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二章、後編 聖地の落とし物

36話 オーダーメイド

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仕立屋のソフィー、彼女には類まれなる美的センスがある。

都育ちの私ですら、唸らせるほどの力作がそれを証明していた。
奇抜なデザインでありながらも、万人受けしそうな基本に忠実な作り。
生地の質感や糸の使い分けにまで、こだわりが見え隠れしている。
ボタンなどの素材は彼女が市場で購入したものだろう。服のイメージに合うモノだけを選んでいる感じだ。

才ある彼女が、農村で工房を開いているのは、やはり悪魔つき扱いされているからだろう。
実に勿体ない話だ。
ソフィーが仕立てた衣服を都で販売すれば、たちまち流行すること間違いなしだ。

「あの、お洋服の他にも帽子やバッグもあるので、気になるものがあれば申しつけてくださいね」
この才能……やはり、ここで埋もらせてはいけない気がする。

「私は、ともかくキィーナの洋服は欲しいかな。成長期だから以前の物はどんどん着れなくなってきているし」

「着物でしたら成長に合わせて採寸直しができますけど、洋服は買い替えないといけませんからね」

棚から帽子やらハンカチの入った箱を、彼女は取り出してくれた。
欲しいと思える品は何点かはある……けれど、それなりのお値段ではある。
迂闊には、購入できない。こういう部分がオーダーメードの怖いところである。


「ディ!」

「ん? どうしたん」

「アリガトォ―――!!」

「うわっ! ちょっと、キィーナ」
迂闊だった……先程の私たちの会話を聞いていたキィーナがカン違いして瞳を輝かせながら、抱きついてきた。
こうなってしまった手前、彼女の洋服を購入しなくてはいけなくなった。
思わぬ出費だが……まぁ、そこまで喜んでくれるのなら、やぶさかでない。
それにキィーナのことだ。たんに新しい服が欲しいというより、ソフィーが仕立てた物が欲しいのだろう。

「ソフィー、この子のお願いできるかな?」

「良いんですか!? 私、そういうつもりでは……」

「いいの、いいの。私も貴女の洋服は凄いと思うよ」

私がそう伝えると彼女は満面の笑みを浮かべていた。よく笑う娘だが、その内に秘められた想いは複雑だ。
今の笑顔が、ソフィーにとっての本物なのだ。 
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