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五十三話
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ゼインの嘘は暴かれた。
とうとう言い逃れできなくなくなった男に、ギデオンは再度照準を合わせる。
相手から観念したという気配は感じられない。
覚悟を決めたという方がしっくりくる。
一呼吸だけ深く酸素を吸い込むと彼はゼインに最後通告した。
「これ以上は抵抗しても無意味だ。もう、決着はついている」
「決着?」
「命がおしかったら、大人しく投降しろ。アンタには色々と訊きたいことがある」
「はっ!」
ギデオンの説得を拒否するようにゼインは小さく息を吐き出す。
ここまで不利な立場に追い込まれたと言うのにずいぶんと横柄な態度だ。
あれだけ必死に虚言を吐き続けていたのに、思いのままにいかなくなった途端に開きなおる。
それこそ、与えられた玩具に飽きた子供ように、自分にとって不都合な事を捨て去ろうとしている。
「なあ、旦那。天変地異ってどうすれば起せるか知っているか?」
「おかしなことを言って話をそらそうとしても無駄だ」
「そうじゃないよ、あっし……僕は、知っているんだ。こうすれば、始まるって!!」
バンザイする、ゼインの手から魔力の塊が発射された。
上空まで撃ち上げられると、遠方まで光が届きそうになるほど眩い輝きを放っていた。
それが何かの合図だというのはすぐに理解できた。
理解できたからこそ、襟元を掴んでギデオンは彼に洗いざらい白状させようとした。
「だから……言ったでしょうが、これは天変地異! 追い込まれたの僕じゃない! 旦那、アンタの方だ! いいんですか? 僕に構っていても、そんな余裕はもう何処にもないはずでしょ?」
「何だ? 一体、あれは……貴様ぁ! 何をしたんだ!?」
「天からの贈り物だよ」
空をすべて覆う、どんよりとした黒い雲。
地上まで響き渡る空の雷鳴。
ジャングルの方から数多くの鳥が飛び去っている。
鳥だけではなく獣たちも密林の外へと出ようと一斉に駆けていく。
ありとあらゆる自然界の現象が、あきらかに世界の異常を告げている。
ゴゴゴゴゴゴゴ――――と何かが大気を裂いて突き進んでいる音がした。
気のせいなんかじゃない。
それは、もうそこまでやってきている。
分厚い、雲の向こうからやってきたのは悪魔だった。
魔物という生物の事ではなく、世界を滅ぼす最悪の方の悪魔。
燃え盛る炎をまといながら、天から降って来た隕石はジャングルの中に吸い込まれるように落ちると、次の瞬間には手当たり次第に、ジャングルを吹き飛ばし大炎を吐き出した。
「ふ、ざけんなぁああ――!! ざけんなぁあああ、ざけんなああああ――――!!!」
ギデオンの拳がゼインの顔面を殴り飛ばす。
何度も、何度も、何度も……。
顔のカタチが変わっても、意識を失っても、その手が止まることはない。
「アルラウネ!! 不味い、彼女を助けにいかないと!」
ジャングルが火の海に飲まれていた。
アルラウネのことで正気に戻ったギデオンは急いで下山しようとした。
「ギデ……私も……連れて」
「ローゼリア? 無事だったのか! でも、そんな状態で大丈夫なのか?」
その身を引きずるように、歩いてきたのは彼がその身を案じた少女だった。
立っているのもやっとな、その華奢な身体を抱き上げると彼女は告げた。
「お願い、果樹園が心配……だから、私も一緒に」
「分かった、ここからは馬を走らせるのは困難だ。このまま状態で走ることになるが、構わないか?」
ローゼリアは彼の顔を見つめながら、コクリと頷く。
振り落ちないように両手を彼の首元にまわし、身体を密着させる。
いわゆるお姫様抱っこの状態だが、今は非常時だ。
二人とも、そんな事に気を回せるわけもなかった。
ギデオンは山道を駆けた。
どんな悪路だろうが、何度、窪地に足を取られそうなろうとも。
驚異的なバランスで態勢を保ち結界を越えてゆく。
「ぐっ、何て熱気だ……これでは、先に進めない。どうにかして炎を消さないと」
密林の中は既に燃え盛る炎に包まれていた。
木々はパチパチと火の粉をまき散らし、いたるところから黒煙が上がっている。
もはや、人の手に負える状況ではなかった。
いくら消火を試みようが、炎の方が速く拡がってゆく。
ローゼリアはただ呆然とその景色を見ていた。
火炎に焼き尽くされ跡形もなく消え去ってゆく果樹園の最後を。
眼に涙を溜めながら静かに見守っていた。
果樹園はすでに手遅れだった。
「スコル頼むぞ! ジャングルの炎だけを消滅させるんだ」
魔銃を片手に、引き金を引く。
放たれたダークフレイムが周囲の火の手を丸飲みし瞬く間に炎を消し去る。
残っていたのは、焼け焦げて無惨な姿になったジャングルの木々たちだった。
それは、アルラウネの大木も同様、隕石落下の衝撃により木っ端みじんとなっていた。
「アルラウネ……すまない」
彼女生存は絶望的だった。
何を探していいのかさえも分からなくなるほど、何も残っていない。
彼女が此処にいたという証拠、彼女ともにあった思い出。
すべてはもう記憶の中にしか残されていない。
ギデオンは、悲痛な表情を浮かべ、煤塗れの土を掴み取った。
さらさらと指の間から流れおちてゆく様を見て声を殺して涙した。
