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第2話 帰る家

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「……なんでよ」
「いや、なんでだろうな」

 結局俺は、咲茉《えま》を無理やりこちら側に引っ張って、自殺するのを阻止してしまったのだ。

 今は二人以外他には誰もいなくて、信じられないほど静かな屋上に肩を並べて座っている。

「ほんと最悪。もう死のうっていう気力すら湧かないんだけど」
「それはよかった」

 俺は彼女に笑いかけながら言う。
 すると、咲茉《えま》はぷいっと視線を逸らしてしまった。

 案外可愛らしい反応をするようだ。

 それから少し間を開けて、ある事を訊いてきた。

「……どうして、いつもは助けてくれないの」
「……気付いてな――――」

 と、言い訳をしかけて、慌てて言葉を飲み込んだ。
 ここで気付いてなかったとかクソみたいな嘘を吐けば、何故か一生後悔するような気がしたからだ。

「助ける、勇気が出なかった。本当にごめん」
「……まぁ、なんとなくそんな事だろうとは思ってたけど」

 呆れたようにため息を吐いて、彼女は言葉を続けた。

「ていうか。これからどうすればいいのよ……」
「どういうこと?」
「まず家。家のカギ、誰かに取られちゃったんだけど」

 あはは、と、心では全然笑っていなさそうな笑顔を見せる。
 笑っているのは外見だけだったとしても、明らかに笑い事じゃない。

 俺は少し考えてから、良い案が思い浮かんだのでそれを口にする。。

「それなら、俺の家来る? しばらく一人だし」

 親は仕事で家にいないので、話し相手も欲しかったしちょうど良い。

「……迷惑でしょ。こんな私みたいなゴミがいたら」

 どうやら、俺の案に賛成ではない様子。

「それなら、来い。命令形な。もし家に帰れても親から殴られたりするんだろ?」
「……そうだけど、」
「じゃあ行こう」

 思い付いた事をすぐ行動に起こす癖、俺の悪いところなのかもしれない。
 なんて思いながら、咲茉《えま》の腕を引っ張って学校を後にした。





◇ ◇ ◇





 学校を出てから15分ほど歩いて、ようやく家までたどり着いた。
 誰かに見つかるのではないかとヒヤヒヤしながら走ったので、普通に帰るより何倍も疲れた気がする。

「……あ、そういえばさ」
「ん?」
「勝手に人の家に泊まっても怒られない?」

 もし怒られるのなら、この案は使えないものになる。
 気付いたのが今更すぎて、自分でも呆れるほどだった。

 ちょっと不安になって尋ねると、咲茉《えま》は表情一つ変えずに淡々と言葉を返す。

「家出とかしょっちゅうだから大丈夫」

 なんとなく聞いてはいけなかった事を尋ねてしまったような気がして、俺は慌てて謝る。

「そっか。……なんかごめん」
「別にいいけど」

 彼女が怒っていなさそうなのを確認すると、俺は咲茉《えま》の腕を引いて家に入った。

「……本当にいいの? 泊まって」
「だから全然いいって」
「……なんでそこまでして助けようとするの。学校じゃ、みて見ぬ振りするくせに」

 無駄に彼女に気を使わせないように、普段無視してしまっていた罪滅ぼしも兼ねて助けた、とは言わずに、自分の欲の為だと言う。

「話し相手が欲しかったからな。可愛い女の子の」

 そう言うと、咲茉《えま》はあからさまに恥ずかしそうに頬を朱色に染めて、視線を逸らしてしまった。

 勢いで言った部分もあるけど、整った容姿をしているのは確かだと思う。

 綺麗な宝石のような目に、艶のある長い髪を持っていて、スタイルも良い。

「……かっ、可愛く、ないよ……」

 明らかに照れているような返事を聞いて、俺は何故か少し嬉しくなった。
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