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Chapter.2:黄昏の戦乙女と第一回イベント
25話:第一回イベント⑤
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モンスターの湧き出す魔法陣を破壊した私たちは、突然現れた大悪魔アンドラスとの戦いを始めた。相手は上空にいるから、まずはあれを地面に落とさないといけない。
私が空に飛び上がってアンドラスを地面に突き落とせたら一番よかったんだけど、それはENの残量的に厳しそうだ。
ここまで必死に戦ってくれたレンやアイちゃんも、スラスターに回せるほどのENは残っていない。つまり、地上からの攻撃で地面に落とさなきゃいけないわけだ。
まぁ、攻撃パターンとして地上に近付くっていう行動があるのかもしれないけど……来るかも分からない行動を悠長に待ってられるほど、こっちも無傷じゃない。
「遠距離攻撃持ちはアンドラスに攻撃を加えろ! 何としてもあの悪魔を地に落とせ!」
「アハハ! ゴミが一丁前に俺と戦う気か? バカが! 俺とお前らで戦いになるわけないだろ! これは戦いじゃなくて、蹂躙って言うんだよ!」
兄さんの指示にアンドラスが笑いながら叫ぶと、右腕を天へと掲げた。手のひらの先から現れるのは、先ほどの魔法陣が霞んでしまうくらい大きな魔法陣だった。
魔法陣が描き出されるのと同時に、小さい火球が浮かぶ。魔法陣から現れた火球は、どんどんと形を大きくしていった。
……まずは、あれの発動を止めろってことだね。
「はっ、余裕綽々ってか!」
「上等だ! 吠え面かかせたらぁ!」
「――なんだ、魔法が効かない!」
「弓もだ!」
「はぁ!? 一体どうなってんだよ!?」
プレイヤーたちが放つ攻撃はアンドラスへと届いている。しかし、アンドラスに当たる直前に透明な膜のようなもので防がれているようだった。
……バリアか!
『あいつ、あんなこと言っておきながらバリア張ってるよ! せこい!』
「ん~、聞こえないなぁ! ほらほら、早くしないと死んじまうぞぉ!」
『うぐぐ……アタシにだって、遠距離攻撃手段があれば……』
『……ん』
『あ、なんだ、レン。どうかしたのか?』
『……こしょこしょ』
『ほうほう』
視界の端でレンとアイちゃんが内緒話をしているのが見える。一体二人は何を話してるんだろう。
っと、そんなことに気を取られてる場合じゃない。どうにかしてあのバリアを剥がさないと……ん?
気付けば、アイちゃんがレンを連れて私の元まで来ていた。
アイちゃんは私の腕を引くと、真剣な表情で(ロボットの顔だけど)私を見つめている。
『ミオン。頼みがある』
……ふむ。この状況を打開するための手段が、アイちゃんにはあるのかな? 正直、遠距離攻撃以外に打てる手はないと思うんだけど……ん?
打てる手……打つ……アイちゃん……えっ、もしかして?
私がその思考に行きついてマジマジとアイちゃんの顔を見ると、アイちゃんは深く頷いた。
『ん。私のフルスイングで、レンをあいつのところに送り届ける。もしくは、近くまで吹っ飛ばしてレンのブーストに任せる』
『ふむ』
なるほど。それなら確かに、足りないENを補いつつあいつの元まで行けるわけだ。
でも、それがアイツにバレたら、何をされるか分からない。けど……。
『さっきからアンドラスは、こっちに攻撃すらしてこない。こっちを舐めてるっていうのもあるんだろうけど……多分、あれを溜めてる間は無防備なんじゃないかな? だから私たちを煽って冷静さをなくさせたり、バリアで身を守ってる』
『ん。多分そう』
『なら、やる価値はあるね。アイちゃん、私はどうしたらいい?』
『……私たちが位置に着くまで、あいつの気を引いて欲しい』
囮かぁ。やろうと思えばできるだろうけど、アンドラスがそれに引っかかってくれるかどうか……。
いや、ここで成功させなきゃ後がないんだ。ENは回復するし、仮にここで使い切ったとしても、あれさえ止められればどうとでもなる。
私は一つ頷いて、アイちゃんに親指を立てた。
『後は、私と一緒に囮になってくれそうな種族……翼人がこっちにいてくれればいいけど』
私は今も周囲に指示を出しているユージン兄さんの傍までやってきた。
兄さんは私に気がつくと、指示を出しながら聞いてくる。
