私の役割だ。魔物退治などは専門家に任せておけばいい。

 ピョンピョン飛び跳ねながら、キィーナの後についてくる、綿あめ。
 完全にあの子に懐いている。
 精霊なら知らない人間に対して警戒を見せるはずなのに、加護の精霊にはそれがない。
 純真無垢なキィーナはともかく……私がいっても平気なようだ。
 ついて来る目的が何であれ、光の象徴だ。
 キィーナの傍にいてくれるのは、私としてはありがたい。

 ほどなくして、結界の中心部に到達した。
 やはり……というか、予想通り結界が途切れてしまっている。
 調べると結界の核たる石碑に刻まれていた魔法陣の一部が欠けてなくなっている。
 自然とそうなったのか? 人為的に破壊されたのか? 知るすべはないが、そんなことは後回しだ。
 今は一刻も早く石碑を修復する必要がある。

「まぁ、大して壊れてないからチャッチャと終わらせますか!」

「どうしたの? うん……コワいのがいる」

「キィーナ? その精霊さんが、何か言っているの?」

「ここはキケンだって、魔物のすみかだって言っているよ」

「う~ん、出たとしても足の遅いオークキングでしょ? 私でも、どうにか逃げ切れると思うけど」

「ディ……地面から来るって。早く、にげないと!」

 キィーナの言葉が何を意味するのか?
 考える暇もなく大地が震動し始めた。

「こ、こんな時に地震!? いいえ……違う。余震もなかったし、森の動物たちも何ら反応を示さなかった。これは……ここだけが揺れているんだ!」

 亀裂が生じるのと同時に、地面が隆起りゅうきした。
 地中から伸びる細長い木の根が、ムチのようにしなりながら、地面を掘り起こしてゆく。
 その内の一本が私たちの前でダダン! と地を打ちつけた。
 辺りに漂う砂煙の中でうごめく怪物の影が見えた。

「オークキングって……まさか、これぇぇぇぇっ――――!!」

 絶叫したくなるもの無理はない……私が勝手に豚さんだとイメージしていた魔物はトレントの亜種だ。
 オークの木に宿った邪精霊、それがオークキングと呼ばれる魔物の正体だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏
ファンタジー
たったひとりの王位継承者として毎日見合いの日々を送る第一王女のレナは、人気小説で読んだ主人公に憧れ、モデルになった外国人騎士を護衛に雇うことを決める。 騎士は、黒い髪にグレーがかった瞳を持つ東洋人の血を引く能力者で、小説とは違い金の亡者だった。 主従関係、身分の差、特殊能力など、ファンタジー要素有。舞台は中世~近代ヨーロッパがモデルのオリジナル。話が進むにつれて恋愛濃度が上がります。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

処理中です...