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Chapter.2:黄昏の戦乙女と第一回イベント

24話:第一回イベント④

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『さて。モンスターが湧き出す原因を見つけないと……』

 ビフリードさんが作ってくれた道を駆け抜けてフィールドの奥まで辿り着いた私は、モンスターを生み出す"何か"を見つけるために周囲を見渡す。
 モンスターが湧き出す場所ということもあり、ここにも多くのモンスターが存在していあ。

 それらをマギアサーベルで切り捨てつつ、モンスターが湧き出す瞬間を捉えるために周囲に視線を走らせる。本来であればここは既に森の中のはずだけど、特設フィールドのためか整えられた平地になっていた。
 見通しはいいけど……んー、見つからない。

『こうなったら、空から見つけようかな』

 私は地面を蹴り、スラスターを噴かせて上空へと飛び上がる。飛行用には作ってないから長時間の噴射はENの消費がとんでもないことになるけど、仕方ない。
 ENの消費を抑えるためにさっさと見つけてしまおうと眼下を見下ろす。
 何かおかしいものはないだろうか? 何でもいい。何か、何か……っ!

『見つけた……!』

 私から見て左奥、始まりの街から南南東の地点にそれはあった。
 地面に大きく描かれた、輝く線で形作られた魔法陣。そこからは見覚えのある〈散華の森・中層/下層〉のモンスターと、ミニゴブリンデビル、それから見覚えのないモンスターが生み出されていた。

 〈散華の森〉のモンスターとミニゴブリンデビルは南側へ、見覚えのないモンスターとミニゴブリンデビルは東側へと向かっている。
 ……二方面分のモンスターを、この場所で生み出してるってことか。あれを破壊しないと、本当に無限湧きってことだね。

『そうなると……』

 東門のプレイヤーも、恐らく無限に湧き出るモンスターに対処するために打って出ているはず。ずっと門を防衛していてもジリ貧だからね。
 東門は……そっか、ユージン兄さんのクランか。なら安心だ。あの人なら、絶対こっちに向かってる。

 だとしたら、今私がやるべきは……!

『上空からド派手な奇襲! 正確な位置を教えてあげないとね!』

 スラスターにもう少し無理をさせて、魔法陣のある上空までやってきた。私はマギアサーベルからマギアライフルに持ち替えて、眼下のモンスターに向かって引き金を引く。

 空から降り注ぐ光の軌跡が、地上のモンスターを焼き焦がしている。これだけ撃てば、遠くからでも見えるはず。
 あとは兄さんがこっちの意図に気が付いてさえくれれば勝ちだ。それまでは下でモンスターと遊んでいようかな!
 再びマギアサーベルに持ち替えた私は、複数匹のモンスターを踏み潰しながら地面に着地した。

『さぁ、やろうか!』

 その言葉をモンスターたちが理解したのかは分からないけど、周囲のモンスターが一直線に私に向かってくる。やだ、モテモテだね!
 そこからはただひたすらに切った。切って切って、受けるダメージをものともせずに切り続けた。

 しかし《鑑定》している暇がない! 恐らく東の遺跡のモンスターであろうちっちゃいゴーレムみたいのとか、飛んでる腕みたいなのとか、名前くらいは見ておきたかった!

 時間にして十分くらい戦っていただろうか。ふと、モンスターの流れが変わっていることに気が付いた。
 さっきまでは全部のモンスターが私に殺到している状態だったのに、今ではその半分ほどしかいない。

 私の強さに恐れおののいた? なんてね。そんなはずはない。
 そんなもの、答えは一つだ。私以外に、この場所に来たプレイヤーがいる。

「ずぅおりゃああああ!」

 視界の端を何かが横切る。それは両手にそれぞれ大剣を持ち、寄せ来るモンスターたちをばっさばっさと切り伏せていた。
 聞き覚えのある声。それに、特徴的な装備。間違いない。アレは――

「ミオンちゃーーーーん! どこだーーーーー! お兄ちゃんの声が聞こえてるなら返事をしてくれーーーー!」

 ……アレが、私の兄です。はい。
 その、兄さんはいわゆる隠れシスコンってやつみたいで……普段はそんな素振りを見せないんだけど、私が危険な目にあってたりするとああやってシスコン化しちゃうみたい。
 でも、よく私がここにいるって――ああ、マギアライフルの光を見たからか。現状、私くらいしか使ってる人いないからね。

「くそっ、邪魔だぁっ! どけぇっ!」

 某無双ゲームかってくらい、モンスターが吹き飛ばされてる。あれは純粋にSTRが高いって言うのと、装備のスキルかな? 吹き飛ばされて地面に叩きつけられたモンスターが消滅してるから、威力もとんでもないことが分かるね。
 っと、このまま私の名前を連呼されても困るし、出ていかないと……。

『兄さーん! 私はここ!』
「むっ!!!!! 【ラピッドドライブ】!」

 兄さんが私を見つけると同時に、瞬間移動めいた移動技で私の目の前までやってきていた。
 ……何だそのアーツは。私と兄さんの間にいたモンスターが全部吹き飛んでいったんだけど。

「無事か! ミオンちゃん!」
『え、あ、うん。私は無事だよ』

 戦場のど真ん中で兄妹きょうだいの感動の再会ってやつ? まぁ現実では毎日顔を合わせてるから、感動のって言うほどじゃないんだけどさ。
 あ、今もちゃんとモンスターは襲いかかって来てるので、それは対処してますよ?

