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Chapter.1:錆び朽ちた魔機人《マギナ》

14話:【擬態翼竜《カメレオ・ワイバーン》】

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「そろそろボスがいるっていう山道の中心部分なんだけど……」
『特に何かいるってわけじゃなさそうだね?』

 私たちは襲ってくるモンスターを倒しながら進み、現在北の山の山道のその中心部辺りに来ていた。
 どうやらこの場所には元々何らかの休憩所のような建物が建っていたようで、少し大きめの広場のようになっている。

 建物に使われていたであろう木材の欠片などが辺りに散らばっており、何かに襲われたというのが丸わかりだ。恐らくは討伐対象のボスが、ここを破壊し尽くして居座っているのだろう。
 広場の端の方には、木材をぐちゃぐちゃに溶かして無理やり固めたような奇妙なオブジェのようなものが存在していた。

『とても前衛的な芸術』
『人類にはまだ早いってやつだね』
『しっかし、肝心要のボスがいないってのはどういうことだ?』
「ふむ。……どうやら期待に応えてご登場のようだよ」
『『!』』
『おー』

 私たちの頭上を遮る影。その影を見上げると、そこには通常のものよりも大きなワイバーンがいた。
 私たちは出来の悪いオブジェから離れ、戦いやすい広場の中心部分で陣形を組む。
 陣形と言っても、レンと私とアイちゃんを前にして、支援や援護を行うヴィーンが後ろという形。

『うっわ。キモイなこいつ』
『まぁ、これをワイバーンって言うのはちょっと……って感じもするけど』
『ん』
「【擬態カメレオ・翼竜ワイバーン】……名前に違わぬ見た目だね」

 その見た目を確認した私たちは、辟易とした声音で呟いた、
 毒々しい派手な色をした翼。翼竜と言うにはあまりにも気持ち悪い頭部。ギョロりとした目が私たちを見下ろす。不細工な口からは長い舌を伸ばし、そこから滴り落ちる唾液は地面を溶かす。
 しかして、ゆっくりと翼を羽ばたかせて空から降りてくるその姿は、まさに翼竜。

「GYAOOOOOOO!!!!!!」

 地に降り立つ【カメレオ・ワイバーン】が、大地を震わす咆哮を上げた。四本のHPバーが【カメレオ・ワイバーン】の頭上に浮かぶ。
 そのどこを見ているか分からない目は、確実に目の前の私たちを敵と認識していた。

『とにかくやるよ! あの感じからして、毒を使ってきそうだから、ヴィーンは注意してね!』
「君たちもだよ! 地面が熔けたってことは、毒だけでなく腐食属性も持っているはずさ!」
『そっか!』

 いけない、忘れるところだった。魔機人はあらゆる状態異常に強いけど、腐食属性にだけは弱いんだよね。あの舌には気をつけないと!

『まずは景気付けに一発いくぞおらぁ!』

 レンが駆け出し、その気持ちの悪い顔に大剣の一撃を叩き込む。一番上のHPバーが目に見えて減った。なら、私たちも!

『サーベル!』

 スラスターを噴かしてブースト、すれ違いざまにマギアサーベルでカメレオ・ワイバーンの鱗を切り裂いた。
 ガクン、とへるHPバーに思わずガッツポーズをする。光属性への耐性がない以上、マギアサーベルのこの火力を抑えられまい!

『ばちこーん』

 アイちゃんはと言うと、【カメレオ・ワイバーン】から伸びてくる舌を、バットで打ち返していた。その度にバットの耐久値が減っていくけど、【カメレオ・ワイバーン】もタダでは済まない。

 レンかメインタンクの予定だったけど、どうやらアイちゃんがタンクの役割を果たしているみたいだ。その分レンが攻撃に加わって、高いダメージを叩き出している。

『アイちゃん大丈夫!?』
『ん! これ、楽しい。もっとやる』
『そ、そう? ならそのままそいつを抑えといて!』
『ん』
『どんどん行くぜおらぁ!』

 そしてレン。アイちゃんが舌の攻撃を受け持ってくれてるからいいけど、もう少し周りを見て戦った方がいいと思うよ、うん。
 【カメレオ・ワイバーン】の攻撃パターンはそこまで多くない。

 アイちゃんがバットで打ち返している舌を伸ばす攻撃に、しっぽを横薙ぎに振るう攻撃。そして、大きな口による噛みつきだ。
 恐らく、HPバーが減ったら攻撃パターンが増えると思うんだけど……あ、一つ減ったね。

「GYAOOOOOOOOOO!!!!!!」

 耳障りな咆哮を上げるのと同時に、私の視界一面が真っ赤に染まる。見れば、【カメレオ・ワイバーン】が大きく息を吸い込んでいた。
 これは《直感》スキル! この範囲はブレスか!

『多分ブレス来るよ! 気をつけて!』
「急いで【カメレオ・ワイバーン】の射線上から下がるんだ!」
『ん』
『おっけー!』

 ヴィーンの指示でブレスの攻撃範囲から抜けつつ、一度体勢を立て直す。
 その直後、【カメレオ・ワイバーン】から毒々しい色のブレスが吐き出された。
 ブレスの範囲内が全て毒で汚染され、グジュグジュと音と煙を立て始める。あそこはもう踏めないね。

「ブレスが来る度に地形がこちらの不利に……それまでに何とかして倒さないといけないね」
『なら、速攻!』
『ああもう、仕方ないか!』
『ん、やる』

 スラスターを噴かせ、【カメレオ・ワイバーン】に向かって速攻する。
 マギアサーベルを二振り抜き放ち、ヘイトがこちらを向くまで攻撃を加える。
 三人の攻撃で【カメレオ・ワイバーン】のHPバーがガリガリと削れていく。気付けば二本目のHPバーを削り切って三本目のHPバーを削っていた。