震える彼の手にローゼリアは、そっと自身の手を重ね合わせた。
とうとう言い逃れできなくなくなった男に、ギデオンは再度照準を合わせる。
相手から観念したという気配は感じられない。
覚悟を決めたという方がしっくりくる。
一呼吸だけ深く酸素を吸い込むと彼はゼインに最後通告した。
「これ以上は抵抗しても無意味だ。もう、決着はついている」
「決着?」
「命がおしかったら、大人しく投降しろ。アンタには色々と訊きたいことがある」
「はっ!」
ギデオンの説得を拒否するようにゼインは小さく息を吐き出す。
ここまで不利な立場に追い込まれたと言うのにずいぶんと横柄な態度だ。
あれだけ必死に虚言を吐き続けていたのに、思いのままにいかなくなった途端に開きなおる。
それこそ、与えられた玩具に飽きた子供ように、自分にとって不都合な事を捨て去ろうとしている。
「なあ、旦那。天変地異ってどうすれば起せるか知っているか?」
「おかしなことを言って話をそらそうとしても無駄だ」
「そうじゃないよ、あっし……僕は、知っているんだ。こうすれば、始まるって!!」
バンザイする、ゼインの手から魔力の塊が発射された。
上空まで撃ち上げられると、遠方まで光が届きそうになるほど眩い輝きを放っていた。
それが何かの合図だというのはすぐに理解できた。
理解できたからこそ、襟元を掴んでギデオンは彼に洗いざらい白状させようとした。
「だから……言ったでしょうが、これは天変地異! 追い込まれたの僕じゃない! 旦那、アンタの方だ! いいんですか? 僕に構っていても、そんな余裕はもう何処にもないはずでしょ?」
「何だ? 一体、あれは……貴様ぁ! 何をしたんだ!?」
「天からの贈り物だよ」
空をすべて覆う、どんよりとした黒い雲。
地上まで響き渡る空の雷鳴。
ジャングルの方から数多くの鳥が飛び去っている。
鳥だけではなく獣たちも密林の外へと出ようと一斉に駆けていく。
ありとあらゆる自然界の現象が、あきらかに世界の異常を告げている。
ゴゴゴゴゴゴゴ――――と何かが大気を裂いて突き進んでいる音がした。
気のせいなんかじゃない。
それは、もうそこまでやってきている。
分厚い、雲の向こうからやってきたのは悪魔だった。
魔物という生物の事ではなく、世界を滅ぼす最悪の方の悪魔。
燃え盛る炎をまといながら、天から降って来た隕石はジャングルの中に吸い込まれるように落ちると、次の瞬間には手当たり次第に、ジャングルを吹き飛ばし大炎を吐き出した。
「ふ、ざけんなぁああ――!! ざけんなぁあああ、ざけんなああああ――――!!!」
ギデオンの拳がゼインの顔面を殴り飛ばす。
何度も、何度も、何度も……。
顔のカタチが変わっても、意識を失っても、その手が止まることはない。
「アルラウネ!! 不味い、彼女を助けにいかないと!」
ジャングルが火の海に飲まれていた。
アルラウネのことで正気に戻ったギデオンは急いで下山しようとした。
「ギデ……私も……連れて」
「ローゼリア? 無事だったのか! でも、そんな状態で大丈夫なのか?」
その身を引きずるように、歩いてきたのは彼がその身を案じた少女だった。
立っているのもやっとな、その華奢な身体を抱き上げると彼女は告げた。
「お願い、果樹園が心配……だから、私も一緒に」
「分かった、ここからは馬を走らせるのは困難だ。このまま状態で走ることになるが、構わないか?」
ローゼリアは彼の顔を見つめながら、コクリと頷く。
振り落ちないように両手を彼の首元にまわし、身体を密着させる。
いわゆるお姫様抱っこの状態だが、今は非常時だ。
二人とも、そんな事に気を回せるわけもなかった。
ギデオンは山道を駆けた。
どんな悪路だろうが、何度、窪地に足を取られそうなろうとも。
驚異的なバランスで態勢を保ち結界を越えてゆく。
「ぐっ、何て熱気だ……これでは、先に進めない。どうにかして炎を消さないと」
密林の中は既に燃え盛る炎に包まれていた。
木々はパチパチと火の粉をまき散らし、いたるところから黒煙が上がっている。
もはや、人の手に負える状況ではなかった。
いくら消火を試みようが、炎の方が速く拡がってゆく。
ローゼリアはただ呆然とその景色を見ていた。
火炎に焼き尽くされ跡形もなく消え去ってゆく果樹園の最後を。
眼に涙を溜めながら静かに見守っていた。
果樹園はすでに手遅れだった。
「スコル頼むぞ! ジャングルの炎だけを消滅させるんだ」
魔銃を片手に、引き金を引く。
放たれたダークフレイムが周囲の火の手を丸飲みし瞬く間に炎を消し去る。
残っていたのは、焼け焦げて無惨な姿になったジャングルの木々たちだった。
それは、アルラウネの大木も同様、隕石落下の衝撃により木っ端みじんとなっていた。
「アルラウネ……すまない」
彼女生存は絶望的だった。
何を探していいのかさえも分からなくなるほど、何も残っていない。
彼女が此処にいたという証拠、彼女ともにあった思い出。
すべてはもう記憶の中にしか残されていない。
ギデオンは、悲痛な表情を浮かべ、煤塗れの土を掴み取った。
さらさらと指の間から流れおちてゆく様を見て声を殺して涙した。
震える彼の手にローゼリアは、そっと自身の手を重ね合わせた。
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