「どうしたミオンちゃん。お兄ちゃんになにかお願いごとか?」
『うん。今ここにいるプレイヤーの中で、翼人の人っている?』
「翼人……」
兄さんはそう呟くと、なにかを思い返すように瞼を閉じた。
そして直ぐに開けると、首を横に振った。
「確かに東門側にも何人か翼人がいた。が、彼らは門の防衛に精一杯でこちらには来られていないな。時間が経てばこっちに来てくれるかもしれないが……あれが放たれる方が先だろう」
『だよねー。仕方ない。私一人でやるか』
「……ミオンちゃんがなにをする気か分からないが、そうそう無駄なことをしないって分かってるからな。やってこい、妹よ」
『うん。あ、それと兄さん。バリアが剥がれたら一斉攻撃よろしくね! じゃ!』
「ちょ、おい! バリアが剥がれたらって……はぁ、可愛い妹の頼みだからな。
できれば全体に伝えたいところだが、それをするとアンドラスにも気付かれるか。なら、パーティーチャットで……」
後のことは兄さんに任せて、私はどうやって囮役をするか考えよう。
既に二人は戦線から離脱して、アンドラスの背後に回ろうと移動している。二人の移動をアンドラスに察知されないようにしないと……。
とりあえず牽制の意味も込めて、マギアライフルを一発放ってみる。
真っ直ぐに伸びる一筋の輝きは動かないアンドラスへと当たり、その身体を軽く仰け反らせることに成功した。だけどそれくらいじゃバリアは剥がれないし、あの魔法陣も止まらないか。
さて。あんまり取りたくない手だけど、目には目を、歯には歯を作戦を開始しよう。アンドラスが反応してくれるとありがたいんだけど……。
「っつ……ンだよ。スクラップ野郎が、ヘンテコなおもちゃ持ちやがって!」
よし! 反応してきた!
『はーい! 私は女なので野郎じゃないでーす! 言葉を勉強してから来てくださーい!』
私はできる限り、アンドラスをバカにするような声音とジェスチャーを心がける。自分から煽ってきたんだから、煽り返されても文句は言えないよね!
「あぁ!? 何だとこのスクラップがよぉ!」
『おお! えらいえらい! ちゃんと言葉のお勉強ができたね!』
「こっっっっの、クソアマがぁ……! この大悪魔アンドラス様にそんな口を聞いて、タダで済むと思ってんのかぁ!?」
『わー! 怖いよぉー、大悪魔アンドラス様に殺されちゃうー』
「くっ……このっ……がぁっ……!!!!」
おお、効いてる効いてる!
私に手を出したいけど、あの火球を放つために動くわけにはいかない。動きたくても動けないジレンマで、顔の血管がとんでもない事になっている。歯をギチギチと鳴らして、絶対に殺してやるって殺気を感じるね。
多分、アンドラスの私へのヘイトがとんでもなく上がってるだろうけど……バリアの排除は任せたからね、二人とも!
ちょうどいいタイミングか、アンドラスの背後に見慣れた装甲の色が見える。さぁ、あいつに一撃お見舞いしてあげなさい!
『……っ!』
『くらえぇぇぇぇぇぇっ!』
アイちゃんがバットを振りかぶり、レンはその場でジャンプをする。
振り抜かれるバットにレンの足の裏がピタリと張り付き、フルスイングの勢いとスラスターの加速を合わせて、瞬間移動もかくやという速さでアンドラスの背後を取った。
「なっ!?」
もちろん、私に集中していたアンドラスにその一撃を避けることは叶わず、振り抜かれた大剣の一撃をまともにくらってしまう。
……だが、アンドラスはその攻撃を受けてニヤリと笑った。
「……はっ、理解したぜ。そういうことかよ。あのクソアマのムカつく言葉も態度も、全部俺にてめぇの攻撃を届かせるための作戦だってか! しかし残念! そんな一撃じゃあ俺のバリアは――」
『誰が一撃っつったよ!』
「なっ……!?」
大剣を振り抜いたレンは、バーニアによる姿勢制御とスラスターによる加速でその場で一回転し、再びアンドラスへと切りかかった。
大剣は何度も何度もアンドラスの身体を切り裂き、ついには「バリィン!」という甲高いなにかが割れる音と共に、アンドラスの姿勢が崩れる。
「『――今だっ!』」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」」」」」
バリアの破壊を確認した私は、ありったけのENをかき集めてマギアライフルを連射した。
兄さんから話が行っていたのか、周囲のプレイヤーたちは突然のバリア破壊に驚くことなくアンドラスに攻撃を加える。
「がっ……くそっ……魔法陣の維持が……!」
流石に耐えきれなくなったのか、火球を生み出していた魔法陣が消滅し、宙に浮かんでいたアンドラスが地面へと激突した。
「やったか!?」
丁寧なフラグ建設ありがとうございます。アンドラスは頭から地面に落ちたものの、それくらいでボスが倒せるわけがない。現にアンドラスはフラフラになってはいるものの、ゆっくりと身体を起こして立ち上がった。
そして、アンドラスの頭上に伸びるHPバー。その数は三本だったけど、内一本は半分ほどが削りきれていた。
アンドラスを見れば、その表情が怒りに歪んでいるのが見て取れる。うん、まぁ、散々見下してきた存在にボコボコにされたらそうなるよね……。
「……あぁ、クソが。手加減してれば調子に乗りやがって……てめぇら、俺を本気で怒らせたいらしいなぁ!」
アンドラスの周囲にバチバチと火花が散り、その身体を人の胴程度の大きさの魔法陣がスキャンをするように通過していく。
一瞬の後、アンドラスの身体は急激に成長していった。元々小学校低学年くらいだった身長が、高校生くらいの大きさに変化していた。
顔つきもどこか大人っぽく変化しており、その全身を見た瞬間、これが本来のアンドラスの姿なのだと理解した。今までは本当に手加減をしていたのだ、と。
だけど、私たちも負けるつもりは毛頭ない。ここまで来たら、目指すはボス討伐だよね!
「みんな! やつの雰囲気に呑まれるな! 相手は既に六分の一の体力を失っている! それに、門を守りきったプレイヤーたちをこちらに向かわせている! 増援も期待できるんだ! 何も恐れることはない! 例え相手が本物の大悪魔であろうと、俺たちが負ける道理はないはずだ! イベント終了まで残り一時間半! 我々は、全身全霊をもって、大悪魔アンドラスを討伐する!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」」」」」
「……ちっ」
兄さんの鼓舞に、プレイヤーたちが応える。プレイヤーたちの声に、アンドラスは端正な顔を歪めた。
戦意は上々だけど、残留リソースは微妙……さて、できる限りのことはするつもりだけど、どうなるかな。
東門&南門連合軍と大悪魔アンドラスの戦いも、佳境に差し掛かっていた。
私が空に飛び上がってアンドラスを地面に突き落とせたら一番よかったんだけど、それはENの残量的に厳しそうだ。
ここまで必死に戦ってくれたレンやアイちゃんも、スラスターに回せるほどのENは残っていない。つまり、地上からの攻撃で地面に落とさなきゃいけないわけだ。
まぁ、攻撃パターンとして地上に近付くっていう行動があるのかもしれないけど……来るかも分からない行動を悠長に待ってられるほど、こっちも無傷じゃない。
「遠距離攻撃持ちはアンドラスに攻撃を加えろ! 何としてもあの悪魔を地に落とせ!」
「アハハ! ゴミが一丁前に俺と戦う気か? バカが! 俺とお前らで戦いになるわけないだろ! これは戦いじゃなくて、蹂躙って言うんだよ!」
兄さんの指示にアンドラスが笑いながら叫ぶと、右腕を天へと掲げた。手のひらの先から現れるのは、先ほどの魔法陣が霞んでしまうくらい大きな魔法陣だった。
魔法陣が描き出されるのと同時に、小さい火球が浮かぶ。魔法陣から現れた火球は、どんどんと形を大きくしていった。
……まずは、あれの発動を止めろってことだね。
「はっ、余裕綽々ってか!」
「上等だ! 吠え面かかせたらぁ!」
「――なんだ、魔法が効かない!」
「弓もだ!」
「はぁ!? 一体どうなってんだよ!?」
プレイヤーたちが放つ攻撃はアンドラスへと届いている。しかし、アンドラスに当たる直前に透明な膜のようなもので防がれているようだった。
……バリアか!
『あいつ、あんなこと言っておきながらバリア張ってるよ! せこい!』
「ん~、聞こえないなぁ! ほらほら、早くしないと死んじまうぞぉ!」
『うぐぐ……アタシにだって、遠距離攻撃手段があれば……』
『……ん』
『あ、なんだ、レン。どうかしたのか?』
『……こしょこしょ』
『ほうほう』
視界の端でレンとアイちゃんが内緒話をしているのが見える。一体二人は何を話してるんだろう。
っと、そんなことに気を取られてる場合じゃない。どうにかしてあのバリアを剥がさないと……ん?
気付けば、アイちゃんがレンを連れて私の元まで来ていた。
アイちゃんは私の腕を引くと、真剣な表情で(ロボットの顔だけど)私を見つめている。
『ミオン。頼みがある』
……ふむ。この状況を打開するための手段が、アイちゃんにはあるのかな? 正直、遠距離攻撃以外に打てる手はないと思うんだけど……ん?
打てる手……打つ……アイちゃん……えっ、もしかして?
私がその思考に行きついてマジマジとアイちゃんの顔を見ると、アイちゃんは深く頷いた。
『ん。私のフルスイングで、レンをあいつのところに送り届ける。もしくは、近くまで吹っ飛ばしてレンのブーストに任せる』
『ふむ』
なるほど。それなら確かに、足りないENを補いつつあいつの元まで行けるわけだ。
でも、それがアイツにバレたら、何をされるか分からない。けど……。
『さっきからアンドラスは、こっちに攻撃すらしてこない。こっちを舐めてるっていうのもあるんだろうけど……多分、あれを溜めてる間は無防備なんじゃないかな? だから私たちを煽って冷静さをなくさせたり、バリアで身を守ってる』
『ん。多分そう』
『なら、やる価値はあるね。アイちゃん、私はどうしたらいい?』
『……私たちが位置に着くまで、あいつの気を引いて欲しい』
囮かぁ。やろうと思えばできるだろうけど、アンドラスがそれに引っかかってくれるかどうか……。
いや、ここで成功させなきゃ後がないんだ。ENは回復するし、仮にここで使い切ったとしても、あれさえ止められればどうとでもなる。
私は一つ頷いて、アイちゃんに親指を立てた。
『後は、私と一緒に囮になってくれそうな種族……翼人がこっちにいてくれればいいけど』
私は今も周囲に指示を出しているユージン兄さんの傍までやってきた。
兄さんは私に気がつくと、指示を出しながら聞いてくる。
「どうしたミオンちゃん。お兄ちゃんになにかお願いごとか?」
『うん。今ここにいるプレイヤーの中で、翼人の人っている?』
「翼人……」
兄さんはそう呟くと、なにかを思い返すように瞼を閉じた。
そして直ぐに開けると、首を横に振った。
「確かに東門側にも何人か翼人がいた。が、彼らは門の防衛に精一杯でこちらには来られていないな。時間が経てばこっちに来てくれるかもしれないが……あれが放たれる方が先だろう」
『だよねー。仕方ない。私一人でやるか』
「……ミオンちゃんがなにをする気か分からないが、そうそう無駄なことをしないって分かってるからな。やってこい、妹よ」
『うん。あ、それと兄さん。バリアが剥がれたら一斉攻撃よろしくね! じゃ!』
「ちょ、おい! バリアが剥がれたらって……はぁ、可愛い妹の頼みだからな。
できれば全体に伝えたいところだが、それをするとアンドラスにも気付かれるか。なら、パーティーチャットで……」
後のことは兄さんに任せて、私はどうやって囮役をするか考えよう。
既に二人は戦線から離脱して、アンドラスの背後に回ろうと移動している。二人の移動をアンドラスに察知されないようにしないと……。
とりあえず牽制の意味も込めて、マギアライフルを一発放ってみる。
真っ直ぐに伸びる一筋の輝きは動かないアンドラスへと当たり、その身体を軽く仰け反らせることに成功した。だけどそれくらいじゃバリアは剥がれないし、あの魔法陣も止まらないか。
さて。あんまり取りたくない手だけど、目には目を、歯には歯を作戦を開始しよう。アンドラスが反応してくれるとありがたいんだけど……。
「っつ……ンだよ。スクラップ野郎が、ヘンテコなおもちゃ持ちやがって!」
よし! 反応してきた!
『はーい! 私は女なので野郎じゃないでーす! 言葉を勉強してから来てくださーい!』
私はできる限り、アンドラスをバカにするような声音とジェスチャーを心がける。自分から煽ってきたんだから、煽り返されても文句は言えないよね!
「あぁ!? 何だとこのスクラップがよぉ!」
『おお! えらいえらい! ちゃんと言葉のお勉強ができたね!』
「こっっっっの、クソアマがぁ……! この大悪魔アンドラス様にそんな口を聞いて、タダで済むと思ってんのかぁ!?」
『わー! 怖いよぉー、大悪魔アンドラス様に殺されちゃうー』
「くっ……このっ……がぁっ……!!!!」
おお、効いてる効いてる!
