20 / 54
二章、前編 聖地への訪問
19話 思い出の残滓
しおりを挟む
私たちが暮らす、丘の上の教会から歩くこと一時間。
国境線沿いにある関所の前で、その市場は開かれていた。
週に一度、開催される商人たちの集いは、いつ来ても賑やかだった。
様々な人々が往来し交渉と取引きが行われる。
活気に満ちた、この市場に訪れることで、元気を分けてもらっているような気分なれる。
ここには、多くの発見とドキドキがあり、退屈などしない。
道を挟むようにして建ち並ぶ、数々の露店は私たちを目移りさせてくるから困る。
「慌てると転ぶよ」
キィーナがスキップしながら、露店に向かってゆく。
耳と尻尾が隠れるように厚着をさせたがお構いなしだ。
お目当て店をみつけた彼女は、飛び跳ねるように走っていた。
彼女の姿に幼き日の自分が重なり合わさる。
私の父は骨董品収集が大好きで、こうした市によく連れていってもらった。
掘り出し物を探すぞと意気込む父に、手をひかれながら露店巡りしたことは今でも鮮明に覚えている。
別に、私は骨董品に興味があったわけではない。
父は多忙な人だった。
普段、一緒に過ごす時間が短い分、二人してどこかに出掛けること、そのものが私の楽しみだった。
「らっしゃい~。お嬢ちゃん、何か入り用で?」
店主が両手を揉みながらキィーナに声をかけてきた。
その場にしゃがみ込みと彼女は一点を凝視したまま動かなくなってしまった。
「どれどれ、この虫眼鏡が欲しいのかい?」
その問いの回答として、キィーナが私の方を振り向いた。
どうして、虫メガネが欲しいのかは、聞かずとも察せる。
探偵といえば、虫メガネがトレードマークだ。
特段、必需品ではないけどキィーナが憧れる女探偵もよく虫眼鏡を愛用している。
まずは、カタチから入るといったところか。
「すみません。この虫メガネを一つ下さい」
過去に自身が抱いたであろう、気持ちが解からないほど私は無粋ではない。
前回のケガレ退治のご褒美として、キィーナが欲するモノを最初から買うつもりでもあった。
けれど、本当に虫メガネでいいのか? 不安がよぎる。
なんせ、用途が限られているものだ。飽きてしまわないか気がかりではある。
国境線沿いにある関所の前で、その市場は開かれていた。
週に一度、開催される商人たちの集いは、いつ来ても賑やかだった。
様々な人々が往来し交渉と取引きが行われる。
活気に満ちた、この市場に訪れることで、元気を分けてもらっているような気分なれる。
ここには、多くの発見とドキドキがあり、退屈などしない。
道を挟むようにして建ち並ぶ、数々の露店は私たちを目移りさせてくるから困る。
「慌てると転ぶよ」
キィーナがスキップしながら、露店に向かってゆく。
耳と尻尾が隠れるように厚着をさせたがお構いなしだ。
お目当て店をみつけた彼女は、飛び跳ねるように走っていた。
彼女の姿に幼き日の自分が重なり合わさる。
私の父は骨董品収集が大好きで、こうした市によく連れていってもらった。
掘り出し物を探すぞと意気込む父に、手をひかれながら露店巡りしたことは今でも鮮明に覚えている。
別に、私は骨董品に興味があったわけではない。
父は多忙な人だった。
普段、一緒に過ごす時間が短い分、二人してどこかに出掛けること、そのものが私の楽しみだった。
「らっしゃい~。お嬢ちゃん、何か入り用で?」
店主が両手を揉みながらキィーナに声をかけてきた。
その場にしゃがみ込みと彼女は一点を凝視したまま動かなくなってしまった。
「どれどれ、この虫眼鏡が欲しいのかい?」
その問いの回答として、キィーナが私の方を振り向いた。
どうして、虫メガネが欲しいのかは、聞かずとも察せる。
探偵といえば、虫メガネがトレードマークだ。
特段、必需品ではないけどキィーナが憧れる女探偵もよく虫眼鏡を愛用している。
まずは、カタチから入るといったところか。
「すみません。この虫メガネを一つ下さい」
過去に自身が抱いたであろう、気持ちが解からないほど私は無粋ではない。
前回のケガレ退治のご褒美として、キィーナが欲するモノを最初から買うつもりでもあった。
けれど、本当に虫メガネでいいのか? 不安がよぎる。
なんせ、用途が限られているものだ。飽きてしまわないか気がかりではある。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる