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一章 神官とケモ耳娘
2話 悪魔憑きの少女
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「おかしいな。 確か、机に上に置きっぱなししておいてはずなのに……?」
少し、所用で執務室を離れた。
時間にして五分程度、そのわずかな時間でログワーク推理協会からの手紙が忽然と姿を消していた。
ここから私がいた応接間までは一本道、その間に誰とも出くわさなかった。
当然ながら窓にはしっかりと鍵がかかっているし、壊されてもいない。
机を上を指でサッと撫でる。現場百回とは、まさにこのことを言う。
指先には私のモノではない銀色の長い毛が付着していた。
机の上は昨晩、きちんと掃除したはず……。
そういえば、今日は、まだ一度もあの娘を見かけていない。
「キィーナ! そこに居るのは分かっているから出てきない」
呼び掛けから三十秒たっても返事がこない。
当人は上手く隠れているつもりだろうが、まだまだ甘い。
唐突に名前を呼ばれ動揺したらしく、戸棚下の中でガタガタと音を立てている。
半ば呆れながらも、私は長方形の開き戸を開いた。
子供一人なら、すっぽりと入り込める空間に彼女はうずくまっていた。
その腕には、大事そうに抱えられた茶封筒が見える。
「こんな場所で何をしているんだい? 人に隠れて、コソコソするのはあまり感心しないなぁ」
「ディ、怒らない?」
「今すぐ、そこから出てきて、手紙のことについて説明してくれるのならね」
私としては、なるべく穏やかな口調で話しかけたつもりだったが、どうにも旨くはいかない。
散々、説得して、ようやく白猫のような耳をしおらせたまま、項垂れて出てきた。
彼女こと、キィーナはこの教会で面倒をみている孤児だ。
むろん、ここでは孤児を預かることはない。
キィーナは例外中の例外だった。
数年前に、ここを訪れてきた時点で、彼女には悪魔憑きの症状がしっかりと現れていた。
悪魔憑きとは何か、それは身体の一部が獣のモノに変貌している人々のことをさす。
医師会の見解では遺伝とする見方と、不治の病ではないとかいう意見で二分化されている。
その容姿に対し、世間の風当たりは強かった。
ケモ耳や尻尾を持つ者は、それだけで人目を惹いてしまう。
大方、そのことを良く思わない連中が、ありもしない悪評を吹聴したのだろう。
無害であることを、未だよく理解できてない者は、異なる彼ら悪魔憑きと蔑み、気味わるがる。
今年で十歳になるキィーナだが、どの孤児院も依然として引き取ってくれない。
それなら、いっそ私が里親になる方が早いと判断し、一緒に暮らすこととなった。
幸い、ここには私一人しかいなかった。彼女を悪魔憑きと呼ぶモノは誰もいない。
少し、所用で執務室を離れた。
時間にして五分程度、そのわずかな時間でログワーク推理協会からの手紙が忽然と姿を消していた。
ここから私がいた応接間までは一本道、その間に誰とも出くわさなかった。
当然ながら窓にはしっかりと鍵がかかっているし、壊されてもいない。
机を上を指でサッと撫でる。現場百回とは、まさにこのことを言う。
指先には私のモノではない銀色の長い毛が付着していた。
机の上は昨晩、きちんと掃除したはず……。
そういえば、今日は、まだ一度もあの娘を見かけていない。
「キィーナ! そこに居るのは分かっているから出てきない」
呼び掛けから三十秒たっても返事がこない。
当人は上手く隠れているつもりだろうが、まだまだ甘い。
唐突に名前を呼ばれ動揺したらしく、戸棚下の中でガタガタと音を立てている。
半ば呆れながらも、私は長方形の開き戸を開いた。
子供一人なら、すっぽりと入り込める空間に彼女はうずくまっていた。
その腕には、大事そうに抱えられた茶封筒が見える。
「こんな場所で何をしているんだい? 人に隠れて、コソコソするのはあまり感心しないなぁ」
「ディ、怒らない?」
「今すぐ、そこから出てきて、手紙のことについて説明してくれるのならね」
私としては、なるべく穏やかな口調で話しかけたつもりだったが、どうにも旨くはいかない。
散々、説得して、ようやく白猫のような耳をしおらせたまま、項垂れて出てきた。
彼女こと、キィーナはこの教会で面倒をみている孤児だ。
むろん、ここでは孤児を預かることはない。
キィーナは例外中の例外だった。
数年前に、ここを訪れてきた時点で、彼女には悪魔憑きの症状がしっかりと現れていた。
悪魔憑きとは何か、それは身体の一部が獣のモノに変貌している人々のことをさす。
医師会の見解では遺伝とする見方と、不治の病ではないとかいう意見で二分化されている。
その容姿に対し、世間の風当たりは強かった。
ケモ耳や尻尾を持つ者は、それだけで人目を惹いてしまう。
大方、そのことを良く思わない連中が、ありもしない悪評を吹聴したのだろう。
無害であることを、未だよく理解できてない者は、異なる彼ら悪魔憑きと蔑み、気味わるがる。
今年で十歳になるキィーナだが、どの孤児院も依然として引き取ってくれない。
それなら、いっそ私が里親になる方が早いと判断し、一緒に暮らすこととなった。
幸い、ここには私一人しかいなかった。彼女を悪魔憑きと呼ぶモノは誰もいない。
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