異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三百五十三話

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 魔剣アスカロン――――

 その剣の出自は解き明かされていない。
 古くから教会本部におかれていた数ある神器のうちの一振りである。
 所有者はエゼックト・アローメス。ただし、この時点での話になる。
 実力が認められ教会から託されていた宝具というべきものを、教え子に平気で押し付けられるのは彼ぐらいなものだ。
 エゼックトは物質的な物に対する価値の観点が一般とは異なる。
「差異があるということは、それだけ色々な視点があるのだ」と豪語する彼にとって物の真価が発揮されるのは、本来の役割を果たす時だという。
 どんなに高価な剣であっても何かを斬らずに飾っているだけでは、剣ではなく置物にしかならない。

 飾るのを目的とするのなら彫像や絵画であって、剣である意味がない。
 それこそ、最大限の損失だと眉をしかめていた。

 子供の肩幅ぐらいの幅広の大剣は魔剣と称されていた。
 何故なら、デーモンキラーの能力を備えているからである。
 一度、悪魔を斬れば傷口は再生の力の有無に関わらず回復しない。
 もし、深く突き刺さることがあれば、その部分は消滅してゆく。

 エゼルキュ―トにとって、どうにもできない部分を穿うがたれてしまった。
 刺さるのと同時に紫色の刃がアークデーモニアの魔力を肉体ごと吸い上げていく。
 彼女ととも帰りたい……ただ、それだけを一心に願っていたのに、それすら叶わず朽ちてしまうのは悪魔にとって許しがたいことでもあった。
 もう一度、その顔を目蓋の裏に焼き付けたい。
 シルクハットを被った紳士の影像がもがくように手を伸ばしていた。
 先にあるモノは空虚だけあった。何も得ることのないまま、エゼルキュ―トは灰燼かいじんに帰した。

「はっはははぁああ…………やった。やりやがった、アイツ。本当に高位悪魔を祓ってみせた」
 乾いた笑いを上げるクド、その瞳にはふらつきながらも十字の剣を背負う少年の姿が移っていた。

「当然だ。あ奴はいずれ聖王国の剣となる男だ。聖騎士となるからには、この程度の悪魔を討てなければ話にならんよ」

「けっ、手厳しいな神父様は。難題をぶつけてくるのもギデオンのためってか?」

「聖王国と民の為だ。それは私や、お前も一緒だ」

 ギデオンを囲うように、他のメンバーたちが駆け寄ってゆく。
 皆、勝利の喜びを分かち合いながら談笑していた。
 悪魔を退治した小さな英雄にラスとエルビアンカが抱きついていた。
 シルクエッタは治癒魔法をほどこしながら、彼の無事に胸を撫でおろしていた。

「さすがは、パラディンを目指すだけのことはあるな。お前は僕たちだけじゃなく、この街の人々の日常も守ってくれた。同士としてとも戦えることを僕は誇りに思うぞ!」

「もうダメかと思った……夢じゃないんだよね? 本当に私たち生き残れたんだ……グスッ。これも全部、貴方のおかげよ、ありがとう」

 感極まるラスキュイと涙ぐむエルビアンカにギデオンは軽く首を振った。

「僕だけは成し遂げられなかったことだ。二人が力を合わせて共に戦ってくれたことが、この戦いの勝因だ。もちろん、それは君もだ! シルクエッタ」

「正直、ボクは……皆の足を引っ張ってしまったと思っているよ。やっぱり、ボクには――――」

「ああっ! もう、面倒ね! ギデオンがそう言っているんだから、素直に喜びなさいよ。アンタがいなければ、あの怪物を抑えることができなかったんだから! その辺りは私も感謝して差し上げてもいいわよ」

 頬を紅潮こうちょうさせるエルビアンカ。
 少女の意外な一面に、目を丸くしながらもシルクエッタは微笑み返した。

「うん! 僕も君にたくさん助けてもらった。ありがとうね、エル。ギデオンとラスも助けにきてくれてありがとう」

 子供たちの明るい声が響く中で、独り呆然とするクドの背中を神父がトントンと小突いた。

「ほら、お前も皆のところにゆくがいい。私はこれからをしないといけない」

「俺の柄じゃないよ、神父様。独りでいた方が誰にも迷惑をかけずに済むしな」
「人は独りでいられても、独りでは生きることはできん。楽に生きる道があるのなら誰しも、嬉々として進んでゆくことだろう。だがの……ふとっ振り返った瞬間に今まで軌跡が残されてないことを恐ろしく感じるものだ」

「言っていることが分からないよ、神父様?」

「ふっ、大人になればいずれ理解する時がくる。お前たちが特務をこなせている限りはな……ギデオン! 剣を回収するぞ!!」

 ギデオンから返却された魔剣を鞘にしまうとエゼックトは脇目を振らずにその場を後にした。

「相変わらず、あの人もサバサバとしているな」

 毒づきながらも、クドも彼らの輪に入ってゆく。神父が誰よりも自分たちのこと思ってくれているのは、切れ者の彼だからこそ部分だ。

 ここから先は、子供である自分たちにはやらせたくはない薄汚れた仕事しかない。
 神父はそれを一人で請け負い、彼ら特務班の肩代わりをしたのだ。
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