「GYAOOOOOOON!!!!!!」
『なぁ……!?』
『消えた!?』

 【カメレオ・ワイバーン】の耳をつんざく咆哮。一瞬身体を硬直させられる。
 私たちが動けない間に、【カメレオ・ワイバーン】の身体がすぅっと空気に溶けるように消えていった。

「【カメレオ・ワイバーン】の《擬態》スキルか! みんな、気を付けてくれ!」
『擬態?』
『光学迷彩みたいな?』
『見えなくても、そこにいる』
「そうだ! 消えたと言っても、音まで消せるわけじゃない! 注意深く観察すれば、絶対に見つけられるはずだ!」

 つまり、【カメレオ・ワイバーン】の体表に周囲の景色を写して消えたように見せかけてるだけで、実際に消えたわけではないと。
 それならやりようはあるね。でも、まずは【カメレオ・ワイバーン】がどこにいるかを見つけないと……。

 と、意識を逸らした瞬間、視界が赤く染まる。どうやら私を狙っているようだ。
 この感じ、今までの行動パターンと違う。他に【カメレオ・ワイバーン】が取りそうな行動と言えば……ブレスを吐けるなら、毒弾とか溶解液とか吐けても不思議じゃないよね!

『――見えたっ!』

 【カメレオ・ワイバーン】攻撃を放つ一瞬、微かに見えたギョロ目の顔を目掛けてマギアサーベルを投擲する。
 マギアサーベルは見事に【カメレオ・ワイバーン】の片目に突き刺さり、その姿を現すことに成功した。

 代わりに毒弾をまともに食らっちゃったけどね。うえ、汚いしダメージがデカい。毒のスリップダメージはないけど、腐食属性で食らったダメージが大きいね。HPが半分削れてる。

「今だ!」
『うぉらぁ!』
『ん!』

 ヴィーンの号令で全員が【カメレオ・ワイバーン】に攻撃する。
 ヴィーンの放つ矢はもう片方の目を撃ち抜き、レンは暴れる【カメレオ・ワイバーン】の片翼をその大剣で何度も切りつけ、空を飛べなくしていた。

 アイちゃんは目に突き刺さった私のマギアサーベルを、バットで更に奥まで押し込んだ。うわぁ、えげつない。
 っと、私もダメージ食らってる場合じゃないね。マギアサーベルはもう一本あるんだから!

『これも食らえ!』
「GYAOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!」

 私はスラスターにENを送り込み、加速しつつ目の痛みで暴れているカメレオ・ワイバーンに切りかかる。
 しかし野生の本能からか【カメレオ・ワイバーン】は瞬時に身を引き、私の斬撃を躱した。

『今のを躱すかよ!』
『アタシに任せろ!』

 しかし、【カメレオ・ワイバーン】が身を引いた先にはレンがいた。レンは大剣を構え、【カメレオ・ワイバーン】が着地する瞬間を狙って片足に攻撃を加える。
 レンの攻撃で着地点がズレたのか、【カメレオ・ワイバーン】はその場で盛大に転んだ。

「GYAOOOON!!!!!」
『させるかぁ!』

 それでもなおその場から消えようとする【カメレオ・ワイバーン】の首に、私は残りのマギアサーベルを突き刺した。

「GYAOON!!! GYAOOOOOOO!!!!!!!」
『これで、とどめだぁぁぁぁぁっ!』

 減っていくHPバーと叫び暴れる【カメレオ・ワイバーン】を横目に、私は突き刺したマギアサーベルを両手で握って切り上げた。

 その一撃で【カメレオ・ワイバーン】のHPバーを削り切ると、音を立ててその身体が崩れ落ち、粒子に変わっていく。
 ……ふぅ。なんとか勝てたね。

〈ボスモンスター【カメレオ・ワイバーン】を討伐しました〉
〈《魔機人》スキルのレベルが上がりました〉
〈《武装》スキルのレベルが上がりました〉
〈《自動修復オートリペア》スキルのレベルが上がりました〉
〈《片手剣》スキルのレベルが上がりました〉

『つっかれたぁ~』
「ふふ。お疲れ様。今回はあまり役に立てなくてすまないね」
『何言ってんだよヴィーン。別にダメージを与えることだけが活躍ってわけじゃないだろうが』
「……そうだね」
『ん。ヴィーンの指示と援護のおかげ』
「いやはや。そう言われると面映おもはゆいね」

 頬をかいて照れるヴィーン。美女の照れる姿っていいよね。うーん、永久保存版だ。脳内SSDに保存完了!
 ……っと、マギアサーベルを回収しないと。

『でも、結構強かったね。フィールドボスよりは強いと思ってたけどさ』
「そうだね。後、パーティーの構成的に、キツい相手だったというのもあると思うよ。四人中三人が苦手な属性だったし」
『ミオンのHPの減り方えぐかったよな。毒弾であれだけ食らうなら、ブレスとかヴィーン以外全員溶けててもおかしくないよなぁ』
『ん、強敵。楽しかった』
『お前は楽しそうに舌を打ち返してたもんな……バットの耐久値は大丈夫か?』
『ん。結構やばめ』
『やっぱ腐食属性って強いなぁ。種族特性的にどうしても弱点になっちゃうのがね……』
「はいはい。少し休んだら北の街に行くよ。そこの転移門を起動したら、ファスディアの酒場に戻らないとね」
『『はーい』』
『ん』

 既にブレスで作られた毒池は消え去っているため、そのまま広場で休憩を取る。
 30分ほど雑談を楽しんだ後、私たちは北の街ノースファスディアへと向かうのだった。
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