「よかった……というか、思ったよりピンピンしてるね?」
『そりゃあ自動回復持ちですし? それに装備の性能もいいからくらうダメージ量もそこまで大きくないし?』
「なるほど」
『って、そんな話してる場合じゃないよ。兄さんの方は兄さんだけなの?』
「いや、俺以外にも頼れるクランメンバーが何人か来ている。が、俺が一目散に走り抜けて行ったから、まだここまでたどり着いていない」
『実質兄さんだけってことか。とりあえず、モンスターを生み出してる魔法陣を壊しちゃおう。こういうのって、線の一部分でも消せば効果が無くなるって相場が決まってるよね』
「分かった。ミオンちゃんの手を煩わせるまでもない。俺がやろう」

 そう言うと兄さんは、二つの大剣を振り上げて力を込めた。その間に襲ってくるモンスターは私が対処する。

「このアーツは少しタメがいるのが玉に瑕だが、その分申し分ない威力を持っている……向きはこっちでいいか?」
『うん。そっちで合ってる』
「よし――砕け! 【グランドブレイク】! ついでにダブルだ!」

 兄さんは地面に叩きつけるように大剣を振り下ろした。振り下ろされた大剣は大地を砕き、その衝撃が前方へと伝わっていく。
 直線上の地面は衝撃によってひび割れ、それに触れたモンスターを吹き飛ばしていった。

 その衝撃の終着点。二振りの大剣から放たれた衝撃が交わり、二倍以上の威力を持って魔法陣に到達した。
 そして爆発。その場にいたモンスターを消し飛ばすほどの一撃で、魔法陣の一部が損壊した。

 途端に輝きを失う魔法陣。これでもう新しくモンスターが生み出されることはないだろう。そのことに、ホッと一息つく。
 それにしても、兄さんのあのスキルは本当に強いね。両手装備をそれぞれ片手で持てるエクストラカテゴリーのスキルだっけ。その上両手剣のアーツを同時に発動できるなんて、チートもいいところだ。

 ……え? マギアサーベルとかライフル持ってるお前が言うなって? それはそれ、これはこれだよ。
 周囲のモンスターは軒並み兄さんのアーツで吹き飛んだけど、その数はまだまだ多い。

『兄さん! とりあえず、周りのモンスターを全部片付けていこう!』
「ああ。魔法陣を破壊したとて、それで街が守られるわけじゃないからな。後は俺に任せて、ミオンちゃんは下がっててもいいんだぞ?」
『まさか! いいところを兄さんに持ってかれたんだから、その埋め合わせくらいはさせてよね』
「ふふっ、分かった。無茶だけはするなよ!」
『当然!』

 そこからは楽な戦いだった。
 モンスターの数は増えることがなくなり、プレイヤーの援軍が続々と到着する。
兄さんのクランメンバーや、レンやアイちゃん、ビフリードさんたちもモンスターを倒しながら合流してくれた。

 そしてイベント開始から四時間で東と南側のモンスターを全て倒し切り――それが現れた。

「んぁー? 何で魔法陣が消されちゃってるわけ? どういうこと?」

 その声は、不思議と耳に入ってきた。
 自慢のおもちゃを壊されて不機嫌になっている、子どもの声。その声の出処を探そうと周囲を見渡し……ふと、視線を上空に上げた。

 ボロボロのローブをまとった、小学校低学年くらいの少年。少しくすんだ金色の髪を持ち、その目元には酷い隈が浮かんでいる。
 およそ子どもらしくない表情を浮かべたそれは、子どもらしい高い声で舌打ちをした。

「ちっ。おいおい、まさかまさかだぜ。俺の作った魔法陣を、ゴミとスクラップ共が消しちまいやがった」

 ……なるほど。だいたい理解できた。
 つまりこれからボス戦ってことですね! それも、複数パーティーで挑むレイド戦!
 兄さんや他のプレイヤーもそのことに気付いたのか、バラバラに座っていたプレイヤーたちが集まっていく。

 私の残りENは……まぁ、戦えなくはないかな。自動回復がかなり仕事をしてくれている。
 男の子はガシガシと頭を搔くと、ものすごくダルそうな声音で言った。

「めんどくせぇ。めんどくせぇけど、仕事サボってるのがブエルにバレたらもっとめんどくせぇからな。仕方ない、ってやつだ」

 ため息を一つつくと、男の子は私たちに視線を向けた。その場で両手を広げるとバサバサとローブがはためき、男の子の背中に大きな黒い翼が現れる。
 その様子に、私たちは全員武器を構えた。これがイベントの、正真正銘最後の戦いになるだろう。

「喜べよ、ゴミ共。この大悪魔アンドラスが相手をしてやる。お前らじゃあ一生かかっても目にできない本物の悪魔の力ってやつを見せてやるから、感謝しながら逝きやがれ!」

 男の子から黒い波動のようなものが湧き出てくる。
 その波動は瞬く間にフィールドを駆け巡り、その場にボス戦用のフィールドを作り出した。
 こうして東門&南門プレイヤー連合と、イベントレイドボス……大悪魔アンドラスとの戦いが始まった。
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