私に手を出したいけど、あの火球を放つために動くわけにはいかない。動きたくても動けないジレンマで、顔の血管がとんでもない事になっている。歯をギチギチと鳴らして、絶対に殺してやるって殺気を感じるね。
多分、アンドラスの私へのヘイトがとんでもなく上がってるだろうけど……バリアの排除は任せたからね、二人とも!
ちょうどいいタイミングか、アンドラスの背後に見慣れた装甲の色が見える。さぁ、あいつに一撃お見舞いしてあげなさい!
『……っ!』
『くらえぇぇぇぇぇぇっ!』
アイちゃんがバットを振りかぶり、レンはその場でジャンプをする。
振り抜かれるバットにレンの足の裏がピタリと張り付き、フルスイングの勢いとスラスターの加速を合わせて、瞬間移動もかくやという速さでアンドラスの背後を取った。
「なっ!?」
もちろん、私に集中していたアンドラスにその一撃を避けることは叶わず、振り抜かれた大剣の一撃をまともにくらってしまう。
……だが、アンドラスはその攻撃を受けてニヤリと笑った。
「……はっ、理解したぜ。そういうことかよ。あのクソアマのムカつく言葉も態度も、全部俺にてめぇの攻撃を届かせるための作戦だってか! しかし残念! そんな一撃じゃあ俺のバリアは――」
『誰が一撃っつったよ!』
「なっ……!?」
大剣を振り抜いたレンは、バーニアによる姿勢制御とスラスターによる加速でその場で一回転し、再びアンドラスへと切りかかった。
大剣は何度も何度もアンドラスの身体を切り裂き、ついには「バリィン!」という甲高いなにかが割れる音と共に、アンドラスの姿勢が崩れる。
「『――今だっ!』」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」」」」」
バリアの破壊を確認した私は、ありったけのENをかき集めてマギアライフルを連射した。
兄さんから話が行っていたのか、周囲のプレイヤーたちは突然のバリア破壊に驚くことなくアンドラスに攻撃を加える。
「がっ……くそっ……魔法陣の維持が……!」
流石に耐えきれなくなったのか、火球を生み出していた魔法陣が消滅し、宙に浮かんでいたアンドラスが地面へと激突した。
「やったか!?」
丁寧なフラグ建設ありがとうございます。アンドラスは頭から地面に落ちたものの、それくらいでボスが倒せるわけがない。現にアンドラスはフラフラになってはいるものの、ゆっくりと身体を起こして立ち上がった。
そして、アンドラスの頭上に伸びるHPバー。その数は三本だったけど、内一本は半分ほどが削りきれていた。
アンドラスを見れば、その表情が怒りに歪んでいるのが見て取れる。うん、まぁ、散々見下してきた存在にボコボコにされたらそうなるよね……。
「……あぁ、クソが。手加減してれば調子に乗りやがって……てめぇら、俺を本気で怒らせたいらしいなぁ!」
アンドラスの周囲にバチバチと火花が散り、その身体を人の胴程度の大きさの魔法陣がスキャンをするように通過していく。
一瞬の後、アンドラスの身体は急激に成長していった。元々小学校低学年くらいだった身長が、高校生くらいの大きさに変化していた。
顔つきもどこか大人っぽく変化しており、その全身を見た瞬間、これが本来のアンドラスの姿なのだと理解した。今までは本当に手加減をしていたのだ、と。
だけど、私たちも負けるつもりは毛頭ない。ここまで来たら、目指すはボス討伐だよね!
「みんな! やつの雰囲気に呑まれるな! 相手は既に六分の一の体力を失っている! それに、門を守りきったプレイヤーたちをこちらに向かわせている! 増援も期待できるんだ! 何も恐れることはない! 例え相手が本物の大悪魔であろうと、俺たちが負ける道理はないはずだ! イベント終了まで残り一時間半! 我々は、全身全霊をもって、大悪魔アンドラスを討伐する!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」」」」」
「……ちっ」
兄さんの鼓舞に、プレイヤーたちが応える。プレイヤーたちの声に、アンドラスは端正な顔を歪めた。
戦意は上々だけど、残留リソースは微妙……さて、できる限りのことはするつもりだけど、どうなるかな。
東門&南門連合軍と大悪魔アンドラスの戦いも、佳境に差し掛かっていた。
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