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二章、前編 聖地への訪問

19話 思い出の残滓

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私たちが暮らす、丘の上の教会から歩くこと一時間。
国境線沿いにある関所の前で、その市場は開かれていた。

週に一度、開催される商人たちの集いは、いつ来ても賑やかだった。
様々な人々が往来し交渉と取引きが行われる。
活気に満ちた、この市場に訪れることで、元気を分けてもらっているような気分なれる。
ここには、多くの発見とドキドキがあり、退屈などしない。
道を挟むようにして建ち並ぶ、数々の露店は私たちを目移りさせてくるから困る。

「慌てると転ぶよ」

キィーナがスキップしながら、露店に向かってゆく。
耳と尻尾が隠れるように厚着をさせたがお構いなしだ。
お目当て店をみつけた彼女は、飛び跳ねるように走っていた。

彼女の姿に幼き日の自分が重なり合わさる。
私の父は骨董品収集が大好きで、こうした市によく連れていってもらった。
掘り出し物を探すぞと意気込む父に、手をひかれながら露店巡りしたことは今でも鮮明に覚えている。

別に、私は骨董品に興味があったわけではない。
父は多忙な人だった。
普段、一緒に過ごす時間が短い分、二人してどこかに出掛けること、そのものが私の楽しみだった。

「らっしゃい~。お嬢ちゃん、何か入り用で?」

店主が両手を揉みながらキィーナに声をかけてきた。
その場にしゃがみ込みと彼女は一点を凝視したまま動かなくなってしまった。

「どれどれ、この虫眼鏡が欲しいのかい?」
その問いの回答として、キィーナが私の方を振り向いた。
どうして、虫メガネが欲しいのかは、聞かずとも察せる。
探偵といえば、虫メガネがトレードマークだ。
特段、必需品ではないけどキィーナが憧れる女探偵もよく虫眼鏡を愛用している。
まずは、カタチから入るといったところか。

「すみません。この虫メガネを一つ下さい」

過去に自身が抱いたであろう、気持ちが解からないほど私は無粋ではない。
前回のケガレ退治のご褒美として、キィーナが欲するモノを最初から買うつもりでもあった。
けれど、本当に虫メガネでいいのか? 不安がよぎる。
なんせ、用途が限られているものだ。飽きてしまわないか気がかりではある。
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